第七章6 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:16:50.79 ID:tSHjCZkI0第7章 花になったかまきり -----板長のフサギコだ。 -----お前がやっているのは和食じゃない。 -----警察だ!! 警察を呼べ!! 枕元で目覚まし時計が鳴っている。 強引に睡眠状態から覚醒状態に引き戻された脳味噌がそれを理解する前に体は先に反応しそれを止めていた。 俺の胸に顔をうずめ眠る幼い顔は・・・大丈夫。まだ眠っている。 起こさないようにそっとその頭の下から腕を引き抜きベッドを出る。左腕に軽い痺れが残ってやがった。 一回り以上年齢の離れたコイツ。初めてコイツを抱いた時抱いた感情は喜びではなく後ろめたい罪悪感。無邪気な笑顔が眩しくて心が痛んだ。 俺は自身だけでなくコイツまで道連れにしようとしているのか? 俺は・・・俺は傷つける事しか知らないかまきりだから。 そんな事を思うのは久しぶりに見たあの夢のせいか。 熱いシャワーで全身を強引に覚醒させ、冷蔵庫からミネラルウォーターを持って部屋に戻るとコイツも目を覚ましていた。 ベッドサイドに座りぼんやりしてやがる。 ( ,,゚Д゚)『もう起きたのか? もう少し寝ていて大丈夫だぞ』 (*゚ー゚)『ん・・・大丈夫。ギコ君こそまだ早いんじゃない?まだ8時だよ?』 水を一口含んで渡してやる。 ( ,,゚Д゚)『あぁ・・・。バカが一人待ってるんでな』 9 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:19:26.01 ID:tSHjCZkI0 話の発端は2日ほどさかのぼる。 ( ^ω^)『ギコさん。僕に包丁の使い方を教えてくれだお』 バカが俺にそう言ってきたのは、このバカがバカなトラブルを起こして復帰した翌日の事だった。 ドクオかツーに聞け・・・と言おうとして俺は気付く。 口下手なドクオは万事において説明が足りないようだし、 ツーに任せたら説明よりも一人勝手に話している時間の比率が遥かに多いのであろう事は容易に想像できる。 ( ,,゚Д゚)(俺も人の事言えねぇが・・・あの2人も悪いクセ治した方がいいぞゴルァ) ( ^ω^)『ショボンさんがこの店で一番包丁使いが上手いのはギコさんだって言ってたお 僕は一日も早く上手くなりたいんだお』 そんな事言われれば俺だって悪い気はしねぇが、そーゆーわけにもいかねぇ。 ( ,,゚Д゚)『だったら他人のやってるトコを見ろ。本屋で本を読め。自分で考えろ。話はそれからだ』 ( ;^ω^)『わかりましたお・・・』 そう言って肩を落としバカは立ち去っていった。 10 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:21:12.60 ID:tSHjCZkI0 (#*゚ー゚)『ちょっとギコ君!! あの言い方はないでしょ!!』 ちょっと待て。俺は間違った事言ってねぇぞ。 ここはスタッフルーム。倉庫兼休憩所兼更衣室ってトコだ。 俺を呼びつけるなり詰め寄ってきたしぃの背後ではショボンが相変わらずのしょぼくれ顔でPCをいじっている。 ( ,,゚Д゚)『あのな。困ったら他人から技術を盗む。自分で考える。それが大切なんだぞゴルァ』 俺はそうやって腕を磨いてきた。 あのバカにとっても今からそのクセをつける事は貴重な財産になるはずだ。 (#*゚ー゚)『そうかもしれないけど!! せっかくブーさんやる気出してるんだよ!! なんでそれに水を差すような言い方するのよ!!』 ただでさえギコ君悪人顔してるのに!! ちょっと傷ついたぞゴルァ。 ( ,,゚Д゚)『・・・その時は・・・あのバカの決意がそれまでの事だったって事だ』 (#*゚ー゚)『・・・・・・!! ギコ君の冷血漢!! インキンタムシ!! もう知らない!!』 しぃはそう吐き捨ててホールに戻っていった。 モニターから視線を外したショボンが溜息をつく。 (´・ω・`)『君がインキンタムシってのは初耳だが、痴話喧嘩は他所でやってくれないかな?』 ( ,,゚Д゚)『俺はインキンタムシでもなければ、痴話喧嘩でもねぇ』 (´・ω・`)『そうは言ってもね・・・せっかくうまく行きそうになってたのをフイにされちゃこっちも堪らないんだよ。 説明してくれないかな。これは料理長命令だよ』 11 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:22:43.81 ID:tSHjCZkI0 (´・ω・`)『なるほどね・・・これは難しい問題だね』 お前の顔は困ってるのか困ってないのかわからねぇぞ。 ( ,,゚Д゚)『俺は・・・こうやって腕を磨いてきた。それ以外のやり方は知らねぇんだ』 (´・ω・`)『僕だってそうさ。君はその犯罪者顔で損してる部分も大きいしね』 ( ,,゚Д゚)『・・・すごく死にたくなったぞ』 (´・ω・`)『すまない。でも、僕の先生。兄弟子。弟弟子。みんな同じ様に仕事を覚えてきたんだ 内藤君みたいなデリケートなタイプが増えたのは最近になってからさ』 ( ,,゚Д゚)『よく包丁の背で叩かれたりしたな』 (´・ω・`)『うん。僕も鍋の蓋洗い忘れて帰っただけで翌日思いっきり投げつけられたよ』 時代の流れってヤツかもしれないねぇ。 ショボンがつぶやいた。 ( ,,゚Д゚)『時代か・・・寂しいもんだな』 (´・ω・`)『そうだね。僕達も変わらなきゃいけないのかもしれない。 ただ流されるんじゃなくて自分の意思で変わるんだ。 とにかく今の問題は僕にまかせてよ。ちょっと考えがあるんだ』 任せた、とだけ言って俺は仕事に戻った。 しぃは俺と目をあわせようとしなかった。 くそ。忌々しいぞゴルァ。 12 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:25:16.86 ID:tSHjCZkI0 翌日。 ショボンの『考え』とやらが実行された。 いや、させられたと言うべきか。 その詳細については・・・俺の口からはとても言えねぇ。 とにかく俺はその日ランチタイムが始まる前に出勤した。 本来遅番の俺がこんな早い時間に来た事でスタッフは驚いていた。 ショボンの【考え】とやらの為早く呼び出されたのもあるが、 早い時間に来て自分の仕事をとっとと終わらせあのバカに少し仕事を教えてやろうかと思ったからだ。 『流されるのではなく自分の意思で』 ショボンの奴。たまにはいい事言うじゃねぇかゴルァ。 冷菜の仕込みを済まし、慌しいランチタイムを終えてから俺はしぃに昨日の事を謝りに行った。 俺が悪いとはおもわねぇが、しぃが言う事も間違っていないと思ったからだ。 しぃは終始ご機嫌。 『流石あたしのギコ君☆愛してるよっ☆』とまで小声で言ってきた。 ( ,,゚Д゚)『・・・やれやれだ』 赤面しちまうぞゴルァ。 厨房に戻るとバカを挟んでドクオとツーがなにやら騒いでいる。 ( ,,゚Д゚)『何やってんだお前ら?』 14 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:28:10.17 ID:tSHjCZkI0 (*゚∀゚)『あ、ドクオ君がブーちゃんの包丁の使い方がダメダメってんで教えてあげてるんですよっ!! それを聞いたらこのブーちゃん専属コーチも引っ込んでられませんからねっ!! 目に物見せてやりますよっ!!』 あのドクオが自発的に? コイツも変わろうとしてるのかも知れねぇな。 ツー。お前も見習いやがれ。 ( ^ω^)『おっwwwおっwwwおっwww僕ギコさんの事誤解してたみたいだおwww』 ( ,,゚Д゚)『・・・朝の事か?頼むから忘れてくれ』 ( ;^ω^)『すまんおwwwで、昨日ギコさんに言われたとおり本屋でこの本買ってきたけど全然分からないんだお』 【腐女子でも分かる包丁テクニック図鑑】と書かれた本を大事そうに抱えている。 ( ,,゚Д゚)『どれ見せてみろ。・・・うん、ダメだなこりゃ』 ( ;^ω^)『秒殺かお!!』 ( ,,゚Д゚)『飾り切りとか・・・お前にはまだ必要ないだろ。もっと初心者向けの本がいいぞゴルァ ま、ヒントをやるとしたら【時代劇】ってトコか』 それを聞いてドクオとツーはピンと来たらしい。当然だ。こいつらにも昔同じヒントやったからな。 ('A`)『それなら俺は【日本刀】ってトコで』 (*゚∀゚)『【時代劇】に【日本刀】かぁ!! ブーちゃん分かんないって顔してるねっ!! でも正解は教えないよっ!! たとえ不正解でも自分で考えるのが大切さっ!! 分からなければなんでもいいから時代劇見てごらん!! あ、あたしのお薦めは鬼平犯科帳かなっ!! 妹が時代劇大好きでさっ!! DVD全部持ってるんだっ!! 貸してあげようか!? ん~、じゃツー様から最大のヒント!! なんで包丁は長いのか、考えてごらん!! これ以上は言えないよっ!! 答えは明日までにレポート用紙3枚にまとめて提出する事!! 分かったねっ!!』 16 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:30:24.73 ID:tSHjCZkI0 翌日。 ( ^ω^)『みんな。昨日の答え・・・僕なりに考えてみたお。見てほしいお』 その言葉で俺達3人はバカの周りに集まった。 バカはまな板の上に1本の葱を置き、軽く包丁の刃元を当てた。 それをゆっくりと手前に引いていく。 ちょうど刃先の辺りで切り落とされたそれは美しい切断面を俺達に見せていた。 ( ,,゚Д゚)『正解だ。時代劇で人を切るシーンを見れば分かるが、 刃物ってのは刃の全体を使って切るのが基本なんだ。 お前は今まで刃の一部を使って叩き切るだけだった。 だが、それだと切断面を潰してしまうから仕上がりが汚い。 何より無駄な力が入るから疲れるし、包丁を自在に操れないから危険も増す。 引いて切るにしろ押して切るにしろ・・・』 ('A`)『やるじゃん』 (*゚∀゚)『やったねブーちゃん!! あたしは信じてたよ!! レポートの事はこの際許しちゃうさっ!!』 ( ^ω^)『おっwwwおっwww2人ともありがとうだおwww』 こいつら人が長々と説明してるのに聞いてやしねぇ・・・。 ( ,,゚Д゚)『ま・・・いいか』 バカ・・・いや、内藤の笑顔を見ているとそんな風に思える。 昔の俺も1つ壁を乗り越える度にあんな顔をしていたのだろうか。 時代が変わっても変わらない物がある。 俺も少し嬉しくなった。 18 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:32:18.82 ID:tSHjCZkI0 (´・ω・`)『お、来たね。待ってたよ』 仕事を終えいつもどおりバースペースに立ち寄った俺を待っていたのは いつもどおりのしょぼくれ顔だった。 ( ,,゚Д゚)『てめぇ・・・昨日のアレはなんだ?』 (´・ω・`)『うまくいったみたいじゃないか。何か問題でも?』 川 ゚ -゚)『ギコ。店中の話題独占だぞ。凄いじゃないか。是非私にも見せてくれ』 勘弁してくれ。そう言う俺の前にグラスが置かれた。 ( ,,゚Д゚)『ショボン・・・昨日あの頃の夢を見た』 (´・ω・`)『あの頃?』 ( ,,゚Д゚)『お前に初めて会った頃の夢だ』 それを聞いてショボンはグラスに視線を落とした。 川 ゚ -゚)『・・・私は席を外そうか?』 ( ,,゚Д゚)『いや、かまわねぇ。長い話じゃねぇからな』 19 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/01(月) 03:33:27.91 ID:tSHjCZkI0 (´・ω・`)『・・・後悔・・・しているのかい?』 ( ,,゚Д゚)『・・・何の事だ?』 (´・ω・`)『君を無理矢理この店に引き込んだことだよ』 ( ,,゚Д゚)『そんな事はねぇよ。むしろ感謝しているくらいだ』 (´・ω・`)『そうか・・・ありがとう』 ( ,,゚Д゚)『よせよ。礼を言うのはこっちの方だ』 俺は・・・俺は傷つける事しかできないかまきりだった。 時代遅れの骨董品だった。 でも、あいつらの笑顔を見て思った。 俺はまだ変われる。 俺にもまだまだ出来る事がある。 花になったかまきり。 ふと、そんなフレーズが頭をよぎった。 グラスに注がれた酒を一息に飲み干し、俺は席を立つ。 川 ゚ -゚)『もう帰るのか?』 ( ,,゚Д゚)『あぁ。たまにはあいつを一晩中愛してやりたいからな』 1秒でもいいから早く会いたい。 俺は愛する人の幼い顔を思い浮かべた。 |