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LOYAL STRAIT FLASH ♪

LOYAL STRAIT FLASH ♪

第十五章

5 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/25(木) 23:47:05.52 ID:8GeQtqWk0


     第15章 僕の右手


僕がバーボンハウスに入社してから1年半が過ぎた。
失敗と反省ばかりの毎日だけど、ようやく少しずつ自分を客観的に見れるようになってきたと言うか…。
自分の事だけじゃなくて、周囲の仲間の事やお店の事を考えられるようになった。
自分でも何を言っているのか分からないけどそんな感じだ。

( ;^ω^)『それにしても…これは痛いおwww』

つい先日。
ちょっと暇だったんで過去のブログを読み返してみたんだ。
そしたら、そこに書いてあったのが

【天才料理人の華々しいデビュー】

【この僕に皿洗いなんかさせるほうが間違ってる】

【バーテンダーのお姉さんはエロカワイイ】

そんな暴言の羅列。

( ;^ω^)『これじゃ、レスつかない筈だお』

本気で料理人を目指している人から見たら腹立たしい事この上ない駄文。
荒らされなかっただけ幸せかもしれない。


7 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/25(木) 23:49:28.03 ID:8GeQtqWk0
最近はすっかりツンやクーさんに振り回されて
2・3日に一度更新するかしないかのペースになってしまっているけど、
僕はそれでもブログ更新だけは続けてきた。
仕事の事だけを書き連ねた日記みたいになってるけど、
読み返せば自分の勉強にもなるし、着実に進歩の跡が見て取れるのは気分がいい。
同業さんからのアドバイスや『あるあるwww』の声も嬉しくて、
更新はサボってもコメントだけは目を通すのが僕の日課になっていた。

              僕の右手
     
     これを読んでくれている同業さんなら分かると思うけど、
     料理人の手って言うのは決して綺麗なもんじゃない。
     
     それは衛生的なものじゃなくて、
     火傷・切り傷・皸などがいたる所にあるからだ。
     
     治り掛けの傷の上に新たな傷がつき、瘡蓋に瘡蓋が重なる。
     最初はそれを疎ましく感じていた。
     
     でも最近では朝起きてから傷だらけの右手を眺めるのが











8 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/25(木) 23:52:14.72 ID:8GeQtqWk0
( ;^ω^)『…ってあれ?』

と、そこで僕はタイピングのの手を休め自分の両手をまじまじを見つめる。
僕の利き腕、つまり包丁を持つ手は右手だ。
左手に切り傷がつくのは理解る。
なぜ、右手にまで切り傷が大量についているんだろう?

( ;^ω^)『こいつはミステリー不思議発見だお』

そう言えば、ギコさんやドクオの右手も傷だらけだった気がする。
ツーさんも昨日『包丁で切った』とかって騒ぎながら右手にバンドエイド貼ってたっけ。

なんで?
どうして?
Why?

この謎は究明しなくてはならない。
いや、 む し ろ こ の ネ タ は も っ と 引 っ 張 れ る は ず だ 。

そう考えた僕は更新を取りやめ、テキストに書き途中の文章を保存した。

( ^ω^)(今日も更新できなかったお。読者さんごめんなさい)

PCの電源を落とし布団に潜りこむまでは律儀にそんな事を考えていたけど、
枕元に放り投げられていた『魔女っ子ツンデレ☆くそみそトイレット』
のページをめくりだした頃には、すっかりそんな事は忘れてしまっていた。


9 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/25(木) 23:54:36.30 ID:8GeQtqWk0
諸君 私は女性が好きだ

諸君 私は女性が好きだ

諸君 私は女性が大好きだ


二次元が好きだ 三次元が好きだ 年下が好きだ 年上が好きだ
バニーが好きだ チャイナ服が好きだ ゴスロリが好きだ メイド服が好きだ スク水が好きだ

PC内で 街道で エロ本で 学校で 洞窟で 電車で 海岸で 山小屋で 地下室で 脳内で

この地上に存在する ありとあらゆる萌える女性が大好きだ


…とまぁ、僕は【萌え】に関しては達人。
あらゆる局面に対応できるオールラウンダーな自信があった。
しかし、今日僕は自分がまだまだ浅墓だった事を思い知らされる。

川 ゚ -゚) 『…? 何をブツブツ言ってるんだ内藤』

( *^ω^)『なんでもありませんおw』

今僕はクーさんと年末限定メニューの発注について話し合っている。
クーさんは出勤したばかりでまだ私服。
さらに書類を見る時限定で銀縁の眼鏡まで着用している。

つまり。

 ゴ ス ロ リ メ イ ド 服 メ ガ ネ っ 子 な 年 上 の お 姉 さ ま 萌 え 。

10 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/25(木) 23:56:42.26 ID:8GeQtqWk0
川 ゚ -゚) 『…なにやら悪寒がするのだが…暖房が弱いのかな』

( ^ω^)『気のせいですお』

そんな会話を挟みながら計画を進める。
少し離れた料理長専用デスクでノートパソコンをいじっているショボンさんは
会話に混じれず寂しそうだが全く気にしない。

川 ゚ -゚) 『でな、内藤の考えた忘年会向けのコース料理は悪くないと思う』

( ^ω^)『ありがとうございますだお』

川 ゚ -゚) 『だが、コストパフォーマンスを考えると若干厳しいな。 
     食材仕入れ値が販売価格の40%と言うのは少し高すぎるだろう』

( ^ω^)『でも、これ以上食材を抑えると価格に見合った料理は作れませんお。
      だったら販売価格を上げてほしいですお』

川 ゚ -゚) 『それは出来ない。
     2時間飲み放題コースで5000円を越えてしまうと周辺の他店と比べても
     ずいぶん割高になってしまう。
     客が他店に流れてしまっては意味がないだろう』

( ;^ω^)『確かに…』

クーさんは細い指先でずり下がったメガネをクイッと持ち上げる。
まさか料理人になってまで販売コストやらで数学の技術を使うとは全く想像していなかった。
難しいもんだ。

12 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/25(木) 23:58:44.76 ID:8GeQtqWk0
川 ゚ -゚) 『そこでだ。これらの食材を使ってコストパフォーマンスに優れた料理を勧めてみてほしい』

( ^ω^)『それは僕も考えましたお』

12月は飲食店にとって大切な時期だ。
サラリーマンはボーナスが入って懐が潤っているし、
忘年会やクリスマスなどのイベントも控えている。

( ^ω^)『でもクリスマス限定ラーメンはもう考えてあるし、忘年会の客層には今回のコース料理。
      カップルにはジョルジュさんがケーキを焼くって言ってたから…』

川 ゚ -゚) 『ターゲットになる客層がいないと言う事か…』

その通りだ。
ただいたずらにフェアを開催するのは簡単だけど、それでは集客につながらない。
ターゲットにする客層を絞込みアピールして初めて結果につながるのだ。
クーさんはしばらく指を唇に当てて考え込んでいたけど、

川 ゚ -゚) 『それでは、中華まんというのはどうだ?』

やがて口を開いた。

15 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/26(金) 00:07:50.81 ID:CWRlad7X0
( ^ω^)『…中華まんですかお?』

中華まん自体は作るのは大して難しくない。
だけど、例えばラーメンと中華まんのセットで…って薦めても好評とは思えない。
客足が止まるアイドルタイムにお茶とセットで販売する手段もあるけど、
もともと客数が少ない時間にフェアを開催しても効果が出ないのは明らかだった。

川 ゚ -゚) 『うむ。アイドルタイムのフェアは何度も痛い目を見ているからな。
     わたしがターゲットにしたい客層は所謂【食事を終えた客】。
     つまり、テイクアウト商品としてアピールしてはどうかと思う』


( ^ω^)『テイクアウト客狙い…』

僕の頭の中でパズルが組み立てあげられるようにアイディアが固まっていく。
確かにテイクアウト狙いなら、忘年会を終えたサラリーマンのお土産にぴったりだろう。
それどころか、軽く食事を終えたカップルや部活帰りの高校生、一般主婦までターゲットに出来る。

( ^ω^)『流石はクーさん!! エプロンドレスは伊達じゃないおwww』

川 ゚ ー゚) 『これは私服だから伊達なのだが…内藤の役に立てて嬉しいよ。
     これも愛の力だな』

( ^ω^)『凄いおwww超愛してるおwww』

川 ////) 『なっ…超愛…っておま…本気にするぞ…』




17 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/26(金) 00:10:59.62 ID:CWRlad7X0
…と、そこに。
赤面するクーさんの背後に鬼の姿。

ξ゚△゚)ξ 『もう話は終わったかしら?』

その声に『ひゃうん』とか反応するクーさんと、その横に腰を下ろし足を組むツン。

川#゚ -゚) 『何をしにきた? わたしたちは大事な12月の販促会議中だ。
     邪魔はしないでもらいたいな』

そう言いながら眼鏡をはずす。
あぁ、もったいない。

ξ゚△゚)ξ 『あら? あたしもショボンさんに言われてホール代表として
     12月の販促計画に参加しなきゃいけないんだけど。
     なにか問題あるかしら?』

そのツンの言葉にクーさんはギロリとノートパソコンの陰に隠れるショボンさんをにらみつける。

川 ゚ -゚) 『…どういう事だ?』

(´・ω・`)『し、仕方ないじゃないか!! 僕だって命は惜しい…』

あっさりと白状するショボンさん。

川 ゚ -゚) 『貴様あとで肉片にしてくれるわ』

ξ゚△゚)ξ 『話の流れは分かってくれた? じゃ、ホールからの販促案を発表するわよ』

ツンが満足げに笑いながら言った。

19 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/26(金) 00:13:54.94 ID:CWRlad7X0
 ξ゚△゚)ξ 『12月の販促案として…ホールではサンタコスに挑戦しようと思います』

( *^ω^)『ミニスカサンタ萌えだおwww』

川 ゚ -゚) 『内藤、鼻の下を伸ばすな。そんなに見たければ私がいくらでも着てやる』

ξ゚△゚)ξ 『年増のサンタコスなんて誰も興味ないと思うけど?
      とまぁ、それは置いといて。 ターゲットはそこでだらしない顔してるような男どもね。
      お店の前でチラシ配れば宣伝効果が期待できると思うわ』

コホンとわざとらしい咳をしてツンが続ける。

ξ゚△゚)ξ 『ってわけで、ホール人数分の衣装代が必要なんだけど』

川 ゚ -゚) 『だが断る』

( ^ω^)『ちょwww即答www』

川 ゚ -゚) 『そんなものに経費を使っていては幾らあっても足りないではないか。
     そもそもサンタコスなど一人一枚は持っていて当然。故に新たに買う必要はないだろう』

一家に一枚サンタコス。






( ^ω^)゚△゚)ξ ´・ω・`)『あるあr…ねーよwww』

22 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/26(金) 00:17:20.30 ID:CWRlad7X0
(´・ω・`)『お茶が入ったよ』

結局、衣装代はクーさんの眼光の効果があったおかげか
ショボンさんのポケットマネーから算出される事になった。

(´・ω・`)『この業界ボーナスは1月だし、今の時期の出費は痛いなぁ』

とか言っていたけど総員スルー。
休憩がてら雑談を開始した。

ξ゚△゚)ξ 『…でね、しぃったらギコ君が独立したら自分もついていくんだって言うもんだからお父さん大慌てでさ』

どこから出したのか謎の固焼きせんべいを食べながらツンが言う。

(´・ω・`)『まぁ、料理人なら自分の店を持ちたいって思うのは当然かもしれないけどね』

( ^ω^)『ショボンさん、そのコメントちょっとずれてますおwww』

言いながら僕もせんべいに手を伸ばす。

ξ゚△゚)ξ 『やっぱり内藤も将来は自分のお店を持ちたいの?』

川 ゚ -゚) 『それも悪くないかもな。 そして内藤の横にはわたしが…』

ξ#゚△゚)ξ 『死ね。氏ねじゃなくて死ね』

僕の夢か…。
今はギコさんやショボンさんのような一流の料理人になることしか考えられない。
そしてその先は…。


25 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/26(金) 00:19:04.26 ID:CWRlad7X0
 ( ^ω^)『まだよく分からないお。独立するかもしれないし、ずっとバーボンで働くかもしれないお。 
      …料理人をやめるって選択肢はないと思うけど、
      いつかはギコさんやショボンさんを越えて…世界一の料理人になれたら最高だと思うお』

僕はわざとニヤニヤ笑いながら言う。
そうでもしないと恥ずかしいからだ。
でも、これは僕の本心。
将来どうなるか分からないけど、ずっとこの世界を歩き続けていつかは世界一になれたらと思う。

ξ゚△゚)ξ 『世界一か…ずいぶん大きく出たわね』

( ^ω^)『茶化さないでくれだおwww』

(´・ω・`)『僕なんかまだまだ若造の域を出ていないつもりだけどね。
      そこまで言ってくれるのは嬉しいよ』

お茶をすする。

(´・ω・`)『でも、これだけは分かってほしいんだけど…この業界に【世界一】なんてゴールは存在しないと思うんだ』

その顔は珍しく真剣なものに見えた。


26 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/26(金) 00:20:07.72 ID:CWRlad7X0
(´・ω・`)『考えてみてほしい。【世界一の料理人】ってなんだい?』

( ;^ω^)『そ…それは…』

(´・ω・`)『世界一の売り上げを誇るレストランのシェフなら世界一なのかい?
      世界一上手に炒飯を作れたら世界一なのかい? 
      僕はそうは思わない。
      何故なら、そんな料理人でも更なる高みを目指しているから。
      逆に言えばそこで慢心してしまう料理人はすでに料理人ではないとすら言えるだろうね』

ξ;゚△゚)ξ 『それじゃ、永遠にゴールなんて見えないじゃない』

(´・ω・`)『うん、そうだよ。
      例え一つの目標にたどり着いてもそこは次の目標へのスタート地点に過ぎない。 
      僕らはそんな世界の住人なんだ
      それに気付いた時、初めて道が開けるといっても過言ではない』

そう言ってショボンさんは再度お茶を口に含む。

( ;^ω^)『終わりがない事を知るのが始まりの終わり…って感じかお』

(´・ω・`)『そんな感じかな』

ショボンさんの言葉は僕にとって少なからずショックだった。
【世界一の料理人】
それは僕にとって漠然としていたけど最終目標だったから。





27 名前: ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2007/01/26(金) 00:21:24.66 ID:CWRlad7X0
川 ゚ -゚) 『内藤、そんなに落ち込むことはないぞ』

肩を落とす僕に話しかけてきたのはクーさんだ。

川 ゚ -゚) 『確かに【世界一の料理人】の定義は曖昧かもしれない。
     しかし、それは世界中の料理人が持つ目標の数だけゴールがあると言う事でもある』

( ´ω`)『…?』

川 ゚ -゚) 『ゴールがないなら走り続ければいいではないか。
     好きな世界で好きなだけ走り続けられる幸せを感じればいいではないか』

(´・ω・`)『そうだね。それも一つのゴールかt』

川 ゚ -゚) 『ショボンすまない、少し黙れ。
     いいか、内藤。少なくともこの店に来てくれるお客様は他の店よりもこの店を選んでくれているんだ。
     お前はそれに答える義務がある。
     食事を楽しんでいただくお客様が【この店は世界一美味しい】。 
     そう思っていただければ、それはそのお客様にとってお前が【世界一の料理人】であるという事だ』

光を閉じ込めた水晶の様な瞳で僕を見つめクーさんは話す。

そうだ。正体不明のナンバー1より、誰か一人の為のオンリー1でいいじゃないか。
その誰かが誰になるのか。
僕にはまだ分からない。
それでも、僕のこの右手を捧げるに相応しい誰かのために。

( ^ω^)『もっともっと腕を磨かないといけないお』

僕はそう思った。     


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