ブログを作る※無料・簡単アフィリ    ブログトップ | 楽天市場
024586 ランダム
已(やむ) (そのほか)楽天ブログ 【ケータイで見る】 【ログイン】
もーむすたいへん
ホーム 日記 プロフィール オークション 掲示板 ブックマーク お買い物一覧

PR

カレンダー

2011年11月
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930   
<一覧へ今月次の月>

キーワードサーチ

お気に入りブログ

まだ登録されていません

バックナンバー

モバイル

>>ケータイに
このブログの
URLを送信!

 

tymermooonの日記

<< 前へ次へ >>一覧

2006年02月18日 楽天プロフィール Add to Google XML

已(やむ)
[ カテゴリ未分類 ]    

「なぜといッてお前さん――アノ始末だものオ……」
 少女は口をつぐんだ。「ヴィクトル」は袂時計(たもとどけい)の鎖をいらいだした。
「オイ、『アクーリナ』、おまえだッてばかじゃあるまい」トまた話しだした、「そんなくだらんことをいうのは置いてもらおうぜ。おれはお前のためを思ッていうのだ、わかッたか? もちろんお前はばかじゃない、やッぱりお袋の性(しょう)を受けてるとみえて、それこそ徹頭徹尾(てっとうてつび)いまのソノ農婦というでもないが、シカシともかくも教育はないの――そんなら人のいうことならハイと言ッて聞てるがいいじゃないか?」
「だッてこわいようだもの」。
「ツ、こわい。何もこわいことはちッともないじゃないか? 何だそれは」、と「アクーリナ」の傍へすりよッて「花か?」
「花ですよ」ト言ったが、いかにも哀れそうであッた。
「この清涼茶は今あたしが摘(つ)んできたの」トすこし気の乗ッたようす「これを牛の子にたべさせると薬になるッて。ホラ Bur-marigole ――そばッかすの薬。チョイとごらんなさいよ、うつくしいじゃありませんか、あたし産れてからまだこんなうつくしい花ア見たことないのよ。ホラ Myosotis、ホラ菫(すみれ)……ア、これはネ、お前さんにあげようと思ッて摘んできたのですよ」ト言いながら、黄ろな野草の花の下にあッた、青々とした Bluebottle の、細い草で束ねたのを取りだして「入(い)りませんか?」
「ヴィクトル」はしぶしぶ手を出して、花束を取ッて、気のなさそうに匂いを嗅いで、そしてもったいをつけて物思わしそうに空を視あげながら、その花束を指頭でまわしはじめた。「アクーリナ」は「ヴィクトル」の顔をジッと視詰めた……その愁然(しゅうぜん)とした眼つきのうちになさけを含め、やさしい誠心(まごころ)を込め、吾仏とあおぎ敬う気ざしを現わしていた。男の気をかねていれば、あえて泣顔は見せなかったが、その代り名残り惜しそうにひたすらその顔をのみ眺めていた。それに「ヴィクトル」といえば史丹のごとくに臥(ね)そべッて、グッと大負けに負けて、人柄を崩して、いやながらしばらく「アクーリナ」の本尊になって、その礼拝祈念を受けつかわしておった。その顔を、あから顔を見れば、ことさらに作ッた偃蹇恣雎(えんけんしき)、無頓着な色を帯びていたうちにも、どこともなく得々としたところが見透かされて、憎かった。そして顧みて「アクーリナ」を視れば、魂が止め度なく身をうかれでて、男の方へのみ引かされて、甘えきっているようで――アアよかッた! しばらくして「ヴィクトル」は、……「ヴィクトル」は花束を草の上に取り落してしまい、青銅の框(わく)を嵌(は)めた眼鏡を外套の隠袋(かくし)から取りだして、眼へ宛(あて)がおうとしてみた、がいくら眉を皺(しか)め、頬を捻じ上げ、鼻まで仰(あ)お向かせて眼鏡を支えようとしてみても、――どうしても外れて手の中へのみ落ちた。
「なにそれは?」と「アクーリナ」がケゲンな顔をして尋ねた。
「眼鏡」と「ヴィクトル」は傲然(ごうぜん)として答えた。
「それをかけるとどうかなるの?」
「よく見えるのよ」。
「チョイと拝見な」。
「ヴィクトル」は顔をしかめたが、それでも眼鏡は渡した。
「こわしちゃいけんぜ」。
「だいじょうぶですよ」トこわごわ眼鏡を眼のそばへ持ってきて「オヤ何にも見えないよ」トあどけなくいッた。
「そ、そんな……眼を細くしなくッちゃいかない、眼を」トさながら不機嫌な教師のような声で叱ッた。「アクーリナ」は眼鏡を宛(あ)てがッていた方の眼を細めた。「チョッ、まぬけめ、そッちの眼じゃない、こッちの眼だ」トまた大声で叱ッて、仕替える間もあらせず、「アクーリナ」の持ッていた眼鏡をひッたくッてしまッた。
「アクーリナ」は顔を赤くして、気まりわるそうに笑ッて、よそをむいて、
「どうでも私たちの持つもんじゃないとみえる」。
「知れたことサ」。
 かわいそうに、「アクーリナ」は太い溜息をして黙してしまッた。
「アア、『ヴィクトル、アレクサンドルイチ』、どうかして、いっしょにいられるようにはならないもんかネー」トだしぬけに言ッた。
「ヴィクトル」は衣服の裾(すそ)で眼鏡を拭い、ふたたび隠袋に納めて、
「それゃア当座四五日はちッとは淋しかろうサ」ト寛大の処置をもって、手ずから「アクーリナ」の肩を軽く叩いた。「アクーリナ」はその手をソット肩から外して、おずおず接吻した。「ちッとは淋しかろうサ」トまた繰返して言ッて、得々と微笑して、「だが已(やむ)を得ざる次第じゃないか? マア積ッてもみるがいい、旦那もそうだが、おれにしてもこんなケチな所にゃいられない、けだしモウじきに冬だが、田舎の冬というやつは忍ぶべからずだ、それから思うと彼得堡(ペテルブルグ)、たいしたもんだ! うそとおもうなら往(い)ッてみるがいい、お前たちが夢に見たこともないけっこうなものばかりだ。こう立派な建家、町、カイ社、文明開化――それゃ不思議なものよ!……」(「アクーリナ」は小児のごとくに、口をあいて、一心になッて聞き惚れていた)
「ト噺(はなし)をして聞かしても」ト「ヴィクトル」は寝返りを打ッて、
「むだか。お前にゃ空々寂々だ」。
「なぜえ、『ヴィクトル、アレクサンドルイチ』、わかりますワ、よく解りますワ」。
「ホ、それはおえらいな!」
「アクーリナ」は萎れた。
「なぜこのごろはそう邪慳(じゃけん)だろう?」ト頭をうなだれたままで言ッた。
「ナニこのごろは邪慳だと……?」ト何となく不平そうで「このごろ! フフムこのごろ!……」



最終更新日  2006年02月18日 21時01分38秒





<< 前へ次へ >>一覧一番上に戻る


Powered By 楽天ブログは国内最大級の無料ブログサービスです。楽天・Infoseekと連動した豊富なコンテンツや簡単アフィリエイト機能、フォトアルバムも使えます。デザインも豊富・簡単カスタマイズが可能!

Copyright (c) 1997-2012 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.