カテゴリ:不思議な友
深夜まで、さめざめ泣く秘書を少しでも慰めようと勤めたが、役に立った気がしない。彼女とアタクシは歳が同じくらい(彼女がちょっとだけ上)で、彼女ほど整然と、テキパキと手際よく仕事をする人はめったにいない。
仕事上はアタクシの秘書だが、大切な仲間であり、親友でもある。この十年間、彼女なしではアタクシの仕事は成り立たなかったと言っても大袈裟ではない。信頼しきっている友であり、「部下」だとはとても思えない。とても仲がいい、と思いたい。 最近、彼女は長年同棲していたパートナーと別居した。 「別居した」でいいのだろうか。「別居し始めた」なのかもしれない。 その前からも数年間、子供ができないことで随分悩んでいた。ほがらかな明るい性格の彼女が涙ぐんで状況を話してくれても、これだけは助太刀できない。アタクシは慰めきれない自分に周章し、一緒に悩んでもはじまらないと解っているのに一緒に悩む。 平日の作業時間外でも、週末でも、時々涙声で電話がかかってくるようになった。「相談にのってもらいたいから来てくれない?」という電話だ。彼女は洋館から数分歩けばすぐのアパートに住んでいる。簡単な食事や庭のミント一束を手に、彼女のいつもピカピカで完璧に整頓されたアパートに行く。 彼女のアパートは本当にため息が出るほどピッカピカに掃除が行き届いている。アタクシ達の埃だらけの洋館に遊びに来てよくジンマシンでが出ないものだ。 彼女の仕事振りもピッカピカだ。アタクシが繰り出す莫大の数のファイルなどをバッチリ処理し、「ねえ、五年ほど前の厚生省のナントカ大臣だったころ、アレコレに関しての打ち合わせのファイル...」と言い終わる前にそのファイルがポンッと出てくる具合だ。それとも、「アレコレとアレレコレレとあるけど、両方?」とアタクシが忘れていたようなことまで覚えてくれている。 今晩も、彼女のピッカピカのアパートで、持参のミントでフレッシュ・ミント・ティをいれた。それをすすりながら手を繋いで(本当に手を繋ぐ)彼女の泣き言を聞いていた。聞くしかできないのが残念だ。 鳴呼、役に立てないのはつらい。 こんなにいい人がこんなに嘆くのをみているのは、つらい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.12.04 13:06:43
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