第二話17 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:29:38.88 ID:YgJwQrnO0第二話 「子供」 僕はまた、あの動作を繰り返していた。開けたら閉める。長年続けてきて染み付いた行動。閉じられた黄色い扉はまた、すうっ、と砂のように溶けて消えてしまった。 そして顔を上げる。僕の目の前に広がる空間は思っていたより平凡なものだった。 茶色いフローリングの床に、ベージュ色の壁。そしてその天井には蛍光灯がぶら下がっていた。 ただ、床にはたくさんのものが散乱していた。 熊のような姿をしたぬいぐるみに、銀色にピカピカに輝く車のような模型。 雑然と積み重なった積み木に、それを囲うようかの如くに走る小さな線路とその上を走る小さな電車。 プラスチックで出来た赤い剣。そしてそれに対を成すかのような青い銃。 そこに幾つあるのか数え切れないくらいの玩具が散りばめられていた。 19 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:30:08.32 ID:YgJwQrnO0 その光景にあっけに取られていたが、僕は、ふと、腕を引っ張られる感触に気づいた。 _ ( ゚∀゚)「………」 下を見てみると、僕の背丈の半分くらいだろうか?まんまるな瞳をもった小さな子供が、僕のシャツの袖を引っ張りながら無言でこちらに微笑みかけていた。 ( ^ω^)「………え?」 突然現れた少年、と言うには幼い彼に少し驚きつつも、僕はしゃがみこみ、目線を彼に合わせてこう聞いた。 ( ^ω^)「…きみ、お名前は?おかあさんはどこだお?」 _ ( ゚∀゚)「………」 20 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:31:01.78 ID:YgJwQrnO0 しかし、彼はこちらを微笑んだまま、何も喋ろうとしない。僕は、その後も色々と質問を投げかけたが、彼は黙ったままであった。仕方が無かったので色々聞くのは諦め、こう語りかける。 ( ^ω^)「…う~ん… あっ…そうそう、僕はブーンって言うんだお」 _ ( ゚∀゚)「…ぶぅん…?」 彼は、不思議そうに首を傾けつつこう言った。 (;^ω^)「そう、ブーンだお!……やっと喋ってくれたお」 ようやく、初めて言葉を発してくれた彼を見て僕は安心した。子供の相手はなんだか疲れる。 21 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:31:33.60 ID:YgJwQrnO0 ( ゚∀゚)「…ねえ、ぶぅんおにいちゃん…あそぼ?」 (;^ω^)「…おっ?」 _ ∩ ( ゚∀゚)彡「あそぼ!あそぼ!」 彼は、左手を振り上げながらそう繰り返した。 (;^ω^)「…ちょっ!!…ちょっ…待つお!!」 彼は僕のいう事にも気にせずそのまま袖を引っ張り、部屋の中を駆け出していく。そして、彼はその一角の前でしゃがみこみ、床に手を伸ばす。そして、その手にはブリキで出来たロボットが握られていた。 22 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:32:11.66 ID:YgJwQrnO0 _ ∩ ( ゚∀゚)彡「おっぱいロボ!!おっぱいロボ!!」 そして、彼はそのロボットを持った手を上下に振りつつ、はしゃぎだす。どうやら、そのブリキで出来た物体は『おっぱいロボ』というらしい。 _ ( ゚∀゚)「おっぱいミサイル!!」 そう叫ぶと、彼はロボットの背中にある出っ張りを、カチッと押した。すると、そのロボットの二つに膨らんでいた胸部が、宙を舞う。そしてその破片はブーンの腹に、こつり、と当たった。 23 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:32:44.77 ID:YgJwQrnO0 (;^ω^)「………おっ?」 _ ( ゚∀゚)「………」 _ ( ゚∀゚)「………ウッ…ウウッ…」 _, ,_ ( `Д´)「ヤダヤダ―――ッぁwせdrftgyふじこ!!」 僕は、咄嗟の出来事に何の反応も出来なかった。何にも反応しない僕を見た彼は床に寝転がり、手足をじたばたさせて暴れ始める。なにやら叫んでいるが、その言葉は聞き取れない。その目には涙がうっすら浮かんでいるようだった。 24 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:33:18.73 ID:YgJwQrnO0 それを見て慌てた僕は、慌ててこう切り出す。 (;^ω^)「ちょっ!暴れないでお!!……イタッ!!イタタッ!」 彼にそう諭し、近づいて止めようとしても一向に泣き止まない。彼のじたばたさせた手足が体に当たって痛い。 (;^ω^)「……わっ、分かったから泣き止むお。ブーンおにいちゃんとあそぼう。ねっ?ねっ?」 _ ( ゚∀゚)「………」 そういうや否や、彼はピタリと動きを止め、こちらを見て微笑みかけていた。…まったく、この子の親の教育はどうなってるんだろうか。 25 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:33:57.95 ID:YgJwQrnO0 ( ^ω^)「がお~~っ!!かいじゅうブーンだぞ~。この街をたべつくしてやる~っ!」 _ ( ゚∀゚)「でたな~かいじゅうぶぅん!!このおっぱいロボがやっつけてやる~っ!!」 僕は両手を上に挙げ、脚をガニ股にして、ゆっくりと小さな正義の味方に歩み寄っていた。何をやってるんだ僕は。 _ ( ゚∀゚)「おっぱいパ~ンチ!!」 ( ^ω^)「ぶべらっ!!」 _ ( ゚∀゚)「おっぱいキ~ック!!」 ( ^ω^)「はべらっ!!」 _ ( ゚∀゚)「おっぱい×字拳!!」 (;^ω^)「ちょっwwwマニアックなwww…もぐらっ!!」 _ ( ゚∀゚)「とどめだ~っ!!おっぱいミサイル!!」 (;^ω^)「ぎゃああああああああ!!!や~ら~れ~た~」 26 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:34:32.81 ID:YgJwQrnO0 そう言うと僕は、へなへなと倒れこみ目を閉じた。そして片方だけ薄目で彼の方をちらっと見てみる。 _ ( ゚∀゚)「………」 彼は、まじまじと僕の顔を覗き込む。その瞳は純粋さをその目にそのまま封じ込めたように、きらきらと輝いていた。 僕は、ふと、イジワルな考えを思い浮かべた。そのまま僕は動かないようにする。 _ ( ゚∀゚)「………ぶぅん…おにいちゃん?」 ( ^ω`)「………」 それでも僕は動かない。 _ ( ゚∀゚)「…ねえ?ぶぅんおにいちゃんったら。ねえ!ねえってば!!」 ( ^ω`)「………」 彼は僕の体を激しく揺さぶる。でも、僕はそれでも応じない。 27 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:35:06.14 ID:YgJwQrnO0 ( ゚∀゚)「……ぼくのこうげきが、いたかったの!?ねえ!ぶぅんおにいちゃん!?」 ( ^ω`)「………」 彼の表情はゆっくりと曇り始める。その目には再び、キラリと光るものがあった。 これ以上はマズイか、と思った僕は、 ( ^ω^)「ブーンはふっかつのじゅもんをとなえた!!なんとブーンはいきかえった!!」 と叫び、ばっ、と立ち上がる。そして、右手を天に突き上げ、その先の人差し指だけ伸ばす。 左手は腰にやり、両足を肩幅くらいに広げポーズをとった。 ( ^ω^)「………」 _ ( ゚∀゚)「………」 28 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:35:42.19 ID:YgJwQrnO0 _, ,_ ( `Д´)「おにいちゃ~~~ん!!」 彼はそう叫ぶと僕に抱きついてきた。突然のことにびっくりしつつも、僕はゆっくりと彼を抱きかかえる。 _, ,_ ( `Д´)「ぼく、びっくりしちゃったんだから!!ぶぅんおにいちゃんがしんじゃったって!! またひとりになっちゃうんだって!!うああああああああん!!!」 ( ^ω^)「だいじょうぶだお。おにいちゃんはどこにも行かないお。 だから泣き止むんだお。男の子だお?」 僕は彼を抱く腕の力を強め、慰めるかのように答えた。 29 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:36:23.43 ID:YgJwQrnO0 暫く時が経ち、ようやく彼は落ち着いたようだ。再びブーンに屈託のない笑顔を向け、 _ ∩ ( ゚∀゚)彡「あそぼ!あそぼ!」 と先ほどのように、腕を振り上げている。 その後僕たちは、色々なおもちゃを使って遊んだ。 積み木とブロックで大きなお城を作ったり、それを誤って崩してしまい彼に怒られたり、 僕が銀色に輝く車を、彼が赤色に輝く車を使ってレースをしたり、 僕がが四つんばいになって、その上に彼を乗せ走ってみたり、 _ ∩ ( ゚∀゚)彡つ ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン と彼を背にのせて走ったり、と、思いつく限りの遊びを彼と一緒に楽しんだ。 30 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:36:55.57 ID:YgJwQrnO0 一通り遊び終えたあと、クタクタになり僕は床にへたれ込んでいた。それをよそ目に彼は、もっともっと、と服を引っ張る。この子は疲れを知らないんだろうか? (;^ω^)「ハァ…ハァ…後10分だけ…休ませてお…」 そう懇願する僕の眼に、あるものが浮かび上がる。 それは、木のようなものでできていて、その形は細長い板のようだ。しかし、その板全体は両端から中心に向かって緩やかなカーブを描くかのように曲がっている。そして、その板の中心には細長い棒のようなものが突き刺さっていた。 _ ( ゚∀゚)「…これ…なあに?」 31 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:37:31.57 ID:YgJwQrnO0 ( ^ω^)「…これは、竹とんぼっていうんだお。そうか、最近の子は知らないみたいだおね」 僕はゆっくりと上体を上げ彼の方に向きなおす。 ( ^ω^)「ちょっと貸してみるお」 そう言うのを聞くと、彼は僕の手にそれを手渡す。 ( ^ω^)「これはこうやって遊ぶものだお」 と僕は、それの棒状になっている部分を指で押さえ、そのまま両手の手のひらを合わせる。そして、その手のひらを擦り合わせ始めた。すると、それのプロペラ状になっている部分はゆっくりと回転を始めた。 32 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:38:13.28 ID:YgJwQrnO0 ( ^ω^)「これを思いっきりやると、このプロペラが飛んでいくんだお。 でも、ここでやると危ないから、お外に行って遊ぶお」 そう言うと、彼の表情は少し暗くなってしまった。少し下をうつむき、そして顔を上げて、こう呟いた。 _ ( ゚∀゚)「ぼくね…」 _ ( ゚∀゚)「おそとであそんじゃいけないんだって。ママがそういってた」 _ ( ゚∀゚)「ぼくはからだがよわいから、おそとにいくとあぶないんだって」 彼が言い終えた。でも、さっきまで僕と元気にはしゃいてたじゃないか。それに彼を見てもどこも悪そうにはとても見えない。 ( ^ω^)「だいじょうだお!!おにいちゃんが付いていってあげるお!!」 僕はそう言うと、彼の手を引っ張り立ち上がった。気がつけばベージュ色の壁には新たに茶色いドアが浮かび上がっている。迷わず僕はそのドアを開いた。 33 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:38:50.49 ID:YgJwQrnO0 目の前に広がる空間は、広大なものだった。 頭上に果てしなく広がる鮮やかなブルー。 そして、その中心でまんまるく輝くホワイト。 そして足元には、目が吸い込まれるようかの如く広がる薄いグリーン。 遠くを見れば、地平線が緩やかなカーブを描いていた。 ( ^ω^)「ここならだいじょうぶだお!!」 _ ( ゚∀゚)「………」 僕は彼の方向に振り返る。すると、彼はあんぐりと口をあけ、頭上に広がる空をぼんやりと見つめていた。 34 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:39:20.68 ID:YgJwQrnO0 ( ゚∀゚)「…すごい…すごいよ!おにいちゃん!!」 ( ^ω^)「…空は、すごくでっかいんだお。 僕が走っても走っても……決してたどり着く事が無いくらい広いんだお」 そして僕は10歩ほど足を進める。 ( ^ω^)「ここでいいかお。よし!!見てるお!!」 35 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:39:53.08 ID:YgJwQrnO0 再び、右手と左手を竹とんぼの持ち手を中心にして合わせる。そして、今度手に力をいっぱいに加え、そしてゆっくりと擦り合わせる。そのスピードが次第に速くなるとともに、プロペラの回転も激しくなる。そして思いっきり、右手を前に押し出し、左手を後ろに引いた。 そして、プロペラは、ふうっ、と彼の手を離れる。 その回転は力強く、それ自身を舞い上げていく。 次第にそれは、上に浮かぶ青の中へと溶けていった。 _ ( ゚∀゚)「うわぁ………」 溜息とも声ともつかないものが彼の口から飛び出す。その瞳は空から注ぐ光を受け、なお一層輝いていた。 36 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:40:24.78 ID:YgJwQrnO0 そのプロペラは放物線が描くと同時に力を失い、地面に吸い込まれていくように、下へと舞い降りる。僕はそれを確認するとその方向へ駆け出していった。彼も僕に続いて駆け出していく。 走り終えた頃には、地面には竹とんぼが横たわっていた。そして、僕はそれを、ひょい、と拾い上げた。 _ ( ゚∀゚)「ぼくも!!ぼくも!!」 彼は、そう言って僕を急かす。 ( ^ω^)「まあ、あわてるなお。はいだお」 そう言って僕は、彼に竹とんぼを手渡した。彼は手に取ったそれを見つめて、さらに微笑む。そして、すぐに僕と同じようにやってみるがなかなか上手くいかないようだった。 ( ^ω^)「もうすこし、肘を固定するお」 そう、僕は言い、彼の肘を手で軽く押さえ固定させる。 ( ^ω^)「そうそう、そのまま力を入れて回転させるお」 その言葉と同時に、彼は手に力を込める。そして勢いよく手のひらを離した。 37 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:41:02.31 ID:YgJwQrnO0 彼の手からプロぺラは、ふわっ、と離れる。 それは、僕がやった時よりも、力強く舞い上がる。 それと同時に少し強い風が、びゅうっ、と通り抜ける。 その風を受けたプロペラはさらに小さくなり、空に溶けていった。 暫く僕たちは無言のまま空を見つめていた。気がつけば竹とんぼはどこかに飛んでいってしまった。そして、彼は不意にこう呟いた。 38 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:41:35.92 ID:YgJwQrnO0 _ ( ゚∀゚)「…ぶぅんおにいちゃん…ありがとう」 _ ( ゚∀゚)「…いままで、だれもこんなふうにあそんでくれなかったから」 _ ( ゚∀゚)「かいじゅうごっこも、おにごっこも、かくれんぼもやったことなかった」 _ ( ゚∀゚)「おそとを、ぼくは、まどからしかみれなかったんだ」 _ ( ゚∀゚)「パパもママも、いつも、おはなしをしてくれるだけだった」 39 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:42:17.16 ID:YgJwQrnO0 _ ( ゚∀゚)「でも、おにいちゃんだけは、おそとにだしてくれて…ぼくとあそんでくれたんだ」 _ ( ;∀;)「…もっと、もっと…いっぱい、いっぱいあそびたいけど…」 そして、いつの間にか彼の声は、小さく、震えていた。驚いて彼の表情を見ると涙で溢れていた。 (;^ω^)「ちょ…ちょっと…どうしたんだお?」 _ ( ;∀;)「………ごめんね。………ぼく」 「いかなきゃいけないんだ」 40 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:43:07.51 ID:YgJwQrnO0 その瞬間、周りの時が止まる。 空に浮かぶブルーは、 その中心で白く輝く光は、 大地に広がるグリーンは、 ぴきっ。 と音を立てる。 そしてそこに生じた亀裂は、ぼろぼろ、と音を立て崩れていく。 そして周りの景色は渦を巻き始め、 ばらばらになった色の破片はその中心へと吸い込まれていく。 慌てて僕は、彼のほうを見ると、いつの間にか泣き止み、最初の時のように微笑んでいた。 しかし、直ぐにその姿は虚ろになり、周りの色に溶けていく。次第に渦はその色をも巻き込んでいく。 気がつけば僕は何かを叫んでいたが、それも周りの轟音にかき消される。そして、その渦が僕を除く全てのものを飲み込み終えようとしたとき、それは聞こえた。 42 名前:猪(過敏)[] 投稿日:2006/12/21(木) 19:43:52.38 ID:YgJwQrnO0 「おにいちゃん、ありがとう」 渦が全てのものを飲み込み終えたとき、その中心には淡い光が残っていた。それは儚く、少し息を吹きかければ消えてしまいそうだった。その光はゆらゆらと僕のほうへと向かっていく。そしてそれは僕の胸の中へと吸い込まれていき、消えてしまった。 そして、気がつけば僕は最初の真っ白な部屋に居た。 ジャンル別一覧
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