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カテゴリ:ダブルキャスト
「これで、世の中キレイになるかどうかは、わからないけどな」 「地道な努力よ、これからもね」 ナオミは呟いた。 「…北上も、どれほど混乱していたんだろ。あんな事態になるとは…」 芝居小屋と北上本人が炎上した状態を思い出し、言葉につまった。 「よく、ガソリンタンクの蓋を開けたまま、一斗缶を燃やしたもんだな。火の粉が飛び散るくらい、判らなかったのかな…」 隆一は腕組みをした。 「そのくらい追い詰められていたということか…」 「ああ、ガソリンタンクの蓋は、私が開けたのよ」 ナオミは、こともなげに言い放った。 「なに!」 「衣装室から、石油ストーブを引きずってくるときにね」 「それじゃ…、北上は、君が殺したようなもんだろ!」 「何のこと?」 「君は、最初からそのつもりだったんだろ?…だって、ずっと北上の自宅周辺に民家がないか気にしてたもんな。どこへ行っても住宅地図を探して、最後には下見に行ってた。…君を心から慕ってた、岡田という刑事の復讐を果たすために、綿密に計画して…」 「ああ、隆さん、やっぱりあなたは劇作家になれるわ」 ナオミは、声をたてて笑った。 「あんまり笑うと頭が痛くなるわ。一酸化炭素中毒の後遺症ね」 彼女は真顔に戻り、隆一の頬を両手で包んだ。 「ねえ、いくら綿密に計画したって、北上があの時、衣装室に閉じこもり、一斗缶に火をつけるなんて、そして火の粉がガソリンタンクに飛び散るなんて、そううまくいくわけがないじゃないの」 「だが、奴はタバコを手放せない。ライターは必ず持ってるし、逮捕の前には一服するはずだろ。それから必ず火を使い、たくみに証拠を消そうとする。君ならわかりきってたじゃないか?」 「あのね、私、最初に言ったでしょ」 彼女は、隆一の目をじっと見つめた。 「函館に来た夜、ミーシャの前で…『岡田君の信じた神は、きっと彼を殺した人間をお許しにならない』とね」 「そうだったな」 「私は、確かに北上は、逮捕の前にタバコを吸い、ライターを点ける、と思ったわ。でも、そのあとのことは神様の采配にまかせたのよ」 「……」 「そして、偶然にも私の言ったとおりになっただけなの」 「すべて神さまのせいに?」 「そんな怖い顔をしないで」 ナオミは背伸びして、唇を重ねてきた。 「ここが寒すぎるから、そんな物語が浮かぶのね。…いつか、小説にでもするといいわ。隆さん、とっても顔が冷たかったわ、中でヴォッカでも飲みましょ。風邪ひくわよ」 彼女はくるりと背を向けて、船室へ駆け戻った。 「風邪どころか、ここが凍り付きそうだ」 隆一は心臓に手を当てながら、未明の星空を仰いだ。 <おわり> ☆人気ブログランキングに参加しています。トップページのバナーをクリックして下さると嬉しいです。 ランキング参加中です。 励みになります、ポッチをお願いします 人気ブログランキングへ おかげさまで、20位以内です。 みなさまありがとうございます<(_ _)> ☆連載ミステリー『ダブルキャスト』は、携帯メルマガ『ミニまぐ!』 でも配信中です。 登録はこちらから:『Kazeのミステリ通信』 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 連載中の小説、『ダブルキャスト』は、今日で最終回となります。 いままで、皆様お忙しい中お付き合いいただき、ありがとうございました。 ランキング協力してくださった方々、多方面からのアドバイスを下さった方、そして全面的に誤字・脱字などをチェックしてくださった方(母です)に、心よりお礼申し上げます。 また、作中に登場したカジュアルショップ『ウニクロ』のネタ出しをしたのは、私の従姉妹です。 個人的なBlogの小説といっても、決してひとりでは書き上げられないのですね~ 勝手に舞台として利用いたしました函館の街にも、感謝の念でいっぱいですm(_ _)m 函館市は、3月の震災でダメージを受けた場所も多いですが、いまはとっても元気に復活しています。 どんどん、遊びに行ってくださいね。 私も落ち着いたら遊びに行きたいです いまは、毎晩、湾岸の巨大ツリーをライトアップしている頃と思います。 クリスマス時期は、毎日がお祭りです
これとジャガイモはとっても相性がいいです。 お酒のあてにどうぞ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 1, 2011 01:38:42 AM
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