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反カルトからの自由

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TT早川

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2010.08.11
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(この物語は、近未来の日本を舞台にしたフィクションである。)

ミンス党が政権を握った日本は、急速に米国との政治的距離を広げた。国土から米軍基地を排除し、日米同盟も破棄され、対等な日米関係が樹立された。米国はもはや、日本が直面する中国や北朝鮮からの脅威に立ち向かってはくれず、日本は軍備を増強することとなった。

日本国民は、自分たちが選んだ政権が対等な日米関係を選択したことなどすっかり忘れ、「米国は日本を見放した」、「米国は中国と接近しすぎだ」、「米国は、北朝鮮の日本人拉致問題を解決しようと動かない」などと、米国バッシングをはじめた。

そしてついに、米国の国教であり、米国民の精神的支柱であるキリスト教を、日本人は「カルト」と称して憎むようになった。

「たいへんです! A子さんが行方不明になりました!」

境田(きょうだ)教会の礼拝堂に、男性信者が飛び込んできた。神とイエスに祈りを捧げていた吉屋(よしや)牧師は、怒りをあらわにした。

「またか。これで4300人目だ」

この時代、全国のキリスト教徒が家族に保護され、説得され、信仰を捨てるという出来事が後を絶たなかった。キリスト教会としては、これは「拉致であり、監禁である」と主張していた。しかし、再び姿を現した元信者たちが「自分の意志で話し合いの場に参加し、自分の意志で信仰を捨てました」というものだから、拉致監禁という主張は世間から一蹴されてしまう。

「もう、我慢できない」

吉屋牧師は、あまり仲良くない三田村社長に、A子さんを探すように依頼した。零細企業経営者の三田村社長は、かつて吉屋牧師と組んで他宗教の信者を保護説得し、キリスト教会に改宗させてきた仲間だ。今では反キリスト教側について、キリスト教信者の保護で飯を食っているという噂もあるが、昔の仲間だし、協力はしてくれるだろう。

案の定、しぶしぶであったが三田村社長は捜索に協力してくれた。叩けば埃の出る身、しかも昔の保護説得の暗黒面を知っている2人であるから、お互いに裏切るわけにもいかなかったのだ。

三田村社長の捜索で、A子さんが保護されているマンションが判明した。さすが、かつては監禁場所…もとい保護場所をコーディネイトしていただけあり、鼻が利くようであった。

吉屋牧師は、その部屋の前に立つと、ドアを激しくノックした。チェーンロックをしたまま、A子さんの父親がドアを開けた。

「境田教会の吉屋です。A子さんと合わせてください」

「今、家族で話し中なので、出られません」

「それは本人の意志なのですか?」

「もちろんです」

「ひとことでいいので、話をさせてください。ひとことくらい、いいでしょう。本人から、自分の意志だと聞ければ良いのです」

「……」

父親は言葉に詰まった。「まだA子さんは脱会の意志を固めていないようだ」と確信した吉屋牧師は、

「A子さぁ~ん! いるんですかぁ~? 私が来ましたから、もう大丈夫ですよぉ~!」

と、大声で叫んだ。

すると、部屋の中からドカドカと音を立て、小柄な老人が玄関先に出てきた。しばしばテレビに出演して、霊や宇宙人やUFOなどを否定している、物理学者の小月(しょうつき)教授だった。

「あなた、うるさいよ。近所迷惑でしょうが」

「だって、A子さんは本人の意志ではなく、この部屋に閉じ込めらているんですよ。これでは拉致監禁です」

「A子さんはあなた方キリスト教にマインドコントロールされているんだから、閉じ込めなくちゃ説得できないでしょうが」

「マインドコントロールなんてしていません」

「じゃあ、していないって証明してごらん」

「いいですよ。彼女は聖書を熱心に勉強されて、神と主イエスを信じ…」

「神なんて、いないでしょうが」

「いますよ」

「じゃあ、神がいるって証明してごらん。ちゃ~んと、物理学的にだよ。私が物理学者だということを忘れないでよ」

「……」

神の存在が物理学的に証明できれば、ノーベル賞ものだ。今まで誰も証明したことがない。地方都市のしがない牧師に、そんな偉業ができるわけがなかった。

「ほら、できないじゃん。わっはっはあ」と笑う小月教授。

感情を抑えて経緯を見守っていた母親が、目を吊り上げて吉屋牧師に詰め寄った。

「キリスト教の教会では、イエスがはりつけになって串刺しにされて血を流して殺された姿を、拝んでいるというじゃないですかっ! なんてグロテスクなのっ! 気持ち悪いっ!」

父親も怒鳴った。

「米国人は、そうやって毎日死体を拝んでいるから、ベトナムとかアフガンとかイラクとかで、平気で死体の山を築くことができるんだろっ? カルトめっ! さあ、帰ってくれっ!」

吉屋牧師は、必死に訴えた。

「キリスト教はカルトではありません。信徒をマインドコントロールなんかしていません」

小月教授が畳み掛ける。

「じゃあ、キリスト教が信者をマインドコントロールしていないことを物理学的に証明してごらん」

「信徒はみな、自分の意志で聖書を学び、洗礼を受け…」

「なあにを言っておるんだろうねえ。自分の意志で学んだように思っているけど、実は思考をコントロールされているから、マインドコントロールっていうんじゃないか。分かってないね」

「いえ! 私は確かに自分の意志で洗礼を受けましたよ!」

「そう自分で思い込んでいるだけで、実際はコントロールされていたんだよ」

何度「自分の意志で信仰した」と訴えても、「そう自分で思い込んでいるだけだ」と一蹴されてしまう。

「さあ、帰った帰った」

小月教授に押し出された吉屋牧師は、すごすごと部屋を後にした。遠くの空でカラスが「あほー」と泣いていた。

(つづく)






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Last updated  2010.08.11 21:38:53



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