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徒然”腐”日記

徒然”腐”日記

星 舟


















瞼の裏にちらちらと弾ける光の雫



それが何であるのか見極めたくて
視界を閉ざす瞼を持ち上げようとしたのだが

まるで睫毛の一本一本に重りをつけられているかのようにもったりと重く
俺は小さく息を吐いて肩の力を抜いた

瞼だけじゃない
頭の天から足の先まで全て
温まった水を含んだ織物のようにずしりと重い

このまま自身の重みでどこまでも沈んで行きそうな感覚を覚える
だがそこには恐怖や不安は欠片もなくて

このまま瞼の裏にちらつく光の中に埋もれていくのなら
それも悪くはない・・・・・・そう思った


















星 舟


















「おい、ヅラぁ!!
・・・・・・・ったくいつまで寝てんだ手前ェは。」

ふいに頭上から耳に馴染んだ声が降って来て
沈みかけていた体が浮上する

「ヅラじゃない、桂だ。」

反射的に答えた刹那
どうしようもなく重かった体がふわりと軽くなり

開いた唇から
自然緩んだ睫毛の隙間から

瞼の裏にだけちらついていた光の雫たちが
飛び込んで来ては体の隅々に漲って行くのを感じた

だらりと伸ばしていた腕を縮めるようにして体を起こし
ゆるりと瞼を押し上げると
眩い光が視界を埋め尽くす様に押し寄せてきて

どこまでも透き通った蒼に
空よりも深く海よりも儚い輝きに
暫し茫然と目を瞬かせる

目を凝らせばここはまるで光の海のただ中
見えるのは水面の輝きと満天の星屑
そして・・・・・・・・・・
己が乗る舟の舳先のみ

「ここは・・・・・・・・?」

突いた指の隙間からも漏れ出る淡い光
開いた掌をゆっくりと握り込み
輝くばかりの粒の中に指を埋めてみる

「なぁ・・・・・・・銀時。
ここはどこなのだ?」

さらさらと指の間から逃げていく光の粒
滑らかで温かい、水にも似た手触り

「・・・・・さぁなぁ・・・・・。」

傍らにいる幼馴染は何時もの如く
無関心を装って飄々と答えた

「・・・・・・そうか・・・・・。
貴様にも・・・・・分からぬか。」

「・・・・・・・うん、そうね。」

知っていても・・・・・・・
・・・・・・・・知らないふりをする

そうだった
昔から・・・・・・こいつは

意地が悪くて
誰よりも優しい

振り仰げば周囲の光に負けぬほど眩い白銀の髪

気だるそうに手をついて
足を投げ出し
見るともなしに前を眺めている


みゅたろう様からの頂きもの「星舟」
絵:月夜の庭/月乃みゅたろう様


「いつまでも呆けてんなよ、この馬鹿ヅラ。」
銀時はこちらを見もせずボソリと呟き
「馬鹿じゃないしヅラでもない。いい加減覚えろ、この捻くれ天パが。」
俺はといえばそう答える

飽きるほど繰り返してきた戯言を
今こんな時でも繰り返している俺たちは

「ったくなぁ・・・・・何でまたお前ぇと一緒なワケ?」
「それはこちらの台詞だ。全く冗談ではないぞ。」
「その言葉そっくりそのまま打ち返してやらぁ、このハゲ。」
「ハゲじゃない、桂だ。貴様の曲がった根性と天パはきっと死んでも治らんな。」
「・・・・っせーよ!根性と天パは関係ねェェェ!!」

・・・・・・・・・・かなり馬鹿らしい

「あぁ~~~もぅウゼェ~~~手前ぇのその頭かち割ってやりてェ!!」
「やれるものならやってみるが良い!返り討ちにしてくれるわ!!」

二人して同時に立ち上がり
腰の物に手をかけようとして無い事に気づき

「こうなりゃ拳で勝負だ、ヅラぁ!」
「ヅラじゃない、桂だァァァァァ!!」

取っ組み合い・・・・・・・そして

「ぅお・・・・・・・・っ!」
「ちょ・・・・・・・・っ!」

ぐらりと舟は傾いて

「あ・・・・わわわわ・・・・・・・・・。」
「お・・・落ちる・・・・・・っ!?」

一蓮托生

二人して光の海の中へ・・・・・・・・・

「ヅラ・・・・・・・っ!!」
「銀時・・・・・・・っ!!」

はぐれないように指を絡め抱きあい
どこへ流されるとも知れぬ渦の中へ

俺たちはどこへ行くのか
どうなってしまうのか

そんな事は皆目分からないのだけれど

この手を放しさえしなければ
こいつと・・・・・・・・銀時と一緒ならば

どこへ行こうと
何が待っていようと

きっと面白いに違いない














「・・・・・・・・・という夢を昨夜見てな。」

ずずず・・・・・と茶を啜り
ほぅ、と満足げな息を吐いて桂は青空を仰いだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・あのなぁ・・・・ヅラ。」
銀時はもちもちと咀嚼していた団子を飲みこんで
捻くれ天パをガリガリと掻きまわしながら溜息を吐く。
「そんなくだらねぇ話をするために俺を呼び出したのかテメーは。」

「くだらなくなんかないぞ?その後には壮大な冒険が待っておったのだ。」
「・・・・・続きがあんのかよ。」
「そうとも、聞きたいだろう?ぱいれーつ・おぶ・かりびあん的な」
「聞きたくねぇよ。つか、何だよソレ。」
「その後俺たちはだな・・・・。」
「俺の話聞いてる?俺今、聞きたくないって言っ・・。」
「世界の果てから生還し、悪行の限りを尽くした天人たちを・・・・・・。」
「・・・・・って聞けェェェェ!!」










きらきらと輝く星の中

ゆっくりと二人を乗せて進む舟




実は同じ夢を見た事は

口が裂けても言うもんか




身ぶり手ぶりを交えて話を続ける桂を見ながら

そう心に誓った銀時だった


































<了>













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