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わたしのブログ

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続きです。

船は五、六百トンくらいの病院船、赤十字のマークが付いていた。桟橋で分かれるとき、「元気でね。」と腰の所で小さく手を振ってくれた。「有難う。」私は涙が出るような感謝の思いで分かれた。船の衛生兵に連れられて、ベッドの上に寝た。単調なエンジンの音が響いてくる。船は岸を離れた。
 漢口から揚子江を、九江、安慶、南京、上海と約1000キロの船旅である。揚子江の風は涼しかった。はるかなる江上を静かに下る船中で痔のために一つ星で入院したときのことが思い出されてきた。
・・・痔の手術だ・・・昭和18年12月、寒さも厳しくなって来た頃、手術は翌年1月7日の予定。自分の中隊長、松村中尉に毎週くらい、伊沢さんに言われたとおり葉書きを出した。自分の周りの出来事と自分の心境を素直に・・・川柳・・・を入れて出した。
 中には面白いものもある。毎週来るので松村中尉も目を通してくれたのだろうか?それで私の名前を覚えてくれたのかもしれない。「こやつ中々面白いやつだな。」と私にはこのくらいの事しか中尉に知り合う理由が無いと思う。そのときの便りを思い出してみた。入院から退院までのことである。
 昭和19年1月7日が来た。痔の手術、その日は7人だ。番号順に手術室に入る、五番だったと思う。軍医に「二度と出ないように思い切り取ってやるぞ。」と言われた。切り取った後、焼きゴテで切り口を焼いた。焼き鳥のようなにおいがした。
 「手術を受けました。後は退院を待っております。」と言うことを書いた。二月頃も外に出て歩くようになりアカシアの根元に小便をすると流れるはずの小便が見る見るうちに凍り重なり合って小山になった。
 外科患者は皆元気が良い。配給の粉炭ではべチカは良く燃えないので、貯炭場に塊炭を盗みに行くのだ。やり損なえば経理の上等兵に竹刀でぶん殴られる。そこを取りに行くのがまた面白い。上等兵も本気でやるのではない。面白半分である。患者たちの元気な所を喜んでいるようである。


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