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今回は話題を少し変えて,ブログ「へなちょこ自然保護」に掲載されていた「赤の女王」(1)~(3)
http://henachokosizenhogo.blog.so-net.ne.jp/2006-10-03 をここに転載します. (以下転載) 野生生物は,飼育栽培や凍結保存されている生物とは違っています.もう少しこの点を説明するため,「赤の女王」という考え方を紹介します.これは,「生物にはなぜセックスがあるのか?」という大問題を扱った学説です.話は長くなりますが,きちんと説明しましょう. 卵と精子が合体するのがセックス(性)です.卵は母親の遺伝子の半分を持っています.簡単のため遺伝子座が5個だとすると,母親は各遺伝子座につき2個ずつ遺伝子を持っているので計10個の遺伝子.卵は各遺伝子座につき1個ずつなので計5個の遺伝子を持っています.卵ができるとき,遺伝子座ごとに,2つのうちどちらかの遺伝子が選ばれるわけです.選び方はランダムですから,2の5乗とおりの遺伝子の組み合わせが考えられます. 実際の生物では,遺伝子座の数は5個などというものではなく,百個とか千個などでもなく,もっとはるかに多いわけですから,遺伝子の組み合わせについて,卵は1つずつみんな違っています.同じように精子も1つずつ皆ちがっています.そういう卵と精子が合体してできる子孫は,1卵性双生児でない限り遺伝子の組み合わせが1人ずつみな違っています.セックスとは生物学的には「多様性の創出」にほかなりません. 生物はセックスがなくても子孫を作れます.アメーバにはセックスがなくて,細胞分裂だけで無限に増殖するそうです.アブラムシ(アリマキ)という昆虫は春や秋にはセックスが発現しますが,それ以外の季節にはメスがメスを産んで無性増殖します.無性増殖では遺伝子は変りません.娘は母親と全く同じ遺伝子です.娘が何人(何匹)生まれようと,みんな同じ遺伝子をもっています.無性増殖とは親のコピーを作ることです. その無性生殖は,生物の増殖方法としては非常にすぐれています.母親がいま生きているということは,その遺伝子が今の環境に適応していることが証明されたようなものです.これで生きていける,とわかっている生物のコピーをつくるわけですから,環境が変らない限り,子孫はみんなその環境に適応しているでしょう. ところが有性生殖では多様な子孫が作られます.母親も父親も環境に適応しているでしょう.しかし子孫はどうでしょう.うまく行くことがわかっている遺伝子の組み合わせを,とりあえず放棄して,新たに遺伝子をランダムに組み合わせて試行錯誤しているようなものです.おそらく大部分は失敗するでしょう.しかも子孫の半分はオスです.卵は単独で発育することも条件次第で可能ですが,精子は発育できません.子孫の数を増やすうえでオスは全くムダな存在です.これほど効率の悪い方法で,多くの生物は子孫をつくっているわけです.いったい有性生殖のメリットはどこにあるのでしょう? 有性生殖のメリットは「進化の早さ」にあります.環境が変化したとき,みんな親のコピーで同じ顔をした無性生殖の生物は,新しい環境に適応するには,遺伝子が「突然変異」する必要があります.たぶん1つの突然変異だけでなく,2つ以上の突然変異が必要かもしれません.そのようにして新しい遺伝子に変っていくには時間がかかります.ところが有性生殖の生物はいつも遺伝子の組み合わせを変えているので,複数の突然変異をもった個体ができやすいのです.だから環境が変化する時は,有性生殖のほうが有利になります.しかし環境が一定であれば,無性生殖に比べ有性生殖は圧倒的に不利です. だから現存の生物の大多数が有性生殖を採用している理由は,生物の生きている環境というのは見かけほど一定ではなくて,じつは時々刻々と変化するものに違いない.現代の生物学者の多くは,そのように考えています. この続きはまた今度にしましょう. 赤の女王 (2) へ: http://plaza.rakuten.co.jp/tosana/diary/200711240000/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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