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箱庭

箱庭

2012/10/14の記事の続き

ユーラシア帝国の本質

 2012年現在、世界の人口の3分の1程度の20億人近い人口と、仏教、ロシア正教やカトリック、プロテスタント、イスラムまでありとあらゆる宗教でごった返すこの国は、憲法にあるような「宗教・思想の自由」を認めずには成立しない。それが分かっていた初代皇帝愛新覚羅溥儀は、この条項を憲法に取り込んだ上で、政教分離の原則を明確にした。この原則で皇室の中立性をより高める事に成功している。
 更には一定の自治権が各共和国、省にすでに与えられていた事もあって、1972年のドイツ、日本の再独立、国連加盟でピークに達した1960-70年代に相次いだアフリカ、アジア諸国の独立によっても動揺は少なかった(当時の皇帝溥傑の敏腕によるところもあったが)。対比される事の多い「人種のサラダボウル」と言われるアメリカ合衆国と帝国は、近くて遠い存在であると言えるだろう。今後も、愛新覚羅家の統治が続く事は当面の間確実だが、昨今の民主化の高まりの中での帝政は、いまだに危うさを秘めていると言わざるを得ない。
 ユーラシア帝国は何故超大国として40年の長きに渡って超大国に君臨していられるのか。第1の理由は、単純に保持する軍事力がかなりのものである事が挙げられる。満洲国時代から続く強力な陸軍、空軍戦力に加え、第2次世界大戦後本格的に整備が始まった海軍力でも、かなりの実力を持っている。事実、溥傑帝時代に結ばれた各種軍縮条約締結後も、アメリカと並ぶ軍事大国であり続けているのだ。特に国内でのパルチザン掃討任務の戦訓から創設された陸軍特殊部隊は、世界各地でなお活動の続くテロリストとの戦いに転戦を続けている。
 また、兵器の輸出大国でもあり、その高い技術力はアメリカと双璧を成す。満州飛行機製造社とスホーイ社が共同開発した空軍のF-27フランカー多用途戦闘機シリーズ、中東戦争で得た戦訓を元に開発された陸軍のT-100戦車、帝国初の空母であり、長らく海軍の顔を務める溥儀級原子力空母が代表格であろう。1969年に発足したNATOやその太平洋版であるPRTO(環太平洋条約機構)にも加わり、世界の安全保障に欠かせない存在となっている。
 第2の理由は、唯一核兵器を実戦で使用した国家である事だ。中国統一戦争や第2次世界大戦終盤において、惜し気もなく核兵器を撃ち続けた事は、よくも悪くも帝国の象徴として人々の記憶に留められている。かつて溥儀は放射能汚染に喘ぐ人々に対し積極的な支援を約束し、実際にやってのけた。特別手当の給付と、インフラ整備による最優先の復興がそれである。「被災地」の人々の記憶からは決して消えない傷を残したが、それを補償しようとした姿勢は一定の評価を得る一方で、批判も根強い。そして、この事実から逃れられる術はないとして、溥傑帝は核兵器の国際的な管理を積極的にアピールした。唯一の核使用国として、核兵器の管理は国連主導で行うべきだとの意見を述べたのである。
 それを提案した1973年の時点で、世界では帝国の他米英仏印の常任理事国が核兵器を持ち、スペインやスウェーデンが開発中であった。これを常任理事国を中心にした管理委員会を設ける事で、核拡散を防ごうとしたのである。常任理事国の核兵器独占は多くの批判を浴びたが、1975年にNRT(核不拡散条約)、SALT(戦略兵器制限交渉)等が同時に発効し、正式に国連戦略兵器管理委員会が発足する。この委員会は現在でも核兵器保有・開発に目を光らせ、開発中と噂のあるレバノンやアフリカ諸国を監視し続けている。
 第3に、膨大な国力を裏付けする経済、資源大国である事があるだろう。その支配下の油田には、有名なものだけでも、バクー、大慶(1967年発見)、プロエシュティ、チュメニ、そして新京がある。消費量も膨大だが、最近伸長著しい中東諸国の産油国に比して高い技術力や探索技術を駆使してオイルマネーを得ている。主な輸出先は日本、ドイツ、スウェーデン、ブルガリア、インド等で、中東諸国等と熾烈な顧客争いを演じているが、国内外へのパイプライン網を最初に展開した事で、輸送コスト面で優位に立っている。しかし、国内消費量も増大している(人口増と溥儀のインフラ整備政策に伴い、広大な地域を行き来するため自動車社会の浸透は早かった)上、古い油田では産出量も減少する等、近いうちに原油輸入国に転じる可能性も否定できない。
 原油産業が伸び悩む中で、「MADE IN EURASIA」製品は世界中で売られている。元々の膨大な工業力と労働力で大量生産を行い製品価格を抑える事が可能であった事も有利に働き、世界有数の輸出国である。その一方で、20億という巨大な消費圏を持つ帝国は今も魅力的な市場であり続けており、国内外でのビジネスは衰えるところを見せていない。
 広大な国土に様々な文化的背景を持つ帝国が示すものは、地球連邦への可能性である。帝国が50-100年といった長いスパンでその経済成長を続けられれば、地球を少数の指導者の下にまとめられるだろうという希望だ。しかし、失敗すれば大きな混乱が帝国を襲い、最悪の場合分裂するかもしれない。帝国に住む人々は今、多くの人が幸福そうな笑顔を浮かべている。しかし、その笑顔の裏には崩壊への危機感という影が隠されている。今後も、見守り続ける必要のある国であると言えるだろう。

摩耶の旅 第9回「満洲の曙」 完


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