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あたしはあたしの道をいく

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2007.08.22
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カテゴリ:本@AC関連
しばらく前にNHKスペシャルで同名のものを放送していたが、

これはその番組の内容と、その制作に係る経緯等をまとめて書籍化したもの。

ちなみに、私はその放送を見ていない。




この『ワーキングプア』は、書籍なので当然映像を伴わない。

肉声も効果音も伴わない書籍と言う媒体は、冷酷に現実を伝えるに相応しい。

読み進むにつれ、背筋が冷えていった。



この『ワーキングプア』の中でも製作陣の殆どが、

「貧困は個人の自助努力が足りないせいだ」との認識を持っていたと書いているが、

私が持つ貧困に対する意識も、その程度のものだった。



私が過去に付き合ってきた「フリーター」達の姿は、

私のその認識の裏づけになることはあっても、否定するものではなかった。

刹那的・享楽的で、当座の女と酒とドラッグがあれば良い、みたいな人たち。

若者の「ワーキングプア」に焦点を当てた章で最初に思ったのは、彼らのことだった。



あたしはその当時19か20で、彼らは三十路を少し超えた所だった。

当時のあたしには、アウトロー的生き方を実践していた彼らにあこがれたけれど、

あたし自身が三十路の関を越してみて考えると、彼らのその姿は異様だ。



10年前はまだまだ不況の只中だ。

まだまだお子様だったあたしは、その違いを考えることもしなかったけど、

親の脛をかじる学生のあたしと、自活する彼らの間には、明らかな断絶があったはずだ。

彼らは刹那的・享楽的で自助努力なんて鼻先で笑い飛ばすアウトローだったけど、

一面では腕の確かなプロでもあったし、努力家でもあったことを、今になって思い出した。



「フリーターは自助努力が足らない」という私のイメージは彼らに負う所が大きいが、

彼らが教えてくれた技能や、その技能を維持するためのトレーニング姿を、

あたしは彼らと一緒に鼻先で笑い飛ばしていたのだと思う。

本人たちが笑い飛ばした努力を他人が笑い飛ばす罪悪に、10年経ってやっと思い至った。

彼らは今、どうしているだろうか……。



閑話休題。



以前から気になっていたのは、憲法第25条との矛盾だ。

日本国憲法第25条では、以下の通り規定されている。

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進
に努めなければならない



日本では、この憲法に則り、社会福祉基盤が作られている。

生活が立ち行かなくなれば、生活保護を受けることも出来る。

必要な社会福祉サービスは揃っているはずなのだ。

理論上は、ホームレスが生まれるはずは無いし、貧困もあり得ない。



しかし、それが蔓延しつつある、という現状は背筋を凍りつかせる。

生活保護を受けるのは、それなりに厳しいハードルがある。

資産があるならば、その資産の処分が先にたつ。

車や持ち家、土地があればそれらを処分しなくてはならない。

父祖伝来の……なんて言って土地にしがみつくのは、今時ナンセンスよね、

思っていたけれど、失うのは土地だけでは無いことを、知った。



資産と伴に失うのは、矜持だったり、思い出だったり、拠り所だったりするわけだ。

それらを失わないために、「健康で文化的な最低限度の生活」以下の生活を余儀なくされる。

しかも、それは他人事だと思っていられるには、余りに発端が身近すぎる。

勤務先の倒産。離婚。死別。介護者を抱える。



実際、私の身にだって起こりうる。

両親は老親になりつつあり、いつ介護が必要な身になってもおかしくない。

両親の手助けが無ければ、子どもを抱えてのフルタイム共働きは難しい。

あたしがパートの身分になったところでダーリンの会社が倒産でもしたら、

たちまち生活に行き詰るだろう。



生活に行き詰ったところで、皺寄せは子どもに向かっていく。

本人が望むだけの教育・生活を与えられることが難しくなっていく。

それはフリーターやニート、若者のワーキングプアに繋がる。

ワーキングプアの生活で老後の備えが出来なかった人たちは、

死ぬまでワーキングプアであり続けるしかない。

そこには、本人の勤勉な努力とは無関係の、非常な資本主義社会の姿がある。



資本主義が悪い、とは言わない。

資本主義は市場の理論であって、経済の理論だ。

だから、それが全てであってはならない。

それは、産業革命以降、社会保障が成立していく流れの否定だと思う。



産業革命の後、イギリスでは安価な労働力が大量に流入した。

生産の効率化で、男性社会であった労働社会に機械と女性が入ることになった。

それは労働単価の下落を招き、女性のみならず、子どもまでが労働力に組み込まれた。

男が一人働いても家族を養えないなら、女房も働く。

親が二人働いても家族が生活できないなら、子どもも働く。

これは一見、正常な話だ。

でも、その「子ども」が5歳の幼児まで含まれるとなると、それは異常だ。

現代の福祉は、そこからスタートしてきたはずだ。



でも、『ワーキングプア』を読みながら思い出したのは、

この産業革命の後の無節操な資本主義社会だった。

今、日本でも同じことが起きているのではないか。



安定した雇用を確保することは、今の企業には難しいことだ。

パートや派遣、外国人労働者をうまく使っていくことが、常識になりつつある。

そうしなければ、企業収益が維持できない。

だけど……それは、とても怖いことなのだと知った。



この本は怖すぎる。

あまりにも衝撃的で、考えなくてはならないことが多い。

この本の感想を書くのは、とても難しい。

とりとめのない話になりそうなので、この辺りで止めておく。








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Last updated  2007.08.22 12:32:54
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