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カテゴリ:けいおん!
蛸壺屋さんの夏コミ新刊「THAT IS IT」。発売からすでに1ヶ月以上経ってしまったけど、感想を。ちなみに前作「レクイエム 5 ドリーム」の感想はコチラ。
さてさて、今作でも蛸壺屋さんの「遠慮ないランク分け」は健在である。前作では「唯、澪、律」を「天才、エリート、凡人」と3つにランク分けしたが、今回はどうか。 冒頭のシーン、放課後の校舎。「中野さんってさ、けいおん部だよね?」と聞いてくる女子。その子たちは「けいおん部の3年生4人」を、音楽的能力はさておいて、単に「美人の集団」としか捉えていない。だから当然、「中野さん」も、「ルックスがいいからけいおん部にいられるんだよね」と、ちょっぴりジェラシーを交えて聞いてくる。返答に困る「中野さん」。実際、その質問をしてきた子は、そうブサイクでもないのだ。そこそこ可愛く描かれているのだが、そこへ「私、入部ことわられた」と割り込んでくる、「どうにもブサイクな子」。 つまりここで、「中野さん」と「質問女子」と「ことわられた子」で、「美人」「そこそこ」「ブス」という、「3段分け」が炸裂している。しかも能力ではなく、ルックス。ルックスもある意味、能力のひとつではあるが、にしてもえげつない分け方である。たぶん読者は、ここで「冷徹な蛸壺屋さんワールド」に引き込まれるはずである。 そして蛸壺屋さんが怖いのは、そのランクで上位に位置する人を、「愛すべき人」としては全く描いていないことだ。 進路指導で、ふざけて「ミュージシャン」と書いたところ、担任の山中先生から「マジメに書きなさい」と怒られた律。そんな律の目の前で、唯が言ったセリフは。 「え? 私ミュージシャンて書けっていわれたよ?」 天然は怖い。天然は遠慮なく人を傷つける。天然は天然ゆえに自覚がないのがやっかいだ。さらに漫画の中の「天然」は、単にキャラクターが明るいだけじゃなく、一般人は足元にも及ばない「能力」をも持っている。 「天然」にとって、この世は「自分の家」と同じく「無法地帯」なのかもしれない。その「性格」と「能力」で、天然は善良な市民の心を、無自覚にグサグサとえぐり続ける。自分の気が済むまで。周囲の人間はたまったものじゃない。 ならどうすればいいのか。距離を置くことである。できるだけ避けて、関わらないようにするのが一番だ。けど、学校ではそう言うわけにはいかない。同じクラスや同じクラブに「天然」がいたら、それはもう「天災」だと思って、諦めるしかない。 実際に、唯と3年間同じ「けいおん部」で過ごした澪・律・紬。彼女たちは卒業後、唯とはつきあわなくなった。澪は一流会社でキャリアの道を選び、律は身の丈に合った会社で働き、紬は家の決めたレールに戻って、イギリスへ旅立った。唯は「テレビの向こうの有名人」として、想い出にする。それは極めて真っ当な選択だと思う。 しかし、その道を選ばず(選べず)、唯に影響されたままその後の人生を送ることになる梓と憂。この二人の悲惨さを描いた作品が本作である。 まず、唯の才能に憧れ、ミュージシャンという同じ道を選んだ梓は行く先々で「唯との差」を見せつけられ、自爆し、強制的にスタートに戻される人生を歩まされる。何度もリセットを繰り返し、ようやく「同人音楽」という「自分」を見つけたにも関わらず、今度は「唯の死」という、最大級の台風に見舞われ、またスタート地点に戻される。 一方、「唯の妹」という、誰よりも抗えない運命を背負っている憂は、旦那の暴力という、唯とは関係ないが、これはこれで可哀想な人生を歩み、ようやく離婚が成立し、家族3人で生きることにした。 話の最後に、そんな二人が次に選んだのは、梓は「CDショップの店員になり、唯先輩のCDやDVDを売ること」で、憂は「お姉ちゃんの著作権管理会社で働くこと」。一見、お互いにそこそこハッピーエンドぽい終わり方だが、見ようによってはものすごいバッドエンドではないか。 だって、二人とも、死んでもなお唯と関わり続ける道を選んだのだから。 蛸壺屋さんの描く本はえげつない。誰も幸せにならない。梓のあがきっぷりは前作「レクイエム 5 ドリーム」から描かれているが、実際、親はジャズミュージシャンであり、小さい頃から音楽に囲まれて育った梓は、ミュージシャンになるには恵まれた環境にあったのだろう。加えて、梓本人が努力とか苦労をいとわない、タフな人間だ。目の前に立ちふさがる困難という壁を、ひとつひとつ乗り越えていくだけの力とバイタリティを持っている。 …なのに、どうしても越えられない壁(もしくは溝)というのも、世の中には理不尽だけど存在するのだろう。生まれも育ちも本人の努力も、総動員しても越えられない「壁」が。それが梓と唯の間に存在するものだ。そして、極めて個人的な見方だが、その「壁」を、作者の蛸壺屋さんは見たことがあるのではなかろうか。もちろん、天才とそうでない人の違いだけなら、誰でもわかる。けど、その違いの正体に気づける人はなかなかいないのだ。努力して、反省して、苦労して、報われずまた努力して、それでも壊せない壁がある。澪や律や紬には、もちろん見えてない。けど、梓には多分見えている。見えているけど、壊せない壁。その「壁」を描いているから、蛸壺屋さんの本は心に響いてくるのだろう。 …そういえば、けいおん部に入ろうとして断わられた子。あの子も言うなら「壁」に断わられたんだよね。 あ、それと、蛸壺屋さんは前作のあとがきで「ラルクもミスチルも好きですよ」と言ったのだから、今作も「XーJAPANもAKB48も好きですよ」と言ってほしかったです。 【中古】DVD モーニング娘。/女に幸あれ 「モーニング娘。」の「女に幸あれ」。「ああいつかは、幸せが来るわ」とか。「ああどこかで待っててください」とか。詩の内容が蛸壺屋さんの描くあずにゃんとソックリだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010/10/02 05:51:45 PM
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