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LOYAL STRAIT FLASH ♪

LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十八章三

2 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:07:28.89 ID:pM/hw1Wh0


三十八章 人 < 後編 >


川 ゚ -゚)「行くぞ!!」

ドクオから離れたクーは、待ち構える二人の元に駆けた。
速い。距離は、あっというまに消失する。

それに対して、すっと弟者が前に出た。
兄者も前に出ようとしたが、弟者はそれを手で制す。

(´<_` )「来るが良い」

言葉と同時。
弟者の姿が下方へと流れる。

その一瞬の後、横薙ぎにされた刀の刃が、しゃがんだ弟者の髪の毛を切り飛ばして抜けた。

(´<_` )「ふっ!」

しゃがんだ状態から回転するようにして、地面と水平に足を横薙ぎにする。
それは見事に、クーの足を捉えた。


5 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:09:45.69 ID:pM/hw1Wh0

川 ゚ -゚)「ぐッ……!」

ぐらり、と彼女の体勢が崩れる。
弟者は追撃として、倒れゆく彼女の脇腹を拳で突き上げようとして―――

(´<_` )「!?」

何も捉えず、上方へ抜ける。
突如。その拳と腕に深い一閃が刻まれ、弾けるように血が噴いた。

見れば、クーの左手が振るわれている。
握られた青い刀には、血糊。

(´<_` )「“フリ”か」

川 ゚ -゚)「その通りだな」

崩れていた筈の彼女の体勢が、一瞬で整えられる。
対する弟者もすぐさま立ち上がり、彼女に相対した。

眼にも止まらぬ斬撃が、連続で空を刻んだ。
斬り刻まれた空は甲高い叫び声をあげ、やがて風切り音は途切れぬ一つの音となる。
しかし響くのは、いつまで経っても風の切れる音のみ。肉を刻む音は混じらない。

弟者はほぼ完璧に刀の軌道を読んで、全ての斬撃をいなし、かわしていた。
もはや舞うように、無駄のない動きで―――しかも隙があれば、反撃すら試みている。
洗練され尽くした運動能力と戦闘経験は、無能である筈の彼をこうまでも“異能”にしていた。


9 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:12:26.41 ID:pM/hw1Wh0

だがやがて、刀の青い軌跡の中に紅が混じった。
刀をいなしている弟者の掌が、少しずつ切り刻まれているのだ。
紅は少しずつ増え、やがて床に小さな血溜まりを作る。

だがそれは、痛覚というものが存在しない弟者にとっては、何の影響もない。

そう、痛覚が存在しない。
だから彼は突然―――何の躊躇もなく、彼女の斬撃の軌道に自分の腕を差し出した。

血飛沫が舞い、刀は止まる。

川;゚ -゚)「ッ!?」

想いもしなかった事象から、彼女に生じる一瞬の停滞。
その一瞬の内に弟者は刀を跳ね上げ、彼女の手首を握り締めた。

(´<_` )「……捕まえた」

手首を思い切り引っ張り、それと入れ違えるようにして膝を突き出す。
膝は吸い込まれるように彼女の腹を抉り、鈍い音を経てた。

川;゚ -゚)「がっ!」

呻きと共に、口から血の塊が吐き出される。
しかし痛覚どころか感情すらない弟者に、容赦というものは存在しなかった。


10 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:13:25.47 ID:pM/hw1Wh0

彼女に生まれた隙に、弟者は更に拳を撃ち込む。
それは彼女の頬を強烈に捉え、更に血塊を吐き出させた。

その拳で脳が揺さぶられたのか、彼女の身体がぐらりと揺れる。
弟者は更に攻撃を加えようとして―――

(´<_` )「!」

軽いステップを踏んで、クーから離れる。
直後、轟音。彼が立っていた箇所の床を突き破って、無数の巨大な何かが現れた。

(´<_` )「これは……」

現れたそれは、鋭く尖った頂点を持つ巨大な氷筍だ。

あと一瞬遅ければ、弟者の身体は貫かれていただろう。

(´<_` )「……本気、か」

川メ゚ -゚)「あぁ」

口の中に残っていた血液を床に吐き捨てて、クーは弟者を睨みつける。
弟者はその眼光に―――背筋が凍りつくかのような感覚を覚えた。

彼女の瞳に宿っていたのは、余りにも冷酷な殺意。
見えない圧力に軋む身体を無理矢理に動かして、弟者は構える。


14 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:16:22.77 ID:pM/hw1Wh0

川メ゚ -゚)「この“力”は強力である分、使うと疲れやすくてな。
     こんなところでは、出来る事ならあまり使いたくはなかったんだが……。
     しかしお前は私が思っていたより強かった―――」

刀の刃の先端を、床に置く。
握る手には力を込め、そして一つ、深く息を吐いた。

川メ゚ -゚)「だから出し惜しみはしない。全力でいかせてもらう!!」

刀を、下から上へ振り上げる。
床に深く刀の跡が付けられ、刀の青い軌跡は上空へ抜け―――

そして一瞬。
振られた刀の延長線上―――クーと弟者を繋ぐ直線の床から、巨大な氷筍が次々と現れた。

(´<_` )「!!」

迫りくる氷筍に、弟者は身体を思い切り横に投げ出す。
それでも少し間に合わず、顔を出した氷筍に右足が深く抉られた。

(´<_` )「ぐっ……!」

それによって、弟者の体勢が崩れる。
その一瞬の間に、クーは床を蹴った。

川メ゚ -゚)「散れ!!」

一瞬で弟者との距離を詰め、青い右腕を引き絞る。
弟者の体勢は整えられていない。感情のない瞳が、細められた。


18 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:18:56.64 ID:pM/hw1Wh0

しかし。
振るわれた異形の腕は、またしても弟者を捉えられない。

異形の腕は何もない空間を引き裂いて、抜けるのみ。
一瞬の間に、弟者は眼の前から掻き消えていた。

川;゚ -゚)「!? 何!?」

視線を前に飛ばして、クーは舌打ちする。
少し離れた位置に轟音と共に着地したのは兄者―――その腕の中には、弟者だ。
その異形の足の機動性を以てして、兄者は弟者を運んだのだ。

川#゚ -゚)「兄者……!!」

( ´_ゝ`)「弟者だけで事が済むかと思ったが、流石はクー。そう簡単に終わってはくれないか」

弟者を降ろし、兄者はクーに相対する。
そしてその足が後ろに引かれると―――

( ´_ゝ`)「ならば私が終わらせよう!!」

振るわれた。
同時に発生する、疾い不可視の刃。

川メ゚ -゚)「ッ!!」

右腕を前に突き出す。
僅かに力を込めると、その空間が凍りついた。


22 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:21:12.83 ID:pM/hw1Wh0

不可視の刃と凍りついた空間は衝突し、共に破砕する。
それとほぼ同時に、クーは思い切り後ろに跳んだ。

直後。クーの目の前に何かが凄まじい速度で墜落してくる。
その何かは床に衝突し、爆音と共に砕いた床を巻き上げた。

( ´_ゝ`)「ほぅ、避けるか」

墜落してきたそれは、兄者だ。
クーは間髪置かずに刀を振るうが、しかしそれも兄者を捉えられない。

兄者はまたも遠く離れ、刀は虚しく空を斬りつけるのみ。

( ´_ゝ`)「遅いな、クー。欠伸が出そうだ」

川メ゚ -゚)「なら勝手に出すが良い。その喉を掻っ切ってやろう」

( ´_ゝ`)「のろい割に、口だけは達者だな。
      どうせお前の遅さじゃ、私の喉は掻っ切れまいよ」

川メ゚ -゚)「試してみれば良いじゃないか。どうせ試す度胸もないのだろうが、な。
     それに、確かにお前は速いが―――それがどうしたというのだ?
     お前はその速さで、何をした? 逃げているだけじゃないか。それで何を誇っている、凡愚め」

どこまでも嘲っているような笑みを、口に浮かべた。

しかし実のところ、クーの内心にあるのは必死の懇願であった。
兄者の速さは実際脅威で、その速さを以てすれば、クーは兄者にダメージすら与えられない。
そして彼が放つ風の刃でじわじわと消耗させられ、いずれは敗北するだろう。


27 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:23:59.67 ID:pM/hw1Wh0

だから彼を、近付かせねばならない。
『逃げながら徐々に削って行く』という戦い方を、彼から奪わねばならない。

だからここで彼に、この意思を悟られてしまえば……クーの戦闘は、苦しいものになる。
だが幸いにも―――

( ´_ゝ`)「……貴様」

彼は、乗ってきた。

内心の歓喜を嘲弄の笑みに変えて、クーは更に言い募る。

川メ゚ -゚)「頭に来たか? 腹を立てたか? なら、来てみろ。すぐにでも、その不健康そうな色の肌を切り刻んでやる。
     それとも、またその足で逃げるか? 良いだろう、逃がしてやるよ。
     どこまでも逃げるが良いさ、臆病な兄者。所詮お前は、私にとっては通過点に過ぎん」

( ´_ゝ`)「本当に、口だけはよく動くな。
      ……良いだろう。そこまで望むなら、殺してやろうじゃないか」

ふっと、風が踊る。
風は兄者に纏わりつくように集まり、そして小さな旋風となった。

( ´_ゝ`)「逃げる事も許さん。叩き潰してやろう」

瞬間。兄者の足元の床が爆ぜ、そして彼の姿が掻き消える。
それとほぼ同時に、クーは眼の前の空間に向かって異形の腕を振るった。

空を切る筈であったその腕は、金属音を経てて止まる。
腕が捉えた物は、振るわれた兄者の足だ。


32 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:26:18.90 ID:pM/hw1Wh0

( ´_ゝ`)「ほぅ。捉えられたか」

少しだけ驚いたかのように、片方の眉が上がる。
その表情が、突如上へと流れた。

跳んだ兄者を追うように、その足元から氷筍が迫り出してくる。
兄者は中空で足を振るい、襲いかかってきた氷筍を蹴り砕いた。

川;゚ -゚)「ッ……逃がすか!」

クーは更に、右腕の周囲に氷塊を作成。放つ。
兄者はしかしそれすらも蹴って粉砕すると―――

( ´_ゝ`)「逃げないさ」

中空からクーに向けて、風の刃を放った。

クーは舌打ちすると、襲い来る不可視の刃を右腕で粉砕。
続いて、再度氷塊を作成―――ただしその数は先ほどとは比べ物にならない。
少なくとも、足の一振りでどうこうなる数ではない。

川メ゚ -゚)「着地する前に勝負を付けさせてもらおう!」

叫んで、放つ。
作成された氷塊群は容赦なく兄者に襲いかかって―――


34 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:28:41.27 ID:pM/hw1Wh0

( ´_ゝ`)「無駄だ」

ご、という音が響いた。
直後、兄者に襲いかかっていた氷塊が何かに弾き飛ばされ、ばらばらと床に落ちてくる。

川;゚ -゚)「な―――」

( ´_ゝ`)「私の“力”は風を操る事だぞ」

言いつつ、着地。
そして軽く腕を前に突き出すと―――

川;゚ -゚)「ッ!!」

クーの身体を、密度の高い風の波が打った。
その強さに、クーは数歩、後退る。

( ´_ゝ`)「跳んだり走ったり、風の刃を生み出すだけが能じゃないさ」

川メ゚ -゚)「……なるほどな」

( ´_ゝ`)「さぁ、行くぞ。逃げてみろ、生きてみろ。それが出来るというのならな」

そして、消えた。
巻き上げられた床の破片と爆音が、彼が床を蹴ったのだという事を後から認識させる。

同時、彼女は横に跳んだ。
その一瞬の後、彼女の脇腹を掠めるようにして、草色の異形の足が空間を薙いでいく。


38 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:30:32.86 ID:pM/hw1Wh0

直撃は、避けた。―――筈だった。
しかし彼女は吹き飛ばされ、堅い床に強かに身体を打ちつける。

見えぬ圧力に弾き飛ばされ、意味が分からないと言いたげな表情を浮かべる彼女に、兄者は言い放った。

( ´_ゝ`)「私の“力”は風。言ったばかりの筈だが?」

川;゚ -゚)「……なるほどな。無駄な“力”だな」

( ´_ゝ`)「その無駄な“力”に押されてるのは誰なんだろうな?」

クーが立ち上がるのとほぼ同時、兄者は地を蹴る。
距離は一瞬にして消滅。兄者の右足が跳ね上がり、クーの右腕が空を薙いだ。

激突。鈍く低く、部屋の空気を震わせる壮絶な金属音。

純粋な力の衝突は、一瞬の停滞の後に弾け飛んだ。
クーは右半身を大きく後ろに飛ばし、兄者も彼女と同じ体勢になる。

互いに生まれた隙を、互いに逃そうとする筈がない。
クーは左手の刀を斜めに斬り上げ、兄者はそれに風の刃で対抗した。

川#゚ -゚)「はぁっ!」

咆哮。軽い音を残して、風の刃は粉砕。緩やかな風となって霧散する。
しかし太刀筋は大きくズラされ、斬り上げた刀は兄者の前髪を斬り飛ばして上方へ抜けた。


42 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:32:37.69 ID:pM/hw1Wh0

( ´,_ゝ`)「残念」

川#゚ -゚)「まだだッ!!」

踏み込み。そのまま手首を捻り、刀を唐竹割りに振り下ろす。
片腕による斬撃は、しかし十二分の速度と太刀筋を以てして、兄者に喰らいつこうと牙を剥いた。

が、しかし。

ぐらりと兄者の身体が後方に傾いたかと思えば、彼の身体がぐるりと天地逆転した。
結果、跳ね上がった足は振り下ろされた刀を直撃する。

川;゚ -゚)「ッ!?」

極限まで鍛えられた刀は、折れる事はしなかった。

しかし刀を通じて、手に痺れるような痛みが走る。
それによって、思わず刀を握る拳から力が抜けてしまい―――
そして、刀がするりと手を抜け出していく。

刀は空を鋭く貫いて、そして硬い音を立てて天井に突き刺さった。
クーは舌打ちし、兄者は嘲弄の笑みを浮かべる。

そして、猛攻が始まった。

まるで、空間を引き千切るかのような勢いで横薙ぎにされる足。
クーは体勢を低くして、間一髪でそれを回避。風で、クーの長髪が激しくはためいた。


46 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:34:53.89 ID:pM/hw1Wh0

攻撃を加える為に接近しようとして―――僥倖。そして舌打ち。
たった今攻撃を回避したばかりの筈なのに、彼女の目の前には膝が迫っていたのだ。

川;゚ -゚)「チィッ!」

まるで彼女の胸部に吸い込まれるかのように伸びた膝を、クーは右腕で防御。
しかし右腕を越えてなお伝わってきた衝撃は、彼女の呼吸を一瞬、途切れさせる。

川;゚ -゚)「――――――ッ!」

その隙に迫ろうとする兄者に向けて、右腕を構えた。
即座にその掌に冷気が集束。複数の鋭利な氷の槍へと姿を変え、兄者に放たれていく。

( ´_ゝ`)「ふん」

しかし兄者は、床を蹴る右足の一歩で完全に接近の勢いを殺し、後退。
放たれた氷槍は兄者に掠る事もなく、全て床に食い込んで止まった。

クーはすぐに呼吸を整え、兄者を見る。
後退していた兄者は、しかし床に左足が着くと、その一歩で更に床を蹴った。
―――後退していた影が、あっと言う間に眼前まで迫る。

( ´,_ゝ`)「どうやら余裕がないようだが?」

嗤いながら、直進の勢いを乗せた前蹴りを放った。
横に跳んで回避するが、しかし一瞬遅かったようだ。
僅かに掠った爪先が脇腹を抉り、内臓にダメージを残して血をぶちまけていく。


50 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:38:19.86 ID:pM/hw1Wh0

川;゚ -゚)(速い。隙が、見付からない……!)

後退しながら、いや、と脳内で否定。
隙は見付けている。しかし、それを叩く前に、兄者の速さはその隙を埋めてしまうのだ。

ならば―――

川メ゚ -゚)(……作るしかないか)

叩ける隙がないなら、作るしかない。
彼の速さを以てしても埋められない隙を。

方法はいくつかある。
何が有効かは分からない。―――虱潰しに試していくしかない。

そしてもし隙が生まれたのなら、そこにありったけの攻撃をぶち込まねばならない。
一度突いた隙は警戒され、もう中々現われてはくれない。つまり、同じ方法で隙を作るという方法は取れない。
だから、隙を突くならば、それは致命傷を与え得る攻撃でなければならない。

川メ゚ -゚)(まず―――)

接近してくる兄者に、クーは更に後退した。
出来るだけ、速く。出来るだけ、長く逃げられるよう。

( ´,_ゝ`)「! 逃げるか、クー! 良いだろう、逃げろ逃げろ!!
      しかし何時まで逃げられるかな!? 私から逃げるには、いささか遅すぎるな!!」

笑みを深めて、一際強く強く床を蹴りつける兄者。
それに対して、クーは―――


55 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:41:18.99 ID:pM/hw1Wh0

川メ゚ -゚)「確かに逃げられないな。ならば、向かって行こうか」

後退する足を、その一歩で止める。
そして次の足は後ろでなく―――前へ。

瞳は兄者の胸を睨みつけ、そこを食い荒らす為の異形の右腕は、既に引き絞ってある。

(;´_ゝ`)「ッ!?」

兄者の嘲笑が、驚愕と戦慄に取って代わった。
大きく踏み出していた為に、足は床に付いていない。―――後退は、出来ない。

対するクーは、床をしっかりと足裏で踏み締め、距離を詰めていく。
そして引き絞った右腕を撃ち伸ばそうとして―――

(;´_ゝ`)「お……おぉおおぉぉぁぁあああぁっ!!」

川;゚ -゚)「ッ!?」

突如、兄者の身体が左に吹き飛んだ。
まるで何かに殴り飛ばされたかのように。
クーの振るった右腕は脇腹を抉り取り、血煙を巻き上げて抜ける。

クーの瞳が驚愕に見開かれた。
そんな。兄者の足は、床に着いていなかった筈……と。

直後。巻き上げられた血煙が横に流れ―――
そして彼女の頬を打っていった小さな衝撃に、彼女ははっと息を呑んだ。


60 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:44:18.07 ID:pM/hw1Wh0

川;゚ -゚)「……風、だと?」

(;´,_ゝ`)「あぁ」

吹き飛んだ先、兄者はゆっくりと立ち上がる。
手で抑えた脇腹からは血が溢れ、指の間にも紅の筋が見えた。

(;´,_ゝ`)「避けようがなかったからな。仕方なく、自分の身体を吹き飛ばした。
      ダメージは少なくないが……背に腹は変えられまい。命を捨てるには、まだ惜しいからな」

咳をすると、少量の血が口から吐き出された。
それでも、兄者は笑う。まだ、自分の優位を確信しているようだ。

( ´,_ゝ`)「しかし、惜しかったなぁ? ここで仕留められていれば、まだ勝機もあったろうに。
      悔しいか? 悔しいだろうなぁ。数少ないチャンスを、逃してしまったのだからな」

川メ゚ -゚)「あぁ、悔しいな。
     だがチャンスは、自分から作るさ―――数が少ないなら、増やしてやるまでだ」

言いつつ、彼女は兄者に右腕を向ける。
兄者はそのアクションに警戒し、足を構えた。

川メ゚ -゚)(次は―――)

力を入れる。
すると、伸ばした右腕の前に、小さな水の球体が発生した。


66 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:47:08.99 ID:pM/hw1Wh0

( ´_ゝ`)「……何だ?」

不審げに眉根を寄せる兄者。
それに対し、クーが発生させた水の球はというと

( ´_ゝ`)「大きくなっている?」

徐々に徐々に、そのサイズを成長させていた。

川メ゚ -゚)「その通りだが」

( ´_ゝ`)「何を考えている。氷ならまだしも、水の球などで……」

川メ゚ -゚)「さぁな、お楽しみだ。
     だが兄者、水を舐めてると痛い目を見るぞ?
     まぁ元より、痛い目を見せてやるつもりなのだがな」

会話をする内にも、水の球はどんどんと肥大していく。
そしてやがて、そのサイズが彼女の背丈を越し―――

川 ゚ -゚)「とくと味わえ」

それが、放たれた。

( ´_ゝ`)「ふん。何を考えているかは知らんが……水程度で何が出来る」

対する兄者は、足を一振り。
その軽いアクションによって、風の刃が発生。


71 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:49:52.12 ID:pM/hw1Wh0

硬度も何もない水の球は、ド真ん中から断裂。
凄まじい勢いで水をぶち撒け、それは水のカーテンを空間に生み出した。

しかしその即席の滝を、複数の何かがぶち破って兄者に飛来する。

( ´_ゝ`)「ぬっ!?」

飛んできたそれらを、兄者はその足を以てして回避し、そして粉砕。
しかし尚も、滝を突き破って飛来するそれは続いた。

( ´_ゝ`)「なるほど、これが本命か!」

飛来してきたそれは、鋭利な氷の刃だ。
無数に飛来するそれらを、兄者は次々と捌いていく。

( ´,_ゝ`)「だが、これもダメだったようだな!」

川メ゚ -゚)「そうかな?」

ふっと、クーは両腕を広げた。
それと同時、床にぶち撒けられた水が、兄者を包む濃霧と化す。

( ´_ゝ`)「……また目晦ましか! くだらない!」

兄者は旋風を起こし、霧を散らそうと試みた。
しかしその霧は、まるで兄者に纏わりつくかのように蠢いて離れない。

兄者は舌打ちをすると、目の前の白い空間を睨みつける。


76 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:52:28.01 ID:pM/hw1Wh0

( ´_ゝ`)「……ただの霧じゃない、か?」

異常なほど濃密な霧は視界をほぼ完全に埋め尽くし、クーの姿を彼の眼から隠していた。

軽く駆けてみる。が、やはり視界は変わらない。
風を起こしても跳んでみても、霧は白く厚く、彼の世界を染め上げていた。

( ´_ゝ`)「ふむ」

呟いて、彼は足を止めた。

クーの考えている事は明確だ。
霧で視界を遮り、死角から攻撃を仕掛けること。

ならば、むやみやたらと動き回るのは得策ではない。
疲れてしまえば、そこを突かれてしまう。
ならば極力動かないようにして、攻撃を仕掛けてきた際の回避の為に、体力は残しておくべきだ。

それに、動かなくとも、攻撃を回避する自信はある。
この両足を以てすれば、クーの攻撃を視覚してからでも十分に回避出来るのだから。

そして攻撃を回避すれば、こちらのターンだ。
攻撃の方向から、奴の場所は概ね特定出来る。
そこをまるごと、この霧ごと吹き飛ばしてしまえば良い。

( ´_ゝ`)「慌てる必要はないな。……来るが良い」

そして攻め来た時が、お前の最期だ。


82 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:54:57.86 ID:pM/hw1Wh0

―――足に力を入れる事もなく、そこに佇む。
眼はどこを見るでもなく、出来る限りの広域をぼんやりと捉えていた。
無気力なその姿は、「かかってこい」という意思表示だ。

奇妙なほどの静寂が訪れる。
数分が経過しても、その静寂は破られない。
濃霧の中に動きも見られず、流石に兄者も眉根を寄せた。

( ´_ゝ`)「随分と焦らすな。集中力が途切れたところを狙うつもりか?
      つくづく卑怯者だな、クー。やることが姑息だぞ」

分かってはいたが、返って来る音はない。
ただ霧だけが、ゆらゆらと不気味に蠢いただけだった。

ゆらりゆらり、流れて行く細かい水の粒。
その流れはまるで、自分の周囲に集まって来るかのようだった。

いや、それは「ようだった」ではなく―――

( ´_ゝ`)「霧が、集束している?」

突然。まるでその言葉が引き金になったかのように。
霧の流れが高速になり、兄者に集束。そして―――彼の両足が、凍結した。

(;´_ゝ`)「!? 何!?」

慌てて動こうとするが、出来ない。
兄者の両足を包んだ分厚い氷は床とも繋がり、兄者の移動の一切を制止していた。


87 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:56:57.16 ID:pM/hw1Wh0

(;´_ゝ`)「くそ、小賢しい……! こんなもの、すぐに破壊してくれる!」

両足に力を込める。だが、やはり動く事は出来ない。
力を抜いて伸ばしきっていた足は僅かに曲げる事すら出来ず、力を込める事も許されない。

両足を、完全に封じてられていた。

「姑息な手でも何でも、勝てれば良いのさ。兄者。
 卑怯者とでも、何とでも呼ぶが良い。それでも私は前へ進む」

(;´_ゝ`)「―――チィッ!!」

手を足に向け、小規模の風の刃を発生させる。
しかしそれでも厚く硬い氷には細いヒビ程度しか入らず、風の刃は耳障りな音を経てて砕けた。

舌打ちして、もう一度手を足に向けるが―――

川メ゚ -゚)「させるものか」

いつの間に接近していたのか。
若干薄くなった霧のすぐ向こう側に、クーの影が浮かび上がった。
その手には、先ほど弾き飛ばされた刀も握られている。

(;´_ゝ`)「クソッ!!」

足に向けていた手を、影に向けた。
そして連続で風の刃が霧を切り裂いていくが―――影は風の刃を難なく砕いていく。


92 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/13(火) 23:58:56.62 ID:pM/hw1Wh0

全ての風の刃が粉砕されると、クーは兄者に暇を与えず、霧の壁を破って接近。
未だ行動を取れない兄者の頭蓋狙って、右腕を撃ち伸ばす。

だが。

「させるか」

声。同時に霧の中から腕が飛び出て、伸び行くクーの右腕の二の腕を掴んだ。
そして間髪置かずして足が払われ、彼女の身体は右腕を掴まれたまま倒れ込む。

川;゚ -゚)「ッ!?」

驚愕に息を呑みながらも、彼女はすぐに体勢を立て直して跳び退る。
直後、彼女の身体があった空間を、斬撃のような回し蹴りが薙いでいった。

(´<_` )「……良かった、間に合った」

川;゚ -゚)「弟者か……!」

クーと兄者の間、丁度兄者を護るような位置で構える弟者。
先程の戦闘で、血を幾分か失ってしまったのか、その肌はまるで周囲の霧のように白い。

だが表情に苦痛の色はない。
身体も、軋む事なく稼働している。
死ぬほどのダメージを与えぬ限り、彼はずっと最初の状態のまま戦えるのだ。

(´<_` )「焦ったよ。霧で、何も見えなくなってしまったのだからな。
      ずっと、音だけを頼りに霧の中を奔走していた」


98 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:01:19.84 ID:ZqM1Z8oR0

川;゚ -゚)「そのまま走っていれば良かったものを……」

(´<_` )「それは無理だ。兄者を失ってしまっては、私は何も出来なくなってしまう」

そこで弟者は、クーに視線を定めたまま、背後の兄者に言葉を飛ばす。

(´<_` )「さっさとその氷をどうにかしてくれ、兄者。
      ここは私が受け持つが……きっと長くは持たないぞ」

(;´_ゝ`)「……すまない、弟者。感謝する」

(´<_` )「感謝なぞいらん。急げ」

短く残し、そして弟者は駆けた。
クーは刀を弟者に向け、待ち構える。

川メ゚ -゚)「兄者が動けるようになる前に、潰させてもらう。
     ―――悪く思うな、弟者」

(´<_` )「相手の心配をするとは、余裕だな」

駆ける足、次の一歩を踏み込みにして正拳を放った。
クーはその拳を刀の腹で受け、そして横へと流す。

すかさずクーは刀を翻そうとしたが―――脇腹に走った鈍痛が、それを拒んだ。


103 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:04:19.16 ID:ZqM1Z8oR0

川;゚ -゚)「ぐっ!?」

脇腹に突き刺さっていたのは、弟者の肘。
拳を流された弟者は、咄嗟に肘を曲げて、クーの脇腹を穿ったのだ。

クーの動きが、ほんの僅かに鈍る。
その間に、弟者は畳みかけるように攻撃を繰り出した。

(´<_` )「―――ッ!」

アッパーカットの形で拳を跳ね上げる。
クーは上半身を反らす形でその拳を回避―――直後に、その腹を逆の拳が抉った。

呻きを漏らして、僅かに身体をくの字に折り曲げたクー。
その背を、弟者の後ろ回し蹴りが蹴りつける。

川;゚ -゚)「が……はっ!」

体内から空気が抜け出すような感覚。
しかし実際、口端から滴り落ちたのは空気ではなく、血液であった。

川;゚ -゚)「―――チィッ!」

身体を反らせたような状態から、旋回するようにして刀を振るう。
遠心力と速度を身に付け、空気を裂いて迫る刃は、縦に構えられた弟者の腕に深い線を刻んだ。


108 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:06:58.13 ID:ZqM1Z8oR0

(´<_` )「無駄だな。私に痛みはない。
      致命傷となる傷以外、私には意味がないよ」

弟者の言葉を聞きつつも、クーは更に刀を横薙ぎにする。
弟者はやはり、それを腕で防御。青白い肌が裂け、紅い奔流が滴り落ちた。

しかし弟者に動揺はない。
出血など、まるで気にしていないようだ。

川メ゚ -゚)(痛みがないとは言え、奴も人間。
     生存するのに必要最低限の血液が流れ出れば死ぬ筈だ。
     問題は―――)

鈍い音が響き、突如、彼女の身体が腹からくの字に折れ曲がる。
抉るような弟者の拳が、彼女の腹を捉えていた。

苦痛に一瞬、意識にモザイクがかかり、それを跳ね飛ばす。
喉の奥から這い上がってきた呻きを血液と共に吐き出して、彼女は更に刀を振るった。

川メ゚ -゚)(それまで私が耐えられるかどうかだ)

血液を枯らすのが先か、命が果てるのが先か。
妙に冷たい頭で、そう思考した。


113 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:09:09.55 ID:ZqM1Z8oR0

その時。

(´<_` )「―――刀に頼り過ぎだな」

刀を振るった腕が、ぴたりと停止した。
見れば、弟者が合わせた両手の間に、己の青い刀が挟み込まれている。

川;゚ -゚)「何だt―――」

言葉は最後まで続かない。
弟者が刀を捕らえたまま、クーの脇腹に膝をぶち込んだからだ。

体勢が少し前に崩れたところで、その顎を蹴り上げる形で逆の膝が跳ね上がる。
膝は見事にヒットし―――しかしそこで仰け反る事は許されない。
後ろに傾きかけた彼女の頭を、弟者は掴み、そして頭突きを喰らわせた。

クーは連続で襲い来る苦痛に、思わず膝を折りかけた。
しかし歯を食い縛って立ち直そうとして―――次の瞬間には、地面に倒れていた。
くるぶしに鈍痛が走っている。足を払われたのだ。

倒れた彼女に、弟者は踵を振り上げ、そして落とす。
彼女はそれを、転がる事で何とか回避。

(´<_` )「やたらしぶとい。さっさと死ね」

川;゚ -゚)「……クソッ!」

数回転の後、立ち上がろうと試みた。
しかし弟者の前蹴りが肩を捉え、吹き飛ぶ。立ち上がれない。


118 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:12:11.26 ID:ZqM1Z8oR0

舌打ちして、倒れた状態のまま刀を振るおうとする。
しかし刃を踏みつけられ、振るう事さえ許されなかった。

川;゚ -゚)「速―――」

言葉は最後まで続かず、呻きとなる。
弟者が、彼女の脇腹を蹴り飛ばした為だ。

彼女は数度転がった後、腹を抑えて苦しげに咳込んだ。
口から出る物は詰まった呼吸と、そして血液だ。

やがて咳は止み、クーは弟者を睨みつける。
苦痛に耐える為に食い縛った歯からは、低い呻きと血が滲み出ていた。

(´<_` )「速くもなるさ。お前と違って、私には余裕はないのだからな」

川;゚ -゚)「何……だと?」

(´<_` )「痛みはないが、出血量くらいは分かるさ。
      もうあまり、私は血を流せない。出血許容量が半分を切った。
      だから血を流す前に、血を流させる存在を消さねばならないのさ」

言って、弟者は倒れたクーに歩み寄ろうとする。

川;゚ -゚)「くっ!」

クーは倒れた状態のまま、右腕で床を軽く叩く。
すると弟者の足元の床が爆ぜて、幾本もの氷筍が顔を出した。


123 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:15:22.62 ID:ZqM1Z8oR0

弟者は軽く後退のステップを踏んで回避。
しかし氷筍は弟者を追うようにして、次々と床から生え出てくる。

(´<_` )「……ち。鬱陶しい」

弟者が離れていくその間に、クーは立ち上がって体勢を立て直していた。

彼女が右腕を軽く振るう。
すると無数に乱立していた氷筍が、一斉に溶解し水となった。

(´<_` )「む―――?」

弟者が眉根を寄せた、その瞬間。
それらの水が、一瞬で凍結する。

(´<_` )「!!」

咄嗟に、跳び上がって回避しようと試みた。
だが

川メ゚ -゚)「逃がすか!」

クーが右腕を軽く上げると、弟者の足を追って水が伸び上がる。
それは弟者の足に絡み付き―――そして、それも凍りついた。

(´<_` )「ちィ―――」


126 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:17:02.36 ID:ZqM1Z8oR0

川メ゚ -゚)「終わらせてもらうぞ!!」

動けぬ弟者に向けて、右腕を構えて駆ける。
そして頭を粉砕せんと、異形を振り上げて―――

背後から、硬い破砕音。
それとほぼ同時に響く、風切り音。


そして、一瞬。


川;゚ -゚)「がっ……!!」

クーの背中が斜めに深く切り裂かれ、大量の血が爆ぜた。
彼女は苦痛に表情を歪ませると、ゆっくりと前に倒れ込む。

川; - )「な……に……・?」

熱い呼吸を冷たい床に這わせて、クーは前を見やった。
弟者は冷たい無感情な瞳でクーを見下ろし―――

(´<_` )「遅い。危なかったぞ、兄者」

言葉の直後、クーの身体の横を足音が通過していく。
緑色の異形が奏でる足音は、金属質なそれだった。

( ´_ゝ`)「すまなかった。思った以上に、氷が厚く硬くてな」


130 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:20:21.89 ID:ZqM1Z8oR0

(´<_` )「そうか。まぁ、良い。間に合ってくれたのだから。
      もう少しでも遅ければ、私は殺されていたろうさ。
      この女は、私の予想よりずっと強かった」

( ´_ゝ`)「あぁ、恐ろしい人間だよ、こいつは。
      私達二人を相手にして、生き続ける―――どころか、殺しにかかってきているのだからな」

(´<_` )「……なるほど、やはりこいつは、“管理人”にとっての、最大の危険因子だな。
      ここで殺しておかねばなるまい」

( ´_ゝ`)「あぁ。そのつもりだ」

兄者が、ゆっくりと足を後ろに引く。
そして足に力を込めると、

( ´,_ゝ`)「善戦したが、これまでだ」

口元を歪めて、言った。

クーはそれを見て、悔しげに歯を噛む。

川; - )「こんなところで―――」

こんなところで、終わるわけには、いかないんだ。

やや色が薄れ、ぼやけた視界の隅に映るのは、妹や仲間達。
姉として、リーダーとして、彼らを護らねばならないのだ。
ファーザーとの約束を、護らねばならないのだ。


132 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:21:27.23 ID:ZqM1Z8oR0

ここで死んでは、全てが終わってしまう。
今までの自分達の全てが、崩れて消えて、意味を失ってしまう。
死んではならない―――

生きねば、ならない。
勝たねばならない!

( ´,_ゝ`)「死ね、クー」

引かれた足が、残像と音を残して振り抜かれた。
一瞬。発生する、サイズも速度も威力も特大の、風の刃。

それは倒れたクーの身体を微塵に引き裂こうとして―――

川# - )「ォ―――アァァアアアァアァッ!!」

咆哮と同時。彼女の前に突如現れた巨大な氷の壁に阻まれ、壁ともども砕け散った。

( ´_ゝ`)「むっ!?」

兄者はその状況に警戒し、再度足を引く。
だが

( ´_ゝ`)「!」

兄者の視界が一瞬で白に埋まった。
兄者は素早く後退。直後、彼が立っていた床に突き刺さったのは、鋭く尖った雹だった。


136 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:24:27.80 ID:ZqM1Z8oR0

( ´_ゝ`)「……何だと」

彼の世界の色は白。
吹き荒れるは突如発生した雹の嵐。

( ´_ゝ`)「―――いや、どうせまた、眼晦ましの小細工か。くだらない事を」

右手を前に突き出し、“力”を込める。
間もなく連続して発生したのは、風の塊。

それらは雹の嵐を吹き飛ばし―――

( ´_ゝ`)「む?」

その先に、クーの姿はなかった。

( ´_ゝ`)「どこに―――」

その時。背中を走った刺すような寒気に、声が喉に詰まる。
背後から、何かが見ている。いや、距離を詰めてきている。

分かっていても、振り返れない。
鋭すぎて、そして冷たすぎる背後の存在は、恐怖そのものであった。

来ている。
狙っているのは心臓。背中から、心臓を破壊しにかかるつもりだ。
しかしもう間に合わない。振り返る時間も、逃げ出す時間も与えられていない。

死ぬ―――


139 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:25:39.50 ID:ZqM1Z8oR0
 
(´<_` )「兄者!!」

声と同時。左肩を引っ張られて、身体が左に流れる。
一瞬。凄まじい速度で青の異形が、兄者の右肩を深く噛み千切って前へと抜けた。

(;´_ゝ`)「づッ……!」

痛みに表情を歪ませる兄者。
しかしその苦痛のおかげで、恐怖が幾分か薄れたようだ。

軋む脚を動かして、全力でその場から離脱する。
直後に、立っていた床が氷筍によって破壊された。

すぐに弟者もクーから離れ、兄者に並ぶ。
感情のないその瞳は鋭く細められ、全身の筋肉は既に撓められていた。

(´<_` )「……まだ動けたのか?
      背中の傷からの出血は、重大なものだった筈だが」

言って、それから気付いた。
クーの足元に、血溜りがない―――あれだけの傷が、血を吐くのを辞めている。

川#゚ -゚)「動けなくとも、私は動かねばならないんだよ。
     感情のない貴様には、分からないだろうな」

彼女の背中に走る深い傷痕。
そこから溢れ出ていた血液は既に、凝固していた。

……いや、違う。


143 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:28:18.19 ID:ZqM1Z8oR0
 
(´<_` )「……なるほど。傷口付近の血液を凍結させたのか」

川#゚ -゚)「…………………」

(´<_` )「考えたじゃないか。しかし、良いのか?
      傷口を凍結させれば、確かに出血は止まる。
      だが、そこは―――」

川#゚ -゚)「時間をかければ壊死するだろう。そんな事は分かっている。
     分かっている上で、こうしているんだ。今、戦い続ける為に。
     私は今ここで、こんなところで足を止めるわけにはいかないんだよ」

(´<_` )「……大した強さだな」

荒い息を吐くクーを見て、弟者は不思議な感覚を覚えた。
むず痒い、何かが疼くような感覚。
そして、妙な寂寥感と空虚感―――まるで自分の中に、隙間があるかのような。

この感覚を、弟者は知っている。
そしてどうにか、隙間を埋められないものかと思考している。
決して埋められない隙間を。自分には、埋め方の分からない隙間を。

抜け落ちた『感情』というピースが作り出した、どこまでも大きな隙間を。

気付けば弟者は、その薄い唇から言葉を吐き出していた。

(´<_` )「クー。お前は何故、そんなに戦える?」


147 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:31:22.09 ID:ZqM1Z8oR0
 
川#゚ -゚)「……?」

( ´_ゝ`)「弟者?」

(´<_` )「戦う必要なんてない。戦う意味すらない。
      だというのに、自身の身を痛めつけてまで戦う理由は何だ?
      何が、何の力が、お前を動かしている?」

川#゚ -゚)「復讐だ。お前達が、一番よく知っているだろう」

(´<_` )「それが分からないというのだよ。何の意味も、メリットもないじゃないか。
      復讐したところでどうなる? ファーザーは返ってこないし、ホームだって戻らない。
      どころか、復讐の為の戦いで、自身の命や仲間を失いかねないじゃないか」

( ´_ゝ`)「……おい、弟者。お前は何を―――」

(´<_` )「異能者の闘争を無視して、平和に暮らそうとは思わないのか?
      そうすればお前も仲間も、命は危険に晒されない。人としての、新たな未来も築けるだろう。
      ファーザーもそれを望んでいる、とは思わないのか? お前がそうまでして戦い続ける理由は、そこにあるのか?」

なかった筈の熱意すら感じられる、弟者の問い。
それに対して、クーは

川#゚ -゚)「くだらない。
     関係ないんだよ、そんな理屈は」

斬り捨てた。

(´<_` )「……何?」


151 : ◆tAdHw/rYVY :2008/05/14(水) 00:34:22.76 ID:ZqM1Z8oR0
 
川#゚ -゚)「分かってるさ、そんな事はな。
     あぁ、この戦いで得られるものなどないだろうな。失われていくものばかりだ。
     しかしな、それでも、この戦いに背を向ける事は出来ないんだよ」

川#゚ -゚)「そんな事をして、これからの生を過ごしたところで―――それはただの、命の浪費だ。
     私は死ぬまで『私』として生きる事は出来ないだろうし、満足のいく人生などは作れない。
     ブーンの言葉を借りるとすれば、それは『死んでいるのと同じ』だ」

(´<_` )「……意味が分からない。そんな事―――」

川#゚ -゚)「分からないだろうさ。意味なんてない。
     敢えて言うならば、これは『意地』『けじめ』……感情のないお前には、分からぬ事だ。
     何せ私でさえ、それの意味がよく分からないのだからな」

そして、動き出した。

右腕を突き出す。
同時に無数の氷塊がそこに発生。弾丸の如く発射された。

そして間髪置かず、クーは走り出す。

(´<_` )「…………………」

納得のいかない表情のまま、弟者は襲い来る氷塊の弾幕を横に回避。
直後、走り寄って来たクーを見て―――




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