行きはよいよい帰りは惨め(3)前のページ | ホームに戻る | 次のページ 行きはよいよい帰りは惨め(3) 行きはよいよい帰りは惨め(3) やっと着きました。着いたぞー。 バイクを押して最後の坂を上り庭先に止めました。 これからの話をどう書き綴ったらいいのか少々悩んでいます。 だって人生の思い出の中で忘れられない出来事なのですから。 心はドキドキです。誰でもそうだと思うのですが、好きになった女性の自宅を初めて訪問するときの心の昂ぶり想像してみてください。 厚かましくて、図々しい僕が慎重になりました。 彼女の名前が何回も出てくるので、仮名をつけますね。宇多田ヒカルがお気に入りなので、ひかるさんと呼ばせてもらいます。 まずはこの家が彼女の家かどうか確かめます。広い庭先を進んで玄関までいきました。 表札は確かにひかるさんの自宅でした。ほっとしました。 「ごめん下さい。」 返事がない。 「ごめん下さい。」二度目も返事がない。 あれ? 自宅に帰っているという噂を聞いていたので、在宅の可能性が高いはずなのですが留守なのでしょうか。 しばらくして縁側の方へ回ってみた。 「あっ。」人影が見えました。たしかに誰かいます。 そして、家族の方ならすぐに出てくるはずですね。 玄関から再度呼んでみました。玄関のドアは鍵がかかっていなくて、少し開くことができました。 「ひかるさん」、「ひかるさん」「たぬきです。」(もちろん本名を言いますよ) 返事はありません。 「どうして?」・・・・・・ また縁側の方へ回ってみます。そのとき玄関に人影が。 ドアを開けて「え~、こんにちは、どうしたのよ急に?」 という光景を一瞬想像しました。けれど・・・・ その人影の行動は予期せぬものでした。 スリガラス越しに見えた小柄な女性が玄関に鍵をかけたのです。 茫然自失とはこのときの自分のことです。 もう、言葉が出ません。 驚きと悲しみで涙があふれます。 「うそだろう。なんで?うそ~。まさか。」 立ちすくむ俺。 なんと言ったらいいのか? どう行動したらいいのか? 納得できないけど、どうすることもできない。 何回も声をかけました。虚しくなるばかりです。 ほんとにどうしたらいいんだ。こんなこと全然想像してなかった。 思考がまとまらなくて、錯乱状態になった。自分が分からない。 落ち着くまでに時間がどれだけ過ぎたんだろう。 バイクに乗らなくてはと思っても、すぐにはエンジンをかけることができない。 でも会えないことが確実であることは分かった。 苦労して上ってきた坂道を意気消沈して下っていった。 道路に出て家が見えなくなるときから涙がとまらない。 拭いても拭いても涙がとまらない。前が見えない。運転できない。 「なぜ?なぜなんだ。」 あれこれと理由を探してみるが、納得できない。 なんとなく、理由らしきことは想像できるのだが、それでも・・・・ 「悲しみに打ちひしがれた○○」という表現はドラマなどで見たり聞いたりしたことはあるが、まさか自分にこのとき、この場所でこの状況におこるとは想像もしなかった。 数年ぶりに訪ねた僕への冷たい仕打ち。 バイクを運転しながら涙で前が見えない状態。 このままでは事故してしまう。 そう思いながらも、なんとか北へ北へと走らせた。 何度も涙を拭きながらアクセルを回していた。 何とか塩尻峠を越えて塩尻市内へ。 この頃にはもう涙もなんとかおさまってきた。 小雨が降ってきた。 俺の気持ちを慰めてくれているのか? 松本へ続く国道は渋滞していた。 愛車のヤマハメイトは渋滞している自動車の左側をすいすいとすり抜けていく。 ある車が前の車との間を大きく空けていた。 冷静な時なら「あれ!」と思うだろうが、ひかるさんに訪問を断られた悲しみで正常な思考力はなくなっている。 それに渋滞の車で反対車線の車なんか見えない状況。 対向の右折してきた車と、 「ガァッシャーン。」 5メートルぐらい飛んだ。 初めて救急車に乗った。 Last updated 2007.10.30 23:35:18 ショックで悲しみに落ち込んでいる僕に追い打ちをかけるような事故だった。 涙で視界がはっきりと見えていない状況で運転をしてはいけませんね。 ぶつかる瞬間まで気が付かなかったので、ほとんどノーブレーキです。 勢い余って反対側車線まで飛びました。幸いにも反対側も渋滞していたので、かろうじて轢かれなくて済みましたが、危機一髪とはこのことなんでしょう。 僕の怪我は・・・・奇跡? 手足のかすり傷だけ。 当時はまだヘルメットの着用が義務ではなく、僕も着けていませんでした。 さらに手袋もしていない。普通は長距離のドライブともなると、ヘルメット、手袋を着装して運転するもんですよね。まあ、気軽に考えている愚かな若者でした。 愛車のメイトは前輪がグシャとなっています。車体全体が「くの字」で修理不能の状態。 ところが自分の体は奇跡でしょうか? おまえはまだ死んだらいかんと神様が言ってくれたのかどうか、軽傷で済みました。 このときほど柔道の受け身をありがたいと思ったことはありません。 高校、大学と柔道は得意というか、受け身は巧かったですね。 ぶつかって、5メートルほど飛んだんですが、そこで見事な前回り受け身。 頭が道路に当たることもなく、自力で起きあがれました。 「あ~あ、やっちゃった」 でも、この事故のことよりも面会拒否にあった悲しみの方が大きいので、大変な事故を起こしたなんて、深刻には思っていませんでした。 とりあえず、愛車を道ばたに避けまして、救急車を待っていました。 先に警察がきました。 事故の状況検分をしたあと、聞いてきました。 「このバイクは君のかね」 「はい」 「ナンバーは兵庫だが、学生かね?」 「いいえ、働いていますよ。」 「なんで兵庫ナンバーがここにいるの?」 「走ってきたんですよ。」 「え~!!。この原付で?兵庫から?」 「そうですよ。」 「うそだろう。こんな原付で。」 信じてもらえません。まあ、普通は考えられないよね。 「昨日出発して、名古屋で一泊して、それで今ここにいるのです。」 「え~~、兵庫からだとずいぶん距離があるよ~。」「そうですね、500kmぐらいかな」 「仕事は?」 「○○○です」 「ほんとに?」 信じられない話のようですが、僕はまじめに答えているものですから、信じるしかない。 あきれかえった顔で悩んでいましたが、他に真実はなさそうですから、やっと、信じてくれたようです。 もう一人の警官も笑っています。でも、あきれていました。 周りで話を聞いていた野次馬さんたちも笑っています。 まあ、怪我がたいしたことなくて済んだし、僕は相手を非難することもなく、 相手さんも「ほっと」していたみたい。 相手の車の方が可哀想です。とんだ災難ですね。 でも、交通法規上は過失は相手側が大きいのです。 こんな時は徐行です。対向車線側が譲ってくれたので、急いで曲がったそうですが、 運悪く前をよく見ていない(見えていない)僕のバイクとぶつかってしまった。 しばらくして救急車がきた。 いつか乗って見たいとは思っていましたから、初めての乗車はうきうきです。 「横にならなくていいですか?」「大丈夫ですよ」 病院でもまたまた、爆笑さわぎになった。 Last updated 2007.10.30 23:44:55 前のページ | ホームに戻る | 次のページ |