ユージン・スミスとカメラ
えー、ライカを仕事の相棒にしている、いた、写真家は数多くいます。その中で今日は、「ユージン・スミス」のカメラにまつわる話を少々。ユージン・スミスは1918年にアメリカで生まれ、1978年に亡くなっています。第二次世界大戦中は、サイパンや硫黄島などへ戦争写真家として派遣されて活躍しました。沖縄戦での取材最中に日本軍の砲撃による爆風を受けて、2年近く闘病生活を送りました。復活後に彼は、戦争等の事象を追うルポルタージュよりも、人間性や生活そのものを取材して発表する「フォト・エッセイ」をライフ誌などで発表してきました。晩年は日本へ住み、「水俣病」の実態を世界へ向けて発表しました。ユージン・スミスの人柄を一言でいうならば、「完全主義者」でしょう。テーマに対して徹底した調査をし、撮影も徹底的で、彼の最終表現であるプリントにも徹底した表現を求めました。構図のためのクロッピングは当たり前。ネガの情報を忠実に再現するプリントではなく、ユージン・スミスが訴えたい気持ちを、過度な焼き込みや、合成をも使う表現をしていました。その結果、一般的ジャーナリズムとは違う世界に見られがちです。しかし、彼は「写真は真実が写るものではない。写真は平気で嘘をつく。しかし私が被写体と読者に対して責任も持つことで、写真が真実を語る」ということを信条にプリントを創っていました。ユージン・スミスが戦争写真家からヒューマニズムの追求へ転換したきっかけとも言える写真が「楽園へのあゆみ」でしょう。兄弟なのか小さい二人の子どもが草木のトンネルを抜けて明るい方へ歩いて行こうとする写真です。写真を見れば、画面そのものは、白と黒のみといった感じです。シルエットに近い子どもと草木、その奥の明るい草原のような場所という、極端なコントラストに仕上げています。この写真のオリジナル(この場合発表した写真という意味)と、過度な焼き込みをしていない写真を比べて見るチャンスがありました。言ってみれば、焼き込みをしていない写真は、露出は草影にピッタリ適正露出で、草木はもちろん子どもの後ろ姿の服のディテールまできっちりあります。ところが彼はそのプリントには納得せずに、発表した通りの真っ黒プリントと「楽園へのあゆみ」というタイトルで彼自身の心情を表現したのでしょう。何度か来日していましたが、日立の仕事の時にアシスタントをしていたのが、写真家の「森永純」。森永純のプリントもそれはそれは美しいファインプリントを創る暗室テクニシャンです。そのテクニックを持ってユージン・スミスのプリントをした所、何枚プリントを創ってもスミスは「OK」を出さないのです。1週間ほどかけて1枚のネガから100枚以上のプリントを創ってやっと1枚だけ「OK」が出たようです。ユージン・スミスの徹底ぶりは、凄まじいものを感じます。なにしろ、気に入らなければライフの仕事でも断るぐらいですから。というような「完全主義者」なユージン・スミスの手元にあったカメラは、ライカ。ライカこそが自分の指先となり目の延長となり、そして表現使えるカメラだったのでしょう。しかしながら、晩年の「水俣病」の写真のほとんどはライカで撮影していません。なぜでしょう。そして、なんのカメラを使ったのでしょう。ユージン・スミスが使ったカメラは、ミノルタでした。実は、水俣病の撮影で来日したスミスが持って来たのは、当然ライカ。しかし日本で盗難にあってしまったのです。スミスが困っていることを聞いたミノルタは、彼に全面協力で無償提供したカメラが「ミノルタSR」だったのです。そこはそれ、いくら無償提供されようと、完全主義者な面が強いユージン・スミス。きっと短時間の間にいろいろとテストをして、カメラにそしてレンズに納得したから提供を受けたであろうことは簡単に想像できます。そのミノルタSRですが、ユージン・スミスはなんと、全身に7台ほど担いで撮影していたそうです。7台ですよ。どんなレンズを使っていたのかまではわかりませんが、被写体のどんな一瞬すらも逃したくない、レンズ交換の時間すらもったいないと感じていたであろう彼は、1ボディ1レンズで水俣病の写真に取り組んだのでしょう。僕自身撮影の時には3台ほど使うことがありますが、とっても疲れるし、いやいや7台は無理でしょ。と思ったら、ちゃーんと首から3台、左肩に1台、右肩に2台、手に1台、ミノルタ7台を下げている写真が残っています。そしてミノルタはもちろん「ユージン・スミスが認めたカメラ」として宣伝したようです。ということで、単に写真集を眺めるのも面白いですが、写真家としての側面を知りながら写真を見るのも楽しいなぁと思っています。ユージン・スミスといえば、楽園へのあゆみ「The Walk to Paradise Garden」カントリー・ドクター「Country Doctor」助産婦「Nurse Midwife」アルバート・シュヴァイツァー「A Man of Mercy」ミナマタ「Tomoko Uemura in Her Bath」あたりは必読ですよ。「成長途中」Konica Hexar RFM-Hexanon 50mm F1.2Kodak Professional ULTRA COLOR 100UCCopyright (C) 2007 GINJI, All Rights Reserved.「大口径開放戦線」古今東西大口径レンズの開放写真が集まっている参加型ブログ(引越中)ご意見やご感想や応援は、ここからweb拍手でどうぞ