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カテゴリ:読書
■佐藤正午には特別点数が甘いわたしがこんなこと言ってもあんまり説得力はないかもしれないが、もしも面白い小説を今すぐ読みたいと思っている人がいたら、この「身の上話」を読みなさいと強く勧める。
■もともと光文社の「本が好き!」という雑誌に連載されていたものらしいが、初回からこの連載小説を読んでいた人は次号をどれほど心待ちにしていただろうかと同情しきり。それだけどの章も終盤のめくるめく怒涛の展開に圧倒される。 ■単行本が初読のわたしは、できるだけこの作家の文章に浸っていたくて、何回も何回も噛みしめながら読もうとするのだけど、ついつい先の展開が気になって、本を閉じられない。恥ずかしい話だが、今日は休憩時間のたびにこの本を持って職場のあちこちを移動していた。 ■そもそも「身の上話」というのは、それをするのも、聞くのも技術を要するものだと思うが、その全貌を人に飽きさせずに伝えるということはかなり難易度が高いものだと思う。しかしこの小説の中での聞き手(わたし)は自分の身の上を明らかにすることなく、その長い長い彼女の物語を淡々と語り続ける。なんと彼の正体がわかるのは300ページを過ぎたころである。 ■「小説の読み書き」なる文章読本を岩波新書から出している作者ゆえ、その文章力、構成力は抜群。凝りに凝った文体、張り巡らされた伏線、リアルかつユーモアあふれる会話、ブロッコリーの茹で方の話の後に唐突に同じトーンで人の生き死にが語られる落差が可笑しくもあり恐ろしくもある。 ■わたしもいまだにサッカーくじで一攫千金を狙っているクチだが、何億という賞金を手にしてしまった人の心理を突き詰めて考えたことはなかった。銀行ではそういう人(運良く?高額賞金を手に入れてしまった人)のために『[その日]から読む本』なる指南書を配布しているのだという。 ■表紙にあるリュックを背負ったボブカットの後ろ姿の女性こそ、この物語の主役に違いないのだが、この子のこれまでの人生がどれだけ波乱に富んでいるものかは読んでみなければわからない。裏表紙を見ると、その子がこちらを向いている姿が見てとれるが、その無表情の意味するものが何であるかを読み終わった今はなんとなく想像できる。 ■象を洗っても、豚を盗んでも、やっぱり佐藤正午は小説で読みたい。いよいよ今作で次期本屋大賞は決まりだろう。愛読者としての心配は印税が増えれば増えるほど、この作家は寡作になるのでないかということ。競輪も競艇もいいけれど、1年に1作はこんな面白い本を読ませて欲しいな。 PS ■わたしの大好きなRPG「MOTHER」では、女の子の持つ最初の武器はフライパンだった。佐藤正午があのゲームをやっていたとは思えないが、これから台所に立つ時には背後に気をつけようと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/08/05 12:30:32 AM
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