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徒然”腐”日記

徒然”腐”日記

秋月5









群青色と黒に縁取られた畳の上
無造作に広げられた着物の上にしどけなく横たわる痩躯

土方は波打つ髪に指を絡め、ゆっくりと梳きながら
情交の余韻に浸るかのように長い睫毛を揺らし
宙空へ視線を向ける桂を見つめていた。

先程まで、二人に遠慮するかのように静まりかえっていた虫の音が
りりり・・・・・・と涼やかに響き始める。

低く傾いた月の光
僅かに長くなり始めた淡い影
その中に溶けてしまいそうな黒髪を一房指に絡め
土方はそっと口づけた。

「傷は・・・・・・・・・痛まねぇか。」
襦袢から覗く踝の白さに目を細めながら
土方は囁くように尋ねる。

血の滲みが広がっていないことから察するに
傷は開いていないようだが
先程までの行為を思い返すと気にならぬはずはなく。

「あれだけの事をしておいて・・・・・・・何を今更。」
桂は肩を揺らして含むような笑いを漏らした。

「いや・・・・まぁ・・・確かに今更・・・なんだが。」
土方は返す言葉もない。

「全く・・・・・・・・・・・。」
桂は視線を背け頭をガリガリと掻く土方を見上げ
はんなりとほほ笑んだ。
「貴様という男は・・・・・・・つくづく面白い。」

「・・・・・・・・・・あ?」
・・・・・・・・・・・面白い?
その言葉に土方は手を止め
未だとろりと潤んだままの桂の瞳を覗きこんだ。

「俺を守りたいと言ったかと思えば、傷つけんばかりの勢いで抱く。」
「・・・・・・う・・・それは・・・・・・。」
「かと思えば、傷は痛まぬかと心配する。」

桂は長い睫毛をゆったりと伏せ、さも可笑しいと笑みを深くする。
「貴様という男は・・・・・・・滅茶苦茶だ。」

「おい・・・・・・・何がそんなに可笑しいんだよ。」
くつくつと肩を揺らし始める桂に土方は眉を寄せた。
「そんなに笑うこたぁねぇだろう。」
桂は土方に背を向け、くつくつと笑い続ける。

ただでさえ図星を突かれ、反論できないところへ
いつまでも笑われて、土方は苛立ちを覚えた。
「おい・・・・・桂・・・・・・。」

「あ奴と・・・・・・・よく似ている。」
「・・・・・・・・・・・っ。」
だが、遠い過去を懐かしむかのような静かな言葉に
土方は言いかけた言葉をのみ込んだ。

「貴様を見ていると・・・・・・・心が騒ぐ。」
揺れていた肩は静かに蒼い月光を浴び
さらり・・・・・・髪が肩を滑る音が響く。

「自分が誰かを・・・・・・・・・何かを
守れるのだと信じていた、あの頃を思い出す。」

豊かな黒髪に縁取られた肩が
白く細く浮かび上がる

春の宵
儚く佇む面影が重なり

土方は胸を鷲掴みにされるような痛みに
眉を寄せ唇を噛みしめた。

「失うことの本当の意味を知らず
ただ闇雲に前だけ見つめていたあの頃を・・・・・な。」

「桂・・・・・・・・・・。」

先程まで確かに腕の中にあった温もりが
遥か遠いものに感じられ
土方は拳を固く握りしめた。

「俺は・・・・・・・そいつの代わり・・・か?」

失った・・・・・・・・誰か
守れなかった・・・・・・・・・誰かの

それでも良いと叫ぶ自分と
それでは厭だと叫ぶ自分と

綯い交ぜの苦しさに顔が歪む。

「代わりに・・・・・・抱かれた・・・・
そういう・・・・・・・・・事か?」

風に雲が流れ
月を隠していく

闇に落ちた細い肩は
ますます消え入りそうに見え

見失ってしまいそうな影に
土方は夢中で手を伸ばした


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