三十八章四(´<_` )「何?」 眉根を寄せた。 クーの刀は、腰の鞘に仕舞われている。 距離を詰めてきた彼女は、素手だ。 (´<_` )「何を考えている? 素手などで、私と戦おうとは」 川#゚ -゚)「お前だから、素手なんだよ」 青の異形の右腕を、袈裟掛けに振るう。 弟者はそれを軽く受け流すと、足を跳ね上げた。 ハイキック気味のその蹴りは、しかし、左手で柔らかく防御される。 (´<_` )「……なるほど」 彼女の左手は、そのまま弟者の足を握り締める。動きを封じたのだ。 そして先ほど振るった異形の右腕が、裏拳の形で跳ね上がった。 (´<_` )「ふっ!」 弟者は自ら後ろに体勢を崩して、その拳を回避。 そして床に両手を着くと、身体を旋回させてクーの手を足から外す。 それから手で床を押して、華麗に体勢を整えた。 (´<_` )「気付いたか」 川#゚ -゚)「あぁ。お前との戦闘に於いて、刀は不要だ。 動きの一つ一つが大きくなり、隙を作ってしまう要因になる。 だから、素手だ」 (´<_` )「だが、それでもお前は勝てないよ。 異能者であっても、お前は女だ。格闘で私に対するには、力が弱すぎるだろうさ」 川#゚ -゚)「舐めるなっ!!」 大股の二歩で距離を詰め、そして三歩目で跳躍。 そして中空で、弟者の顔面目掛けて脚を横薙ぎにした。 (´<_` )「ふっ!」 僅かに身体を落として回避。 そして逆に、中空のクー目掛けて足を跳ね上げる。 しかしその足は、クーの右腕によって防御された。 地に足が着くと、クーは即座にしゃがみ込む。 直後、彼女の頭上を横薙ぎにされた足が抜けた。 それとほぼ同時、クーは片足立ちの状態の弟者に足払いを仕掛ける。 (´<_` )「むっ……!?」 ぐらり、と弟者の体勢が崩れる。 体勢を整える暇は、与えられない。 クーは流れるように、弟者の脇腹に肘を叩き込む。 口から僅かに息と血を漏らして、身体を折り曲げた弟者。 その肩を掴んで、深く抉るような膝蹴りを放った。 (´<_` )「こんな……!」 苦し紛れに放った裏拳は、しかし予測されていたかのように難なく回避される。 それどころか、伸び切った腕を掴み取られ――― 川#゚ -゚)「ぉ―――ぉぉぁあっ!!」 投げ飛ばされた。 受け身も取れずに、弟者は床に叩き付けられる。 (´<_` )「なっ……!」 僅かな驚愕を口から漏らしつつも、弟者はすぐに立ち上がろうと試みた。 しかし許されない。すぐさまクーに、腕を捩られ叩き伏せられる。 (´<_` )「こんな……筈は……」 川#゚ -゚)「腕は折れなかったか。だが、終わりだ」 左手と足で弟者を押さえたまま、クーは異形の右腕を振り上げた。 ( ´_ゝ`)「―――させるかぁぁあっ!!」 咆哮。そして兄者は、全力で床を蹴る。 二人の距離は一瞬で埋まり、兄者はクーから弟者を救おうとして――― 川#゚ -゚)「予測通りだ」 突如、クーが振り返った。 その左手には弟者の腕ではなく―――抜き放った刀。 (;´_ゝ`)「!?」 焦燥の表情を浮かべるが、もはや遅い。 兄者とすれ違う瞬間に、クーは刀を袈裟掛けに振るう。 兄者はクーの横を抜けて、数メートル先で足を止め―――そこで、右肩から左脇腹にかけて生まれた紅い線から、大量の血を吐き出した。 クーは兄者に背を向けたまま、刀を振って付着した血を飛ばす。 だが 川#゚ -゚)「ち。浅かったか」 呟いて、静かに振り返った。 ほぼ同時に兄者も振り返り―――傷から紅を滴らせながら、戦慄を含んだ笑みを浮かべる。 (;´,_ゝ`)「貴様は本当に化け物だな、クー。 人間の耐久力・戦闘力じゃあない。 ……だが、ここで仕留められなかったのは痛いなぁ?」 川#゚ -゚)「知るか。すぐにでも仕留めてやる」 (;´,_ゝ`)「虚勢を張るなよ。こちらは分かっているんだ。 お前は確かに化け物だが―――しかし、もう長くは持たないだろう? 肉体的にも精神的にも苦しい筈だ。血液だって、そろそろ足りなくなるんじゃないか?」 川#゚ -゚)「それがどうした、と言っている。 私が終わる前に、お前達を終わらせれば良いのだろう。 何を勝ち誇っている。虚勢を張りたいのは、そちらではないのか」 (#´_ゝ`)「! ……貴様……!」 歯を噛み締め、足に力を込める兄者。 しかし床を蹴りつける瞬間、彼は横合いから伸びた白い腕に制された。 (´<_` )「落ち着け、兄者。挑発に乗るな。 確かにこちらの状況は苦しい。虚勢も張っていると言えるが―――しかしそれはあちらも同じだ。 ここでは、挑発に乗ったら敗けだ。奴の思い通りに、事が運びかねない」 (;´_ゝ`)「弟者。……あぁ、すまなかった」 (´<_` )「仕方のない事だ。感情のある人間とはそういうものなのだろうから。 ―――さぁ、終わらせよう。兄者」 一歩、前に出る。 人形のような暗く光のない瞳は、無感情にクーを見据え。 痛覚を失った、傷だらけの白く細い体躯を、積み重なっていくダメージに軋ませ。 床に小さな血溜まりを作りつつ、口端から滴り落ちる血液も無視して、彼は言った。 (´<_` )「クー。お前は強い。兄者も私も、お前にはとても勝てない。 しかし『私達』であれば。『私達』としてお前に対すれば、お前を圧倒出来る。 だから『流石兄弟』として、お前を終わらせてもらう。―――さぁ、行くぞ」 口端からの血液が、後方に流れる。 駆け寄る弟者に、クーは右腕を構えた。 凍りつきそうなほど冷酷な視線は弟者を貫き、動きの全てを掌握する。 どんな動きでさえも反応しきれる―――筈であった。 しかし。 (´<_` )「兄者!」 ( ´_ゝ`)「あぁ!」 弟者が駆けつつ叫ぶと、まるでそれが分かっていたかのように兄者は応じる。 そしておもむろに、足を振るい上げた。 発生するは風の刃。 それは弟者の身体を掠め、クーに襲いかかる。 川#゚ -゚)「! ちィ!!」 右腕を振るって、不可視の刃を粉砕。 しかし直後に、弟者がクーとの距離を詰め切った。 そして放たれる正拳―――クーは、反応しきれない。 川;゚ -゚)「ぐぅ―――ッ!」 腹部に深く突き刺さる拳。 身体を捻って、鳩尾に入る事だけは何とか阻止したが―――しかしそのダメージは大きい。 が、それでも苦痛に喘いでいる暇などない。 そうしてしまっては、更に更に、際限なく苦痛が蓄積されていってしまう。 川#゚ -゚)「―――ぁあっ!」 続けて跳ね上がった膝を、ほんの僅かに後退して外させる。 そして一瞬を置かずして接近。体重と速度を乗せた肘を、全力で胸に叩き込んだ。 小さく、鈍い厭な音が肘の先で弾ける。 川#゚ -゚)(―――が、折れてはいない。ヒビだ) ここで肋骨をへし折れれば、後々に楽になれるかもしれない。 折れた骨が運良く肺にでも刺されば、呼吸を止められる。 思考して、クーは更にその肘を押し込もうとして 川#゚ -゚)「……チッ!」 舌打ち。横に跳んだ。 同時に弟者も、クーとは逆側の横に跳んで―――直後。二人の立っていた位置の床が、風の刃によって大きく裂けた。 遅れて、床にぶち当った風が四散する。 凄まじい密度を以てしてクーを殴りつけた風は、ダメージこそないものの、彼女の動きを一瞬制した。 そして、その大気の壁をぶち抜いて接近する影が一つ。 ( ´_ゝ`)「おぉおおぉぁああぁっ!!」 距離は刹那の間に埋まる。 兄者の速度は最高、対するクーは躱せる体勢にない。 結果。 最高の速度と最大の脚力を乗せた異形の脚の一撃を、クーは真正面から防御する事となった。 川#゚ -゚)「ぐっ―――うぅぅっ!!」 一瞬の停滞の後。 川; - )「!!」 抑え込まれたエネルギーが爆ぜる。 クーは大きく吹き飛び、壁にその身を叩きつけた。 呻きの後、咳を漏らす。口からは、血が盛大に溢れ出た。 だが、膝を突く事はしない。 川# - )「ぐっ……か、はっ……!」 左手を膝に置き、身体を震わせながらも、立ち続ける。 右腕を防御に使った事により、直接のダメージはない。 しかし吹き飛ばされた際に間接に負担がかかったのか、身体の至る所が軋む。 そして壁に叩きつけられた事によって、更にそれが深刻なものとなってしまった。 だがそれでも彼女は立ち上がる。 歩み―――そして、駆ける。 勝利を収める為に。意地の為に。 川#゚ -゚)「っづぅぁああぁぁあぁっ!!」 軽く広げた右腕の周りに、即座に氷塊が発生。 駆けつつ、放った。 ( ´_ゝ`)「無意味だ」 クーと同じような動作で、右腕を軽く振るう。 すると高密度の大気が波となり、放たれた氷塊を悉く吹き飛ばした。 川#゚ -゚)「……!」 だが彼女は再度、右腕に氷塊を纏う。 氷塊は音を経ててその形状を変化させ、やはり駆けつつ放たれた。 ( ´,_ゝ`)「何度やっても無駄だ。愚か者め」 兄者も同じく、再度右腕を振るう。 再度発生する、先ほどと同じ波――― しかし 川#゚ -゚)「愚者は貴様だ!!」 ぼ、という、大気の突き破られる連続した音。 放たれた氷塊のほとんどは弾き返される事なく、流石兄弟に向かう。 (;´_ゝ`)「!? 何故―――」 言いかけて、認識する。 放たれた氷塊は、鋭い流線的な身体をしていた。 だから大気の波を抉り、突き破れたのだ。 (;´_ゝ`)「……小癪な!」 叫び、足を振るって風の刃を飛ばす。 しかし氷塊は広域に広げて撃ち放たれていた為、風の刃が弾き砕いた氷塊はたかが数個。 ―――大半の氷塊は、そのまま兄者へと襲いかかった。 (;´_ゝ`)「ちぃ……っ!」 舌打ちを漏らし、氷塊によるダメージを覚悟する。 複数の氷塊は兄者の肉体を穿とうと空を貫いて――― 肩に横方向への衝撃。 それによって、兄者の視界が横へスライドした。 (;´_ゝ`)「!?」 横へ大きく移動した為、氷塊の軌道からは外れた……が。 衝撃の方向に眼をやれば、そこには、兄者の肩を押した姿勢で立つ弟者。 弟者は飛び来る氷塊を虚ろな眼で見詰め――― (´<_` )「行け、兄者」 呟いた。 直後、彼の身体の各所に氷塊が突き立つ。 新たに生まれた紅い奔流が、床を紅く染め上げた。 (;´_ゝ`)「弟者!!」 兄者は、流石に膝を突いた弟者に叫ぶ。 それに対して返ってきた声は、何の変化もない、抑揚に欠ける声。 (´<_` )「兄者らしからんな。 心配するな。この程度なら大丈夫だ。 それよりも、行け。私もすぐに向かう」 (;´_ゝ`)「! ……分かった」 言い終えるや否や、床を蹴りつけた。 クーとの距離は、まるで初めからなかったかのように、あっという間に消失する。 ( ´_ゝ`)「おぉおおおぉっ!!」 脚を振り上げる。 ただそれだけの単純な動作は、しかし兄者が行えば、それは壮絶な破壊力を持つ事となる。 川#゚ -゚)「ッ!」 だから、クーはそれを身体を斜めに傾がせて回避。 反撃の攻撃を加えようとして――― 川;゚ -゚)「!」 上方からのとんでもない圧力を空気で感じて、跳び退った。 直後、立っていた床が爆音を経てながら粉砕する。 ( ´_ゝ`)「ち。勘が良いな」 床を砕いたのは、兄者の踵だ。 つまりは、桁外れな脚力を以てした踵落とし。 先程の振り上げた足はフェイク―――本命はこの踵落としだったようだ。 ( ´_ゝ`)「が、どうせ死ぬまでの苦痛が長引いただけだ」 床を爆砕した足を支点に、更に踏み込む。 そして今度は、右足を腰の高さで横薙ぎ。 この攻撃は単純そうであって、意外と受ける方法が限られる。 右足で振るっている為に右腕での防御は難しい上に、腰の高さで振るわれているのでしゃがんでの回避も無理。 よって、大きく後ろに跳び退るか、“力”を使う以外に受け方はない。 筈、であった。 ( ´_ゝ`)「!」 兄者の右足は空を切る。 クーはどうしたのかと言えば、彼女は跳躍していた。 兄者の右足を、彼女は跳躍して回避したのだ。 (;´_ゝ`)「何だと……!」 跳び退ったばかりで、足に力を入れる暇もなかったであろうに、この跳躍。 その脚力と反応の早さに、兄者は戦慄―――いや、恐怖を感じた。 川#゚ -゚)「散れ」 クーは宙空で、いつの間にか抜いた刀を構えた。 そして、落下と共に唐竹割りに振り降ろす。 しかし、刀は振り下ろす途中で停止した。 ぴたりと、まるで空間が固められたかのように。 (´<_` )「散らせんよ」 刀を止めたのは、弟者だった。 彼は青い刀の刃を、何でもないかのように握り締めていた。 手からは紅が飛沫き、手首と腕を伝って、肘から滴り落ちる。 川#゚ -゚)「下種が……!」 呟きつつ、クーは刀を引こうとして―――出来なかった。 引く事も、上げる事も降ろす事も、捻る事も出来なかった。 川;゚ -゚)「!? 何!?」 (´<_` )「そう簡単には放さないさ」 そして、弟者の前蹴りがクーの腹部を抉る。 クーは呻きを漏らして、口腔から血をぶち撒けた。 弟者はもう一度蹴りを捩じ込もうと、足に力を込める。 だが。 川#゚ -゚)「調子に……乗るなぁっ!!」 咆哮。同時に、右腕の周囲に氷塊が発生。放たれた。 (´<_` )「おっと。危ない危ない」 弟者はあっけなく刀を放し、そして氷塊を回避。 すぐさま後退のステップを踏んでクーから離れ―――入れ違いに、兄者が前に出てくる。 ( ´_ゝ`)「おぉあっ!!」 左足で踏み込み、右足で回し蹴りを放った。 クーは後退してそれをやり過ごし、接近―――しようとして、却下。 更に大きく、後退する。 直後、クーの身体を異形の足が掠っていった。 しかしその足を回避しても、クーは接近を許されなかった。 再度、また再度と、後退のステップを踏んで行く。 川;゚ -゚)(攻撃が―――速くなっている) そう、兄者の攻撃は段々と速度を増してきていた。 クーが反撃を躊躇するほどに。 川;゚ -゚)「くっ!」 回避の直後、意を決して距離を詰める。 しかし――― (´<_` )「おっと。させんよ」 右腕を振るう直前、弟者に押すような前蹴りを喰らってしまった。 それにより僅かに身体が後方に押し出され、その上バランスを崩してしまう。 川#゚ -゚)「この……!」 前面に出てきた弟者に攻撃しようとするが―――しかし踏むのは、やはり後退の足。 兄者が、またも攻撃を仕掛けて来ていた。 ( ´,_ゝ`)「どうした!? 攻められていないぞ!?」 川;゚ -゚)「ちっ……!!」 兄者が浮かべた笑みに怒りが湧き起こるが、しかし反撃は出来ない。 彼の攻撃がより速く、より大胆な攻撃になっていっている為だ。 ( ´,_ゝ`)「避け続けるしか出来ないのか!? 先程のように、隙を見て攻めてみれば良いじゃないか! まぁどうせ、先程のように弟者に防がれてしまうだろうがな!!」 川;゚ -゚)(……なるほど) 熾烈になっていく攻撃を回避し捌く中、クーは兄者の攻撃の質が変わっている理由を悟った。 川;゚ -゚)(背後に弟者が居るという安心感から、攻撃に迷いがなくなっている。 先程までは、二人はほとんど独自で戦っていた……言い換えれば、彼らは一人ずつ私に挑んでいた。 しかし今は完全な二対一、余裕が出来る。その余裕が、彼の動きの潤滑剤になっているのか) ならば――― 川メ゚ -゚)(どちらか片方を崩せば、終わる!) 思考。 そしてすぐさま、彼女は右腕を振り上げた。 ( ´_ゝ`)「ぬっ!!」 唐突なその行動に、兄者は大きく跳び退る。 その直後に、彼が立っていた床から氷筍が顔を出した。 そしてそこに生まれた隙に付け込むように、クーは兄者に接近。 その右腕を引き絞る。 (´<_` )「無駄だ。動きが見えているぞ」 同時、横合いから飛び出してくる弟者。 彼は彼女に正拳を叩き込もうとして――― (´<_` )「ッ―――!」 見た。 彼女の眼が、兄者を捉えておらず、自分を捉えているのを。 (´<_` )「狙いは、初めから私か……!」 言いつつ、発射された異形の腕を、身体を旋回させつつ回避。 しかし間髪置かず跳ね上がったクーの膝が、脇腹を抉った。 体勢を崩したところで、再度彼女は右腕を振り上げる。 が。 ( ´_ゝ`)「させるか!」 横合いから、兄者の足が跳ね上がる。 振り下ろす右腕と跳ね上がる足が交錯し、そして勢い良く弾けた。 兄者とクーは、共に大きく体勢を崩す。 (´<_` )「ここだ」 そこで潜り込むようにしてクーの懐に入った弟者は、速度と体重を乗せた肘を腹部に叩き込んだ。 クーは呻き、そして吹き飛んで床を転がる。 川; - )「か、はっ……!」 (´<_` )「二対一。一人が隙を作れば、もう一人がその隙を突く。 一人が隙を作られれば、もう一人がその隙を埋める。 お前がいくら強くとも、我らを同時に相手にしては勝てやしないさ」 川# - )「―――言っていろ。すぐにその言葉を覆してやる!」 立ち上がった。 同時に氷塊を作成、投擲する。 ( ´_ゝ`)「ふん」 兄者は何でもないかのように、軽く腕を突き出した。 それによって風の塊が発生し、氷塊は散らされていく。 しかしその間に、クーは兄者に接近。 左手に刀を握り締め、右腕を引き絞った。 川#゚ -゚)「おぉおおぉぉぁぁあああぁっ!!」 そして、猛攻。 ただひたすらに、出来得る限りの速さと威力で攻め立てる。 右腕を横薙ぎにし、跳ね上げ、振り下ろす。 そしてその攻撃の隙を埋めるかのように、左手の刀と脚と“力”で、更に攻撃を重ねて行く。 途切れぬ攻撃の嵐に、やがて兄者の防御にも隙間が出来た。 しかしその僅かな隙間を、弟者が埋めてしまう。 途切れぬ攻撃と、隙間のない防御。 それらによる攻防はしばらく続き――― (´<_` )「兄者」 ( ´_ゝ`)「あぁ、そろそろだな」 兄者が、脚を全力で振り抜いた。 それは真正面からクーの腕を捉え、眩い火花を散らせて互いに弾ける。 双方に隙が生まれる。 つまり、クーの途切れぬ攻撃が途切れた――― 攻守が、逆転する。 (´<_` )「はっ!」 弟者が大きく踏み込み、クーの胸に掌底を打ち込んだ。 クーは僅かに身を引いて衝撃を逃がそうとする。 しかし引く距離が足らなかったのか、衝撃が胸を叩いて、彼女の身体を後方へと飛ばした。 川;゚ -゚)「ぐぅっ!」 体内から空気が抜け出してしまうような感覚を、歯を食い縛って耐える。 そして足取りを確定させると同時に彼女が取った行動は、防御だった。 頭部を護るように、右腕を振り上げる。 一瞬の後にそこに衝突したのは、風を纏った異形の足だ。 ( ´,_ゝ`)「はははっ!! 無様だな、クー!! 貴様の全力も、残念ながら我らには無力だったようだ!!」 川;゚ -゚)「ッ―――!!」 そして迫り来る、異形の両足による悪夢のような連撃。 視覚する事も難しい攻撃の嵐を、クーは全力を以てして回避・防御する。 勘。経験。“力”。異形の右腕。それらをフルで駆使。 それでも爪先が身体を掠め、肌が切れて血が飛沫く。 川#゚ -゚)「クソッ……!!」 攻撃を回避した瞬間、氷塊を作成。放った。 ( ´_ゝ`)「むっ!」 兄者はそれを、足で粉砕する。 そこに生まれた僅かな隙。そこにクーは攻撃を加えようとして――― (´<_` )「甘い」 直前。横合いから伸びてきた回し蹴りに、攻撃を断念した。 足を右腕で防御し、バックステップ。 同時に刀を横薙ぎにしたが、弟者もほぼ同時に跳び退った為に、刀は虚しく空を斬る。 双方にダメージはない。仕切り直しだ。 残ったのは自分の疲労と、焦慮のみ。 川;゚ -゚)(このままでは……) ダメだ、と歯を噛む。 このままでは、やがて殺される。 何か、穴を見付けねば。 奴らを打ち敗かせられるほどの、決定的な穴を。 だが 川;゚ -゚)「……ちぃっ!!」 考える時間は与えられない。 間を置かず、兄者が攻撃を仕掛けてきた為だ。 ( ´,_ゝ`)「為す術もないようじゃないか!? どうした、クー!?」 襲いかかってきた兄者の猛攻に、再び歯を食い縛って耐える。 掠る爪先に血をばら撒きながら――― 川メ゚ -゚)(む―――?) 己の血が作る薄い帳の向こう。 それをぶち破って現れたのは、兄者…… 嘲弄の笑みの形に、表情を固めた兄者だ。 川メ゚ -゚)(これは……) クーの瞳に、希望が映る。 川メ゚ -゚)(そうだ。これしかない) 徐々に、クーに変化が現れた。 ステップは鈍く、そして表情は苦痛と焦燥に歪む。 それに反するように、兄者の表情は更なる笑みへと変わった。 ( ´,_ゝ`)「苦しそうじゃないか!! 一体どうしたんだ、クー!? ほらほら、今にも私の足がお前を捉えてしまうぞ!?」 川;゚ -゚)「……くっ!!」 呻きを漏らしつつ、加速する兄者の足を間一髪で回避する。 彼女の表情はどんどんと苦しげに変化し―――しかし内心は、希望を更に強く確信していた。 川メ゚ -゚)(やはり……!!) クーが見た希望は、油断。 戦闘において、油断するという事は致命的だ。 油断というものは、優勢と劣勢を一気に覆しかねないものであるから。 兄者が明らかな嘲弄を浮かべているように、クーは今、完全に劣勢であった。 だからこそ、狙える。 少しずつ、だが確実に露呈してきている、兄者の油断を。 川メ゚ -゚)(無感情な弟者に油断はない。だから、兄者だ。 油断しきったところを、殺してやる) 兄者は気付かない。 苦しげに歪む彼女の表情の中、その瞳だけが冷徹に兄者を捉えている事に。 弟者は気付かない。 兄が油断している事に。クーがその油断を狙っているという事に。 ( ´,_ゝ`)「ほら! ほらほら!!」 川;゚ -゚)「くっ! く、ぅっ……!!」 あえてギリギリで回避し、そして刀を突き出す。 速い。が、どこまでも愚直な、軌道の分かりやすい突きだ。 兄者はそれを、横に僅かに動くだけで回避した。 笑みは、どんどんと深まる。邪悪に、そして余裕に。 ( ´,_ゝ`)「疲れてきてしまったのか!? 斬撃にキレがないぞ!? さっきまでの元気はどこへ行ってしまったんだ!?」 川;゚ -゚)「っ―――うるさい!!」 ( ´,_ゝ`)「おやおや、まだ元気だな! 遊んであげよう!!」 川メ゚ -゚)(……そうだ。油断しろ。もっともっと、私を嘲るが良い) 横薙ぎに振るわれた足を、しゃがんで回避する。 そこに見えた僅かな隙―――しかしクーは、そこに攻撃する事をしなかった。 川メ゚ -゚)(生半可な油断を突いてしまってはダメだ。奴が気を引き締めてしまう。 もっと致命的な、一撃で沈められるような油断を探さねば。いや、造らねば) バックステップで、兄者から距離を取る。 しかしすぐさま弟者が距離を詰めて来た。休む暇はない。 (´<_` )「苦しいだろう。さっさと諦めるが良い。 どうせ貴様に、勝利の可能性などない」 川;゚ -゚)「黙れ!!」 跳ね上がった弟者の足を、体勢を低くする事で、間一髪で回避する。 そして懐に入ろうとして―――その頬を裏拳が打った。 クーは僅かに旋回を加えて吹き飛び、そして床に叩き付けられる。 (´<_` )「甘い」 言う弟者は気付かない。 裏拳が頬を捉える瞬間、彼女は僅かに身を引いて衝撃を逃がしていた事に。 彼女のこの行動が、全て欺瞞であるという事に。 普段の彼であれば―――戦闘に百パーセント集中している彼だったら、違和感に気付いたかもしれない。 しかし弟者の意識の一部は、自分の隅で黒く渦を巻き続ける想いに向いていた。 それは抜け落ちた自分のピース。 それはクーの言葉。 ( ´,_ゝ`)「話にならないなぁ、クー! もう私が出る必要すらないようじゃないか!! “管理人”のリーダーたるお前がここで終わるとは、恥ずかしくないのか!?」 川メ - )「……やかましい。黙れ……! その口、叩っ斬るぞ……・!!」 口の中の血を吐き出すと、鈍重な動きで立ち上がった。 そしてすぐさま、弟者に蹴り飛ばされる。 これもクーは上手くダメージを軽減し、あたかもクリティカルヒットしたかのように吹き飛んだ。 そして床を転がった瞬間、遠くで聞こえる兄者の嗤い声。 ( ´,_ゝ`)「おいおいおいおい、叩っ斬るんじゃなかったのか!? 何で床を転がったりなんかしているんだ、お前は!」 川#゚ -゚)「―――黙れぇぇっ!!」 どこかぎこちなく、立ち上がる。 すぐさま駆け寄って来た弟者に、刀を横薙ぎにした。 しかし弟者は軽く避けて見せる。 呻きを漏らして、更に大振りに刀を袈裟掛けに振り下ろした。 弟者はその斬撃も余裕で回避。クーはバランスを崩して、床に肩から突っ込んだ。 弟者は回避した勢いのまま退き、兄者に並ぶ。 兄者はやはり厭らしい笑みを浮かべて、クーを見ていた。 川; - )「ぐっ……ぅ」 ( ´,_ゝ`)「そんなに床が好きか、クー。まるで虫の様だな。 鳥に戯れに蹂躙された芋虫のようだ。滑稽だな、クー!」 川メ゚ -゚)(……そうだ。嘲れ。もっと勝ち誇って、油断しろ。 そら、私はこんなにも追い詰められているぞ。お前の手の中で踊っているぞ。 そうだ。もっと、もっと油断しろ。油断に満ちたその喉を、噛み千切ってやる) 川;゚ -゚)「言っていろ……今すぐにでも、その余裕を打ち砕いてやるさ!」 覚束ない足取りで、何とか立ち上がる。 しかしすぐに崩れ落ち、床に荒い息を吐きかけた。 (´<_` )「諦めろ。お前はもう、終わりだ」 川#゚ -゚)「ふざけるな! 終わりかどうかは私自身が決める……! そして私は、お前達を殺すまでは終わらないんだよ!!」 四つん這いの状況から、膝立ちになる。 そしてそこから、表情を苦悶に変えた。 立ち上がりたくても立ち上がれないかのように。 川;゚ -゚)「ぐっ……!!」 (´<_` )(……やはり、解せない) 眼の前。血塗れで、床に膝を着くクー。 肩で息をし、足はもはや言う事を聞かず……それでもなお、彼女は諦めようとはしていない。 足を震わせて何とか立ち上がろうと―――戦い続けようとしている。 彼女を見て、弟者は不快げに眉根を寄せた。 何故、こうも戦える。 復讐の為とは言え、所詮は他人の為ではないか。 他人の為に、何故戦うのだ。 戦いを辞めたところで、自分には何のリスクも生じないではないか。 それどころか、戦いに勝った所で何を得られるわけでもない。 ファーザーは帰ってこない。どうせ復讐の先に残るのは虚しさだけだ。 それはクー自身も分かってる筈だ。 それなのに、こんな血塗れになってまで戦う必要がどこにあるというのだ。 何故、こんな意味のない事に全力になれる。 何が『意地』だ。何が『けじめ』だ。 これはもはや、『意地』なんて生温いものではないだろう。 意味が、分からない。 何が、どんな力が、彼女を戦士として動かしている? ( ´_ゝ`)「弟者」 (´<_` )「……む? 何だ、兄者」 ( ´_ゝ`)「ぼーっとするんじゃない。一応、まだ終わっていないんだぞ」 (´<_` )「あぁ……すまない」 ( ´_ゝ`)「何を考えていた? くだらない事では、ないだろうな?」 (´<_` )「あぁ、それは―――」 その時。 弟者は、見た。 肩で息をする、血塗れのクー。 やや俯いていたその瞳が爛と輝き、刀を握る左腕に力が込められたのを。 (´<_`;)「――――――!?」 凍り付きそうな悪寒が背筋を走り、そして一気に脳に辿り着いて警告を叫ぶ。 彼女の視線は兄者に向けられている。 兄者は弟者に眼を向けていて、クーの微細な動きに気が付かない。 (´<_`;)「兄者!!」 兄者に向けて、走り出した。 それと同時、眼の端で、クーが刀を投擲したのが見えた。 狙い澄まされた刀は真っ直ぐに、兄者の喉元へと突き進む。 兄者は驚愕と戦慄の中で、反応出来ない。 瞬間―――弟者の世界が、スローモーションになる。 己の動きさえも愚鈍になる、緩慢な空気の流れの中、弟者はただ懇願した。 頼む、もっと速く。もっと速く動いてくれ、私の足よ。 クーの刀が、兄者に辿り着いてしまう。間に合わせてくれ。 間に合わなければ、兄者が死んでしまう。 あぁ、あぁ。これじゃダメだ。もっと、もっと速く。 お願いだ。兄者を死なせるわけにはいかないのだ。 兄者を護らねば。兄者を救いたいのだ。この命と引き換えにしてでも―――! 兄者は私の、生きる理由なのだ。 兄者を失っては、失ってしまっては、私は独りになってしまう。 兄者がいなければ、私はただの、どうしようもない人形なのだ。 身体が熱い。頭が熱い。瞳の奥が熱い。心が熱い。 恐怖と不安と焦燥に、表情が歪む。 間に合え、間に合え……間に合わねば!! そして、はたと気が付いた。 これが感情なのか、と。 この感覚が、感情。 クー達を動かしている、不可解なエネルギー。 そして今、自分を動かしている、余りにも熱くて強い力。 あぁ、そうなのか―――。 ようやく、分かった。 少しばかり、遅かったようだが。 肉が裂け、血飛沫が撒き散らされる音が響く。 やけに静かに感じる世界で、兄者の軋んだ声が地を這った。 ( ´_ゝ`)「弟、者……?」 (´<_` )「無事か、兄者?」 応える弟者は、声に混じって血糊を口からどろりと吐き出す。 その上腹部には青い刀が突き刺さり、背中に抜けていた。 弟者は、兄者の身代わりとなったのだ。 (´<_` )「無事なようだな、良かった」 言いつつ、弟者はクーに向けて歩み出す。 兄者はその光景に言葉が出ないのか、驚愕の表情のまま固まっていた。 (´<_` )「なぁ、兄者。私にも、あったよ。感情というものが。 あぁ。何て無駄なものなのだろうな、これは。しかし、悪くない。 私は今、心地良いよ。嬉しいんだ。これは、兄者を護れた事からの『感情』だ」 静かに、止まらない血と共に止まらない言葉を吐く弟者。 その向こう側、クーが地面を蹴ったのを、兄者は視覚する。 (;´_ゝ`)「!! 弟者! クーが来るぞ!!」 動こうとする。が、それを弟者は手で制した。 (´<_` )「ようやく分かったよ。何故 彼らが、こうも戦うのか。 その力がどこから来るものなのか。感情の強さ……心の力の強さというものが。 愛する者の為の復讐の力、誰かを護りたいという力―――あぁ、何て強い力なのだろうな」 腹部に刀が刺さったまま、弟者はクーに相対する。 血の出し過ぎで、弟者の白かった肌は更に青白くなっていた。 筋肉に力を込めても、どこからか抜けて行く。 しかし、弟者は自ずから動いた。 (´<_` )「そして、な。兄者。私は今、想うのだよ」 幾分か遅くなってしまった拳を、それでも連続で打ち込む。 クーはその軌道を完璧に読み、全てを回避し防御した。 まるで先程までの弟者のように。舞うように、華麗に。 しかしそれでも諦めず、弟者は高威力の回し蹴りを叩き込む。 その足を、クーは右腕の異形で防御し――― そして、弟者の腹に刺さっている刀を、捻りつつ抜いた。 眼を覆いたくなるほどの大量の血液が、床にぶち撒けられる。 (´<_,` )「兄者を護りたいとな」 容赦なく、刀が翻る。 一太刀目で胴体が斜めに切り裂かれ、二太刀目で一文字に斬り付けられる。 三太刀目は首を撫で斬りにし、そして四太刀目は――― (#´_ゝ`)「弟者ぁあぁぁあぁっ!!」 弟者には届かない。 兄者が弟者を抱き抱えて、そして、クーから大きく距離を取った為だ。 兄者は弟者を床に寝かせ、上半身だけを抱き抱えて叫ぶ。 (;´_ゝ`)「弟者! 大丈夫か!? 弟者!!」 (´<_`メ)「大丈夫では、ないな」 声は、とことん不明瞭だった。 血が混じり、しかも喉から空気が漏れてしまっている。 兄者は、弟者の身体に眼をやる。 出血量は半端ではなく、しかも止まる気配を見せない。 確実に、どうしようもなく致命傷だった。 弟者の治癒能力を以てしても、治しきれない傷口。 その上、血があまりにも足りない。 血色を失った弟者の顔は―――しかし、穏やかだった。 (´<_`メ)「だが、良い気分だ。兄者を護れたのだからな。 後悔はないよ。知りたい事も知れたし、な」 (;´_ゝ`)「何を馬鹿な事を言っているんだ、弟者!! お前は、まだ―――!!」 (´<_`メ)「良いさ。分かっているんだ。 私は助からない。血を失い過ぎたし、内臓がズタズタ。 それにもう、まともに身体が機能してくれないんだ」 (; _ゝ )「――――――!!」 兄者の顔が、絶望に引き歪む。 それを見て、弟者の表情もごく微細に歪んだ。 どこか寂しそうで、哀しそうに。 (´<_`メ)「ただ心残りなのは、兄者と別れてしまう事だ。 私はとても寂しいよ。あぁ、『寂しい』という感情が胸に満ちている。 私達はいつも共に在り、共に動き、共に戦い、共に生きていたのにな」 ( _ゝ )「……弟者」 (´<_`メ)「……兄者。お願いがある。私が死んでも生きてくれ。 決して私の後など、追わないでくれ。私は、兄者に生きていてほしいのだ。 何の得も、何の意味もない。何故かも分からないが―――兄者には、死んでほしくない」 ( _ゝ )「弟者……!!」 兄者の頬を、一筋の涙が零れ落ちる。 それはそのまま弟者の頬に落ちて―――弟者の瞳から溢れていた涙と、混じり合った。 弟者の流した涙は、何の涙なのだろうか。 ―――残念ながら、その答えが分かる事は永久にない。 兄者は弟者の身体を、強く抱き締める。 元々低い体温が、更に冷たくなっていた。 血が流れ過ぎてしまったのか、身体が哀しいほどに軽い。 まるで、この腕を抜けて消えてしまいそうなほどに。 だからこそ、重かった。この心を、押し潰してしまいそうなほどに。 (´<_`メ)「兄者……約束してくれ。 生きてくれ。そして、出来るだけ早く、悲しむのを辞めてくれ」 ( _ゝ )「…………………」 (´<_`メ)「兄者」 ( _ゝ )「……分かった。約束、しよう。 私は、お前の分も……」 (´<_`メ)「……む。口約束では、どうも心許無いな」 ふいに、弟者の腕が持ち上がる。 力無く、僅かに震える血塗れのその手は、小指だけが立っていた。 (´<_,`メ)「指切りでもしようか。口約束には変わりないが、な。 さぁ、兄者」 ( _ゝ )「…………………」 頷いて、兄者も手を持ち上げる。 その手もまた、細かく震えていた。 小指が、絡み合う。 慣れた筈の血に濡れた感触が、どこまでも悲しかった。 ( _ゝ )「約束しよう。私は、お前の分まで、出来る限り生きると」 (´<_,`メ)「それで良い。ありがとう、兄者。 私は兄者の弟で、心底嬉しいよ。 残す形になってすまない。じゃあ、さようならだ」 息を吐くように言って――― そして、弟者の手から、力が抜けた。 絡んでいた小指は血で滑り、すとん、と床に落ちる。 ( _ゝ )「……弟者」 呼びかけに、弟者は応えない。 ただ満足そうな笑みを浮かべたまま、完全に沈黙していた。 首に手を当ててみる。 鼓動はなく、血液だけがだらしなく流れていた。 ( _ゝ )「…………………」 弟者の身体を床に寝かせ、兄者はすっと立ち上がる。 そして大きく息を吸うと――― (#゚_ゝ゚)「うぅぅぅうううぅぅぁぁあああぁあぁぁああああぁああああぁあぁああぁぁあぁあああぁあああぁあぁあぁ!!」 溢れんばかりの悲しみと怒りに満ちた絶叫。 そして響いたのは―――凄まじい異音。 音の元は、兄者の足。 解放されていたその足が、更なる解放を始めていた。 異形に変化する部位は足の付け根まで伸び、そして異形の度合いも進化する。 足の筋肉が異常に発達し、そして金属質の皮に包まれた。 足全体から鋭利な刃のようなものが生え、膝からは巨大な刺のような物が突出。 爪は長く鋭くなり、足の裏にはスパイクが生え揃う。 化け物のようなその様相に、クーは息を呑んだ。 しかし――― 川メ゚ -゚)(……惨めだ) 涙を流しつつ絶叫するその姿は、どこまでも惨めで、哀れな化け物だった。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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