想い出は心の宝石箱に。。。

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   エレナ姫との昨夜の再会の興奮さめやらぬまま、私はケルントナー通りを

　　一人歩いていました。

   そこに、

　　（　グリュッス、ゴッド。。。セツデン、アイコトバ、ビテ？。。　）

　　（　ロウジン・コドクシ。。。　）

　　暗号はこれまでの、"　アセモ　"からこれに、変えられていました。

　　米国　ＣＩＡ　諜報部員から、手渡されたメッセージには、イラクがクウエート

　　に侵攻する惧れがあると。もし、侵攻すれば中東の石油利権確保のために、

　　アメリカは同盟国を組織し、反攻をかけることは目に見えています。さすれば、

　　米軍の基地のあるサウジに向けて、イラクがミサイル攻撃を。。。

　　危ない、エレナ姫が。。。。　　　

　　姫が滞在しているホテルにかけつけました。サウジの随行員はいまだ、

　　イラク侵攻可能性の情報を得ておらず、私の話を信じようとはしません。

　　しかし、

　　（　私は、皇子の情報を１００％信じます。国は私を裏切っても、皇子は

　　　　そうでなかったから。。）

　　姫は、そういうと身支度を始めました。

　　皇子は秘蔵のタケコプターを頭につけ、姫を小脇に抱きかかえると、あっけに

　　とられる従者・執事を置き去りにして、空へと飛び立ったのでした。

　　ＣＩＡの情報通り、１９９０年８月２日にイラクはクウエートに侵攻し、これを

　　受けて１９９１年１月１７日に国際連合の多国籍軍がイラクへ空爆を

　　開始しました。私のよみ通り、イラクはサウジ石油施設への攻撃を

　　行ったのです。エレナ姫は、皇子の別荘バッキンガム宮殿に避難させ

　　ましたので、ことなきをえたのでした。

　　かような私の華々しい活躍を、弊社の子猿ウイーン事務所長は、

　　苦々しく思っており、東京本社宛てに、＜　ないこと、ないこと　＞を

　　報告し私の帰任画策を弄したのでした。サラリーマン社会は不条理な

　　世界で、上司が正義で部下は恒に悪、子猿所長の邪悪な目論みが成功

　　したのでした。

　　突然の帰任命令に、ウイーンフィル楽団の嘆きは大きく、後任として

　　小沢征爾を推薦。わたしの送別コンサートとして、モーツアルトのレクエイム

　　を振ることとなりました。ムジークフェラインザールのコンサートチケットは、

　　全世界の王侯・貴族クラッシック・ファンから申し込みが殺到し完売。

　　天井桟敷の立ち見席も悠愛皇子ファンで埋め尽くされ、花火見物の明石

　　歩道橋での事故と同様な、悲惨な結果をもたらしたのでした。

    レクエイムの曲は、１７９１年夏、謎の依頼主から＜　死者への鎮魂歌　＞

　　の作曲を依頼されたモーツアルトが、病身に鞭を打ちつつ完成を急いだ

　　ものですが、作曲半ばにして彼は１２月５日に没しました。弟子、ジュース

　　マイヤーが補筆完成させて、古今レクエイムの最高傑作と言われています。

    多くのファンの感動をもたらした、悠愛皇子渾身のラスト指揮。

　　この演奏会は、カール・ベイムと並ぶレクエイム演奏として、音楽史に燦々と

　　輝く記録を残したのでした。

　　万感胸に迫り、溢れる涙を抑えきれない、エレナ姫の姿がそこに。。。

　　（　ありがとう、私の皇子。。。。さよなら、愛と夢の彷徨い人。。。　）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＝＝　完　＝＝

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