短編52 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 01:54:32.06 ID:ajC0DBd70以上、第13章でした。 支援ありがとうございます。 以前少しお話させていただいた 【総合に投下したプロローグ的短編】を再投下する件ですが、 2時より再投下させていただきます。 実はタイミングを間違え、時空列的には 第10章 ボインキラー 当時の出来事になったり、 (*゚∀゚)の存在を全く考えていなかった為、ドクオが童貞扱いされたりしているのですが・・・。 御了解ください。 55 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:04:52.32 ID:ajC0DBd70 プロローグ 例えば異常気象。 例えば歴史的な猛暑。 その言葉を耳にするたびに 『そんな事は言われなくても分かってるんだよ!!』 と半ギレで突っ込みたくなる…そんな夏だった。 太陽熱をこれでもかと吸収したアスファルトは許しを請うように蜃気楼を揺らし、 ノラ猫ですらどこかに避難している。 そんな光景が一瞬頭に浮かんで、僕はこう思った。 ( ^ω^)『・・・外は涼しそうでいいお・・・』 OK。 君達の言いたい事はよく分かる。 もし昔の僕が君達と同じ立場に置かれたら、 1ミクロン程の躊躇もせずに黄色い救急車を呼んでいただろう。 だから、その憐れむ様な目つきはやめてくれないかな? きっと君にはカルシウムが足りないんだよ。 牛乳飲む? 小魚もあるよ? 56 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:06:07.17 ID:ajC0DBd70 落ち着いてくれたかな? うん。 僕は決して、暑さで頭のネジが蒸発してしまったわけじゃないんだ。 回りくどいのは好きじゃない。 そろそろ君の疑問に答えよう。 それはね。 今、僕が置かれた環境が無差別に殺人光線を撒き散らす太陽の下にいるよりも遥かに劣悪だから。 もっと具体的に言うと、室温45℃・湿度90%の室内を大声を出しながら走り回る。 それがこの僕。 内藤ホライゾンの仕事だから。 ( ^ω^)が料理人を目指すようです 57 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:10:47.66 ID:ajC0DBd70 新感覚中華ダイニング【婆盆家ーバーボンハウスー】 その厨房が僕の戦場だ。 本格的な中華料理を提供するおしゃれスポットとして、ここVIP市内では割と有名らしい。 『らしい』と言うのは正直な話、僕の青春がおしゃれスポットとは全く無縁だったからだ。 泣きたくなってくる。 冷房は常にフル回転している筈なのだが、室温が30℃以下になったのを見た事がない。 本気で政府関係筋の陰謀ではないかと思う。 ξ゚△゚)ξ『ご新規5名様お待ちでーす!』 あの声はツンだ。 類まれな美貌を与えられながら、人として大切な何かを取り上げられた少女。 例えるならば、羊の皮をかぶった核弾頭と言った所か。 ξ#゚△゚)ξ『聞こえてるぞピザ。オマエ後でちょっと倉庫まで来い』 ( ;^ω^)『サーセンwwwwwww』 そんな漫才をしているうちに客席は満席。 目の前のプリンターは休みなく注文伝票を吐き続ける。 その波に押し流されないよう、僕も休みなく両手を動かす。 大鍋に麺を投げ込み、茹で上がった麺を引き上げ水を切ってから丼に滑り込ませる。 麺をほぐしてから葱、煮卵、焼豚などの具をトッピング。 ここで慌てては台無しだ。 あくまで丁寧に盛り付けなくてはならない。 天使の様に繊細に。悪魔の様に大胆に。 美しい盛り付けのコツだ。 58 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:15:11.04 ID:ajC0DBd70 僕の横ではドクオが中華鍋を振って炒飯を作っている。 ('A`)『・・・・・・』 寡黙で陰気で間違いなく童貞なドクオだけれど、その料理に懸ける情熱を僕は知っている。 ξ゚△゚)ξ『類まれな調理技術を持ちながら、人として認められる最低限の顔を取り上げられた男・・・ってトコかしらね』 (´・ω・`)『例えるならば、深海魚の皮をかぶったショートケーキと言った所かな』 ( ;^ω^)『ちょwww料理長wwwいつの間にwww』 ('A`)『・・・樹海って歩いて行けるか?』 そ、それでもドクオは本当に素晴らしい料理人なんだよ。 なにせ、料理長のショボンさんから鍋を任せられるくらいだからね。 (´・ω・`)『フォロー乙』 61 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:17:40.37 ID:ajC0DBd70 15時。 嵐のランチタイムが終わると、早番の僕やドクオは休憩に入る。 休憩時間のすごし方はそれぞれだ。 冷房が効いたスタッフルーム兼倉庫で僕はパイプ椅子を並べ横になる。 ドクオはひっくり返したビールケースに腰を下ろし、くわえ煙草で雑誌を読んでいる。 料理人が煙草なんて・・・と最初は思ったが、ドクオに言わせれば ('A`)『煙草くらいでダメになる舌じゃ料理人なんてやってられねーよ』 ・・・だそうだ。 川 ゚ -゚)『2人ともお疲れだな』 ウトウトしている所に急に声をかけられ、僕は椅子から転げ落ちた。 彼女はホールマネージャー兼バーテンダーのクーさん。 僕は正直彼女が苦手だ。 決して嫌いなタイプではない。 ただ、なんて言うか・・・僕のような最底辺の人生を歩いてきた男には彼女の一直線な視線は眩しすぎるんだ。 62 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:18:22.29 ID:ajC0DBd70 ('A`)『・・・もう厨房も落ち着いたんですか?』 ドクオも仮眠を取っていたらしく、どことなくボンヤリしている。 普段に増して青白く不機嫌そうなその顔は、まるで自殺志願者だ。 それどころか、天井からロープでぶら下がっていても違和感はない。 川 ゚ -゚)『うむ。ジョルジュとギコがいるから大丈夫だろう。 それより二人とも厨房に戻らなくてもいいのか?』 そう言って指差した壁の時計は短針が7、長針が3を指していた。 ( :^ω^)(:'A`)『ちょwww寝過ごしたwww』 僕達はロッカーに放り込まれた前掛けを掴み取って厨房に駆け込んだ。 ( ,,゚Д゚)『いつまで休んでんだゴラァ!! ベトナムに行く前に戦争が終わっちまうぞ、アホ!!』 ( :^ω^)(:'A`)『軍曹wwwサーセンwww』 64 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:22:18.29 ID:ajC0DBd70 (*゚ー゚)『ありがとうございました。またお待ちしてます♪』 泥酔した客をタクシーに詰め込み、一日の業務が終わる。 早番の僕とドクオは一足早く厨房を出た。 早く帰ってシャワーを浴びたい。布団に倒れこみたい。 頭ではそう思っているのだが、12時間動き続けた体はほんのわずかでいいから休ませてくれと訴えかける。 そんな訳で、仕事を終えたスタッフはクーさんの待つバースペースで軽く飲んで帰るのが恒例になっていた。 ( ^ω^)('A`)『今日も一日お疲れさん・・・乾杯!!』 乾杯の音頭を終えるのももどかしく、僕たちは特大ジョッキに注がれたビールをのどに流し込んだ。 砂地が水を吸い込む。そんなありきたりの表現しか思いつかない。 キンキンに冷えた液体が食道を通過していくのがよく分かる。 ('∀`)『ぷはぁwwうめぇwww』 ドクオも彼なりに最高の笑顔でジョッキを傾けている。 解剖直前のUMAが諸事情により解剖を延期されたと伝えられたら、こんな笑顔になるんだろう。 ('A`)『黙れ微笑みデブ』 ( ^ω^)『うはwww僕らはいつも以心伝心www』 65 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:23:04.90 ID:ajC0DBd70 川 ゚ -゚)『全く仲が良い事で。妬けてしまうよ』 ( つω`)『・・・お?』 寝てしまっていたらしい。 僕の横ではドクオもバーカウンターに顔をうずめていびきをかいている。 幸せそうな顔で涎をたらして。キモイ。 仕事を終えたみんなもいつの間にか集まってきていて、 ギコさんはショボン料理長と真剣な顔でなにやら話し込んでいる。 新メニューの相談だろう。 何故かジョルジュさんは仁王立ちのツンの前で土下座をしていた。 ジョルジュさんも新しいデザートを発表するって言ってたけど・・・何があったんだろう。 川 ゚ -゚)『随分仕事にも慣れてきたみたいじゃないか』 クーさんが僕に氷水を差し出してきた。 ありがたくいただく。 ( ^ω^)『いや、まだまだですお。やればやるほど皆の凄さを知らされる感じですお』 川 ゚ -゚)『今はそれが分かれば十分だ』 そう言って静かに笑ったクーさんは急に真顔になって僕の目を覗き込んだ。 一転の曇りもない瞳に心の奥底まで覗かれるみたいで少し怖かった。 川 ゚ -゚)『率直な意見を聞きたい。この仕事はキツイだろう』 ( ^ω^)『決して楽ではありませんお』 66 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:23:30.45 ID:ajC0DBd70 川 ゚ -゚)『世の中にはもっと楽な仕事も沢山ある。何故君はこの店で働いてくれるんだ?』 僕は一瞬固まってしまった。 何故料理人を目指すのか? そんな事考えた事がなかったから。 40℃を超える厨房。 何重にも重ねられた火傷と切り傷。 週に一日あるかないかの休みでは体の疲れが抜ける事もなく、毎朝目を覚ますたびに体のどこかが悲鳴を上げている。 泥と汗と油にまみれたコックコート。 常に高温を保つフライヤーや、切れ味抜群の中華包丁。 人生に絶望した誰かが新興宗教の経文を唱えながら暴れだしたら、間違いなく死人が出るだろう。 そんなksmsな環境でどうして働こうと思うんだろう? もともと料理人を目指していたわけでもなかったのに。 ( ^ω^)『・・・好きなんだお』 僕の口から自然に言葉が漏れ出した。 川 ゚ -゚)『好き?』 ( ^ω^)『はいですお』 67 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:24:01.78 ID:ajC0DBd70 僕はずっと自分に言い訳をして生きてきた。 目の前の壁を避けて通る事しかしてこなかった。 そんな僕の周りには僕を鏡に映したような人しか集まらなかったし、 自分を守る為に誰かを捨てても『仕方ない』『運が悪かった』と逃げ続けた。 でも、ここにはそんなお利口さんは一人もいない。 目の前に壁があったらよじ登るか、ぶち壊すか。そんな事しか思いつかないバカばっかりだ。 ベトナム帰還兵ですら青ざめて逃げ出すような環境で-いや、だからこそ仲間を捨てようなんて考えるヤツはいない。 全力で仲間を愛する。 うん。 僕は自信を持って言える。 ( ^ω^)『はい。僕はココが・・・みんなが好きなんですお』 ココはようやく見つけた僕の生きる場所。 自分の何もかもを捧げても悔いはない。そう思える唯一の場所。 川 ゚ -゚)『そうか・・・』 川 ゚ ー゚)『ありがとう』 あんなに苦手だった筈のクーさんの笑顔を見ながら、僕は心から『綺麗だ』と思った。 ( ^ω^)『クーさん・・・綺麗だお』 気付いたら口からそんな言葉が漏れ出していた。 68 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:24:32.29 ID:ajC0DBd70 ( ;^ω^)『え・・・?お・・・?おっwwおっwww』 僕は何を言ってるんだ? これじゃまるでイケメソみたいじゃないか? せっかくいいふいんき(ry だったのに全部台無し。フラグ折りまくり。 クーさんも驚いていたが、すぐにいつもの表情に戻って・・・。 川 ゚ -゚)『ふふ・・・内藤も綺麗な目をしてい』 え? sneg? 69 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:25:07.09 ID:ajC0DBd70 ( °ω°)『モルスァ!!!!!!』 脇腹をえぐられる様な痛みに襲われ僕は椅子から転げ落ちた。 ξ#^ー^)ξ『良い雰囲気の所邪魔しちゃったかしら?』 硬く握られた拳を見て、僕は自身の身に起きた災難の原因を知った。 ( ;^ω^)『な・・・なぜ・・・?』 ξ#゚△゚)ξ『うるさいわね!!起きたんなら早く帰るわよ!!』 ( ;^ω^)『帰りたいんなら一人で勝手に帰』 ξ#゚△゚)ξ『レディにこんな夜遅く一人で歩けって言うの!?』 あぁ、こうなったらツンはテコでもパワーショベルでも動かない。 諦めて帰ろう・・・と思う前に僕は首根っこを?まれて引きづられていた。 ( ;^ω^)『お疲れ様でしただお』 川 ;゚ -゚)『あぁ。お疲れ様』 僕が最後に見たのは呆然としながらグラスに琥珀色の液体を注ぎ込むクーさんの姿だった。 川 ;゚ ー゚)『やれやれ』 70 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:25:48.78 ID:ajC0DBd70 ξ#゚△゚)ξ『全く。レディを待たせるなんて最低ね』 20m程僕を引きづってからようやく解放したツンは何やら文句を言いながらガニマタで歩き出した。 ξ#゚△゚)ξ『早く来なさいよ!!』 はいはいお嬢様。 ダッシュで追いつき横に並んで歩き出す。 キモオタ歴=童貞歴=年齢の僕に爽やかトークができる筈もなく、無言のまま時間が過ぎる。 あとちょっとでツンの住むマンションに着く頃、急に足を止めたツンが口を開いた。 ξ゚-゚)ξ『ねぇ。さっきチラッと耳に入っちゃったんだけど・・・どうして内藤はバーボンハウスで働いているの?』 上目づかいで見つめるのは反則だと思う。 そう言えば外見だけなら天下無敵なんだよなぁ。 天は二物を与えずとはよく言ったもんだ。 ( ^ω^)『好きだからだお』 今なら躊躇せず言える。 微塵の嘘もない。 その証拠にツンの真っ直ぐな視線を逸らさずにツンの目を見つめる事だってできるじゃないか。 71 名前: ◆RDnvhIU7bw [sage] 投稿日:2007/01/15(月) 02:26:12.31 ID:ajC0DBd70 ξ゚-゚)ξ『・・・・・・』 ξ////)ξ しばらくそんな状態でいたら突然ツンがポップコーンが弾けるように真っ赤になった。 ξ////)ξ『わ、私の家ここだから』 そう叫んでマンションのエントランスに駆け込み・・・振り返った。 ξ゚△゚)ξ『内藤!!』 ( ^ω^)『お?』 ξ^ー^)ξ『また明日ね』 それだけ言ってまた駆けていく。 ツンがあのテンションの時は次の日怖いんだよなぁ。 ( ^ω^)『やれやれだお』 僕はそう呟いて思いっきり背筋を伸ばした。 夏の夜空に大きな満月が浮かんでいた。 完 ジャンル別一覧
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