真犯人
真犯人【電子書籍】[ 翔田寛 ] 実は翔田寛を私はずいぶん読んでいた。 久しく小説を読まないでいた私が小説読みにカムバックした5年くらい前のこと、小路幸也などと並んで読んでおり、その模様は、私のもう一つのブログ、夕顔絵夢二郎の江戸ハブ日記にアップしていた。 そのことすら忘れて私は翔田寛をまるではじめて読むような作家として読んだのだった。 さてその5年くらい前の私の翔田寛評はかなり高いものだった。 それがいつしか消えたのはどういう理由からかわからないが、いずれにしろ人の記憶のあいまいさが原因だったろうな、ということしかわからない。 それはともかく全く新しい視点から、ミステリーリーダーとして本作を読み解くと、いつも私が指摘している、取材力、刑事法の理解に乏しい作家だということがわかった。 たとえば、警察への取材力という点では、警部補の課長補佐?証拠も何もそろっていない参考人を被疑者?思料を思量?死体に安易に触る?重大な殺人事件で解剖なし?和暦をいちいち西暦に直す警察官?などなど他の作家と比べて見劣りする。 刑事法(刑法、刑訴法、少年法等)の理解不足という点では、特に少年事件の理解が緩々、少年事件はあーた、全件送致が原則で犯罪少年に対する微罪処分はありえず、それから警察捜査は須らく検察に送致されるもので、少年事件が警察から家裁に送致などということはありえない、という根本的なミスが目に余るのだった。 それでも本作は、現在の殺人事件の中に過去の誘拐殺人事件を練りこむなど、その仕掛けは大変面白いものがあった。 つまりだ、上記のあまりにも多いミスさえなかったら本作は佳作だったのだ。 ただし、昔の略取誘拐殺人事件の捜査があまりにもおそまつだったな、といわざるをえない。 なにもわからぬまま早期に帳場を解散するし、保身のための再捜査を時効直前に再開するし、それから、話の途中で突如出てきた警察の汚職事件はいったいどうなったんだ、とか、突っ込みどころは満載だ。 さて今後彼の作品を読むべきか読まざるべきかそれが問題だ。(9/20記)