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徒然”腐”日記

徒然”腐”日記

ハジメテノコト


























あぁ・・・・・・・・・・・
・・・・・・空が・・・・・・青いですねぇ・・・・・・・





























そう言われて初めて気がついた















青い・・・・・・・・・・・・・






吸い込まれそうな・・・・・・・・・・・・青






















ふわりと何かが髪に触れる

それが誰かの手だという事に気づいたのは
少したってから














私と一緒に・・・・・・・来ませんか?















その言葉の意味が分かるまで
握り飯一つ食べるだけの時間がかかった




























ハジメテノコト
絵: 松平肩凝子 様





















見上げた時に見えたのは
光に透けた色素の薄い、細い髪。

お日さんがやたら眩しくて
ぱちぱち瞬きしないと何も見えやしなかった。

目に焼きついているのは
吸い込まれそうな青

『私と一緒に来ませんか?』

まるで春のあったけぇ雨みたいに降ってきた声
それにふらふらっと釣られるように

なんで俺は・・・・・・・
こんな奴にくっついて来ちまったんだろう。

あれから随分と遠くまで歩いて
”あそこ”に帰るのは難儀な気がする。

「どうしました?銀時。」
俺の目の前に旨そうな団子を差し出しながら
そいつはにっこりと笑う。

しまった・・・・・と思う。
なんで『名前は?』と聞かれて答えちまったのか。

どこか似てると思っちまったのかも知れない
”      ”・・・・・・に・・・・

「・・・・・・・んぐ・・・・・っ!ゲホ・・・・・・・」

「大丈夫ですか?銀時。お茶を飲みなさい。
そう・・・・それから・・・・・・ゆっくり呼吸して・・・・・。」

とんとんと背中を軽く叩いて
そいつが気遣わしげに俺を覗き込んでくる。

俺は・・・・・今・・・・・

何を考えていたんだ?

喉に詰まりかけた団子を飲み下して
でもそいつの手が・・・・瞳が居た堪れなくて

俺は串を放って走り出した。

「銀時ー!食後すぐに走ると体に毒ですよ。」

変なやつ・・・・・・・・・・

一緒に来いと言いながら
俺がこうして走り出しても待てとも言わねぇ。

第一アレだ
あいつに初めて会った時
俺は襲ってきた奴らを斬り殺した後で

お地蔵さんから頂戴してきた握り飯を食ってたとこだった。

皆、死んだやつを怖がるのに
殺した俺を怖がるのに

俺を襲ってくる奴らは
ギラギラした気持ちの悪い空気を纏わりつかせて近づいてくるのに

あいつには・・・・・・・それが全然ねぇ
・・・・ていうか・・・・・・・

「おや、銀時。ここにいましたか。」

・・・・・・・・・うわ・・・・・・・っ!

どきどきどき・・・・・・心臓が飛び出るかと思った。
気配すら分からねぇ時があって心臓に悪ぃんだよ、こいつ。

「どうしました?あぁ・・・驚かせてしまいましたか。」
「・・・・・・・・・・・・・。」

体が隠れるほど背丈が高い草むらの中
寝そべっていた俺の隣にふわりと座るそいつ。

重さを感じさせない仕草なのに
「どっこいしょ。」
・・・・・・爺ぃ臭ぇセリフ

「あぁ・・・・・ここの風は良いですねぇ。」
吹き抜ける風に草がざわざわと騒ぐ。

そうなんだ
気配を消して俺に近づけるなら
俺の命を取るのは簡単なはず

・・・・・・・なのに・・・・・・・・・

「隠れ鬼はね、得意なんですよ。」
そう言って楽しそうににこにこ笑う。

「でもすぐに見つけてしまうんで、鬼はやらせてもらえなくなりましてねぇ。
隠れる側になったら今度は見つけてもらえなくて
そこで一夜を明かしたことがあります。」
「・・・・・・・・・・・。」

「そうしたら神隠しにあったんじゃないかと大騒ぎになりましてねぇ。
出るに出られなくて・・・・・・・・いやぁ・・あの時は、困りましたよ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿じゃね?

ははは・・・・・・・間が抜けた笑い声に呆れて
俺は小さく溜息をついた。

その溜息すら嬉しいんだか
そいつはにこにこしながら俺を見下ろしている。










俺に笑いかけてくれるやつなんていない

・・・・・多分・・・・・・・・・昔から

ていうか・・・・・・・・・
今より前のことは俺の中からごっそり抜け落ちてて

うん・・・・抜け落ちてるってのとはちょっと違うか

まるで・・・・・・・そうだなぁ・・・

赤と黒で塗り潰されてるみてぇな感じだ

毎日・・・・・・・・・・・毎日
俺の全部は赤と黒で塗り潰されてた

なんでそうなったんだか・・・・・・・なんて
覚えちゃいねぇけど

俺を襲ってくる奴らの血の色
それから真っ暗な夜の黒

俺の目にはそれしか見えなくなっていて
口にする握り飯すら、返り血で赤く染まって

赤い色を見ると色んな事がぼやけてきて
何が何だか分からなくなってくる

もう、どんだけそうしてきたか
分からねぇ・・・・・・・・





あぁ・・・・・・・・・・・
・・・・・・空が・・・・・・青いですねぇ・・・・・・・





初めて見た違う色




あぁ・・・そうか
赤と黒以外にも色があるんだな
ぼんやりとそう思った




それから・・・・・・・・

一緒に歩き始めて気がついた




「御覧なさい、銀時。」
にこにこ笑って指さすその先に


青い空
白い雲
緑の木々
黄色いたんぽぽ


色だけじゃねぇ


ひらひら飛び歩く蝶々
カァカア鳴きながら山に帰るカラス
小川にきらりと光るメダカ
ガサリと葉を揺らして逃げ込むトカゲ


遠くに聞こえる犬の吠え声
ピィピィと雛を呼ぶ鳥の声
葉擦れの音
風の声


色んなものが洪水みてぇに押し寄せてきて
俺の中はいっぱいになった。








「さぁ、銀時、急ぎましょうか。もうすぐ日が落ちますよ。」
その言葉に目の前が一瞬、黒い靄がかかったようになった。

夜が来る
世界が黒に塗り潰される時間

俺は腹を鷲掴みにされたような鈍い痛みに顔を顰めて
腰の刀をぎゅうと掴んだ。

黒い中に独り・・・・・・・・取り残される・・・・・・・
そんな事を思ったら、大声を上げて叫びそうになる。

・・・・・・・・・・その時
ぽんぽんと掌が俺の頭の上に載せられた。

大丈夫・・・・・・・・大丈夫だから

なにも言わねぇのに・・・・そう言われている気がして
腹の痛みが少し和らいだ気がした。

なんだろうこの・・・・・・・
・・・・・・・くすぐったい感覚

知っているような気がするのはどうしてだ

俺はずっと一人だったはずなのに

俺の世界にいろんな色が浸みこんでいくように
こいつの笑顔が・・・・・・・・・声が
・・・・・・浸みこんでくるのは・・・・・・何故?






あれから4日たった。
それまで、何日たった・・・・なんて考えた事もなかったのに。

「今日の夕刻には萩に着くでしょう。よく頑張りましたね。」
朝飯の時ににこにこと笑いながら言われたけど
そう言われてもピンとこねぇ。

別に頑張ったつもりもねぇし
第一、萩って・・・・・・・・どこだよ。

「お気を付けてお帰り下さい、先生。」
宿の連中がお辞儀をしながら見送ってやがる。

先生・・・・・・・・・・
・・・・・・・先生って・・・・・・・何だ?

こいつ、吉田松陽って名乗ってたよな。

先生
・・・・・・・・先生

その時初めて・・・・・・・・・
こいつって・・・・・・・何者なんだ?

そんな疑問が湧いた。

あんたは誰だ?
何で俺をここまで連れてきたんだ?

聞いてみたい
だけど聞いても答えてくれないような気がして

それに、その萩・・・・って所に着いたら俺はどうなるんだろう
そこにはきっとこいつを”先生”と呼ぶ連中がいて
そいつらは”先生”の事をよく知っていて

萩に到着することは
”今”の終わりを意味するんだろうな

そう思ったら胸がぎゅうと締め付けられた。

「銀時、どうしました?疲れましたか?」
歩みの遅くなった俺を気遣うように、”先生”は振り返る。

そして
「萩の事を少しお話ししておきましょうか。」
見透かしたようににこりと笑った。

聞きたくねぇよ、そんな事。

口にこそ出さなかったけど。

「私はそこで、私塾を開いているのですよ。
あなたくらいの年頃の子らに、学問や剣術を教えています。」

聞き耳を立てながら
でも聞いていないフリをして

「銀時、あなたは強い。これからもっと強くなるでしょう。
・・・・・・・・・・・・ですが。」

ピタリと止まる”先生”の足。
止まり切れず少し先を歩いて、俺も立ち止まった。

「あなたの刀は、何をするためにあるのですか?
その刀を守るために・・・・・・・・・・銀時。
あなたは他の命を奪ってきたのですか?」

だって・・・・・・・・この刀は

「これからも・・・・・そうやって生きていくのですか?」

この刀は俺の・・・・・・・・・・・大切な・・・・・・・
その先の言葉が出ない。

「答えられませんか?・・・・・・・・・ならば。」

ぽん・・・・・と柔らかい掌が俺の頭に載せられた。

「その答えを探しなさい。私の教え子たちと一緒に。」

その言葉に肩の力が抜けた。
てっきり大切な刀を取り上げられると思ったからだ。

「きっと答えは見つかるはずですよ。」
そう言うと、嬉しそうにクスクスと笑って
”先生”は先に立って歩き始めた。






草原や林を抜け
周囲を田圃や畑に挟まれた道の先

川の向こうに街並みが見えてきた。

あれが・・・・・・・・・・萩?

こんなに大きな街は初めて見た。

日は傾き始めて、遠くに見える家々が赤く染まっている。

一瞬炎に包まれているみてぇに見えて
俺は思わず立ち止まった。

赤は・・・・・・・・・・苦手だ。
今までそんな事すら感じた事もなかったけど

「おやおや、銀時。お迎えが来てくれましたよ。」
夕陽に赤く染まった”先生”が道の先を指さした。

橋の上を走ってくる小さな影。

「先生ーーーーーーお帰りなさい!!」

頭の上でぴょこぴょこ黒い物が踊っている。
それが結い上げた髪だと気づいた時には
俺の目は・・・・・・・その影から離せなくなっていた。

「無事にお帰りになられて嬉しいです、先生。」

”先生”を見上げる黒目がちな瞳
瞬きをするたびに揺れる長い睫毛
小さくて少し上に向いた鼻
ふくりと柔らかそうな唇
つるりと傷一つない頬が赤く染まって

・・・・・・・・・綺麗だな・・・・・・・

そう思った。

「小太郎、こちらは銀時です。
明日から塾生になりますから面倒を見てやってくださいね。」
「はい、先生。」

真っ直ぐな返事
俺に向けられた真っ直ぐな視線
「桂小太郎だ。よろしく頼む、銀時。」

同じ高さでこんな風に視線を合わせるのは初めてで
俺はどうしたら良いか分からない。

小太郎はじぃっと俺を見つめて・・・・・・・・・それから

「お前の目・・・・・・・・すごく綺麗だ。」
真黒で大きな瞳を細めてそう言った。
「こんな綺麗な赤は初めて見たぞ。」

はっきり言って面食らった。
この赤い目を褒められたのは初めての事で。

俺はあんまり驚いて答えることも出来ずに
じっと真黒な小太郎の目を見つめ返した。

黒・・・・・・・・・・・俺の世界を塗り潰していた黒
嫌いな・・・・・・・・黒

でもこの黒は・・・・・・・・・
小太郎の目は・・・・・・・嫌じゃない






「さて・・・・・・・早く街に入りましょう。日が暮れますよ。」
”先生”の言葉に俺の肩がひくりと揺れた。

また全部を塗り潰す夜が来る

俺は思わず身を固くして拳を握りしめた。

その右手に・・・・・・・・・・・・

ふわりと柔らかい感触。

少しばかり冷たくて、さらりと滑らかな

「大丈夫だ。暗くなっても手を繋いでおれば迷子にはならん。」
妙に自信満々な口ぶりで小太郎が頷いた。

・・・・・・・・・・ちょっとムカつく

「銀時、お前を独りおいて行ったりはせぬから。」
きゅ・・・・・・・・と細い指先に力が入る。

「約束だ。これからはずうっと一緒だぞ。」
じんわりとあったかい何かが腹の中に落ちて行くのを感じながら

やっぱりちょっとムカついて
「・・・・・・・・・勝手に約束すんな、テメー。」

言い返して初めて・・・・・・・・・
”先生”に名乗ってからこっち、
まともに声を出したことに気づいた。












































ハジメテノコト


END



















ジャンプ本誌にインスパイアされまして

銀時と先生の出会いを妄想してみました。

結構皆さん書かれていると思うので、
ネタやらストーリーやら被ってたらごめんなさい。

これから時々、攘夷時代も書いていこうと思います。







2009.5.14


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