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カテゴリ:音楽
01.Kのトランク
02.花咲く乙女よ穴を堀れ 03.檸檬の季節 04.気球と通信 05.バースデイ 06.工場と微笑 07.ばらと廃物 08.滑車と振子 09.温和な労働者と便利な発電所 10.スカーレットの誓い ■佐藤奈々子が鈴木慶一に紹介したヨゼフ・ボイスのポスターがこのアルバムの始まりだったらしい。彼はそのポスターを手に入れ、スタジオに飾るわけだな。その芸術家が語るテーマは「薔薇がなくちゃ生きていけない」 ■実際その薔薇の色がどれほど鮮やかな赤だったか知らないが、慶一君にとってそれはただの ROSE ではなくて、LOVE にも BLOOD にも見えたのではないか。そして、それはつきつめていけば ART だったんじゃないかと思う。 ■心意気を感じるアルバムである。こだわりが全面に出ている。当時 MCー4 というマシンを持っていたのはYMOと松武秀樹と彼らの3人(組)だけだったという。購入したてのそのマシンの使い方がわからなくてマニュアルをテーブルの下で見ながらの打ち込みだったという。音楽界における産業革命。テクロノジーと人力の融合以前の格闘期。 ■ここにはバンドが演奏する喜びはあまり感じられない。むしろ本職ではない楽器をあえてやったり、無理な体勢でコーラスを入れたり(逆立ちしたり、押入に入って歌ったりしたらしい)、音を繋げたり、壊したり、加工したりしながら美しく見えるためにはどうしたらいいかを模索している音楽がある。それはおそらくとても神経質で忍耐強い作業だったと思う。でも「薔薇」のためなら彼らにやってできないことはないのである。 ■M1 と M10 はこのアルバムの、いや彼らの全てのキャリアの代表曲である。「Kのトランク」とは鈴木慶一の頭の中に詰まっているもの全てであり、「スカーレットの誓い」とはこのバンドの連帯と決意表明の歌である。いずれの歌詞にも”I Can't Live Without Rose” が、”薔薇がなくちゃ生きていけない”が重要なフレーズとして繰り返されている。 ■聴いていて思うのは「Sergent Peppers'」との共通点である。前に挙げた2曲はさしずめそのテーマ曲であり、”Birthday”は”Within You Without You”に、”温和な労働者”は”Good Morning Good Morning”に、”薔薇と廃物”は”Fixing A Hole”に聞こえないこともない。Beatles のアーティスティックな部分を代表するのがこのアルバムならライダーズにとってもこれはまさにそういう一枚であると思う。 ■売れるアルバムが成功で、売れないアルバムは失敗だという考え方はこのバンドにとってはあまり意味のないものであり続ける。完成されたこの作品が81年当時、発売中止になった経緯は有名な話だが、それは彼らにとってはある意味、名誉に近いことだったと思う。世間と彼らの間における傑作感の不一致、この問題に関しては現在においても半分は解消されていないのかもしれない。 ■自慢話で恐縮だが、82年12月私はCDでこのアルバムを買った。当時勤務していた部署で視聴覚機材を任されていた私はさっそくCDプレイヤーなるものを購入する。どうやって上司を説得したかは忘れたが、半分以上はこのアルバムを聴くためであったことは当時の仲間は知らない話だ。 ■Moon Riders であることのアイデンティティはいつまでたっても「薔薇」を探す旅なんだと思う。それは慶一君たちにとって、心の琴線に触れるものだったり、感じずにはいられない何かだったりし続けるんだろう。きっとどこかにまだあのポスターが貼ってあるんだと思う。そしてライダーズという存在は私にとって今まで、そしてこれから先も「薔薇」であり続けているのですよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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