四章169 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:35:30.64 ID:v9ppjQdP0四章 異能者 (´・ω・`)「じゃあ、まずは異能者の特性について話そうか」 やや町外れの豪邸。 そのミーティングルームで、ショボンは話し始めた。 アレから、僕はショボンの家に連れて行かれた。 家に着く頃には、夕焼けはすでに沈み始めていた。 ショボンの家はかなりの豪邸で、一人で住むには広すぎる空間だった。 部屋を見せてもらった限りでは、ショボンはその空間を余りなく使い込んでる様だが。 ショボンは「話は夜遅くまで続くと思うんだ。だから泊まっていきなよ」と言った。 だからカーチャンには「友達の家に泊まる」と電話しておいた。 ドクオやジョルジュ、ギコの家に泊まるって事は少なくなかったから、不自然じゃないはず。 ホワイトボードを背に、ショボンは顎に手を当てながら話す。 どこか呑気なその顔に、その仕草が何だか良く似合った。 170 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:36:42.83 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「異能者とはどんな物かは、もう分かってるね?」 ( ^ω^)「お。人間にはない“力”を持った人の事だお。っつーかテレビとか学校とかで基本の事は聞いてるお」 (´・ω・`)「うん。じゃあ基礎の説明は省くとして、まずは……そうだな、異能者の共振について話そうかな」 共振? どっかで聞いた憶えが……。 ( ^ω^)「共振。……お!プギャ-がそんな事を言ってたお!異能者は共振しあう、だとか」 (´・ω・`)「そう。異能者は、他の異能者が近くにいる事を察知出来る」 (;^ω^)「便利だおね……・って……どうやってだお?」 (´・ω・`)「痺れるんだよ。それは自身の“力”のある箇所……ブーン君だったら足が、ね。 その痺れは、他の異能者が近ければ近いほど強くなる。それこそ、まるで呼び合う様に」 ( ^ω^)「お、だから足にあんな痺れが……」 そう呟くと、僕は自分の足を見やる。 あの耐えがたい痛みを思い出して、寒気がした。 171 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:38:41.40 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「そうなんだ。そしてもう一つ」 ( ^ω^)「お?」 (´・ω・`)「“力”が覚醒していない異能者……眠っている異能者がいるよね?」 ……僕とかの事かな。 「僕の事だ」と言わない所からすると、そういう人はいっぱいいるのだろう。 ( ^ω^)「お」 (´・ω・`)「彼らは“力”が覚醒している異能者が近くに寄る事で“力”が覚醒する事がある」 ( ^ω^)「お?」 (´・ω・`)「さっき言った“痺れ”が刺激になっているんだと思う。 ちなみに、その時に体の具合が悪くなる時もあるよ。その理由は分からない。 そして、“解放”と念じれば異能者としての力が目覚める、とね。 それg」 ( ^ω^)「それが今回の僕、だお?」 (´・ω・`)「……正解」 そう言うと、ショボンは柔らかく微笑んだ。 173 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:40:09.52 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「じゃあ異能者のもう一つの特性だ」 ( ^ω^)「お?」 (´・ω・`)「これは複雑でも何でもないよ。この上なく理解しやすい。 異能者はね、目覚めた時点で普通の人間よりも優れた身体になるんだ」 (;^ω^)「……お?具体的に頼むお」 (´・ω・`)「異能者として覚醒した時点で、全身の筋力や細胞が活性化する。 そして、少しだけ五感が強くなるんだ。 細胞が活性化する事によって傷は早く治るし、体の耐久力が上がった事で、死にづらくなる」 ( ^ω^)「そ、そうなのかお?」 (´・ω・`)「まぁ。と言っても、そんなめきめきと強くなってるわけじゃないから、はしゃがないように」 それからショボンは、一度、天を仰ぐ。 何かを考えているのか、目は閉じている。 そして、顔を降ろすのと同時に目を開けた。 174 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:41:27.85 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「それで、異能者についての話はもうこれでほとんど終わりなんだ。 あとは異能者に気を付ける事ーって事以外は、あと三つしかない」 ( ^ω^)「あと三つ……?」 (´・ω・`)「うん」 そう言うと、ショボンは一息置いて話し始めた。 (´・ω・`)「じゃあまず、それの一つ目。異能者の“力”の範囲は、一段階だけ広げられるんだ」 そう言って、ショボンは自分の膝の辺りを指差す。 (´・ω・`)「さっき見た限りじゃ、君の“力”の範囲は膝までだったね」 ( ^ω^)「お、多分そうだお」 (´・ω・`)「君はその気になれば、その範囲を足の付け根まで伸ばす事が出来るんだ」 そう言うと、ショボンは膝を差していた指を、脚の付け根まで持ってくる。 (´・ω・`)「“力”の範囲を広大すれば、“力”は劇的に強くなる。“力”を解放したわけだからね。 破壊力はもちろんの事、“力”に関する全ての物が強化されるんだ」 ( ^ω^)「だったら今すぐにでm」 (´・ω・`)「ダメだ」 即答された。 いや、何でだよ。 175 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:43:31.58 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「強い“力”を出せるという事は、その分体力も余計に使う。 それに、覚醒した“力”は操る事が出来ないと暴走するんだ」 (;^ω^)「ぼ……暴走?」 (´・ω・`)「うん。自分の意志に従ってくれなくなったりする。 しかも、広大した範囲は狭められないから、そうなった場合そこの箇所は使えなくなる」 ( ^ω^)「……何だかすごく大事な事な気がするお。もうちょっと詳しく」 (´・ω・`)「良い心がけだね。 じゃあまず“力”の扱いについて。 “力”は使っている内に慣れて、使い勝手が利くようになる。 だけど、“力”を解放すると、慣れたやり方じゃ使い勝手は利かないようになる」 ( ^ω^)「何でだお?」 176 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:45:14.79 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「分かりやすく例えるのなら、バスケットのボールかな。 五号球をどんなに上手く扱えようとも、重さの違う六号球は簡単には扱えない」 ( ^ω^)「おっおっお。分かったお」 (´・ω・`)「そして五号の軽いボールでさえも扱いきれない人は、六号のボールを扱えない。 ボールだったら何とかなるかもしれないけど、異能者の“力”はどうしようもないからね」 ( ^ω^)「だから暴走する、と」 (´・ω・`)「イエス。力は計画的に広げましょう」 何だか一つ目から重大な話を持ち出してきたな。 動かなくなる、だと? 怖いな、それ。 いや、僕は戦う気はないから関係ないか。 177 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:46:18.14 ID:v9ppjQdP0 ( ^ω^)「あと二つは何だお?」 (´・ω・`)「うん……じゃあ、異能者の“力”の種類について、かな」 ( ^ω^)「詳しく」 (´・ω・`)「異能者は大きく分けてニ種類いるんだ。念動強化型と、肉体強化型」 (;^ω^)「……お?」 (´・ω・`)「要するに、体を変化させるタイプか、それ以外か、かな」 ( ^ω^)「……まぁ分かったお」 (´・ω・`)「例を挙げてみようか。 念動強化型はサイコキネシスとかパイロキネシスとか、僕みたいなテレパシー。 まとめて言うのなら“精神の力”。 肉体強化型はブーン君とかプギャーとか、身体の構造を変えて強化する“肉体の力”。 ま、どっちにせよ多様だよ、異能者は」 ( ^ω^)「最後すげぇ投げやりじゃね?」 (´・ω・`)「気のせい気のせい。じゃあちょっともう少し深い所を話すよ」 179 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:48:04.80 ID:v9ppjQdP0 ( ^ω^)「お」 (´・ω・`)「異能者の“力”は、みんな均等になるようになっていてね。 例えば念動強化型の異能者は、両足・または両手に“力”が宿る事はないんだよ。 また、ブーン君みたいに純粋な“力”以外にも何か能力があったら、片足か片腕にしか“力”は宿らない」 (;^ω^)「……お?」 (´・ω・`)「あー、分かりにくかったかな。じゃあ、そうだな。 異能者の全ての“力”を十としよう。ブーン君はその十の内全ての“力”が足に行っている。 でも、念動強化型の異能者や感覚強化の異能者は違う。 その十の内のいくつかをそっちにやっちゃってるんだよ」 ( ^ω^)「お、だから片足か片手にしか“力”が宿らないと?」 (´・ω・`)「そう言う事。ま、たまに念動強化や感覚強化の方に十全てを送ってる奴もいるけどね」 (;^ω^)「分からなくなりそうだけど……・ま……良いお。最後の一つは?」 180 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:50:13.43 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「敵について」 その言葉に、自分の心が揺れた事が分かった。 “敵” 敵だぞ。 敵って、戦う相手の事だぞ。 僕の、敵。 イコール、僕が戦うって事じゃね? (´・ω・`)「あんまり重く捕らえないで良いよ。あるとしたらコイツらが敵になるってだけだから。 基本的にはほとんど関わりのない組織のはずだよ」 ショボンはそう言うが、僕は不安を拭いきれない。 何故なら、あのプギャ-は。 おそらく、敵で。 そして、どこかの「組織」の一員なのだから。 181 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:52:11.80 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「異能者のいる組織は二つ。一つは異能者を集めて、異能者以外の“人間”を奴隷にしようとしている組織。 人間に恨みを抱いてたり、自分の力を誇示したい奴等のいる組織かな。 おそらくプギャーはそこの組織の一員だよ。そこは異能者を集めなきゃいけないから」 (;^ω^)「集めるって……異能者がいっぱいいるのかお?」 (´・ω・`)「いや、あんまりいないんじゃないかな。異能者なんてそんな集まる物じゃないはずだ。 それに何より、そんな組織に参加しようとする奴なんてほとんどいないよ」 (;^ω^)「…………………」 (´・ω・`)「さっきも言ったように、あまり気にしなくて良いよ、この組織は。 別にこっちから手を出さない限りは、そこまでしつこくないはずだ。 誰か異能者を組織に入れようとして、組織の誰かが死んだってのじゃ意味がないだろう」 ( ^ω^)「気にしなくても良いのかお。……ん? こ の 組 織 は ?」 (´・ω・`)「そうそう。もう一つひどい組織があるんだよ。厄介だよー」 (;^ω^)「ど、どんな組織だお?」 182 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:53:17.16 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「異能者をことごとく消そうとする組織」 ……は? (;^ω^)「……でも、そこの組織の人間は……」 (´・ω・`)「そう、異能者だ。だからタチが悪い。 そこは「異能者さえいなくなれば世界は平和なんだ」という想いの元に行動する。 だからもう君はその組織に狙われかねない。 「異能者である事」。それだけが、その組織が異能者を殺す理由なんだ」 背筋に冷たい物が走る。 そんな理由で人を殺せる人達がいるのか。 (´・ω・`)「でもまぁ、その組織も人数は少ないからね。見付かる事はまずないと思うよ」 (;^ω^)「……それを望むお」 183 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:54:30.87 ID:v9ppjQdP0 (´・ω・`)「うん、じゃあ話は終わり…………あ、いや。もう一つあったよ、ごめんね」 ( ^ω^)「お?」 (´・ω・`)「いや、ね。 さっき「覚醒していない異能者」について話したよね? 異能者が近くに寄ったら覚醒する可能性があるってさ」 ( ^ω^)「お。それがどうかしたかお?」 (´・ω・`)「君の周りで、それが起こる可能性がある」 (;^ω^)「いや、え、は?何を?」 (´・ω・`)「何故なら、君はもう既に“覚醒”してしまっている“異能者”だからね」 そ、そうか。 そうだ。その可能性があったか……! (´・ω・`)「それでね、そういう人達がいたら、僕の所に連れて来て欲しい。 君みたいに混乱するだろうし、教えなきゃいけない事もあるからね」 ( ^ω^)「……お、分かったお」 (´・ω・`)「よし。OK。 じゃあ今度こそ話は終わりだ」 ショボンはそう言うと、ミーティングルームから足早に出て行った。 僕もそれを追う。 184 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:56:09.40 ID:v9ppjQdP0 それからショボンはグ-ッと背伸びした。 (´・ω・`)「……んー。今日は疲れたね。そろそろ寝ようか」 僕はまだまだ元気だと思ったが、その言葉を聞くとどっと疲れを感じた。 考えてみれば、今日は精神的にも肉体的にも疲れているはずなんだ、僕は。 携帯を開く。 時間は、夜の九時を示していた。 ( ^ω^)「……そうさせてもらうと嬉しいお」 (´・ω・`)「うん。じゃあ悪いけど、君はリビングのソファで寝てもらえるかな? 背もたれを倒せばベッドになるタイプのソファだから、それで良いと思うんだ」 ( ^ω^)「全然構わないお」 (´・ω・`)「良かった。 よし、じゃあ僕は二階の自室で寝てるよ。じゃあ、また明日」 そう言うと、ショボンは階段を上がっていった。 僕はさきほど案内されたリビングに行く。 186 名前:1[] 投稿日:2007/01/15(月) 23:58:33.52 ID:v9ppjQdP0 綺麗に整頓されているリビングで、居心地が良かった。 ソファは柔らかくて、寝心地も良かった。 でも、何だか居心地が悪かった。 この世にいる事への居心地が悪かった。 異能者。 アレだけ避難されて、僕でさえも関わりたくなかった、異能者。 というよりも、内心、僕自身怯えに似た感情を抱いていた、異能者。 でも今は。 僕が、異能者。 それが何だか悲しかった。 自分の今までの考え方は、自分を否定している事と同じだという事が悲しくて。 これからの自分は、人々が言う“異能者”として避難される、という事が悲しくて。 不安だった。 自分のこれからが。 自分の周りが。 変わっていく全てが、不安だった。 時が止まれば良いのに、と、こんなにも悲しく思った事はない。 全てがこのまま変わらなければ。 いや、全てが少し巻き戻ってくれれば良いのに。 188 名前:1[] 投稿日:2007/01/16(火) 00:05:41.22 ID:C/iwo9H/0 ……もう、寝よう。 こんな事をいつまでも想っていたって悲しいだけだ。 現実と向き合うのは、明日にしよう。 今の僕は、僕を殺しかねないから。 寝返りを打つ。 その拍子に、自分の眼の端っこから何かが流れ出るのを感じた。 流れ出たその雫は、ゆっくりと僕の頬を伝う。 それを強引に拭って、また寝返りを打つ。 その雫は当分の間、何度も僕の頬を伝い続けた。 止めようと思えば思うほど多くの雫が流れ、無視しようとしても出来ない。 我慢していた嗚咽が、漏れる。 嗚咽と言うものは不思議なもので、一度漏らしてしまうと、中々それを止められない。 悲しい。哀しい。寂しい。辛い。怖い。恐い。泣きたい。 孤独感が僕を責め、不安がのしかかってくる。 その不安の圧力に押されて溢れるかのように、涙が頬を伝う。 誰かに傍に居て欲しい。慰めて欲しい。こんなんになった僕でも認めて欲しい。 みんなは僕をどう見るだろうか。 化け物と見るのだろうか。ゴミくずと見るのだろうか。少なくとも人間としては見てくれないのだろうか。 もう、ダメだ。 壊れてしまう。 190 名前:1[] 投稿日:2007/01/16(火) 00:11:38.64 ID:C/iwo9H/0 僕は声をあげて泣き始めた。 さっきまではパニックで、悲しみでさえも襲ってこなかった。 でも、落ちついたら……自分の置かれてる状況が、哀しくなった。 何で僕がこんな目に? 僕は何者だ? 誰も傍に居てくれないのか? 僕は生きる意味なんてあるのか? そんな想いが頭を駆け巡り、どんどんと流れる涙は増える。 広い広い世界で、僕は一人。 歩み寄ろうとすれば逃げられ、泣く事すらも出来なくなるのだろうか。 その時、ぐらりと、視界が揺れる。 泣き過ぎで、酸素が少なくなったか、またはその逆で過換気になったのか。 遠ざかる意識を止めようともせず、僕はソファに突っ伏した。 これでようやく眠れると、安心している自分が居た。 191 名前:1[] 投稿日:2007/01/16(火) 00:13:28.64 ID:C/iwo9H/0 おやすみ。 おやすみ。 もう、「おはよう」なんて声は聞きたくなかった。 外側からも、内側からも。 ずっと眠っていたい。 もう、意識なんて戻ってこなくても良い。 このまま、眠るように死んでいけたら。 それでも、生きている限り朝は来る。 世界は個々の存在など気にせずに、時を歩み続ける。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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