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想い出は心の宝石箱に。。。

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2014.11.12
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                                     第十六章

 

 

     黒田は、アカデミーの敷地内にある、大聖堂にいた。

   14世紀後半のゴシック建築で、尖塔と高大な窓に特徴がある。十字架の前で、老婆が

     頭をたれ熱心に、ひとり祈りを捧げている。午後の斜光が、ステンドガラスを通して、

     彼女の横顔を照らしていた。刻み込まれた皺から、此れまでの苦しみと悲しみが、

     うかがいしれた。

 


                        



    黒田は、ふと日本にいる妻、久美の事を思った。

      冴子が向日葵の大輪なら、久美は月見草のごとく地味な女性だが、妻として何一つ不満は

      なかった。特に、薄給時代の家計を切り盛りし、子供を育てあげてくれた事に、黒田は

      感謝していた。病弱な久美を東京に残したまま、黒田の単身赴任が長くなり、その中で

      冴子との、運命的な出逢いであった。


  冴子との恋愛関係は、言ってみればお互いの守るべき城があって、もしか
したらその上で

      こそ、バランスがとれていたのかもしれない。久美は、人を疑う事を知らない性格から、

      冴子との仲について問われた事がなかった。しかし、冴子が妊娠し、自分と同棲して

      いる現況を知れば、悲しみのあまり精神に、異常をきたすことは、目にみえていた。


   < 人を愛する気持ちに、なんぴとも竿はさせない >と論じる黒田に
とって、私生活に

     おける久美と冴子の問題を、どのように解決すべきなのか?

   黒田は、その答えを見いだせぬまま、初めて苦しみ始めたのであった。


   冴子への愛は、男として純粋なものであり、久美への夫婦愛も、これもまた
真実であった

     から・・・・・

 


   

            Img_0872

 

 

   其の日は、朝から雪だった。

       東北の冷たく重い雪に比べ、ミルコ・ゴッゾーリのワルツのように、軽く踊りながら

       舞っている。


   学会の下準備で、事のほか時間がとられ、黒田の帰宅は遅くなった。
今日は、冴子の

       誕生日である事を思い出し、黒田の歩みが自然と早くなった。

   さきほどから、黒田の影のようについてくる、雪を踏みしめる音が気になる。



   角を曲がり、黒田のアパートの灯りが見えたところで、駆けてきた足音が
追いついた。

       振り返ると同時に、その影が黒田の胸に飛び込んできた。

   心臓をえぐられるような痛みがが走り、黒田はその場に崩れるように倒れた。


   白い薔薇の花束が、黒田の手から離れ、空中に舞い上がった。飛び散る
花びらを、黒田の

       鮮血が染め上げる。 白から赤へと、そして深紅へと・・・・

                                                    

                        




     思えば、黒田の人生は、真実の愛を求めて、彷徨い続けてきたような
ものだった。

       文学を通し、そして己の実生活においても。晩年に冴子と出逢い、激しい恋に堕ちた。

       その愛と苦悩の日々は、神さまが黒田に回答を求めた、最後の命題であったのかも

       しれない。



   雪がさらに降ってきたようだ。

   部屋の灯りが、ゆるやかに遠ざかっていく。

   涙でぼんやりと、滲みながら・・・・


  ( 冴子、お誕生日おめでとう!! )


   と、呟いた声が、白い息と共に、闇の中に消えた。

 

 

           

 

                 

    黒田の体を・・・

    鮮血に染まった薔薇の花束を・・・  

    すべてを、ふりつむ雪が、覆い隠していった。

        

 

        つづく~  いぬ    いぬ

 

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Last updated  2014.11.13 00:57:22
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