東京駅から丸の内線で大手町、そこで半蔵門線で神保駅で降りた。
そこから歩いてすぐに会場はあった。こじんまりとした学会だ。
「情動形成とその異常の脳内機構」「東大心療内科の30年」
「全般性不安障害をどう治療するか」「What seems to Be Trouble?」
「肥満と摂食障害の分子機構」と多彩だった。
アメリカおよびカナダの医療現場に端を発したEBM(Evidence Based Medicine)は、ひと言で言えば過去の疫学的(統計的)データに基づいた医療です。医師個人の経験や観察に頼らず、医療を客観的かつ体系的に捉えようというその考え方は、経済的なメリットもあって国内の医療現場でも主流となりました。しかし一方で、複雑に要因の絡み合った個人の病状を、データという画一的な基準だけで評価していいのかという意見があったことも事実です。
ここ数年、EBMに対して「NBM」(Narrative Based Medicine)という考え方が出てきました。「NBM」のNarrative(ナラティブ)は物語の意──患者さんとの対話を通じて患者さん自身が語る物語から病の背景を理解し、抱えている問題に対して全人格的なアプローチを試みようという臨床手法です。
NBMの特長としては、次のようなものが挙げられます。
(1)患者さんの語る病の体験という「物語」に耳を傾け、尊重する。
(2)患者さんにとっては、科学的な説明だけが唯一の真実ではないことを理解する。
(3)患者さんの語る物語を共有し、そこから新しい物語が創造されることを重視する。
「NBM」は、あくまでも患者さんとの1対1の対話とそこから生まれる信頼関係を重視しています。そしてこの視点は、サイエンスとしての医学と人間同士の触れあい(=アート)という2者間のギャップを埋めていくものとして期待されているのです。