風「風」 午後から、南風が出てきました。 むせ返るような暑さに閉口していた私とって、「恵みの風」でした。 それは、「そよ風」とは呼べない、力強い風でした。 風の通り道を選んで椅子を出し、腰を下ろして目を閉じると、 Tシャツの袖から入った風が汗を乾かしてゆきます。 風上に顔を向けると、耳元で風がヒューヒュー鳴りました。 強くなったり、弱くなったり、でも決して止む事はありません。 さっき飲んだジュースの空き缶が、コロコロと転がりました。 「Breeze is nice」 むかし読んだ小説に出てくる台詞。 主人公が、船旅の途中、天気の良い日に甲板を渡る風を浴びて、 「Breeze is nice」 今日の風も、わずかに湿気を帯びて、それでいてまとわりつかない、 いさぎよい風です。 この風は、何処からきて、何処に行くんでしょう。 私の住む町は、どのくらい前に通り過ぎたのでしょう。 懐かしい街角を駆け抜け、こうして、私のところまでやってきたのでしょう。 大きく、息を吸い込みました。 |