行きはよいよい帰りは惨め(4)前のページ | ホームに戻る | 次のページ 行きはよいよい帰りは惨め(4) 行きはよいよい帰りは惨め(4) 病院に運ばれました。交通事故の救急患者ということで早速見てもらえました。 診察台に上がって、何処が傷ついているのか調べます。 左手が手のひらを少し擦りむいています。右手は大丈夫。 肘のあたりがひりひりします。ちょっと、擦り傷でした。 ズボンを上げてみると、膝のあたりにも少々擦り傷あり。 消毒と赤チンみたいなものを塗ってくれます。 手当をしながら医者が尋ねます。 「ヘルメットもかぶらずに、自動車にぶつかって、5メートルも飛んで、それでこの程度?」 「う~ん、もう少し怪我してた方がよかったですか?」 医者は笑うし、看護婦もげらげらです。 「それで・・・、兵庫県からバイクで来たんですか?」 「そうですよ。おかしいですか?」 「普通はそんなことする人はいないよね。」 「まあ、そうでしょうねえ。」 めずらしい飛び込みの患者に看護婦たちは、ぞろぞろと集まっています。 まるで、めずらしいパンダを見にきているみたいな雰囲気です。 平日の昼過ぎのことですから、僕が何者なのかが興味あるのでしょう。 なんと、暇な病院でしょうか。平和ですねえ。 「学生さんですか?」 「いいえ、働いていますよ。」 「今日は休み?」 「ええ、休みですけど。」 「職業は?」 「○○○です。」 「え~~。」 周りは大爆笑。 看護婦さんは左手に包帯を巻きながら、 笑いすぎてきちんと巻けない状態。 そんなにおかしいかなあ。僕の心の状態を知らないから、みんな気楽に笑っている。 そりゃ、バイクがグシャとなり、飛ばされてこの程度の怪我で済んでいるのだから、 笑ってしまうのも仕方ないかもですけどね。 治療が終わって、事故の相手と事後処理について相談しました。 バイクはこっちで処分すること、保険で治療費を出し、バイクは過失割合分を保証してくれることになりました。 入院治療費はいらないし、まあ安くて済んだ事故です。 病院は塩尻駅の近くだったので、関係者たちに別れを告げて、列車で松本まで行きました。 バイクならすぐに着く距離が歩きだと時間がかかります。あんな事故にもかかわらず、事故の反省や後悔はほとんどなかった。予定が狂ったのが大きい。 もちろん彼女に会えなかった心の痛みが一番大きい。 寮には知っている友だちがまだ数人残っていたので、旧交を温めまして、懐かしい話やら、先輩達の話に花がさきました。 でも、もう一つの目的地の方が行きたいメインでしたから、残念の一言です。 電話で様子を聞くと、 「先輩、待っているんですよ。どうしたんですか。」 「事故でなあ、行けなくなった。すまん。」 「え~、こっちの交流会は盛り上がっていますよ。残念ですねえ。じゃあ、お元気で。」 後輩の元気な声を聞いて逆に意気消沈です。もう、ここに留まる理由もない。 夜行列車で帰ります。 いったい何をするために信州に来たのだろう。 目的は全て達成できなかった。虚しさだけが残った。 愛車のメイトはスクラップ。 手には包帯。 おふくろの言葉が思い出された。 「行きはバイクで帰りは汽車にはならんときよ。」 出かけるときの元気はどこにいったのか。惨めな思い出だけが残った旅だった。 ちくしょう。(悔しい時にいう捨てゼリフ。現在は死語?) これが青春だあ!! 初めての長編シリーズでした。読んでくれた皆さん、ありがとうございます。 Last updated 2007.10.31 22:51:40 前のページ | ホームに戻る | 次のページ ジャンル別一覧
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