第一話1 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:00:20.17 ID:nTtlDQL50「いい、ショボン。あなたは私の言うことを聞けばいいのよ。」 厳しい残暑が残る八月の熱帯夜に僕は夢を見た。ずいぶんと昔の夢。 -いやなことを思い出したな。 僕は水を一杯コップに取り、一気に飲み干した。 痛くなるほど乾いていた喉をぬるい水がそっとなでる。少し痛みが和らぐ。 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/25(金) 01:01:03.43 ID:nTtlDQL50 朝の7:30。 昔からの習慣からか僕はほとんど正確にこの時間に起きることができる。 寝巻きから私服に着替え、朝食を取り洗顔をする。毎日のその日課はもはや無意識のうちにこなすことができる。これも昔からの習慣。 (´・ω・`)「さて、いくかな。」 僕は一つの封筒をかばんに入れた。 今日は僕にとって特別な日になる。 きっと今日が、僕が生きていく上でとても大切な日となる。確信がある。 僕は確信と決意と封筒を胸に、家を発った。 3 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:02:09.12 ID:nTtlDQL50 父親は医者、母親は一等地にオフィスを構える女社長。 僕はその二人のただ一人の息子。 両親は仕事でほとんど家にいなく、物心ついたころから僕は独りだった。 寂しくなんかなかった、わけではない。でも親の愛がほしくてたまらない、というわけでもなかった。 家には家政婦が来ていたが、掃除と洗濯と僕の食事を作るとさっさと帰っていってしまった。 僕は一人で絵本を読んだ。保育園や幼稚園に行ってない僕に当然友達などいなく、独り黙々と絵本を読んだ。 5 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:06:26.98 ID:nTtlDQL50 僕は小学校に上がる。 近所の小学校に通うこととなった。 後で聞いた話、母親は本当は私立の学校に行かせたかったらしい。 だが父親が小学校は公立で、といったので僕は公立の小学校に通うことになった。 小学生の僕はとても物静かであった。しかし、必要最低限のコミュニケーションはとっていた。生きるうえでそれが重要なことだと俺は子供ながらに悟っていたからだと思う。 友人もできた。しかしそれは上辺だけの付き合い。僕は彼らのことをなんとも思っていなかった。 僕以外の生物。 きっとそういう認識だったんじゃないだろうか。 ただいつも一緒にいるだけ。 弱い部分を補い合うため。 僕はそれが行き行く上で必要なことだということを知っていた。だから僕は好きでもない連中とつるんで「遊んで」いた。 (・3・)「なーなーしょぼんの家いってあそぼうぜー」 (´・ω・`)「うん、すまない。今はとうさんもかあさんもいないんだ。だから無理」 だが僕は必要以上の干渉は避けた。事実小、中学校時代僕は誰かの家に遊びに行ったことはないし、誰かを家に招いたこともない。 6 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:07:09.00 ID:nTtlDQL50 母親はたまに家に帰ってくるといつも何かの問題集を買ってきた。中学は何が何でも私立へ行かせたいらしい。 僕はそれがたまらなく不愉快だった。 レノ’-’)レ「ショボン、あんたは私の言うことをきてればいいからね。そうすれば幸せになれるから」 それが母親の口癖だった。そして家庭教師をつけられほぼ無理やり勉強させられた。 < ヽ`∀´>「この不等式は・・・」 (´・ω・`)「x≧3」 < ;ヽ`∀´>「せ、正解ニダ」 僕は勉強ができた。きっとほかの人からすれば異常なまでに。小学校を卒業するころにはもう高校の分野の学習を終えていた。 母親は猛烈に僕に期待した。「自分の思い通り」の息子。母親はこのときすでに異常だったのかもしれない。 結局僕が小学校で身についたことといえば、整ったバイオリズムとポーカーフェイス。 僕は表では従順であったが内心は母親に対する反発と軽蔑心であふれていた。そして迎えた中学受験。 僕は名門有名私立中学を受験した。問題は楽勝、わからない問題など一つもなく受験を終えた。 7 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:12:22.25 ID:nTtlDQL50 -不合格。 母親はその結果を見、呆然としていた。過去問でいつもほぼ満点を取っていた僕がまさか落ちるとは思わなかったのだろう。 なぜ落ちたのか。その理由は僕にはわかっている。わからない問題はなかった。時間もたっぷりあったし体調が悪くそれどころでなかったわけでもない。 -白紙の答案用紙。 そう、僕は名前すら書いてないまま答案用紙を出したのだ。 レノ#’-’)レ「なんでよぉぉぉぉ!なんで私の子がおちるのよぉぉぉぉお!」 母親はヒステリックに叫び、そこらじゅうに当り散らしていた。 母親に対する静かな反抗。乱れる母親見て僕は内心ほくそえんでいた。表では「落ちて残念」という表情をしながら。 8 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:13:45.83 ID:nTtlDQL50 僕が落ちてから三日が経っても母親は納まらなかった。 久々に帰ってきた父親に理不尽に当り散らす母。 母に対する軽蔑心が膨れ上がり、同時に父親を気の毒に思った レノ#’-’)レ「あんたよぉぉぉ!あんたのせいよぉぉぉぉ!」 (`・ω・´)「おちつけ。いいかげんにしないか」 レノ#’-’)レ「うるさいわねぇぇ!あんたのせいなのよ!あんたがちゃんと・・・」 パシンッ 温厚な父親が母に手を上げた。 (`・ω・´)「いい加減にしないと ぶ ち 殺 す ぞ。ショボンはおまえのお人形さんなんかじゃないんだぞ。 お前の思い通りにいつも行くわけじゃない。ちゃんとしなければいけないのはお前のほうじゃないのか」 レノ#;-;)レ「う・・・うぅううぅ、いいわ、もうあなたとはやっていけない。離婚よ!」 9 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:16:25.92 ID:nTtlDQL50 「ってーなこのやろう、気をつけろ」 つい昔を思い出し、ボーっと歩いていたら他の通行人とぶつかってしまった。 僕は「すみません」と会釈し、またゆっくりとあるきだす。 (´・ω・`)「・・・」 僕はすこし足を止め、ここニュー即市の、一番大きなビルを見上げる。あのビルのどこかに母親の会社がある。 しばらくビルを見つめ、踵を返し僕はそのビルに背を向け歩いた。 27 名前: ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 01:48:18.16 ID:nTtlDQL50 僕が公立中学に入学する少し前に両親が離婚した。 親権は母。僕の意向などまったく無視。こうなることは予想できていた。 家を出るとき父親がこっそり「家出したくなったらいつでも来い」といってくれたのがうれしかった。 母親に嫌気が差したときの逃げ場があることに僕は安堵を感じた。 僕は父親を尊敬していた。そのとき初めて気づいた。 急に口惜しさを感じたが、いまさらどうにもならないだろう。 きっとまた母親は名門の高校へいかさせるため、僕に勉強を強要するのだろう。 うんざりだ。真っ平ごめんだ。 どんなに他の生徒より勉強が進んでいようと、やはり僕はまだ幼かったのだろう。 母の敷いたレールをことごとく破壊する。母の想像する僕でない僕になること。 それが僕本来の生き方なんだと勘違いしていた。 28 名前: ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 02:02:13.14 ID:nTtlDQL50 中学校も、小学校と同じく味気のないものだった。 しかし、「友達」には困ることはなかった。 容姿がすぐれているわけでもなく、趣味は読書と機械いじり。決して万人受けするものではないと自覚している。 しかし、僕のそばには人が集まった。 どうやら僕には人をひきつける才能があるらしい。認めたくないが、きっと母親の血だろう。 中学に入り、塾に通い始めたのだが、僕はサボってばかりだった。 ( ゚∀゚)「ショボ、今日もゲーセンいこうぜー!」 (´・ω・`)「いいね、行こうか」 ゲーセンなどくだらないところだと思っていたが、母親の提供する勉強するための空間より何倍も魅力的だ。 塾のある日、僕は上辺だけの「友達」と心満たされない「遊び」を繰り返した。 29 名前: ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 02:20:29.63 ID:nTtlDQL50 ( ゚∀゚)「なーショボンお前んちで遊ぼうぜー」 (´・ω・`)「えー今両親いないし、うん。無理なんだ」 ( ゚∀゚)「そんなん関係ねーべ。なぁ?」 ( `*´)「おー。いこうべいこうべ。」 (´・ω・`)「勘弁してくれ。ミスドおごるからさ」 僕は誰かの家に行くことと、誰かを招くことを頑なに避けていた。 そこまでのかかわりは必要ない。そう思っていた。多分それも中学生特有の幼さだったのだろう。 僕はこの関係を崩すことなく高校受験を迎える。県内トップクラスの成績を携えて。 31 名前: ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 02:31:00.36 ID:nTtlDQL50 母親はすでにいわゆる名門私立の高校、全国トップクラスの進学校の願書を出していた。 でも担任が 「彼の成績なら大丈夫でしょうが、もしものために公立もうけときましょう」といい、滑り止めとして公立高校を受けることとなった。 ―母のレールを破壊する。 ―それが僕。 今考えてみれば間違ったアイデンティティ。しかしそのころの僕の中ではそれは正義。 揺ぎ無いもの。 僕は「予定通り」滑り止めにかかるのだった。 5 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 21:13:24.52 ID:nTtlDQL50 町を歩く僕は少し足を止める。のどが渇いた。 近くの自販で冷たいお茶を買い、設置されているベンチに腰をかける。 お茶を一口のみ、一息つく。 思えばあの高校の日々が今の僕を支えてるんだと思う。 僕はベンチで一つため息をつき、高校時代に思いを馳せた。 6 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 21:14:18.74 ID:nTtlDQL50 高校受験後の母の荒れようはひどかった。泣き叫び、怒鳴り、カーテンを破いたり。 手に持っているものがあれば、例外なく放り投げられる運命をたどった。 さすがに家にいられなくなって、離婚後初めて父親のところへ行った。避難と、合格の報告のために。 (`・ω・´)「おお、そうかそうか。お前は公立の高校に行くんだな。がんばれよ。」 (´・ω・`)「うん、ありがとう」 (`・ω・´)「お前がここに来るってことは母さんは元気なようだな」 (´・ω・`)「うん。まるで台風だよ」 (`・ω・´)「ふふ、台風の原因はお前だろう?」 (´・ω・`)「・・・まあね」 そんなことを言い合い、二人で笑った。 父は突然の訪問に、驚いた様子もなく迎え入れてくれた。おそらく、予想できていたのだろう。 僕が何を考えているか。そして母がどんな状態になっているのか。 見透かされている気がして、少し恥ずかしくなった。 7 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 21:15:29.54 ID:nTtlDQL50 高校生活も小、中学校と同じく味気なくくだらないものになる。と、思っていた。 入学したてのころからやはり僕は「友達」に困ることはなかった。クラスの連中はみな僕によってくる。なぜかはわからない。だが悪い気はしない。 しかし、クラスに異質なやつらが二人いた。 一人は僕などには無関心そうに一人窓の外を眺めていた。 ('A`)「・・・・・・」 「孤独」。それをひしひしと感じさせる男。僕は僕に興味を持たぬ彼に興味を持った。 そしてもう一人 ( ^ω^)「内藤ホライゾンっていうお!ブーンってよんでお!」 一見ほかのやつらと同じようなやつと感じたが、雰囲気の感触が違った。 ほかのやつらから感じられない純粋さを持っていた。僕は彼にも興味を持った。 自分以外の人間に興味を持つのは初めてのことだった。僕は初めての好奇心に心躍らせていた。 19 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 22:16:31.71 ID:nTtlDQL50 ( ^ω^)「しょぼん、弁当一緒に食べるお!」 (´・ω・`)「はいよ」 ブーンと仲良くなるのに時間は必要なかった。 彼のほうから話しかけてくれることも多かったし、僕からも話しかけた。 考えてみると、事務的なことを抜かして誰かに自分から話しかけるのは初めてかもしれない。 彼と過ごす時間はとても不思議な感じだった。自分を意識しないでいられる。わざわざ感情と相反する表情も彼の前では使うことはめったになかった。 そんな開放的な関係は僕にとって斬新でとても楽しかった。初めて心満たされた思いだった。 しかし、必要以上に深い干渉なることに僕は少し不安を感じた。しかし、ブーンの明るさと純粋さに僕の不安は薄れて行った。 22 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 22:32:39.09 ID:nTtlDQL50 (´・ω・`)「・・・ねぇブーン、彼はなんていう名前なの?」 昼食をとり終え、僕はブーンに尋ねた。 ( ^ω^)「ああ、ドクオくんだお。」 ドクオ、と呼ばれたその男はけだるそうに窓の外を眺めていた。 僕はふと気になったことを口にしてみた。 (´・ω・`)「なんで彼はいつも独りなんだろう。しかもそれを苦にしてるようにもみえないし・・・」 ( ^ω^)「んー・・・。僕もドクオ君のことよくわからないけど・・・ひとりがすきなんじゃないかお?」 ブーンはあごを触り、ちょうど考える人のようなポーズで答えた。 ( ^ω^)「きっと、何かがあって誰かと関わりあうのがいやになったんじゃないかと思うお」 なるほど。そう考えればそうおもえる。 そこで僕にもう一つ疑問が生まれた。 24 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 22:52:49.92 ID:nTtlDQL50 (´・ω・`)「そこまでわかっていながらなぜ、ブーンはしばしばドクオ君に話しかけるんだい?」 ( ^ω^)「確かに、なんでだろうお」 ブーンはまた考える人のポーズをとった。理由なんてないことは僕にはわかっていた。しかし彼の答えを聞きたかった。きっとそれは僕に話しかけてきた理由に通ずるものだと思ったから。 しばらくして彼が口を開いた。 ( ^ω^)「独りでいるのが楽しいなんて、違うと思うお。独りじゃなきゃできないこともあると思うけど、一人じゃできないこともあると思うお。 独りより二人、二人より三人、多ければ多いほど楽しいこともあるお。それを知らずに独りが一番すきなんて思ってほしくないお。 ・・・なんて今考えてみたけどやっぱ理由らしいものなんてないお」 (´・ω・`)「・・・・プッ」 ( ;^ω^)「な、なんだお?」 (´・ω・`)「ブーンはくさい台詞が似合わないなw」 ( ;^ω^)「言うなお、自分で言って恥ずかしかったんだからお」 きっと僕はきっと初めて心から笑った。心の底から。 僕の生活にいだく閉塞感に心地よい開放的な風が吹いた気がした。 29 : ◆L2jfNrixB. :2006/08/25(金) 23:29:51.90 ID:nTtlDQL50 ( ^ω^)「ショボン、部活は何をやるお?」 (´・ω・`)「んーそうだね、弓道・・・かな。ブーンは?」 入学式を終え、僕らは1週間を過ごした。相変わらずブーンはドクオに話しかけているようだ。 僕もそのうち話しかけよう、と思ったがなかなか機会がなかった。 ( ^ω^)「僕はバスケをやるお!」 なるほど、ブーンはバスケが似合う容姿をしているな。いや、これはかんけいないか。 ( ^ω^)「弓道は地学室だからあっちだお。僕はこっちだからまたあとでお」 (´・ω・`)「うん、また後で」 この学校では、学期の初めに一斉部活会が行われる。そこで入部の手続きと先輩との対面をする。 僕は入部の手続きを済ませ、学年わけされた席に着いた。驚いたことに隣に座っていたのは ドクオだった。 ジャンル別一覧
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