その世から覗いた僕の女遍歴（旅田卓宗）

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葉書には、急に挨拶もせずに退社してしまったことのお詫びの言葉が綴られ、

京都へ来る機会があれば是非一度立ち寄って下さいと書かれていた。

最後に「５月の雨はショパンのように泣いている・・」と書き添えられていた。

旧性のままだった。

（結婚したはずではなかったのか？それとももう直ぐ結婚するのだろうか？）

僕はいたたまれない気持ちになって来た。

Ｄ子の笑顔が目の前にチラついてならなくなった。

（僕はＤ子を心底愛していたんだ！）

僕はそのことをうちのめされるほど強く感じていた。

それだけに、まだ彼女が結婚していないのなら、

それまでにせめて一言だけでも僕の気持ちを伝えたいという衝動にかられた。

そうしなければ生涯、後悔し続けなければならないだろうと思えてならなくなった。

彼女の気持ちも確かめてみたいとも思った。

彼女は、あの割り込んで来た先輩女性社員のことを気にして

僕の側から離れていったのではないだろうか？と思えてならなくなった。

そう思い出すと、せめてそのことだけでも確かめたかった。

（いったいＤ子はいつ誰と結婚するのだろうか？１ヶ月後だろうか？

それとも明日なのかも知れない？）

そんな風に思いだすと矢も盾もたまらないような気持ちになり、

思い切って彼女にとにかく会いに行こうと心に決めた。

二週間後、僕は京都駅に降り立った。

一応午後一時ころに着く予定です、夜にＤ子の実家の店に

少しだけ寄りますとだけ手紙で伝えておいた。

だが格別な約束はしていなかった。

明日にも結婚するかも知れない人に電話をかけて約束する勇気も湧かず、

ただ大阪へ出張するので、ちょっとついでに立ち寄りますと

手紙で一方的に伝えたに過ぎなかった。

新幹線を降りて京都駅の改札口を出たとき、

一瞬、僕は目を見張り僕の心は感動の渦に包まれてしまった。

目の前にＤ子が微笑んで立っていたのである。

「あれっ、どうして？」

驚きのあまり思わず声を出してしまった。

「お迎えに来たのよ、ご迷惑だった？」

Ｄ子はいたずらっぽく笑った。甘えるようなもの言いが可愛く思った。

「迷惑だなんて、そんなことないよ、嬉しいよ！」

とっさに笑顔を作って答えた。

「これからホテルへチェックインしたあと、夜までどうして

時間を潰そうかと思案していたとこだったんだ」

僕は正直に本音を洩らした。

「お仕事の方はもうすんだの？」

彼女の問いに「あーっ、実は出張って嘘なんだ」

つい告白してしまった。

Ｄ子はまるで、そのことを知っていたかのように微笑み返したあと

「ネエッ、ホテルキャンセルしない？

両親がね、是非とも内に泊まって頂くようにって言うもんだから・・

ネエッいいでしょう？」

彼女ははにかむようにしながらも少し頬を染めるようにして

僕の目を覗きこんだ。

僕はＤ子の笑顔に吸い込まれるように「じゃあ、お願いします」とアッサリ答えていた。

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