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南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

(4)教師の家


《ヒッタイトの足跡を訪ねる旅―第1回》 (2003年8月の旅の記録) 

(4)教師の家

登りと同じ細い山道を下りきり、村に入る道で少年を降ろすとき、夫は少年の住所、名前、兄弟の名前と性別、年齢を聞きだした。
4人兄弟の長男だというこの少年に、夫は後で学用品なり靴なりを送ってやるつもりのようだった。
少々生意気ながら、しっかりとガイドを勤めてくれたこの少年も、村人のほとんどが農業を営む貧しい村の貧しい家庭に育っているだろうことは、古ぼけた服装や泥で汚れ擦り切れた靴を見れば一目瞭然だったから、同じように貧しい育ちで、親から新しく何かを買ってもらった記憶がなかったという夫は、少しでも力になってやりたかったのだろう。
ガイドをしてくれた小遣い賃として少年に数ミリオンを渡し、村を後にする時、広漠とした丘陵に3000年以上の歳月を経て今も佇むヒッタイトの神々や兵士の面影と、岩肌をなで、草の上をすべる爽やかな風の記憶が心地良く私の心を満たしていた。

ベイシェヒルに着いたのは午後6時。
観光地ではないベイシェヒルにホテルらしいホテルがあるとは初めから期待していなかったので、まっすぐオーレトメン・エヴィ(教師の家)に向った。
オーレトメン・エヴィは教員の福利厚生施設で、教員の身分証を提示すれば、かなり安い金額で泊まれる施設なのだそうだ。
私たちはもちろん教師ではないが、雑誌に唯一掲載されているところを見れば、ベイシェヒルで最もまともな宿泊施設であり、かつ一般の者も泊まれるに違いないと読んでいた。

読みが当たり、空き部屋にも恵まれて、一人20ミリオン(約1,900円)で受け入れてもらうことになった。教員の身分証を持つ人には16ミリオン(約1,500円)で提供しているとのこと。
部屋は広く、TV付き。シャワールームにはドラーヤーと厚手のバスタオルも添えられている。
小さなバルコンに立つと、目の前は湖、手前の草地では牛がのんびりと草を食んでいる姿が目に入った。
美しいというより、いかにも田舎びた景色だし、施設自体も国立学校そのもののように四角四面でまるきり面白みに欠けたが、この価格で3ツ星並みの設備は私たちには十分すぎるくらいだった。

部屋に落ち着いた後、何か冷たい飲み物でも、とサロンに降りてみた。
ビール党の夫は、いつでもどこでもまずビール、という人なのだが、私が「きっと置いてないよ」と言った通り、ここにはビールは置いてなかった。
「以前は置いてたんですが、今は認められなくなってしまって・・・」と給仕の人がすまなさそうに言い訳するのを聞いて、夫は「あいつのせいだよ、エルドアンの」と憎々しげに、親イスラム政党出身の現首相のせいにした。

私は、もう少し違うことを考えていた。
ベイシェヒルはコンヤ県に属し、県庁所在地コンヤまではたった90km。トルコでもイスラム色の特に濃い町コンヤに、政策的にも市民生活的にも同化していることは十分予想された。観光都市でもなく外国人の訪問も少ないこの町で、ビールがどこでも手に入るとは、最初から期待してはいけないのだった。

 つづく

(5)湖畔の夕暮れ




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