テーマ:毎日、一歩一歩。(2526)
カテゴリ:真夜中の独り言
今は昔の物語。。。 その年の9月14日も、今日のような快晴だった。 オレンジに近い、サーモンピンクのノースリーブと、レースのカーディガンのアンサンブル、 ベージュ系にサーモンピンクと水色で描かれたペーズリーのタイト系のスカートをはいて ゆみは受付当番をしていた。 そのボタニカルアートの展覧会に、自分の作品を4点出品していた。 担当の時間は1時までだった。 お昼を回って、ちょっとおなかがすいていた。 そこに携帯のメールが来た。 前日のチャットで、とうとう携帯のアドレスを教えたのだった。 パソコンのやりとりを始めていた人は、仕事の相談相手だった。 相手はパソコンからなのだろう。 受付テーブルの下でもぞもぞと返事を打とうとするゆみに、 続けざまの長いメールが、その3までになっても、 まだこちらの返事は1通も打ち終わらなかった。 心臓の鼓動も、打ち続けのゆみだったから。 その4に、絵を見に行きたいがやめておく、とあった。 ランチを一緒に食べられないかと画策していた、とあった。 文末は、「無理だよね!」となっていて、 初めて見る電話番号は、ブルーの文字になって主張していた。 ホテルのロビーのような、ソファ椅子と、目の前のじゅうたんを見ながら、 その静けさの中で、自分の心臓が会場中に響き渡っているかと、 ゆみは胸を押さえて時間を待った。 1時を回って交代の人の顔を見るなり、用事があるからと会場を飛び出した。 会場を一歩出るとそこは駅で、すぐにデパートに繋がっていた。 携帯を握り締めて、なぜかゆみはエスカレーターを上まで上がり、 窓がパノラマに広がる場所に出て、深呼吸をした。。。 もう、出ないかも知れないと思う間もなく、「あ、もしもし」と声がした。 そのときはそう気がつかなかったけれど、相手も携帯を握り締めて 時を待っていたのかもしれない。 初めて聞くその声は、こちらを思いやり包み込みながら、 主張はきちんとはっきり伝えるものだった。 何も話せないか、と思いきや、もう二週間毎日画面で話してる人だったから 言葉はどんどん出てきた。 ただゆみはパノラマの景色の前を、クマのように行ったりきたりしていた。 そして話が決まった時、スキップするかのごとく、エスカレーターをとんとん駆け下りていった。 そのまま駅に繋がる道を小走りに、今度はホームまで駆け上がり、 止まっていた電車に乗り込むと、電車のドアは静かに閉まった。 目的地に着くまで、ゆみの胸の鼓動は、体中に響き続けていた。 その鼓動を、走ったからだと言い聞かせているゆみがいた。 相手はゆみを見たことがなかった。 ただ身長と体重は言ってあった。 自分も大きくはなく、細いから、小柄で痩せ型が好みだと言っていた。 聞かれもしないのに、ゆみは、ついでに色黒だと告げておいた。 相手は写真をHPに公開していた。 あれは若い時の写真だから、と何度も念を押されたけれど、 歳をとったって、この美形は崩れるはずが無い、とゆみは思い込んでいた。 そして勝手に、不釣合いだと思って、引け目を感じていた。 指定されたエレベーターを、15階まで上がった。 名前は聞いたことがあるけれど、入ったことがあるはずの無いフランス料理のお店が、 3時までランチタイムであることを相手は知っていて、当然のごとく、予約がしてあった。 入りにくそうなお店の入口が見えると、その前の椅子から一人の人が立ち上がった。 あー、やっぱ年とれば、顔も変わるんじゃん! その気持ちは、がっかりではなくて、 心の底からの安心だった。 「ゆみ?はじめまして。。。今日は無理言ってごめんね。」 レストランに入るのは、男性のエスコートによるレディファーストだった。 じゅうたんがぎしぎしといって、ランプのともる席に案内された時、 こんな格好でよかったのかと、 辺りを見回してしまった。 でも気がつけば相手もポロシャツだった。 そこから緊張して、しばらくふわふわしていた。 相手はプロなのだから、すべて任せればよかった。 たぶんなにを聞かれてもわからなかったのだろう。 飲めない、と言おうとしたけれど、ソムリエとの会話によって、食前のシャンパンが注がれた。 頭の中をマナーがぐるぐる巡った。 こんなことなら、マスターの「レストランのマナー・ワインのマナー」を、 もっとよく読んで来ればよかった。 なにを聞かれてもたぶんお任せにした。。。 相手と自分には、ちょっと違う料理が運ばれてきて、 相手はそれを器用に取り分けて、付け合わせの葉っぱまで慣れた手つきで積み上げて、 「シェアして食べよ。」と言ったと思う。 何がどうやって、口に入って、どうやって喉を通り過ぎたのか、わからない。 美味しいとか美味しくないとか感じさせるものではなく、 ただめずらしい物体だった。 ナイフとフォークは外側から使う。。 このへらみたいのは、切るもの?すくうもの? いちいち頭の中から知識を総動員のゆみだった。 途中で何度かソムリエが来て、ワインを変えていったとき、 「あの・・・」と言ってみたら、相手は、「彼女にはお水を。。。」 と気がついてくれた。 やっと注がれたお水を飲んだら一気に物がおなかに入り込んだ。 相手はわざわざオーナーシェフを呼んで、メインのお料理を説明させていた。 緊張は、ピークになり、お行儀悪いのだろうか、お食事中に、と思いながら、 ゆみはカーディガンを脱いだ。 いきなり、「あー、ホントだあ、焼けてるねぇ、いい小麦色してるんだねー!」と、 相手が大きな声を出した。 やっと涼しくなったのと、メインまで何とか食べ終わったのと、 人懐っこい語りかけで、 ゆみに、人の感覚が戻ってきた。 「うん。言ってあったでしょ。」とほっとため息をついた。 デザートは、ようやく、あー楽しみと思えた。 7種類ありますから、3種をそれぞれにお選びください、と説明があった。 「へえー」やっとゆみにも選べそうなメニューになった。 「ねぇねぇ、じゃあ、6種類頼めるってことだよね。みんな半分こしよ♪」 と相手が言った時、それがやっと日本語に聞こえた。 ゆみの頭が遅ればせのフル回転になった。 「じゃあさ、洋ナシのタルトは、だいたい味がわかるから、それ以外のに6つにしない?」 自分でも驚くほどの滑らかな口ぶりのしっかりとした提案だった。 「オー、スゴーイ。同感!!俺も今、そうしようよ、って思ったんだよねえー!!」 と相手が喜んだ。 ゆみも嬉しくなった。 そしたら、相手が、テーブル越しに乗り出してきて言った。 「俺たち、きっとすごく気が合うネ!!ん、握手。。。」 差し出された手に、思わず手を出すと、その手は引っ張られて、 握手でぎゅっと握られた。 なんか同級生みたい。。。 そんな風にほっとしながら、運ばれてきたデザートを、今度はゆみも参加して半分こにした。 その握手は、二人の始まりのすべて・・・になった。 友達のような、同志のような、幼なじみのような、甘えあうような、 それでいてふと照れくさいような、 そんな握手の感覚は、これから始まるすべての出来事のスタートだった。 デザートを食べながら、やっとゆみは、こんなお店に連れてきてもらったうれしさと、 口の中にとろける甘さの幸せに浸っていた。 これって、ハーブが利いてるね、 アールグレイが濃厚だね、 と、自分でも気がつくくらいのにこにこが始まってるゆみに、相手は言った。 「はじめて見たときからずっと思ってたんだけど・・・」 「ん?なあに?」と顔をあげたゆみをまっすぐに見る澄んだ瞳。。。 「ゆみって、かわいい人だね。。。」 答えは言葉にならなくて、ただ衝撃となって、体に熱をもたらした。。。 今は昔の物語。。。 そんな9月14日がありましたとさ。。。。 物語はここから始まり、まだ終わったのではないと思っています。 が・・・ この続きが日記にUPされることは無いことを誓います。。。 最終更新日時 2005年9月15日 3時26分5秒 人気blogランキングへ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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