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サリエリの独り言日記

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2012.01.31
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カテゴリ:カーネーション
不可知性の闇 
 と、見てくれば、「不倫」というテーマが、なぜ古今東西の文学芸術で厭きもせず、何度も何度も取り上げられて来たのか、分かるでしょう。「エロース的情動」は生命の根源的事態であって、社会道徳とか規制が入り込む余地がない、純粋に当事者のみが「引き受けざるを得ない事況」なのだということなのです。
 「禁じられた恋=不倫」は、その「絶対的背理性」の動態によって、人間の心の奥に潜む、どうにもならない「邪悪性」を明示するのに、とても便利なシチュエーションなのです。

 このあたり、このドラマはまことに「虚実皮膜」の狭間をたゆたうように、実際にあった基本的な出来事はキチンと押さえつつ、優れた「虚構性」を構築して、「明示的」な真実を開示しようと企てているように見える。私がここの初めのほうで、三島由紀夫の話をしておいたのは、まさしくそういう展開が期待できたらなあ、と思っていたからで、内心どうなることかと実はドキドキしていたのですが、書いておいて良かった、huhuhu … 。

 それにしても、糸子の相手役周防の人物像は、他のどれもはなはだハッキリしたキャラクターに比べて、最初からずいぶんボヤかした描き方をしていましたね。何となくドラマのトーンじたいも、(昼メロふうに)変化したような印象を誰しも受けたでしょう。
 しかしこれもまた、このエピソードを取り上げるときに、最初から仕組まれた演出であったか、という気がしてきました。要はこれは糸子の目、あるいは心象風景を通した周防像なのだと。糸子の心にはこのように記憶され回想されているのだ、ということなのでしょう。ということは私たち観ている側が、まさしく周防から受ける謎めいた典型的な二枚目像こそ、糸子の記憶として刻印されているということです。

 私たちは、しばしば失ったものを「美しく記憶に止める」ということを、無意識に行うものであるらしい。で、「美しく記憶する」ということは、より多くのことを「記憶から消し去る」ということと同義で、であるからこそ、周防の立ち居姿は、どこまでも生身の人間から離れていくのです。彼の生身の生活は、彼の家族風景を見せれば、たちまち明らかになるはずですが、それをしない。しないということは、糸子がそれを望まなかったということを表しています。
 とはいえ、そこはドラマですから、数秒ではあるけれども、周防の子供が糸子の家を覗くシーンが挿入される。視聴者には「現実」を示唆しつつ、それの目撃者が娘の優子であったことによって、糸子はそれを知らないことになっている。このあたりもかなり手の込んだことをしてますね。

 ところで、こうして周防像の話をしていると、これまでに登場し、かつ舞台から去って行った男たちを思い出してしまいます。はたして父善作も勘輔も夫勝も泰蔵も、どこまでクッキリした描像を私たちは与えられていたのか?クッキリしていると思っていたのは、私たちの想像力の中でのイベントであって、自分たちが勝手に合点しているほどに、彼らはクッキリした人物像を見せていたのでしょうか?
 これらもまた糸子の記憶に刻まれた映像なのだとすれば、多かれ少なかれ彼らもまた周防と同じく、曖昧な記憶の霧の中に消えてゆく。そしてそれはおそらく糸子の記憶と、ほぼ同じような道程を辿って消えてゆく、ということなのでしょう。

 これは、現在まだ存命中(?)の三浦組合長についても言えるので、はなはだ謎めいた格言を周防に残したこの人物、何やら背後に一抱え以上の「物語」を背負っていそうなのですが、はたして今後出てくるのか否か?
 などなど見てくると、どうやらこの脚本、男=オスに関しては、すべからく「不可知性」の闇に、いったん追っ払って見てみよう、みたいな下心まで感じてしまうのですが、どうなのかなあ?

― つづく ―





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Last updated  2012.01.31 16:40:35
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ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
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