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カテゴリ:変則書評:『ローマ人の物語』
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塩野七生著『ローマ人の物語』(14) パクス・ロマーナ(上)(新潮文庫) 読破ゲージ: ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ *********************************************************** オクタヴィアヌスによるパクス・ロマーナ、はじまる。オクタヴィアヌスの帝政移行は、重ねて周到。まずは、元老院派を安心させながら、アクロバティックにカエサルの遺志を実現。ローマ中が久しぶりの「融和(コンコルディア)」に喜ぶ中、領土拡大から領土維持に適したリストラを断行。湧き返る民衆の支持と、真意に気付かぬ元老院派の共和制信仰をくすぐりながら、軍備削減、元老院議員の議席数削減、果ては共和制復帰宣言。派手な大盤振る舞いで注意をそらし、オクタヴィアヌスが手にしたのは、事実上最高権力。つまりは、手放した方が良い特権を放棄しただけのこと。いまだ34歳のカエサルの後継者の深謀遠慮は桁外れ。執政官、インペラトールの称号の常時使用権は保持しながら、共和制復帰からたった三日の間に、アウグストゥスの尊称を、誰ひとり異議を唱える者なき最高の適任者によって獲得。これで「権威では他の人々の上にあったが、権力では、誰であれわたしの同僚であった者を超えることはなかった」と嘯いてみせるとは。アウグストゥスとは、もとは神聖なものや場所を意味する言葉。権力臭がなかったことが危険視を遠ざけた。共和制をローマに返した男、その名は「インペラトール・ユリウス・カエサル・アウグストゥス」。自己抑制能力もまた抜群だった男は、一手一手は合法に徹しながら、それらの集積が、共和制下では非合法である、つまりは帝政の強化につながっている、この卓抜なるマジックを遂行。アウグストゥスの統治への理解は、体制(テーゼ)を倒しながらも、体制への反対でしか成立し得ない反体制(アンチテーゼ)では意味がないからこそ、新体制(ジンテーゼ)樹立にこだわったカエサル直系。統一と分離、中央と地方、中央集権と地方分権、これら矛盾し相反する概念を並立/同居可能なシステム構築の成否がすべてと把握。例えば、多神教のローマにとって、一神教のユダヤ王国の扱いは、パクス・ロマーナの試金石に。あるいは、いまだ留保され続けるパルティア問題もまた。しかし、カエサルも果たせなかったローマ人の雪辱戦は、一兵も動かすことなく外交によって解決。アウグストゥス外交の傑作と呼ばれるまでに。私有扱いにしていたエジプトでは、インフラ整備と、政教分離の概念を導入。文化を尊重しつつ、文明をもたらした業績の一つ。ギリシャ経由で東を後にしたアウグストゥス、アテネにて、やがてこの世を去る直前の詩聖ヴェルギリウスと出会う。叙事詩『アエネイアス』を火中から救う。アウグストゥス、ローマへ帰還。(了) ローマ人の物語(14) ■「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/11/11 11:40:49 PM
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