自然と動物の世界


 食べるものと食べられるものの間には、「敵もまた味方」という関係が30億年以上前から続いていて、それが複雑な生態系を支える生物間の主要な関係の一つになっています。私はよくオオカミがトナカイを救うという表現をしています。アメリカの生態学者がアリューシャン列島のセントマシューズ島に大陸から10数頭のトナカイを放しました。そこにはオオカミもいないし、食べ物もたくさんありました。トナカイは20、40、80と数を増やしました。しかしこの島に200頭分の冬越しの食べ物しかないのに、夏の間に400頭に増えたらどうなるでしょう。順位制などが保たれていれば200頭生き残るかもしれませんが、いっせいに食べ始めたら冬の中ごろに食物は全部なくなってしまいます。これは実際に実験したことで、島で繁殖したトナカイは全滅をしてしまいました。

 数が増加したとき、オオカミを連れてきたら、トナカイにとっては仲間あるいは自分が食べられてしまう敵なのですが、全滅はしないで、より永くこの島で繁栄を続けることができるでしょう。オオカミがトナカイを救うという表現ができるでしょう。もちろんこんな簡単なシステムではオオカミがトナカイを食べつくして、やがてオオカミもトナカイもいなくなるというのは明らかですけれど。

 「食べる食べられる」という生物間の調和をもたらすようなシステムができあがったのはずっとずっと昔のことでした。

 調和とバランスへの道、地球上の限られたスペース、限られた資源の中で多くの生き物たちが長いことこの道を歩んできました。


 近頃、日本の各地でツバメが少なくなってきたといわれています。ある町で「ツバメを取り戻そう」「どうやったらツバメが帰ってくるだろう」と委員会を組織し、議論をしたとします。誰かが、ツバメの食べ物があるだろうかと発言しました。

 昔は夜になると窓辺に蛾などの虫がいっぱい集まったのに、最近は都会に虫がいない。そこで、ツバメの食物のためにと、街角に汚物をおいてハエが出るように、あるいは街路樹に毛虫がたくさんついて蛾が出るようにというまちづくりを始めたとしたら皆さん何と言うでしょうか。健康で文化的なまちづくりのためには虫などはいなくていいに決まっている。しかし、食べ物がなければ生き物は生きていけない。これは自然界の最も基本的なルールです。

 「ツバメさん帰っておいで」という時、「窓辺の網戸に虫が来るよ、ああいい町だね」と考えられるかどうかが問題になってきます。

 さまざまな生物が地球上に存在します。人間が素敵だと思う生き物だけを大切にすることが、自然を大切にすることになるでしょうか。それでは、結局は素敵な生き物もいなくなってしまいます。いろいろな生き物が複雑に関係しあって、全体として一つのシステムになる。それを私たちはエコシステム、生態系と呼んでいます。

  貴重な種類と貴重な自然というのは意味がまったく違います。貴重な種類がすんでいれば、貴重な自然でしょうか。相反することだってあります。もちろんイコールの場合もあるでしょうけれど、これはレベルが違う問題だと認識して欲しいのです。たくさんの生き物がいろいろな所にすんでいます。その生き物たちはそれぞれに大切な働きを担っています。


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