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カテゴリ:変則書評:『ローマ人の物語』
いやぁ、思いのほか長くかかってしまいました。珍しく今年は大河ドラマ『天地人』を観たからかな、元々テレビにはあまり時間を割かない私も、『ローマ(ROME)』鑑賞には時間がかかりました。エピソードそのものはそんなに長くないんですけど。時間の確保が下手だったのかな。
さて、もともとは、一気に読了した塩野七生著『ローマ人の物語』文庫版の、続刊が出たので、それを読む前に、テンションを上げて一度“ローマン・モード”になることが目的で観たのですが、そういえば『ローマ人の物語』三十数冊を秋口からスタートして読み終えたのもちょうど昨年のこの時期でした。 結果的に、まったくもって塩野的とは言えない(塩野版が正解ではないにしても、国内においてはかなりの影響力、それもビジュアル・イメージにおいての影響力を持っていますから)このドラマ、これはこれで面白かったです。 ディティールについては史実にこだわりつつ、歴史そのものについては大胆な解釈を施し、スキャンダラスにしてドラマティックな、初代ローマ皇帝誕生までのローマの動乱を、上位社会(貴族や元老院)と一般市民の目線から、リアルな「生活」を縦軸に通した描き方は、なかなか見応えがありました。 主人公の二人、頑固一徹カチカチ頭・ヴォレヌス(色気のないダニエル・クレイグに見えて来ました)、豪放磊落野蛮人・プッロ(最後は小汚いジョージ・クルーニーに見えて来ました)の数奇な二人三脚は、熱く微笑ましく、また特にこの対照的な二人の交錯する生き様に、ローマ人の死生観や信仰心が垣間見えて、それが特に面白かったですね。ローマ人の宗教観のみならず、エジプトやガリア、ギリシャとの比較への言及など、キリスト教以前の西欧社会の宗教観というのは、実に多様で、良い意味でアニミズムそのもの(=生活観と密着している)とも言え興味深かったです。 重ねてキャスティングには、様々な意見も出そうですが、個性的で縁起達者の俳優を揃えており、テレビドラマの枠を飛び越える鍔迫り合いにレベルの高さを感じました。 テレビ枠オーバーという点では、セットや衣装の素晴らしさにも脱帽。テレビだからこその「予算」と「時間」という制限をうまく逆手に取って、アナログなアイディアと最新の技術をうまく融合した、制作チームの実力も堪能できます。 後半は駆け足の感があり、若干喰い足りない点もありましたが、無事初代ローマ皇帝が誕生してみると、どうもアントニウスが魅力的に見えてくる。 無論、あのアントニウスですから。しょーもないんです。やっぱり。粗野で怠け者で、強欲で単細胞。酒飲みで、無神経で、好色で傲慢。でも、演じるジェームズ・ピュアフォイ氏、イイんですよ。ちょっとクリストファー・ランベール似なんだけど、もっと親しみが湧く、というか、ちょっと近所のあんちゃん風が良し。アティアとの、放埒ながら大人の恋があったり、コロッとクレオパトラに騙されたり、それで歴史的敗北を喫したり。短い間ですが、シーズン後半、敗北から滅亡までの間のアントニウスを、同氏は実に巧く演じています。これやられちゃったら、やっぱり贔屓しちゃうでしょ~的な、ダメ男ぶり。こういう男もまた英雄なんですね。 判官贔屓の日本人を知り尽くした(ワケないか)ような滅びっぷりに、いつしかカエサルやらブルートゥスやら、キケロやらはみんな印象が薄くなってしまって…。あ、最期まで怖かったのはブルートゥズの母・セルウィリア、ね。 いかに、アントニウスとクレオパトラの関係が、いや、アントニウスの栄光と破滅が、ドラマ向きな題材か、改めて確認する羽目となりました。 さてさて、ようやくドラマ『ローマ(ROME)』も観終えたことだし、気持ちを盛り上げて塩野版の帝国崩壊への道行きに臨むとしましょうか。(了) ▲ちなみにHBOのサイトのキャスト一覧はコチラです。 2009年08月12日発売ROME[ローマ]〈前編〉 2009年08月12日発売ROME[ローマ]〈後編〉 ■帯津良一・帯津三敬病院名誉院長推薦、出版記念講演・青木新門『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/12/22 02:46:54 AM
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