059061 ランダム
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「風」




午後から、南風が出てきました。

むせ返るような暑さに閉口していた私とって、「恵みの風」でした。

それは、「そよ風」とは呼べない、力強い風でした。

風の通り道を選んで椅子を出し、腰を下ろして目を閉じると、

Tシャツの袖から入った風が汗を乾かしてゆきます。

風上に顔を向けると、耳元で風がヒューヒュー鳴りました。

強くなったり、弱くなったり、でも決して止む事はありません。

さっき飲んだジュースの空き缶が、コロコロと転がりました。


「Breeze is nice」

むかし読んだ小説に出てくる台詞。

主人公が、船旅の途中、天気の良い日に甲板を渡る風を浴びて、

「Breeze is nice」


今日の風も、わずかに湿気を帯びて、それでいてまとわりつかない、

いさぎよい風です。

この風は、何処からきて、何処に行くんでしょう。

私の住む町は、どのくらい前に通り過ぎたのでしょう。

懐かしい街角を駆け抜け、こうして、私のところまでやってきたのでしょう。

大きく、息を吸い込みました。




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