三十八章五('A`)「おーおー、何やら大変な事になってんな。お前も兄者も」 川メ゚ -゚)「! ドクオ。無事だったか」 ('A`)「間違っても、無事じゃあねぇな。 見れば分かるだろうがよ」 気の抜けた声を漏らしつつ、クーの隣に並ぶドクオ。 しかし声とは裏腹に、闇を湛えたその瞳はどこまでも鋭く、咆哮する兄者を睨みつけている。 異能の“力”が宿ったその瞳には、兄者がどう映ったのか。 ドクオはただ苦々しげに、一つ舌打ちをした。 川メ゚ -゚)「ドクオ、その左腕は……」 ('A`)「あぁ、これか。ミンナの野郎をぶちのめす時に、何か変形した。 おそらくは、今の兄者のあの足と同じ状況だ」 川メ゚ -゚)「そうか」 ('A`)「あそこに転がってる白いのは弟者、だな? 片方は仕留めたのか。……なら、アレが最後の壁か」 川メ゚ -゚)「そうだ。気を抜くなよ」 ('A`)「抜きようがねぇよ。気ィ抜いたら、そのまま気ィ失っちまう」 川メ゚ -゚)「好都合だ。なら、全力で兄者に当たろうじゃないか。 お互いに疲れている。さっさと終わらせよう」 ('A`)「あいよ」 ドクオは首の骨を鳴らすと、左腕を前に構え、クロを握る右腕に力を込めた。 隣のクーも、右腕を構え、そして左手の『氷華』を腰高に構える。 それに合わせたかのように、兄者の咆哮が止んだ。 兄者は俯き、両腕をだらんと力無く垂らし―――しかし全身から濃密な殺意を漲らせる。 その時、部屋を一陣の風が抜けて行った。 不自然なほどに強いその風に、クー達は不振さを覚え―――そして第二の風が頬を弄っていく。 川メ゚ -゚)「何だ?」 風は尚も、続けて部屋を吹き抜けて行く。 どんどんと強さと数を増やして。 やがて、ドクオが気付いた。 彼の眼が捉えたのは、風の流れ。 ('A`)「……風が、兄者に集束している」 その言葉で、クーも気付いた。 先程から吹いている風は、全て兄者に向かっている風であったと。 そして――― ('A`)「!!」 部屋を、荒れ狂う豪風が侵略した。 ドクオ達の髪と服が強くはためき、破壊された床の破片が舞う。 その中で、俯いた兄者だけが静謐を保っていた。 髪も服も、僅かたりとも動かない。 ('A`)「……あいつ、竜巻を作り出してやがる……!」 豪風を作り出しているのは、兄者の周囲に展開された竜巻。 それはどんどんと強さを増していって――― (#゚_ゝ゚)「!!」 兄者が顔を上げると同時。竜巻が風の刃を纏う。 そして一瞬。これまでとは比にならないほどに巨大な風の刃が放たれた。 ('A`)「―――避けろ!!」 二人同時に、弾けるようにして離れる。 直後、彼らの立っていた床が深々と切り裂かれ、そして爆ぜた。 砂煙と床の破片が宙を舞い、竜巻は更に勢いを増して部屋を蹂躙する。 川;゚ -゚)「な、何だ、この“力”は……。 規格外だ。本物の化け物か、ヤツは」 ('A`)「そうなんだろうよ! それよりも、来るぞ!! 阿呆みてぇな量の風の刃だ! 死ぬんじゃねぇぞ!!」 川;゚ -゚)「……あぁ!」 聴こえる高音は、風が起こす微かな風切り音だ。 風が風を切るとは、何と滑稽だろう。何と、馬鹿げた力であろう。 そして一瞬、部屋から音が消えて――― (#゚_ゝ゚)「オォォォォオォオォォオォァァアアアァァアアァァアァァアアァッ!!」 甲高い、耳が痛くなるほどの風切り音が部屋を埋め尽くす。 そして竜巻から連続して撃ち放たれる、風の刃。 数は無数。速度は最高。サイズは最大。 壁や床、天井すらも削り取って、風の刃は二人に襲いかかる。 まるで嵐のように。 川;゚ -゚)「なっ―――!?」 ('A`)「驚いてる暇があんなら対応しろ!!」 叫びつつ、ドクオは飛び来た風の刃を左腕で粉砕。 しかし間を置かず、複数の刃が続いて飛来した。 ('A`)「チィッ!!」 聴覚と視覚で、風の位置と流れを瞬時に把握。 同時に大きくバックステップする。 一瞬。目の前の床がズタズタに引き裂かれ、そして弾け飛んだ。 ('A`)「……なるほどな。文句ナシのバケモノだ。 半端じゃねぇ」 風の位置を掌握し、それを左腕で防御しながら、足は少しずつ後退していく。 瞳は風の流れを視つつ、兄者を観察した。 ('A`)「……風が切れる兆候はなし、か。風の刃は生み出され続けてるし、竜巻は依然、勢いを強めている。 それでいて、嫌になるほど安定している。安定して、勢いを強めている。 つまりこうしてるばかりじゃ、こちらはジリ貧だ。打ち破るどころか、見動きすら出来なくなる」 腰の高さを横薙ぎに抜けて行く風の刃を、転がって回避する。 起き上がりざま、腰からギンを引き抜いて左手に構え、ドクオは呟いた。 ('A`)「こちらから、崩しにかかる必要があるな」 そして、連射。 しかし放たれた黒と銀の銃弾は風の刃に砕かれ、かろうじて竜巻に到達した銃弾も、まもなく粉砕される。 ('A`)「しかし銃では、強さが足りない。速さも。かと言って―――」 左腕で顔面を庇いつつ、後方へ跳んだ。 直後。その腕で刃が砕け、ただの風となって霧散する。 ('A`)「無闇な接近は死を招く。となれば」 左腕で身体を護りつつ、旋回。 それによって、迫っていた複数の風の刃が破壊された。 同時に、ドクオは駆ける。 破砕音の響くところ―――クーの元へ。 ('A`)「クー!」 川;゚ -゚)「―――ドクオか!」 クーは、無数の風の刃に悪戦苦闘していた。 当然だ。ドクオと違い、彼女には襲い来る風刃を感知するような特別な能力はない。 しかしそれでも、苦戦しながらとは言え、彼女は生きていた。 身体には紅い線がまた増えているが、どれも致命傷には至っていない。 ドクオは改めて、彼女の戦闘能力の高さを認識する。 そして僅かに、心の奥に畏怖のようなものを感じた。 ドクオはクーの元に辿り着くと、彼女に襲いかかっていた風の刃を粉砕する。 そして彼女を護るかのように前に立つと、背後のクーに告げた。 ('A`)「クー。お前の“力”を貸せ。 あの竜巻をどうにか出来ないか? っていうかどうにかしろ」 川;゚ -゚)「……無理を言うな、お前は。 しかしどうやってだ。あの竜巻の耐久度の高さは異常だぞ。 氷塊をいくら喰らわせても、びくともしない」 ('A`)「あぁ、そうだな。じゃあ、無理に竜巻をどうこうせずとも良い。 兄者を、どうにかしろ」 ちらり、と兄者の方向に眼をやる。 床の破片やら粉塵やらを巻き込んだのか、竜巻は幾分か砂色を帯びていた。 その為に兄者の姿ははっきりとは見えない。 川;゚ -゚)「どうやってだ?」 ('A`)「お前、床から氷の柱みたいなの出せたろ。アレを」 川;゚ -゚)「……兄者がしっかりと見えていないから、確実には当てられんぞ。 しかも距離が遠すぎて、威力の高いものは作れない。 それにあいつの戦闘能力だ。間違いなく仕留められん。避けられるだろうさ」 ('A`)「良いんだ。兄者を仕留めろと言うんじゃない。 動かしてくれれば、それで良い。 この状況に、何か変化が起きれば、それで」 川;゚ -゚)「兄者を、動かせれば?」 ('A`)「あの竜巻も、流石に動く兄者について行くなんてハチャメチャな仕様はないだろうよ。 兄者を動かせれば、あの竜巻は消えるかもしれない。 ―――可能性は低くないし、やってみる価値はある」 川メ゚ -゚)「……なるほどな。良いじゃないか。乗ろう」 ('A`)「決まりだな。じゃあ、行くぞ。 俺が走り出したら、お前は俺の後ろについて走れ。俺が、前方の風の刃を粉砕していく。 ある程度接近したら、竜巻の中のあいつの足元から、出来る限り威力の高い氷の柱を生やせ」 川メ゚ -゚)「把握した」 ('A`)「じゃあ―――行くぞ!!」 咆哮と同時、駆ける。 己の前方向に意識を集中させ、迫り来る風の刃は左腕で砕きながら。 ('A`)「づっ―――!!」 近付くにつれ、刃による攻撃も熾烈になる。 砕き切れなかった刃が身体を切り裂いて、ただでさえ最低限の量しか残っていなかった血液をぶち撒けた。 しかしそれでも、足は止まらない。 止められる筈もない。 ここで足を止めてしまえば、終わってしまうから。 あの、平凡な日常に戻る為に。 最高の仲間達と、自分を待ってくれている親友と、また笑い合う為に。 足を止めるわけには、いかない。あそこに、帰らねば。 帰る為に、命を捨てる覚悟はした。 仲間を護る為に、敵を殺す覚悟もした。 生きる為に、傷付く覚悟もした。 勝つ為に、冷酷な自分を捨てる覚悟もした。 あとは、眼の前の障害を、叩き潰すのみ! (#'A`)「っるぅぅぁああぁっ!!」 一際巨大な風の刃を、左腕の裏拳で粉砕する。 そこで彼の背後から、彼の名を呼ぶ声。 川メ゚ -゚)「ドクオ!!」 (#'A`)「あいよ!!」 唐突に、横方向へと跳んだ。 それとほぼ同時に、クーがその右腕を兄者に向けて跳ね上げ――― 川#゚ -゚)「お前も弟者に続け、兄者!!」 竜巻の中、床が砕かれる音が響く。 そして、一瞬。 川;゚ -゚)「!!」 烈風。 身体が吹き飛びそうなほど強烈な風が吹いて―――そして竜巻が、霧散した。 川メ゚ -゚)「! やったか!?」 しかし、そこで彼女は眼を疑った。 消えた竜巻の中、兄者の姿はない。 彼の姿は、竜巻と共に消えていた。 川;゚ -゚)「!? どこに―――」 眉根を寄せ、呟いた。 その瞬間。 (;'A`)「クー!! 退け!!」 表情を焦燥に変えたドクオの、咆哮。 ほぼ反射的にクーは大きくバックステップを踏んで――― 直後。 眼の前の空間が、爆砕した。 川メ゚ -゚)「――――――」 そう、それはまさに爆砕であった。 まるで火薬を使ったのかと思うような爆音、そして破壊。 捲き上がる床の破片、砂埃。 しかし眼の前にあるのは、火薬や爆弾などではない―――そんな生温いものではない。 異能者。両足を異形とし、風すらも操る、異形の者。 兄者。弟を失い、己を失った鬼。悪魔。 その濁りきった光のない瞳が、彼女を捉えた。 まるで蛇に睨まれた蛙のように、身体の自由が利かなくなる。 川;゚ -゚)「は……」 (#゚_ゝ゚)「弟者を、殺したな。弟者、を。 お前が、弟者を。弟者を。弟者を! 弟者を!!」 白い右腕が跳ね上がり、彼女の首を掴む。 同時に足払い。クーは体勢を崩して、床にその身を横たえた。 クーを引き倒しても、兄者は彼女の首から手を放さない。 更にその腕に力を込め、体重をかける。 細い彼の腕は、しかし驚くべき膂力で、彼女の首を締めあげた。 川; - )「が……か、は……!!」 (#゚_ゝ゚)「許さん。お前も死ね」 めりめり、と音を経てて、彼の指が彼女の首に陥没していく。 彼女は必死で彼の手を引き剥がそうとするが、敵わなかった。 右腕でどうにかしようとも考えたが―――右腕を動かそうとした瞬間に、兄者の脚が右腕を踏みつける。 動かす事は、許されない。抵抗の手は封じられた。 (;'A`)「ちっ!!」 舌打ちを漏らしつつ、ドクオは右手のクロの、銃把上部にある突起を押し込んだ。 空気が抜けるような音が響き、クロに備えられたギミックが稼働する。 そしてドクオは、若干硬くなったトリガーを引き絞った。 響くは爆音。撃ち放たれる銃弾は、どこまでも速く強い。 (#゚_ゝ゚)「!」 黒い銃弾は、クーの首を締め上げる兄者の前腕に命中。 肌を穿ち、筋肉に喰い込み、骨を粉砕して抜けた。 首を絞める右腕から、力が抜ける。 その隙にクーは兄者の腹を蹴り上げ、彼の身体を浮かせると、立ち上がって跳び退った。 その息は荒く、首に残った指の痕は痛々しい。 川;゚ -゚)「げ……っほ。ありがとう、ドクオ。助かった」 (;'A`)「気を休めるな。まだ全然、助かってねぇよ」 戦慄の汗を流しつつ、ドクオは前方を睨みつける。 兄者は右腕を撃ち抜かれつつも、動揺などしていなかった。 表情は悲しみの片鱗が見える、憤怒と憎しみの表情のまま。瞳は虚ろ。 傷を痛がる事もなく、だくだくと血を垂れ流しながら、彼は立ち竦んでいた。 虚ろな瞳をして、痛覚を持たない―――まるで彼は、弟者のようになっていた。 (;'A`)「こんっ……のバケモンめ!」 再度、クロの銃把の突起を押し込み、銃口を兄者の頭蓋にポイントする。 そして間髪置かず、発砲。 だが。 黒い銃弾は何も捉える事なく抜ける。 兄者の姿は、掻き消えていた。 いや――― (;゚A゚)「――――――ッ!!」 ぞくりと背中を走った怖気と、ほんの僅かに鼓膜を振るわせた空気の流れから、ドクオは前へと身を投げ出す。 その背中を掠るようにして、背後から異形の足が振り下ろされた。 脚の突起が僅かにかかったのか、背中は浅く長く引き裂かれ、血飛沫が踊る。 (;゚A゚)「いつのまに……!?」 大きく後退しつつ、呟く。 狼狽していると、自身でも分かった。 この眼が、捉えきれなかった。 どれだけの速さだというのだ。 (#゚_ゝ゚)「死ね」 大きく一歩を踏み出して、足を跳ね上げる。 ドクオは左腕でそれを防御―――そして、腕を伝わってきたあまりにも重い衝撃に息を呑んだ。 川#゚ -゚)「貴様が死ね!!」 彼の背後から、クーが右腕を袈裟掛けに振るう。 しかし兄者は即座に対応。後方に回し蹴りを放ち、彼女の腕を弾き飛ばした。 川;゚ -゚)「ちぃっ……!」 舌打ちしつつ、彼女は刀を振るおうとして―――その顔が、兄者の裏拳で殴り飛ばされる。 僅かに上体が浮き、その隙に、返る拳が再度彼女の頬を打った。 川;゚ -゚)「速い―――!?」 言葉は後方に流れる。 後退したわけじゃない。兄者の掌底が胸を捉え、吹き飛ばされただけだ。 低い呻きを漏らして、その身を床で跳ねさせる。 兄者は間を置かずして接近、異形の足を彼女に振り下ろした。 川;゚ -゚)「くっ……!!」 転がって回避。 同時に床を右腕で殴りつけ、その勢いを利用して立ち上がる。 そこで最初に取った行動は、右腕を盾にする事。 一瞬を置かずしてその右腕に脚が叩きつけられ、弾き飛ばされた。 即座に後退し、流れる動作で再度、腕を防御の形で構える。 ほぼ同時。またもその腕に、足が叩き付けられた。 腕が一瞬でも遅ければ、その時点で勝負は決していただろう。 クーは呻きを漏らして、再度後退。 兄者も同じように接近のステップを踏んで―――そこで突如、身体が旋回。 後方に向けて上段回し蹴りを放つ。そこで金属音を奏でたのは、異形の黒い左腕だ。 (#゚A゚)「っらぁぁあぁ!!」 草色の足を上方へと弾き、そして、その腕を全力で振り下ろす。 (#゚_ゝ゚)「!!」 兄者は咄嗟に大きくバックステップ。 一瞬。黒い腕が兄者の前髪を数本引き千切って抜けた。 そして、腕はそのまま床に叩き付けられた。 床はいとも簡単に内側へ拉げ―――凄まじい量の破片と粉塵を巻き上げる。 更なる解放をしたドクオの腕は、兄者の脚に負けぬだけの力をそこに持っていた。 ドクオはその体勢から、右腕のクロを跳ね上げる。 即座、連射。狙いを定めるという行為すらしない。 ただ当たれば良いというように放たれた銃弾は、しかし兄者が放った風の塊によって全て弾き飛ばされる。 いや。正確には、一発の銃弾が右の肩に黒点を穿った。 しかしそれはまるで意味を為さない―――彼は銃弾のダメージがないかのように、反応を示さない。 (#゚_ゝ゚)「邪魔だぁああぁぁあぁっ!!」 床に左腕を食い込ませたままのドクオに、兄者は躊躇なく足を振るう。 ドクオはそれを、筋肉の微細な動きから予測していたのか、上体を反らせるようにして回避。 そのまま腕を床から引き抜き、立ち上がって後退した。 だが―――気付く。 (;゚A゚)(さっきよりも、速くなってやがるだと……!?) そう。兄者のスピードが、上がっている。 更なる解放をしてから、尚。少しずつだが、際限なく。 何故だ? ―――その答えは、すぐに分かった。 (;゚A゚)「…………………ッ!!」 眼の前。 生気の光を失って、混沌に濡れた兄者の眼。 そこにあるのは漠然とした、しかし溢れんばかりに限界まで詰まった負の感情。 理性はない。自身を抑えようという意志も。 ただ怒りと憎しみと殺意―――そして、悲しみがない交ぜになった混沌だ。 兄者は、抑えようという意志を放棄している。 いや、それどころか。我らを殺す為に、限界以上にありったけの“力”を引き上げようとしている。 つまりは、リミッターを失った“力”が、その想いに応えたという事なのだろう。 また更に速さを増した脚が、跳ね上がる。 ドクオは顔を僅かに横にずらして回避。 それでも脚が纏っていた風が脳を揺らし、頬を浅く切り裂いて血煙を上げた。 (#゚A゚)「このッ……!!」 川#゚ -゚)「化け物め!!」 二人の咆哮が、重なった。 ドクオは右腕のクロを構えつつ、左腕を下方から跳ね上げる。 クーは左腕の氷華を旋回の動きに乗せて横薙ぎにし、そして遠心力を身に付けた右腕を裏拳で放った。 (#゚_ゝ゚)「おぉぉおぉぁぁあぁぁあぁっ!!」 しかし。 兄者はそれすらも、対応してみせた。 跳ね上がったドクオの左腕を、全力を込めた踵落としで叩き落とす。 力はそれぞれ逆向きに働き、互いを弾き飛ばした。 兄者の足は上方へと跳ね上がり、ドクオの腕は床へと叩き落とされ、床を砕く。 舞い上がった砂色の粉塵を横に切り裂く、青い一閃。 兄者はそれを、前腕を砕かれた右腕で受けた。 右腕は前腕の途中から酷く歪に折れ曲がり、更に半ばまで青に切り裂かれる。 そして続いて迫り来る、青の右腕での裏拳。 それに対するは兄者の回し蹴りだ。 威力を増した兄者の足に、クーの腕は弾き飛ばされた。 (#゚A゚)「チィ―――ッ!!」 構えていたクロを、連射する。 兄者はやや体勢が崩れていた為に、黒の弾丸はほとんどが命中。 身体の各所に黒点が生まれ、紅の奔流が踊った。 しかし、兄者の動きに停滞は一切ない。 加速する。どんどんと、際限なく。 速度も、憤怒も、憎悪も、狂気も、殺意も、悲愴も。 加速する。 己の身が壊れ行くのにも、構わないで。 (#゚_ゝ゚)「死ね。死ね。死ね。死ね死ね。死ね死ね死ね。死ね! 死ねぇぇえぇ!! 弟者を殺した貴様等は許さん!! 死を以てその罪を購え!!」 (#゚A゚)「知るか!! そんなに弟者が好きなら、さっさと会いに行っちまえ!!」 叫びつつも、ドクオはまた、後退と防御を選択していた。 いや、そうせざるを得なかった。 兄者の速度は、それだけ速くなっていた。 単純な攻撃の速さに加え、“力”は両足だ。 “力”が左腕のみのドクオには、眼と耳を以てしても、防御が精一杯だった。 川#゚ -゚)「弟者が死んだのは、お前の油断のせいだ!! 憎むのなら自分を憎むんだな、兄者ァ!!」 くないのように鋭く尖った氷塊を投げ付けつつ、右腕を振るう。 しかし氷塊達は、ほとんどが兄者が起こした風の波に弾き飛ばされた。 数本のくない型氷塊は兄者にその刃を突き立てたが、やはり反応は皆無だ。 振るった右腕は、跳ね上がった足によって弾き飛ばされる。 クーは素早くその腕を引き戻し―――そしてやはり、防御の選択を取ってしまった。 取らざるを得なかった。 (#゚_ゝ゚)「クー……!! 貴様が、貴様が―――貴様が弟者を殺した!!」 川#゚ -゚)「あぁそうだ! 殺し合いの中で、あいつが敗け、死んだ!! それがどうしたと言うのだ!? 私達がやっているのは殺し合いだぞ!! どちらかが勝利し、どちらかが敗北する!! どちらかが生存し、どちらかが死亡する!!」 加速する兄者に合わせ、何とか防御し続ける。 しかし段々と、その防御すらも危うくなってきた。 それでもクーは、言葉を叩きつける。 川#゚ -゚)「失うのがそんなにも怖いなら、何故貴様等は戯れに奪う側に立った!!」 (#゚_ゝ゚)「黙れぇええぇえぇえぇっ!!」 一際速度を増した前蹴りが、縦に構えられたクーの右腕を真正面から捉えた。 クーの身体は吹き飛び、壁にぶつかって止まる。 川;゚ -゚)「がっ……!」 咳混じりの息を吐くと、口からおびただしい量の血液が滴り落ちた。 その塊を床に吐き捨てると、クーは壁を支えにして立ち上がる。 視線の先では、ドクオが兄者に飛びかかっている最中だった。 (#゚A゚)「おぉおおぉおっ!!」 疾駆から跳躍し、ありったけの勢いを込めて左腕を振り下ろす。 兄者は旋回し、遠心力を身に付けた足を思い切り跳ね上げた。 激突。 壮絶な火花が弾け飛び、そして行き場を失った力が互いを弾き飛ばす。 左腕を上方へと弾かれたドクオはその勢いを利用して、後方に宙返り。 着地と同時に限界まで体勢を低くし、駆ける。 そのほんの数センチ頭上を、残像しか残らない脚が抜けた。 それとほぼ同時に、低い体勢から跳躍。その左腕を、裏拳の形に握り締めながら。 左腕は真っ直ぐ、視覚出来ない速度を以てして、兄者の頭蓋へと跳ね上がる。 しかし――― (#゚A゚)「……ち」 その腕は一瞬で引き戻された。 直後、頭蓋を護るように構えられたその左腕に、草色の足が激突する。 腕を引き戻していなければ、頭蓋が蹴り砕かれていた。 振るわれた兄者の脚は、跳ね上がった自分の腕よりも、若干速かったのだ。 ―――いや、速くなってしまったのだ。 (#゚A゚)「このッ―――!!」 放たれた脚を旋回して後方へと流し、踏み込み。正拳を放つ。 しかしその拳は、横薙ぎの脚によって正面から受け止められた。 脚を引き戻すのも、やはり速いのか。 歯を噛み締めるのと、同時。 (;゚A゚)「ッ!?」 左腕に重み。 兄者が、足を無理矢理に横薙ぎにしようとしてきていた。 (#゚A゚)「力比べってか……!」 こちらも負けじと、左腕に全力を込める。 しかし――― (; A )「――――――!?」 吹き飛ばされる。 限界すらも超えて“力”を求めた兄者の足は、もはやドクオの腕ですら均衡を保てなかった。 大きく宙に放物線を描き、床で跳ねて転がる。 ようやく動きを止め、呻きを漏らしつつ立ち上がったところは、クーの隣だった。 川;゚ -゚)「ドクオ!」 (;'A`)「大丈夫だ。いや、大丈夫ではないが―――まだ、死なないで居られる」 彼らの視線の先、兄者は立ち尽くしていた。 茫とした瞳は不気味に床を捉え、口は呪詛の言葉を吐き散らしている。 (;'A`)「しかし、どうする。あの化け物は」 川;゚ -゚)「…………………」 (;'A`)「攻められない。決定打が与えられない。 本格的に攻めの姿勢を取ってしまうと、防御が遅れて殺されかねない。 どれだけ隙を見付けようと、どれだけ攻撃的に戦おうとしても、奴の速さは全てを無にしちまう」 (;'A`)「しかし防御ばかりでは、戦いは終わらない。 ―――いや、終わる事は終わる。敗北し、死ぬのは俺達の方だが。 勝つ為には、攻めなきゃならない。が、奴の速さの前に、攻められない」 川;゚ -゚)「防御しか出来ず、攻められない……か」 そこで、クーの脳裏に一つのビジョンが浮かんだ。 それは先ほどの、流石兄弟との戦闘。 兄者が攻めの主軸となり、弟者が兄者の隙間を埋める―――。 川メ゚ -゚)「……なるほど。その方法があったか。 ドクオ。あったぞ。護りつつ、攻める手が」 ('A`)「……あ?」 川メ゚ -゚)「ドクオ、こうしよう。私達のどちらかが攻め手を。どちらかが、護り手を。 攻め手は最低限の防御だけして、兄者への攻撃に集中する。 護り手は自分と攻め手を、兄者の攻撃から護る。攻め手の隙を埋める役割だ」 ('A`)「……役割の分担か。なるほど、確かに攻守の両方が可能だ。悪くはない。 だが、問題は手数。この状況下で、攻撃の手数を減らして良いのか? 二人で畳みかけるように攻めるって方法よりも、そちらの方が上策か?」 川メ゚ -゚)「あぁ、そうだろう。現に私達はこれまで二人で攻め続けて、兄者に決定打を与えられていない。 二人での同時攻撃も試みたが、それですら兄者に届かなかった。 どうせこのまま戦っていればアウトだ。この策に、賭けてみないか?」 クーの言葉に、ドクオは考えるように手を顎に当てた。 そして、数秒。 ('A`)「……あぁ。良いだろう、乗った」 頷き、口端を僅かに釣り上げた。 それにクーも頷き返して、言う。 川メ゚ -゚)「ありがとう。では、攻め手は……」 ('A`)「お前がやってくれ。俺の“力”は、どちらかと言えば防御向きだ。 それに俺は、展開の速いガチガチの近接戦闘は嫌いなんだよ。 だから、俺が護り手をやる」 川メ゚ -゚)「あぁ、適役だと思う。私の隙を、埋めてくれ。頼んだぞ。 じゃあ―――」 ( ゚A゚)「あぁ、行こう」 二人の足が、同時に前進の一歩を踏み出した。 その動作がスイッチだったかのように、俯いていた兄者の顔が跳ね上がる。 (#゚_ゝ゚)「――――――死ね」 ぼそりと呟き、そして彼は脚を跳ね上げた。 振りに一瞬遅れて巨大な風の刃が発生し、駆けるクー達に迫る。 (#゚A゚)「っらぁ!!」 それに対して、ドクオが僅かにクーの前に出る。 そして、左腕を横薙ぎ。風の刃は脆くも砕け散り、クーは速度を落とす事なく兄者との距離を詰めきった。 (#゚_ゝ゚)「チ―――」 川#゚ -゚)「ハァッ!!」 勢いに乗せて、刀を唐竹割りに振り下ろす。 しかし兄者はそれを、後方に一歩退いて回避。 刀は青い軌跡を残して振りきられ、クーに隙が生まれる。 間髪置かず、兄者は踏み込み。 そして刀を振り下ろした体勢のクーに向け、前蹴りを放った。 しかしそこで響いたのは、壮絶な金属音だ。 (#゚A゚)「そう簡単には殺らせねぇよ」 草色の脚が捉えたのは、横合いから伸ばされた黒い左腕。 兄者は怒りに表情を歪ませ―――しかし、後退する。 そしてその姿を追うようにして、青い軌跡が空を斬り裂いた。 横薙ぎの形の斬撃は、兄者の服の腹部を切り取って抜ける。 二人が同時に舌打ちを漏らした。 兄者は一瞬でクーに接近。 そしてクーの頭蓋を吹き飛ばそうと脚を跳ね上げて―――やはり、ドクオの腕によって阻まれる。 (#゚_ゝ゚)「邪魔だぁぁッ!!」 咆哮。脚に力を込めて、ドクオの腕を蹴り飛ばす。 そしてそのまま、ドクオに脚を振り落とそうとして――― 川#゚ -゚)「ああぁああぁあぁああぁぁああぁっ!!」 (#゚_ゝ゚)「!!」 ドクオの背後から、クーが踏み込んできた。 左腕に携えた氷華は既に構えられ、そして兄者は回避の体勢を取れていない。 青い刃が、跳ね上がる。 (#゚_ゝ゚)「ぐっ―――!!」 切り上げた氷華の切っ先は、後退しようとした兄者の額に浅く長い線を刻んだ。 細い線からは零れるように血が溢れ、僅かに顎を上げた兄者の眼が、怒りに細められる。 クーは更に踏み込んで、刀を唐竹割りに振り下ろした。 しかしその刃は兄者に蹴り弾かれ、そこに生まれた隙に、翻った脚が襲いかかる。 だが紙一重のところで、やはりその脚は止められた。 滑り込むようにして間に入ったドクオの、左腕の前腕によって。 (#゚_ゝ゚)「邪魔だ……!!」 (#゚A゚)「そりゃどうも。こっちは、邪魔をする為に居るんでね」 腕を蹴り弾き、しかし攻撃を加える事なく大きく後退。 視界の隅に映ったクーが、眼を光らせていた。 ドクオに攻撃しようとすれば、その隙に攻撃を放っていただろう。 (#゚_ゝ゚)「ふんッ!!」 後退に使ったその脚で、そのまま床を蹴って前進。 離れた距離は一瞬にして埋まり、兄者は勢いを乗せた回し蹴りを放った。 そのターゲットはクーではなく、ドクオだ。 (#゚_ゝ゚)「邪魔者から消してやる!!」 (#゚A゚)「やれるもんならな!!」 迫り来る脚を、左腕の全力を以てして殴り付ける。 力は正面から衝突し、双方の得物を後方へと弾き飛ばした。 兄者はそのまま逆方向に旋回、衝撃による勢いを利用した後ろ回し蹴りを叩き込む。 ドクオは腕を弾かれると同時にしゃがみ込み、その後ろ回し蹴りを回避。 しかし立ち上がる間もなく、上方から踵落としが放たれた。 横方向に転がって回避。すぐ隣で床が砕かれるのを感覚で感じ取りながら、流れる動作で立ち上がる。 姿を追ってすぐさま跳ね上がった脚を、ドクオは左腕で受け、その衝撃を利用して右に跳んだ。 兄者はすぐさまその姿を追い――― (#゚_ゝ゚)「死ねぇええぇぇえええぇぇぇぇええぇっ!!」 横薙ぎに振り抜いた脚は、止められる。 構えられたドクオの左腕、その掌に。 そしてその足首が、握り締められた。 (#゚_ゝ゚)「なっ――――――!!」 (#゚A゚)「受け止められた事が驚きか? はっ、そりゃあ衝撃を逃がしてやれば受け止める事も出来るだろうがよ。 テメェの力を過信し過ぎだ」 ドクオの背後、床を強く叩く足音が近付いてくる。 ドクオはその足音を聞いて、兄者の脚を捕まえたままに叫んだ。 (#゚A゚)「殺れ、クー!!」 川#゚ -゚)「あぁ!!」 ドクオの影から飛び出たのは、クー。 その凍りつくほどに鋭い瞳は兄者の心臓を捉え、異形の右腕は既に引き絞られている。 (#゚_ゝ゚)「クソッ―――!!」 身を引こうとするが、出来ない。足首が捕まえられて、逃げられない。 だから兄者は咄嗟に、右腕を差し出した。 前腕を砕かれ、半ばまで切り裂かれていた右腕を。 鈍い音が響き、粘着質な液体音が爆ぜる。 兄者の右腕によって、クーの右腕は狙いを僅かに外した。 心臓のすぐ隣、脇腹を削り取っていくのみ。 それでも大量の血煙が踊り、兄者の身体が大きく揺れる。 それでも兄者はすぐに、ドクオの腕を足から無理矢理に外す。 そして、後退。 (#゚_ゝ゚)「はぁッ……はぁ―――!」 削られて血が滴る脇腹に、右腕を伸ばす。 しかしその右腕に、肘から先は存在しなかった。 (#゚_ゝ゚)「チィィッ……!!」 舌打ちに、床に何かが落ちる鈍い音が重なった。 それは右腕。千切り飛ばされた、兄者の右腕だ。 丁度クー達と兄者の間に落ちた腕を、クーは冷酷な瞳で見下ろす。 そしてその視線は憤怒に歪む兄者の表情に移動して――― 川メ゚ -゚)「―――どうした、兄者。攻められていないぞ。 先程のように、隙を見て攻めてみれば良いじゃないか。 まぁどうせ、ドクオに防がれてしまうのだろうがな」 先程、兄者がクーに言い放った言葉を、そのまま返した。 ( ゚_ゝ゚)「…………………」 一瞬、兄者の顔から表情というものが消えて――― (#゚_ゝ゚)「貴様ァァアアァァァァアアァァアァァアアアァッ!!」 激怒へと変わり、咆哮する。 それを見て、クーは内心に歓喜と戦慄を同時に抱いた。 これで完璧に、兄者は冷静さを失った。しばらくはまともな思考すら出来ないだろう。 戦闘において、冷静さを失うのは危険だ。それこそ、油断するのと同じくらいに。 しかし冷静さを失ってしまえば、今の兄者はどうなるだろうか。 もしかすれば、更に心のタガが弾け飛び、“力”による攻撃が激化するかもしれない。 現状でも、兄者の速さは十分に脅威だ。これ以上に速くなれば――― これは、失策だったかもしれない。 (#゚A゚)「クー」 声に、ドクオを見る。 彼は異形の左腕を軽く掲げると、口の端に僅かな笑みを乗せた。 (#゚A゚)「良い挑発だ。それで良い。 お前の言った通り、あいつの攻撃は可能な限り全て防いでやる。 だからお前は、あの猪野郎の息の根を速く止めてくれ。俺が持たなくなる前にな。……頼んだぞ」 そしてドクオは、クーの前に飛び出す。 同時、兄者の足元の床が粉砕。 一瞬。ドクオの左腕が裏拳の形で跳ね上がり、そこに兄者の踵が落とされた。 (#゚A゚)「っるぅぁああぁッ!!」 弾き飛ばす。 しかし脚はその先で、突如方向を転換。 あり得ない軌道を走って、異形の脚は横薙ぎに空を切り裂いた。 ドクオはその動きを読んでいたのか、既に左腕を縦に構えている。 全身は来る衝撃に身構え、五感は限界まで鋭く高められ――― (;゚A゚)「!?」 その時、ドクオは視た。そして聴いた。 兄者から溢れ出て、周囲の空間を僅かに揺らめかせた“力”の波を。 そして、身体の各所からあげられる、軋みという叫びを。 ―――限界が近い。 溢れ出る“力”に、身体が耐えられていない。 クーが奴を打ち倒すのが早いか、奴の身体に限界が訪れるのが早いか。 (;゚A゚)「ぐ、ぅっ……!!」 横薙ぎの脚を受け止めて、全身を衝撃が軋ませる。 また一段と“力”を強めた兄者に、何度目かも分からぬ戦慄を抱きながら、ドクオは思った。 ―――それとも、こいつが限界を迎える前に俺達が死ぬか。 (;゚A゚)「ぐ―――ぅ、ぁああぁっ……!!」 兄者が無理矢理 足を振り抜こうと力を込め、ドクオの踏み締めた足が床を削った。 右腕で左腕を支え、重心を更に落としてどうにか身体を安定させる。 川#゚ -゚)「ずああぁぁっ!!」 いつの間に動いたのか、兄者の背後、クーが斬りかかる。 しかし――― (;゚A゚)「クー、まだだ! まだ速い!!」 (#゚_ゝ゚)「…………!!」 兄者の視線は背後へと向き、同時に身体が背後への旋回を行おうと動いた。 その旋回は、クーの攻撃が到達するよりも速い。 (#゚A゚)「―――チィッ!!」 旋回する為に、ドクオを抜けて動こうとする脚。 ドクオはそれを、無理矢理に捕まえた。 (#゚_ゝ゚)「!? 貴様―――ッ!!」 がくん、と兄者の旋回運動は止まり、クーの刀が空を薙ぐ。 兄者の脇腹を青が奔り、そして紅が迸った。だがやや、浅い。 クーは追撃を加える為に、更に踏み込もうとして――― (;゚A゚)「ダメだ、退けッ!!」 川;゚ -゚)「!?」 声に、咄嗟に大きく跳び退る。 そして (#゚_ゝ゚)「がああぁぁぁぁぁあああぁっ!!」 咆哮。そして兄者は無理矢理に、脚を旋回させた。 脚を掴んでいたドクオはその運動に身を引かれ――― (;゚A゚)「ッ!?」 床から足が離れ、投げ飛ばされる。 回転のかかった身は、クーの身体を掠めるようにして背後に抜けた。 そして数メートル先の床に左肩から墜落し、二度跳ねた後に転がる。 回転の途中、流れる景色の中で、クーに駆け寄ろうと床を踏み締めた兄者を視認。 (#゚A゚)「―――クソがッ!!」 足を床に突き立てて無理矢理回転を止める。 そして歯を食い縛って、前傾姿勢で跳躍するようにして立ち上がった。 体勢が崩れて転倒しそうになるが、それを更なる勢いに転換。速度を上げていく。 加速していく。加速、加速、加速! 間に合え!! 兄者の足元の床が弾け飛ぶ。 爆音が響き、そして兄者が悪夢のような速度で接近してくる。 (#゚_ゝ゚)「はぁぁぁあぁあぁっ!!」 川;゚ -゚)「くっ……!」 横薙ぎの脚を後退しつつ受け、そして流した。 尋常ではない風圧が全身を殴り付け、息の詰まったような感覚が押し寄せる。 しかし、その感覚に押されている暇はない。 すぐにもう一度、後退しつつ右腕を構えた。 まさに、同時。 合わせてきたかのようなタイミングで、振るわれた脚がクーの右腕を捉える。 腕は大きく弾き飛ばされ、クーの身が晒された。 腕を引き戻そうとしながら、クーは歯を噛む。 後退しつつ受けても、弾かれてしまうのかと。 もはや自分の腕では、受ける事すらまともに出来ないのかと。 (#゚_ゝ゚)「死ね―――!!」 視界の上方、振り上げられた異形の脚が映る。 腕は防御しようと動き、足は後退のステップを踏もうと動く―――が、もう、間に合わない。 兄者の脚のシルエットがぶれ、残像と化す。 草色の軌跡が頭蓋へと伸びて――― (#゚A゚)「殺らせるかぁああぁぁぁああぁッ!!」 草色の軌跡の先に、闇色が生まれた。 草色は闇色によってその動きを止め――― 二人の咆哮が空間を支配する。 (#゚_ゝ゚)「がぁあぁぁぁぁああぁぁあぁあああああぁぁぁああぁぁッ!!」 (#゚A゚)「おぉぉぉおおぉおおぉおぉぁああぁああぁあぁああぁあぁッ!!」 闇色の腕は、加速と跳躍の勢いを纏って、上方へ。 草色の脚は、風による助勢を受けて、下方へ。 火花が眩く散り、そして爆ぜる。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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