三十四章後( ´∀`)「はい、クーちゃん」 川 ゚ -゚)「む。ごくろう」 ( ´∀`)「いえいえ」 二人はラウンジで会話をしていた。 クーの手には、薄く青を帯びた日本刀。 寒気がするほど鋭く美しい刃には、繊細に刻み込まれた華の装飾。 川 ゚ -゚)「これは……素晴らしい出来だ。悪い点が見付からん」 ( ´∀`)「もな。僕の最高傑作だもな」 川 ゚ー゚)「ふん。全ての武器が最高傑作だと言っていたくせに」 ( ´∀`)「もなもな。そうだもな。 僕が作った全ての武器は最高傑作。 だからその刀―――『氷華』も、最高傑作だもな」 川 ゚ー゚)「ふむ。まぁ、良いだろう」 そこでモナーは振り返る。 視線の先にあるのは、太い柱だ。 それに向かって、モナーは言う。 ( ´∀`)「……本当に、君は武器はいらないもな?」 「あぁ、いらん」 声と共に、柱の影からスッと人影が動いた。 人影が纏うのは、茶色のコート。 ミ,,゚Д゚彡「武器を持った所で、俺は戦いづらくなるだけだ」 ( ´∀`)「でも武器を持っていれば、そうそう“力”を解放する必要もなくなるもな。 それはつまり君の身体の負担が減るという事で―――」 ミ,,゚Д゚彡「いらん、と言っている。 ……“力”を解放しないでいる余裕なんて、次の戦闘ではないだろうしな」 ( ´∀`)「もな……。じゃあ、君達は?」 「いらないわよ」 尖った声は、モナーの背後からだ。 少しだけ驚いてモナーがそちらを見れば、そこにはツンとしぃがいた。 ξ゚ー゚)ξ「ふふん。背後、取ったり」 ( ´∀`)「ガキみたいな事するなもな」 (;*゚ー゚)「あなたがやってた事でしょうが」 ( ´∀`)「記憶にないもな。ふーんふーん。 それよりも、君達は本当に武器を持たないつもりもな?」 (*゚ー゚)「そのつもりだよ?」 ( ´∀`)「……君達こそ、武器が必要なのに」 ξ゚△゚)ξ「どうせ私には武器は扱えないわよ。 前、あなたにナイフを貸してもらったけど……それすら全然扱えなかったし」 (;´∀`)「でも訓練すれば―――」 ξ゚△゚)ξ「無理よ。訓練する時間なんてないわ。 私はただでさえ弱いもの。“力”を扱えるようにならなきゃならない。 武器を扱えるようにする為の時間なんてないのよ」 ( ´∀`)「じゃあ、しぃちゃんは……」 (*゚ー゚)「いらないってば。私、武器とかって嫌いなのさ。 人を傷付ける力は、この“力”だけで十分すぎるくらいなんだし。 私はこの“力”を扱えれば、武器なんて必要ないしね」 ミ,,゚Д゚彡「その通り。しぃとツンの“力”は、扱えるようになれば凄まじいものがある。 だが、二人とも“力”を扱えるようになるにはまだ遠い。 しぃもツンも、武器を扱う為の訓練をする時間はない」 ( ´Д`)「もな……」 (*゚ー゚)「気持ちだけは、ありがたく受け取っておくよ! ありがとね!」 ( ´∀`)「あうー」 ξ゚△゚)ξ「ん、ありがと。でもあなたね、引き際を覚えなさい。 相手がいらないって言ってんだから、しつこく押し付けないの。 ずっとそんな事してたら、嫌われちゃうわよ?」 ( ´∀`)「心優しい忠告、ありがとうだもな。 さすがツンデレッ娘。言う事一つ一つに無駄にトゲが」 ξ#゚△゚)ξ「殴るわよ?」 ( ´∀`)「あうー」 笑って、モナーはクーに向き直した。 ( ´∀`)「さて。じゃあ僕は、『偵察』に行ってくるもな」 川 ゚ -゚)「……こんな夜からか? 明日でも良いのだぞ?」 ( ´∀`)「もな。時間は少ないもな。 休んでる暇なんてないもな」 ミ,,゚Д゚彡「その身体で無理をするんじゃないぞ。 本当はまだ、安静にしていなきゃいけない状態なんだからな」 ( ´∀`)「ふふん。心配どうも、だもな。 でもまぁ、心配は無用だもな。 ぱぱーっと行って、すぐに帰って来るもなよ」 ミ,,゚Д゚彡「間違っても見付かるんじゃないぞ」 ( ´∀`)「見付かるって事はないもな。多分」 ミ,,゚Д゚彡「……何だ? その自信は」 ( ´∀`)「僕はVIPPER時代に色々とやってたんだもな。では、あでゅー」 ミ;゚Д゚彡「あ、ちょ、お前」 言葉を残して、モナーは走り去る。 フサはその後ろ姿を見て、溜息を吐いた。 ミ,,゚Д゚彡「……意味が分からん。どういう事だ」 川 ゚ -゚)「あいつが帰って来たら問い詰めると良い」 ミ,,゚Д゚彡「……む。そうか」 川 ゚ -゚)「それよりも、もう休もう。明日に疲労を残したくない」 (*゚ー゚)「賛成。眠いよ」 ξ゚△゚)ξ「……これじゃ、明日の朝は辛いわね。 特にしぃ姉さんは辛いんじゃないの? 朝、弱いじゃん」 (;*゚ー゚)「……うぁ」 ミ,,゚Д゚彡「ほら、呻いてる暇があればさっさと休め。 言っておくが、訓練に遅刻しようものなら許さんぞ」 その言葉にもう一度呻いて、しぃは部屋へ走った。 その後ろ姿を見て、三人は小さく笑いを漏らす。 ξぅ△-)ξ「……ふあ。じゃあそろそろ、私も休むとするわ」 川 ゚ -゚)「あぁ。おやすみ、ツン」 ミ,,゚Д゚彡「俺もそうしよう。じゃあな、二人とも」 川 ゚ -゚)「あぁ。おやすみ」 その言葉を最後に、三人は己の部屋へと向かった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 漆黒の闇に閉ざされた森の中を、一台のバイクが疾走していた。 バイクのボディは、闇に溶けるような黒。 それを駆る人影も、黒のマントを纏っていた。 欝蒼と茂る樹木の間、道を遮る樹枝の壁を突っ切り、バイクは目的地―――“管理人”の基地を目指す。 勿論、そこに街灯などは存在しない。 僅かな月明かりとバイクのライトだけが、道を照らし出す光だった。 「っと……」 言葉を漏らして、人影はバイクを急停止させた。 そしてバイクに跨ったまま、腰に付けたバッグに手を伸ばすと、双眼鏡を取り出す。 覗き込んでみると、少しばかり遠い所に白い建物が見えた。 人影は一つ頷き、バイクから降りる。 そしてエンジンを切り、双眼鏡をバッグに捩じ込んだ。 フルフェイスのヘルメットを外すと、そこからは穏やかな表情が顔を出した。 ( ´∀`)「……一応、ここからは歩いて行くかもな」 呟いて、彼は腰のバッグに再度、手を伸ばす。 そこから黒塗りのナイフを取り出すと、彼の穏やかな表情の中に僅かな鋭さが生まれた。 ( ´∀`)「偵察―――開始、だもな」 言葉は、彼の姿と共に闇に溶けて行った。 時刻は深夜。 空を見上げれば、月と星が輝いている。 ゆるゆると流れる黒い雲は、時折月の輝きを遮っては、夜空の闇へと消えて行った。 風は緩く、途切れ途切れに吹いている。 それは程好く木の葉を鳴らし、モナーが経てる音を目立たぬものにした。 モナーは極力音を経てぬよう、森の中を疾駆した。 時間をかけてしまえば、日が昇ってしまうからだ。 彼は、光がない内に偵察を済ませてしまおうと思っていた。 やがて木が少なくなり始めたところで、モナーは一度、足を止める。 木が少なくなったという事は、“管理人”の基地に大分接近しているという事を示していた。 一本の大木に身を隠しながら、モナーは基地の様子を伺う。 相も変わらず、不気味なほどに白い研究所。 それは夜闇の中で、月の光を受けて輝いていた。 ( ´∀`)「……外には、誰もいないようだもなね」 バッグから双眼鏡を取り出して確認するが、やはり人影はない。 何かが動く気配もない。 以前の偵察の時と違うのは、鉄の巨大な門が無残にも破壊されているという箇所だけだ。 とは言っても、その理由は分かっている。 この前の戦闘で、クックルが破壊したからだ。 ( ´∀`)「正面、異常ナシ」 双眼鏡を収め、再度、移動を開始した。 木にその身を隠しながら、基地の東側へと走る。 今回のモナーの偵察の内容は、基地の大雑把な捜査だ。 おかしな仕掛けはないか、おかしな動きはないか。 しかし時間がない為、基地の東・西・南・北の四点から、基地及びその周辺を確認するだけだ。 内部に潜入する事はしない。 今の彼の身体の調子からして、それは危険が大き過ぎる。 (;´∀`)「まったく……ここは本当に、無駄に広いもなね」 走る足は止めぬまま、彼は白い吐息を漏らした。 気温が一気に下がる深夜だと言うのに、その額には汗が浮かんでいる。 (;´∀`)「っとと、そろそろ東側だもな」 呟いて、彼は地を蹴るようにして停止した。 そして先ほどと同じように、双眼鏡で基地を確認する。 やはり人はいないし、特に変わったところもない。 彼は頷いて、双眼鏡を降ろそうとして――― ( ´∀`)「……もな?」 双眼鏡を眼から離す直前の、一瞬。 何かを、レンズの向こう側に見た。 眼を細めて、もう一度双眼鏡を構える。 そして、思わず声を漏らした。 ( ´∀`)「あれは……」 鉄柵の向こう側、基地の壁。 そこに、扉らしきものを発見した。 以前の偵察の時には、なかったはずのものだ。 ( ´∀`)「―――偵察に来て、良かったもな」 おそらくあれは、モララーが脱出用に急遽造り上げた扉だろう。 モララーの傷は、決して軽くない。 その上、傷の治癒に当てるだけの“力”などないはずだ。 そんな時に襲撃を受けたら、という事を考えた時に、モララーは脱出用の扉を造る事を考えたのだろう。 戦えなくなった時に、次のチャンスを作り出す為。 ( ´∀`)「考えたもなね、モララー」 となると、内部にも仕掛けがある可能性が高い。 脱出するだけしてそのまま、という事はないだろう。 おそらく、火薬。爆弾の類。 自分達が脱出したところでそれを爆破し、一網打尽にしようと考えたのだろう。 ありがちな、しかし実際、成功すれば有効な策。 ( ´∀`)「危ないところだったもな」 しかしその策が成功する可能性は、この時点で消えた。 ( ´∀`)「他に何か、仕掛けられてないかもな?」 呟いて、モナーは今度こそ双眼鏡を降ろした。 そして基地の裏手へ、移動を開始する。 ( ´∀`)「いや……その可能性は低いもなね」 言葉を漏らしつつ、駆走。 そんな多くの仕掛けを作る時間などないはずだ。 せいぜい一つ―――逃走用の扉を作るくらいだろう。 そしておそらく、扉は一つではない。 東側にあったと言う事は―――北側、西側にもあるはずだ。 “管理人”の基地は、上空から見れば巨大な正方形だ。 正方形を囲むように背の高い鉄柵が設置され、更にそれを囲み、隠すようにして森が広がっている。 正方形の南側には正門が位置している。 クックルに破壊された、堅固な造りであったあの門だ。 それを通過して前庭を突っ切れば、基地で唯一の出入り口である扉に辿り着く。 そう、本来は出入り口はそこだけであった。 しかし――― ( ´∀`)「やっぱり」 裏手に回ったモナーは、そこに扉がある事を確認した。 ( ´∀`)「東側に続いて、北側も。これは間違いなく、西側にもあるもなね」 一応、扉以外の他の仕掛けがないかも確認。だがその足は既に西側へと向けている。 やはり北側にはそれ以上の仕掛けはなく―――また、西側にもなかった。 ( ´∀`)「以前の偵察時との相違点は、扉のみ。 扉は正面だけでなく、側面と裏手―――つまり東側・西側・北側に増設。 扉以外の仕掛けはないものと思われる……」 基地の西側。 モナーは確認するように呟いて、頷いた。 ( ´∀`)「偵察―――完了だもな」 とりあえずは、クーに扉の件を伝えよう。 対処は自分だけでなく、クーやフサと共に考えれば良い。 そこまで思考して、彼はまた走り出した。 その顔には、僅かだが焦慮が浮かんでいる。 時間が迫っていた。 もうすぐ、日が昇ってしまう。 日が昇ったからと言って必ず見付かるわけではないが、見付かる可能性は跳ね上がる。 そして見付かってしまえば、その場で終わりだ。 今の自分は、戦えない。 身体は思うように動かないし、得物はこの黒塗りのナイフのみだ。 見付かってしまえば、抗う事すら出来ずに嬲り殺される。 急がなくては。急がなくては。 ―――その焦りが、隠れるという事を忘れさせていた。 「誰だ!?」 (;´∀`)「―――ッ!?」 その声に、慌てて眼の前の大木に身を隠した。 息をも停め、己の全ての音を殺す。 心臓の音が、やけにうるさい。 「どうした、プギャー」 「今そこに、誰かが……!」 声が、聞こえる。 その大きさと方向からして、おそらく相手は鉄柵の向こう側にいるようだ。 声の主は、プギャーと、もう一人。 闇の中、その顔は見えないが―――声からして、ミンナだろう。 「誰か? いる筈もないだろう。 誰がこんなところに来ると言うんだ。 それも、こんな時間に」 「いや、いたんだ! 音がしたし、動き回るシルエットが見えた!」 「野犬やカラスなどではないのか?」 「多分……違うと思う」 その会話に、モナーは固唾を飲んだ。 まだ、見付かってはいない。 黒ずくめの格好で来たのが幸いした。 だがこのままでは、発見される。 プギャーの言葉に含まれる懐疑の色は、相当に濃い。 おそらく、この辺りを確認しに来るだろう。 しかし自分は逃げられない。 動けば、見付かってしまう。 どうすれば良い。 どうすれば、この状況を抜け出せる。 焦燥の念は解答を曇らせ、更なる焦燥を生んだ。 「……確認してみる」 プギャーの声。 それに続いて、異音が響き渡る。 解放だ。 “力”を解放したところで、どうやって彼はあの鉄柵を越えるつもりなのだろうか。 プギャーの“力”は鎌の筈だ。どうやっても、鉄柵を登れるとは考えづらい。 ふと思ったが、そんな事を考えている暇はない、とその思考を断ち切った。 そう、それどころではないのだ。 方法は分からないにしても、彼が“力”を解放しているという事は、 つまり“力”を解放してしまえば柵を越える事が可能だという事なのだ。 時間はない。 どうすれば。 どうすれば!? その時だ。 一陣の烈風が、吹き荒ぶ。 眼を閉じてしまいそうなその風の中、モナーは音を聞いた。 己の頭上―――樹枝の中ではためく複数の羽音を。 これだ……! 絶望の闇の中で一筋の光明を捉えたモナーは、ナイフを握る右腕に力を込めた。 チャンスは一度っきり。 これを逃せば、もう命はない。 心中で呟いて、モナーは右腕の肘から先を跳ね上げる。 最小限の動きで、しかし最大限の勢いを以てして、右手からナイフが飛ばされた。 黒塗りのその刃先は空中で一回転して―――樹枝の内の一本に、深々とその牙を突き立てた。 (;´∀`)「来い……!」 ほとんど音にもならずに吐き出された言葉。 それに応じたかのように、しゃがれた叫喚が夜闇を裂いた。 そして複数の羽音が空気を揺らし、同じく複数の闇色の影が樹枝から散り散りに飛び去る。 モナーの頭上からふわふわと舞い降りてきたものは、光沢を持った黒の羽根だ。 その羽根は、カラスのもの―――たった今騒音を撒き散らして散開していった黒き者達のものだ。 「ほら、カラスじゃないか」 「そ、そんな筈は……! 俺は確かにこの眼で、人影を!」 「プギャー。お前は、疲れているんじゃないか? そもそも、こんな闇の中で人の影なんか見える筈がないだろう」 「疲れてなんか……!」 「ここのところ、まともに休んでいないじゃないか。 ……モララー様の期待に応えようとするのは良い事だが、それで身体を壊してどうするんだ? 休もう。ほら、もうこんな時間だ」 「休んでいるし、そもそも俺は疲れていない! 強くならなきゃならないんだ! モララーさんが戦わずに済むように……!」 「いい加減にしろ。意地を張るんじゃない。 二十分、三十分の睡眠は休みとは言わないし、モララー様はそんな事を望んではいない。 お前は一つの事に、意識を向け過ぎだ。そんなだと、勝てる戦いにも勝てないぞ」 「……くっ」 「ほら、休むぞ。もう、日が明けてしまう」 「でも」 「プギャー」 「……分かった」 その声に、異音が続く。 どうやら、“力”を収めたようだ。 そして、二つの足音が遠ざかっていく。 音が完全に消えた時、ようやくモナーは安心の息を吐いた。 だが、それも一瞬。 モナーは上半身を深く沈めると、駆ける。 今度は身体を隠しながら、しかしさっき以上の速度で。 もう、時間はほとんどない。 既に東の空の闇は、僅かに薄くなっている。 月明かりすらもない闇を選んで、音を立てずに疾駆。 残すのは風のみ。 震動が傷に響くが、痛覚を無視して走った。 くそ、遠い。 言葉を吐き捨て、憎々しげに空を見やる。 そこには、東の空の薄くなった闇を持ち上げるように、眩しい橙が僅かに顔を出していた。 正門にはまだ着かないのか。 どれだけこの基地は広大だと言うのだ。 時間がない。もっと速く、もっと、もっと。 焦りばかりが前に出て、転びそうになる。 しかし更に足を速く動かして、無理矢理に体勢を立て直した。 呼吸など、とうに限界を振り切っている。 肺は酸素を渇望し、脳は真っ白になり、視界は赤くなったり白くなったりを繰り返していた。 心臓は、別の生物のように激しく暴れまわっている。 しかし足を止めるわけにはいかない。 先ほどの二人のように、もしかしたら誰かが外にいるのかもしれないのだ。 意識が遠のき、しかし全身の痛覚がそれを引き戻してくれた。 皮肉なその結果に、しかしモナーは苦笑すら浮かべられない。 正門が視界に入って、彼はようやくか、と眼を細めた。 しかし足は止めない。むしろ、更に速める。 正門の前が、一番危険なのだ。 既に日は顔を出してしまっているし、正門が一番、人がいる可能性が高い。 強く握り締めた拳が、びきびきと軋んだ。 眼に入りそうになった汗を、風で吹き飛ばす。 光に駆逐され、もはや少なくなってしまった純粋な闇を駆ける。 欝蒼とした森は、木漏れ日の存在を殺してくれていた。 だが、木々に感謝する余裕など、勿論ない。 文字通り必死で、走り走り――― やがて彼は、闇色のバイクの元に辿り着いた。 (; ∀ )「はぁっ! あ、ぁ―――はぁっ……!」 全身が酸素を望んでいた。 しかし余りの疲労に、息が詰まる。 苦痛と焦慮と生への本能が、今の彼の全てだった。 だが無理矢理にそのスイッチを、変更する。 もう少しだ、と自分に言い聞かせ、バイクに乗り込んだ。 ヘルメットを乱暴に被り、全力でアクセル。 置いてかれそうな感覚の後、風の塊が全身を打った。 闇色のバイクは凄まじい勢いで地面を蹴り、森に己の爪痕を付けて行く。 咆哮は後方に置き去りだ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (;´∀`)「…………………」 モナーは、バイクにもたれかかって死んでいた。 否、死にそうになっていた。 バイクから降りる気力も失ったのか、乗ったままだ。 ヘルメットは外して、手に持っている。 彼は極度の緊張と疲労で、意識が朦朧としていた。 眠気にも似た感覚が全身を包み、身体が動かない。 動かそうとも、思わなかった。 冷えた朝の空気と、冷たいバイクのボディは心地が良かった。 汗がバイクのボディを伝い、きらきらと輝く。 美しい朝日が、雫を宝石に変えていた。 彼が停まっているのは、コンビニの駐車場だ。 位置としては、“管理人”の基地と“削除人”のホテルの丁度中間。 そこで彼は限界を迎えた。 从;'ー'从「わわわっ! わーっ!」 その声に、モナーは僅かに眼を開いた。 顔を持ち上げるだけの余力は、もうないらしい。 声の持ち主は、少女だった。 見た目は高校生くらいに見える。 毛先がぴょこんと跳ねた茶髪と、大きな目が可愛らしい子だ。 見れば少女は、ポップな字体で「セクロス」と書かれたエプロンをしていた。 という事はつまり、この少女は、モナーがバイクを止めているこのコンビニの店員という事だ。 ('、`*川「どうしたのー、渡辺ちゃーん」 ノハ;゚△゚)「何だ今の声は! また何かやらかしたのか!?」 コンビニの中から、更に二人の少女が顔を出す。 そしてその二人も、モナーを見て眼に驚きの色を浮かべた。 ('、`;川「えっと……そちらの方は?」 流れる黒髪が奇麗な女の子が、呟いた。 歳はやはり、高校生だろうか。 少し大人びたその瞳は、大学生にも見える。 ノハ;゚△゚)「うおぉっ!? 死体か!!」 冷えた朝の空気に、透き通った叫び声が響いた。 ご近所さんはさぞ迷惑だろう。 身体の線が細い……というよりは引き締まっている女の子だった。 橙っぽい茶色の髪。後ろを、ポニーテールにしている。 その少女は、たたたっ、と足音高くモナーに駆け寄ろうとする。 しかし黒髪の子にポニーテールの部分を掴まれ、阻止された。 ノハ;゚△゚)「い、痛い! ちょ、ペニサス! 痛いって! ハゲちゃう!」 その声に、ペニサスと呼ばれた少女は手を離した。 間髪入れず、少し涙目になったポニーテールの少女が叫ぶ。 ノハ#゚△゚)「何すんのさ!」 ('、`*川「駆け寄っちゃダメでしょ、ヒート。万が一、本当に死体だったらどうするの?」 从;'ー'从「ひ、ひぇえ。死体なの?」 ノパ△゚)「死体なわけあるかい! 助けなきゃダメじゃないか!」 ('、`*川「あの人が危険な人だったらどうするのよ」 ノパ△゚)「でもあのまま放っておくのは……!」 ('、`*川「放っといて良いのよ。触らぬ神に祟りなしって言うじゃない。 死体だったら誰かが処理するだろうし、生きてたら関わらない方が無難よ」 ノハ;゚△゚)「む……!」 从;'ー'从「でも放っておくのは良くない事だよ。 あの人、どうみても元気じゃないし……」 ('、`*川「危険な人だったら怖いじゃない」 ノパ△゚)「危険な人の筈がないだろう! 多分!」 从;'ー'从「そ、そうだよ。 こんな時間に、しかもこんなところに危ない人がいる筈が……」 ('、`*川「……こんな黒ずくめの人を見て、怪しいとは思わないの?」 ノパ△゚)「…………………」 从'ー'从「…………………」 ('、`;川「何で黙り込むかなぁ」 ノパ△゚)「……確かに怪しいな! かなり!」 从;'ー'从「で、でも……」 ('、`*川「うーん……よし。じゃあ、店長が来るまで放っておきましょ。 どうせあと二十分もしない内に奴は来るし」 从'ー'从「あ、そうだね。店長ならきっとどうにかしてくれるよね!」 ノパ△゚)「でももしかして死体だったら……放っておくのも嫌だぞ。 いや、死体じゃなくてもだ! ここですべきは待つ事じゃなくて、出来る最善をする事だ! 義を見てせざるは勇なきなり!」 从;'ー'从「その言葉の使いどころ、合ってるの?」 ノパ△゚)「知らん!」 ('、`*川「ついさっき、あんた『死体なわけないっ!』て言ってたわよね」 ノパ△゚)「知らん!! それよりも、この人を……」 ('、`*川「あのねぇ、ヒート。お願いだから私を面倒臭い事に巻き込まないで。 生きてたら面倒臭いし、死んでたらもっと面倒臭いでしょ?」 ノハ;゚△゚)「むぅ……」 「生きてるよ」 小さな呟き。 その声に、少女三人が一斉に振り返った。 从;'ー'从「で、でぃちゃんか。びっくりした」 コンビニの入口にいたのは、小柄な少女。 ショートカットの黒髪で、眼が大きい。 小動物を思わせる少女だ。 だが、眼に光がない。 妙な雰囲気を持った子だ、とモナーは思った。 (#゚;;-゚)「汗かいてるし、ヘルメットを手で持ってる。 それにバイクが倒れてない。つまり、バランスを取ってる。生きてるよ」 ('、`*川「あら、生きてるの?」 (#゚;;-゚)「うん。というか……」 でぃは眼を細めて、モナーを見る。 そして、溜息を吐いた。 (#゚;;-゚)「よく見てみれば、眼が開いてるよ。それに、まばたきしてる。 しっかりと聞いてみれば呼吸の音も聞こえる」 ('、`;川「……あら」 (#゚;;-゚)「でも、随分と弱ってるみたいだね。疲弊してる。 決して良い状態とは言えないね。 出来るだけ迅速に対処すべきだと思うよ」 それだけ言って、彼女はコンビニの中に入って行ってしまった。 ('、`;川「ちょ、助けないの?」 (#゚;;-゚)「……寒い」 ノパ△゚)「寒いってだけで人を見捨てるのかーッ! それは良くないぞ!」 (#゚;;-゚)「だって……」 从'ー'从「でぃちゃんも協力してよー。ね? お願い」 (#゚;;-゚)「……あうー……」 渡辺と呼ばれた少女に腕を引っ張られて、でぃは渋々コンビニの外に出た。 しかしすぐに足を止めて、考えるように顎に手を当てる。 (#゚;;-゚)「助けるってのも難しいよ。 うかつに手を出すと、悪化しちゃうかもしれない」 ノパ△゚)「どうすれば良いんだ!」 (#゚;;-゚)「どうすればって……分からないよ。 何で弱ってるのかさえ分かればそれなりの対処は出来るけど、分からないんだから」 从'ー'从「調べても分からないかなぁ? ね、でぃちゃん、調べてみてくれない?」 (#゚;;-゚)「何で私が……」 从'ー'从「だってでぃちゃん、すっごい物知りじゃん! だから調べれば分かるかな、と思ったんだけど……」 (#゚;;-゚)「そこまで出来るほど、まだ医療に関してはかじってないんだ。ごめんね」 从;'ー'从「……うぅー」 ノパ△゚)「どうすれば良いんだーッ!!」 (#゚;;-゚)「救急車を呼ぶか、店長が来るまで待つしかないんじゃないかな……」 ('、`*川「よし、店長を待とう」 从;'ー'从「あれ? 即答?」 ('、`*川「だって、ほら。救急車とか面倒臭いじゃない」 ノハ;゚△゚)「面倒臭いかどうかで物事を考えるなよ!」 ('、`*川「良いじゃない。ストレスは老けの原因よ」 从;'ー'从「……じゃあ、店長来るまで待とっか」 ノパ△゚)「そうするか!」 ('、`*川「……それにしても、店長遅いわね。何してるのかしら、あのクズ」 ノハ;゚△゚)「待てペニサス! 言ってはならん!」 ('、`*川「いや、言うわよ。そりゃ言うわよ。 あいつ、動きがいちいちルーズなのよ。ダンディ気取るのもいい加減にしてほしいわ。 それに、タバコ臭い。近寄ってほしくないわね」 从;'ー'从「ペ、ペニサスちゃん」 ('、`*川「そもそもね、奴は店長として成り立ってないわ。 客と面倒は起こすし、仕事はしないし、遅刻はするし。 どうしようもないわね」 从;'ー'从「ねぇ! ペニサスちゃん!」 ('、`*川「デキる男を気取ってるデキない男はダサすぎるわよ。 デキないように見えて実はデキる男こそ至高なのよ。 ぃょぅ君……そう、ぃょぅ君よ! あいつはぃょぅ君を見習うべきだわ!」 (#゚;;-゚)「……ペニサス」 ('、`*川「そうよ、今度ぃょぅ君を店に呼ぶのよ。 そして店長に、己の間違いについて知ってもらうの! そんでそんで―――」 (#゚;;-゚)「ペニサス」 ('、`*川「ん? 何さ、でぃちゃん」 (#゚;;-゚)「……後ろ」 その言葉に、ペニサスは後ろを振り向く。 そこには――― ( ,_ノ` )「やぁ。おはよう、ペニサス。君のだーい好きな店長だよ」 店長こと、渋澤が立っていた。 いつも通り、口にはタバコを咥えて。 いつも通り……いや、いつもよりやや口角の釣り上がった、ダンディな笑みを浮かべて。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ( ,_ノ` )「なるほど。ふむ、分かった」 あれから、数分後。 渡辺達から話を聞いて、渋澤は現状を理解した。 色々とあって、ペニサスは小さくなっている。 その眼はどこか虚ろで、光を失っていた。 从;'ー'从「ど、どうすれば良いんですか?」 ( ,_ノ` )「よし、任せろ」 渡辺に手を振ると、渋澤は眼の色を変えた。 タバコを深く一吸いすると、短くなったそれを指で弾き飛ばす。 落ちて行くそれは、しかしヒートが灰皿でキャッチ。 ノパ△゚)「今のは格好良くないぞ。地球的に考えて」 ( ,_ノ` )「そうか。自重しよう」 言いつつ、モナーに向かって歩みを進めた。 ( ,_ノ` )「よう、あんちゃん。生きてるか?」 (#゚;;-゚)「生きてます」 ( ,_ノ` )「いや、生物的な意味じゃないんだ」 会話しつつ、渋澤はモナーの頬を軽く数回叩いた。 モナーは朦朧とした意識の中、必死で眼を開く。 僅かにしか開かなかった視界は、どこか色を失っていた。 ( ,_ノ` )「大丈夫か? どうした、何があった。 喧嘩……じゃねぇな。飢えか? 病気か? 疲れか?」 必死で言葉を返そうとするモナー。 しかし、喉から音が出ない。 乾いた吐息だけがヒュ、と鳴った。 ( ,_ノ` )「ん? 何だ?」 渋澤はモナーの意思を聞こうと、彼の口元に耳を近付ける。 モナーは薄れゆく意識の中で、必死の思いで声を発した。 「―――水を」 そこで、モナーの意識は途切れた。 ( ,_ノ` )「……死んだ、か」 (#゚;;-゚)「生きてます」 ( ,_ノ` )「お願いだから真面目に突っ込みを入れないでくれ」 从;'ー'从「それより、ど、どうするんですか? この人」 ( ,_ノ` )「水でも飲ませて、休憩室で休ませる」 ノハ;゚△゚)「そんなんで良いのか!? 救急車とか呼ばなくて良いのか!?」 ( ,_ノ` )「面倒臭いじゃないか。 それに、この手の意識不明は、三時間程度休めば治る」 ノハ;゚△゚)「何故そんな事が分かるッ!」 ( ,_ノ` )「経験論だ。よし、じゃあ休憩室まで運ぶぞ。 みんな、手伝ってくれ」 ('、`;川「あっ、あの」 ( ,_ノ` )「何だ、ペニサス。またかわいがって欲しいのか?」 ('、`;川「いえ、決してそういうわけではなくてですね……。 あの、その、えっと。……その人、危ない人だったりしないんですか?」 ( ,_ノ` )「あぁ。確信を持って頷ける。 こいつは安全な人間だ。それに、とびっきりの漢の臭いがする。 俺と同じ臭いがするんだよ、こいつは」 ('、`*川(ダメじゃん) 从'ー'从(タバコ臭いのかな?) ノパ△゚)(店長、ガチホモっぽいな) (#゚;;-゚)(うわぁ、変な人だ) ( ,_ノ` )「さぁ、運ぶぞ。手伝え」 呟き、渋澤はモナーをバイクから降ろした。 そして、背負う。 触れる指先は氷のように冷たく、胴は日光のように暖かだった。 その感覚に、渋澤は口元に笑みを浮かべる。 ( ,_ノ` )「この重量、この感覚……あの時を思い出すよ。ふふふ」 ノパ△゚)(やっぱりガチホモなのか……) ( ,_ノ` )「ヒートと渡辺は、休憩室のベッドを準備してきてくれ。 でぃは、スポーツドリンクを二リットルほど持ってきてくれ。 ペニサスは仕事をしていろ。独りでな」 ('、`#川(この親父、いつかぶん殴ってやる) ( ,_ノ` )「返事は? またおしりぺんぺんされたいのか?」 ('、`;川「……はい、分かりました」 ( ,_ノ` )「よろしい」 ('、`;川(泣きたい) ばたばたと動き始める四人の中、渋澤だけはゆったりと足を進めた。 やがてその姿は、コンビニの中へと消えていく。 駐車場に残されたバイクだけが、朝日に黒く輝いていた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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