アグネス・デ=ミル
「オクラホマ!」の感想で予告していた振付家アグネス・デ=ミルについてである。 アメリカで「4人の振付家切手」なるものが発行されたことがある。こういう職業の人が切手になる(つまりそれほど周知のスターであるということ)のがアメリカかと思うと、かの国におけるショウビジネスの重要度がうかがい知れるが、それがジョージ・バランチン、マーサ・グレアム、アグネス・デ・ミル、アルヴィン・エイリーというラインナップ。この面子でアグネス入るんだーというあたりに彼女の功績をあらためて思ったり(だってブロードウェイ代表ってことだよね)。 …でもでも、バランチンじゃなくて、そこはジェローム・ロビンズでしょう?! ミスターBはグルジア人だよ、バレエ・リュッスの人だよ。移住者も国への功績によってアメリカ人扱いになるのがアメリカといえばそうなんだけど。私ならゲオルギー・バランチヴァーゼを入れるなら、アグネスは落とすかな。マーサがいればアグネスは要らないという見解。で、ジェリーを入れるの。あと、エイリーかフォッシーかでちょっと悩むかも。バレエ、モダンダンス、ショウダンス、でフォッシーを入れればジャズダンスをカバーできるから。でもエイリーで正解なんでしょう。 こんな時にアグネスがすらっと振付家代表として扱われるのには、やはり「オクラホマ!」が大きかったりする。この舞台での仕事そのものの意義はもちろん、実はブロードウェイにおけるコレオグラファー、という呼称というかクレジットは、この時の彼女を嚆矢としているそうなのだ。つまりそれまでのミュージカル・コメディの舞台群において、ダンスは芸術ではなく芸、として扱われていたということになる。…ミュージカル・コメディでもっとも多用されるタップダンスは振付よりダンサー個々の能力のほうに凄さが前面に見えるものではあるけれど。フレッド・アステアが20年代後半の舞台、30~40年代の映画でタップの可能性をあれだけ追求し、無限に広げてみせたのに、あれは舞踊の力というよりアステア一人の天才性ということで棚上げされていたのか(確かにアステアの影のパートナー、ハーミズ・パンは独創性に溢れた振付師ではなく単なる助手扱いだ)。 さて、日本では『オクラホマ!』『回転木馬』といった西部劇ミュージカルを女だてらに振り付けたおばさん、後はせいぜい牧歌的な『ブリガドーン』、トリビアとしてセシル・B・デミル監督の姪であるということくらいしか知られていないアグネス・デ=ミルだが、本業はもちろんバレエである。バレエ・リュッス(含むパヴロヴァ)の巡業ばかりがバレエとみなされていたアメリカで、自分たちのバレエを創ろうと格闘し、荒野をひらいた開拓者。この根性が西部劇と相性よかったりするのか? マーサ・グレアムとは親友にして同志。 私はアグネスの振り付けではバレエ作品「フォール・リバー伝説」に心惹かれる。斧で父と継母を殺したとされる娘の実話(リジー・ボーデン事件。裁判では無罪)がモチーフ。実際のリジーと違い、かなり痛ましく造形される。48年の初演は確かアリシア・アロンソ。日本ではギエムが踊って見せた。フェリの持ち役でもあった。42年のチューダー振付「火の柱」の系列の作品。ヨーロッパだとクルベリ作品に近いテイスト。グールド / バレエ「フォール・リヴァーの伝説」価格:2,615円(税込) モートン・グールド作曲 ミルトン・ローゼンストック 指揮 ナショナル・フィル 輸入盤 CDのジャケットがバレエの舞台写真だったので、大きめにあげてみた。BALLET アメリカン・バレエ・シアターの価格:7,371円(税込) フレデリック・ワイズマン監督 出演ダンサー:アレッサンドラ・フェリ フリオ・ボッカ クリスティン・ダンハム 出演スタッフ:ジェーン・ハーマン(経営者) イリーナ・コルパコワ(教師) アグネス・デ=ミル(振付師) 最晩年のアグネスのかくしゃくとした姿が見られるドキュメンタリー。自分ではもう動いて見せられないのが悔しそう。創立時はソリストだった人だから、振り移しは踊りながらやっていたんだろうというのが見てとれる。リンクはプレミアム版(ちっちゃなトウシューズがおまけについている…要らんわ)。通常版はアマゾンならまだあったと思う。レンタルはところにより。【23%OFF!】オクラホマ! 製作50周年記念盤価格:2,302円(税込) 監督 フレッド・ジンネマン 出演 ゴードン・マクレー シャーリー・ジョーンズ ロッド・スタイガー 20世紀フォックス↑映画版は舞台に輪をかけて古めかしい! せめてMGMなら、とは誰もが思うところ。とはいえそっちでやった「ブリガドーン」(デ=ミル振付)も古風で野暮ったかった…。映画と相性悪いのか? ところで「オクラホマ!」のデ・ミルの振付には著作権の保護が適用されなかったそうで、それって買い取りってことか! ロジャースとハマースタイン(とその遺族)は今でも歌曲の二次使用料とか受け取っているのに。でも総合芸術の場合、儲けの分配って難しいよね。出演者だって、基本、最初の出演料しか貰わないわけだし。今はそのあたり、どうなっているんだろう。 寄り道したからマーサとの話はまた今度!(まだつづく!)↓よろしかったら押してください。岡田ジャパン惜しかった。