三十九章二互いに全力だった。 プギャーが気を抜けば、攻撃が入る。 ブーンが攻撃の手を緩めれば、攻守が逆転する。 加速するやり取りの中、しかし内側は停滞だ。 その停滞に、やがて二人は耐えられなくなり――― (#゚ω゚)「あああぁあぁぁあぁあああぁあぁ!!」 (#^Д^)「がああぁあぁぁああぁあああぁあぁあぁっ!!」 停滞は、流動へ。 ブーンは脚を大きく踏み出し、ガントレットを飛ばす。 対するプギャーも踏み出し、左腕の鎌を鋭く横薙ぎ。 そして互いに回避行動を取った。 プギャーの顎先をガントレットが掠めて脳を揺らし、 ブーンの頬を鎌が掠めて血煙が舞う。 そして二人は同時に、大きく跳び退った。 (#^Д^)「はっは……やるじゃねぇか、ブーン。両脚にしか“力”がない割には、よ? こんな事なら初めて会ったあの時に、無理矢理にでも仲間にしておけば良かったぜ。 つっても、仲間にならず敵であれたから、俺は今こうして楽しめてるんだがよ」 (#゚ω゚)「くだらない事をほざいてんじゃねぇお。気持ち悪い。 “力”に酔ってるナルシストが、何を上から目線で言ってんだお? もう勝ったつもりかお? まだお前は勝ってないし、僕は敗けてない。敗けるつもりもないし、勝たせる気もさらさらないお」 (#^Д^)「あ? てめぇ、今どっちが押されてんのか分かってねぇのか? その悪い頭、吹き飛ばされてぇか」 (#゚ω゚)「だから、やってみろお。脅すだけなら誰でも出来る。 負かす事の楽しさだのを語るのは、僕達を負かしてからにしろお」 (#^Д^)「―――上等だ!!」 叫ぶのと同時に膝を深く折り、そして跳躍する。 それに応じるようにブーンも前に出て、白銀の脚を回し蹴りに。 脚は衝突し、互いを弾き飛ばす。 二人はその勢いを利用して旋回、後ろの回し蹴りにシフト。 同じ動きは同じ結果を生む。つまりは衝突だ。 同時に舌打ちし、ブーンは後退。だが、プギャーは前進した。 ブーンの方が一撃が速いとは言え、やはり両腕両脚に“力”を持つプギャーの方が幾分か有利なのだ。 プギャーが攻め手に回ればブーンは後手に回り、それを打開させるだけの“力”はブーンにはない。 だからプギャーは攻めにかかった。流れを自身の物にするが為。 勿論、ブーンもそれを受けるほどに愚かではない。 だから、更に後退のステップを踏んだ。今は逃げ、隙を見て攻め手の立場を獲得する為に。 ブーンは後方への跳躍から振り返り、全力で疾走する。 プギャーは身体を前傾にし、可能な限りの加速を開始。 しかし今度は、先程のような単純な追いかけっこではなかった。 随所に戦闘が入り込んでいる。 ( ゚ω゚)「おおおぉぉおぉっ!!」 疾走からの一歩で、突然に身体を反転させる。 その動きの中で放たれるのは、後方への上段回し蹴りだ。 (#^Д^)「甘ぇ!」 残像を長く残して迫る脚を右腕で殴り払う。 そして一歩を接近しようとして、停止。 直後、目の前を殴り払った筈の脚が薙いで行った。 (#^Д^)「おお、危ねぇ。最初の攻撃は釣りか」 (#゚ω゚)「ちっ!」 舌打ちがブーンの口から漏れる。 そして再度、逃走を始めた。 身体の動きを停止させていたプギャーは、遅れてその背に追いすがる。 (#^Д^)「逃がすか!!」 駆ける背が加速しきってしまう前に、プギャーはその膝を沈めた。 そして解放する。生まれるは圧倒的速度による大跳躍だ。 その勢いに乗せて、前蹴りを放つ。 ブーンは振り返りざま、その前蹴りを前蹴りで受けた。 体勢が整っておらず、加速もないブーンは、大きく吹き飛ばされる。 距離が開くが、プギャーはブーンの脚が地に着く前に接近しようと、全力で駆けた。 しかし、間に合わない。あと二歩で詰められるという距離でブーンの脚は地を捉える。 が、振り返ったブーンの前方は壁であった。後退・逃走は出来ない。 横に行けば、プギャーの跳躍によって距離が消えてしまう。 プギャーの表情が笑みに歪み―――しかしブーンの表情は、真っ直ぐに前方に向けられ続けていた。 そしてブーンは、駆ける。 前方、壁に向って。躊躇もなく、速度は最大出力だ。 ( ^Д^)「とうとう頭がイッちまったか!?」 プギャーの声を背で受けて、ブーンはとうとう壁に到達する。 そしてその脚が小さな跳躍を生み―――力強く、壁を捉えた。 蹴りつける。 身体は反転し、ブーンは中空で背後のプギャーと相対した。 その脚は既に横薙ぎの運動を開始し、攻撃の意志を風切り音という形にして叫ぶ。 (;^Д^)「なっ……!!」 ( ゚ω゚)「おぉおおぉおぉおぉっ!!」 プギャーの表情が笑みから焦燥のそれへと変わり、ブーンの脚が頭蓋に迫る。 だが ( ^Д^)「―――んちってな」 プギャーの身体が、突如大きく傾いだ。 ブーンの脚は空を切り、隙が露わとなる。 (;゚ω゚)「避けた……!?」 ( ^Д^)「何、驚いたような顔してんだ? 壁に向かって走りゃ、その後の動きはある程度予測出来るだろ。 避けられても、別段おかしくなんざないっつーの」 (;゚ω゚)「くっ!」 空中で身を捩り、もう一方の脚を振るう。 プギャーは難なくその脚を鎌の左腕で打ち払い――― ( ^Д^)「っらぁ!」 右腕を引き絞り、放った。 ブーンは咄嗟に、両腕を目の前でクロスさせて受ける。 ガントレットを通じて全身に衝撃が走り、身体が大きく吹き飛ばされた。 (;゚ω゚)「がっ!!」 吹き飛ばされる中、体勢が崩れ、床に叩きつけられる。 ガントレットは多少歪みを得てしまったが、そのおかげでプギャーの攻撃によるダメージはない。 だが床での打ち所が悪かったのか、内臓に厭な鈍痛が走った。 (;゚ω゚)「がっ……っぐ、ぐぅ……!!」 歯を噛んで、立ち上がろうとする。 が、力が身体に入り辛い上に、入った力もどこからか抜けていく感覚があった。 だがそれでも、立ち上がらなくてはならない。 プギャーが来る前に、戦えるようにしなくてはならない。 立ち上がらなくては。このままでは、抵抗も何も出来ずに敗けてしまう! だが。 彼の願いを断ち切るように、視線の先でプギャーが振り返る。 表情は、やはり笑み。いかにも楽しそうで、以前よりも残酷さを増した笑みだ。 ( ^Д^)「終わりか。まぁ、楽しかったぜ。ブーン」 (;゚ω゚)「……! くそ……!!」 言う彼の、その膝が深く折れ曲がる。 そして伸びた。 床が爆ぜ、爆音と共にその姿がブーンに迫って――― 甲高く響き渡る金属音。 振るわれた枯葉色の脚は、そこで白銀を捉えていた。 しかしそれはブーンの脚ではない。 彼は未だ、床に這い蹲っている。 プギャーが捉えた白銀は――― ξ゚△゚)ξ「危なかった」 ツン。彼女の、翼だ。 プギャーとブーンの間に滑り込み、打ち広げられた彼女の翼が、ブーンを彼から護っている。 噛み締められたプギャーの歯が、軋みをあげた。 (#^Д^)「邪魔を……!」 ξ゚△゚)ξ「仲間を殺させるわけにはいかないのよ、残念ながらね。 さぁ、今度は私。行くわよ?」 言葉に応じるように、その翼が翻る。 同時、プギャーは大きく後退した。 その目の前を白銀の弾幕が穿ち、そして彼の軌跡を穿っていく。 しかし、捉えられない。 彼女は唇を浅く噛み、 ξ゚△゚)ξ「ブーン、ここは私がやるわ。動けるようになるまで、退いていて!!」 言い残して、飛翔した。 そしてある程度の高度に達すると、軽やかにその場で旋回して――― ξ#゚△゚)ξ「ハァ……アアァァァアァッ!!」 羽ばたいた。一度でなく、連続で。 その動作によって、無数の白銀が地上に降り注ぐ。 それはまさに、局所的な雨のように。 (#^Д^)「チィッ―――!」 白銀に煌めく無数の脅威に、プギャーは疾走を開始した。 直後、立っていた床が白銀によって蹂躙され、そして彼の走った軌跡をも蹂躙していく。 そして、迫る。 上空からの射撃は、彼の速さの意味を半ば失わせた。 如何に彼が速くとも、ツンは翼の角度を少しだけ変えて羽ばたけば良いだけなのだから。 (#^Д^)「クソが……!」 だから彼は、歯を噛んだ。 ただ走るだけでは、やがて羽根が突き刺さる。 しかし脚を止めれば、即座にヤマアラシに変身だ。 よって自然と、彼の動きはジグザグに。予測の出来ない動きへと変わる。 ξ#゚△゚)ξ「ちょこまかと!!」 彼女は眉を僅かに立て、羽ばたきを更に加速させる。 対するプギャーは、走りつつ彼女の動きを見ていた。 タイミングを計っているのだ。 跳ぶタイミング―――攻めるタイミングを。 このまま走り回っていても終わらない。こちらが疲れるだけだ。 ならば攻めなくてはならない。 攻め手の立場をとまでは行かずとも、せめてこの状況を動かさなくてはならない。 だからタイミングを見て、攻めにかかる。 幸い、この脚ならば強めの跳躍でツンに届く。 白銀の煌めきは途切れることなく視界の隅を走り続けていた。 しかし途切れないとはいえ、それを生むのは一つ一つの羽ばたきだ。 羽ばたきと羽ばたきの間には、少なくとも隙が存在する。 だからプギャーは彼女の翼を睨みつけて――― ξ#゚△゚)ξ「……こ、のっ!!」 彼女は一際強く羽ばたこうと、大きく翼を反らした。 その瞬間、プギャーは踏み出していた一歩を深く沈める。 そして間髪置かずに溜めた力を解放。 水平方向への高速移動は、一瞬にして垂直方向への高速移動に変貌した。 (#^Д^)「らあぁぁぁぁあぁっ!!」 ξ;゚△゚)ξ「ッ!?」 突如迫り来る影に、ツンは一つの羽ばたきを与える。 放たれるは、溜めに溜めた力を伴う羽根の弾幕。 プギャーは両腕を縦に構えて己が身を護り、尚も迫った。 (#^Д^)「墜ちやがれ!!」 空中。彼の脚が横薙ぎの動きを開始したのと、彼女の翼が収縮の動きを開始したのは、ほぼ同時。 そしてその翼が閉塞されたのとほぼ同時に、彼の脚が翼を打った。 弾けるように金属音が響き、そして二人の身体が落下を始める。 (#^Д^)「チィ!!」 堅き翼に包まれた彼女を、空中で蹴りつけた。 それによって彼の落下に加速がかかる。 その中で彼は空を蹴りつけて体勢を調整、その脚でしっかりと床に着地した。 空中のツンは、ようやく翼を開いて体勢を整えているところだ。 プギャーに蹴りつけられた事で、その作業はどうやら難航している。 だからプギャーは間を置かず、再度膝を沈め、上空へと跳躍した。 ξ;゚△゚)ξ「くっ―――!!」 またも迫る彼に、彼女は翼をはためかせる。 しかしそれは前方への―――羽根を放つ為の羽ばたきではない。 その動きは後方へ。自らの身を前方に押し出す為の羽ばたきだ。 彼女の身体は一瞬にして加速し、更に回転をそこに添付。 そして翼が身を護るような形で閉じ、彼女の身は銃弾となる。 彼女のその動作に、プギャーは (#^Д^)「……はは」 笑んだ。 (#^Д^)「お前も、こうも戦えるようになったか。ツン! 戦うこと奪うことに怯えて、お姉ちゃんに護られてるだけのお嬢様じゃなくなったか! そうだ、それで良い。異能者は……いや、人間は、奪うことでしか生きられない」 ξ#゚△゚)ξ「勘違いしないで。今だって、戦うことも奪うこともイヤよ。 でも、だからこそ私は戦ってる。もう奪うことをしないでも済むように。 もう奪わない為に今、奪う。もう戦わない為に今、戦う。その覚悟をしてきただけよ!」 (#^Д^)「戯言を!!」 そして彼の枯葉色の脚と、白銀の銃弾が衝突した。 眩い火花が生まれ、枯葉色と白銀にぶち当たって四散する。 耳が痛くなるような、途切れぬ甲高い金属音が咆哮をあげた。 共に加速を得た異形同士の衝突。 それぞれ同じだけの力の衝突は、一瞬の停滞を生んだ後、動く。 結果。プギャーの脚が打ち弾かれ、彼の身体が落下の動きを得た。 衝突の際、持っていた力は同じだった。 しかしツンは、衝突の後も加速し続けていたのだ。 重力という力を、その身に纏って。 銃弾の動きはそのまま、落下する彼を撃ち抜こうとする。 だが。 (#^Д^)「させるか!!」 落下する中、彼は空を蹴って回転。 そしてその旋回運動の中で銃弾を強烈に蹴りつけ、更には右腕で殴り飛ばした。 その衝撃に、銃弾の動きが中空で停止する。 もはやそこに力はなく、あるのは落下運動だけ。 ξ#゚△゚)ξ「くっ!」 (#^Д^)「ッ!」 ツンは翼を展開して飛翔し、プギャーは床を砕いて着地する。 そして、二人同時に動いた。 ツンは翼を羽ばたかせ、羽根を撃ち放つ。しかし今度は、動きながら。 プギャーの跳躍によって、容易に距離を詰められないようにと。 対するプギャーは、やはり降り注ぐ羽根を避けながらの疾駆だ。 二人は、互いに睨み合っていた。 それは威嚇の意ではなく、注意深く観察しているという事だ。 プギャーはツンの羽ばたきの隙を。ツンはプギャーの動きの中の跳躍の気配を。 睨み合いながらの攻防は数分間続き――― ξ#゚△゚)ξ「ッ!」 (#^Д^)「ッ!」 互いに動いた。 それは全くの同時。 ツンは大きく翼を反らし。 そしてプギャーが大跳躍する。 凄まじい威力を身に宿した白銀の羽根は、一瞬前に跳んだプギャーの足元の床を粉砕。 跳び上がったプギャーは、しかしそこでも羽根の洗礼を受けた。 ξ#゚△゚)ξ「はぁぁぁぁあああぁぁあぁぁっ!!」 全力で翼をはためかせる。 出来得る限りの連続で、途切れないよう。 それと同時、彼女は空中を後退。 対するプギャーは、やはり両腕で身を護る。 腕によって隠れない脚などに羽根が突き立ち、血煙が踊った。 が、それでも彼の身体は止まらない。墜とされもしない。 (#^Д^)「っるぅぁあああぁあぁあぁあぁあぁぁっ!!」 ツンの身体に辿り着いたプギャーは、枯葉色の脚を全力で振るう。 上方から振り落とす形での異形の脚は翼で受けられ、しかも衝撃は深く彼女に入らない。 彼女が後退していた為だ。 ツンの表情が僅かに笑みに歪み――― プギャーの表情が、それを遥かに凌駕するほどの笑みに染まった。 ξ;゚△゚)ξ「なっ……?」 疑問の声をあげたのと同時。 翼で受けた脚に、力が入った。 跳躍の力だ。 直後、翼より衝撃が来る。 見れば、目の前にあったプギャーの姿が消えていた。 彼は、彼女の翼を支点にして跳躍したのだ。 ツンが彼の姿を見付けたのは、上方。 プギャーは上方へ跳び行って―――そこで空を蹴って天地逆転。 天井に脚をかけ、そしてそこでまた跳躍した。 天地逆転からの跳躍、それはつまり下方へ。 そしてその先にいるのは―――ツンだ。 (#^Д^)「っらぁ!!」 ξ;゚△゚)ξ「くっ―――!!」 加速された落下の動きの中、プギャーは右腕を引き絞り、放つ。 余りに予想外なその動きに、ツンは回避行動を取れない。 よって彼女は、翼を閉じるという防御行動を取った。 全力で閉じられた翼は、振り落とされた拳を辛うじて防御。 しかし――― (#^Д^)「この引き篭もりが。引き摺り出してやるよ」 翼を打ったその拳が、開き、そして翼を掴んだ。 それだけではない。その両脚までもが翼にかかる。 そしてそれらは、閉塞された翼をこじ開けようと動いた。 ξ;゚△゚)ξ「なッ……!?」 開かれようとする翼の向こう、振り上げられた鎌が見える。 翼を開けられてしまえば、その鎌が自分の身を切り裂くだろう。 開けられてしまうわけにはいかない。 思考。翼に力を込め、こじ開けようという彼の動きを阻止。 相対する力に、翼は軋みをあげた。 同じく、噛み締められた彼女の歯も僅かに軋む。 ξ;゚△゚)ξ(このままじゃ……!) ダメだ、と思う。 閉じようとする彼女の翼の力と、開けようとするプギャーの力。 それはほぼ同じだが―――若干、プギャーの方が勝っていた。 僅かな差だが、しかしそれは確実に彼女の翼をこじ開けていく。 そして。 彼女の身体は、彼の身体を伴って落下を始めていた。 彼女に、地上における戦闘能力はほぼない。地に落ちれば、もはや勝ち目はない。 かと言って、上昇の為に翼を使う事すら出来ない。 だが翼を使わないでいれば、いつかは敗北を叩き付けられる。 翼をこじ開けられるか、地上に墜落するか、という形で。 どうしようもなかった。 手の打ちようがなかった。 それが分かった瞬間に、薄れていた恐怖がどっと込み上げる。 ξ;゚△゚)ξ「―――い、や」 声が漏れる。 焦燥と恐怖に彩られた、驚くほどに弱々しい声。 ただ静かに迫る敗北―――死に、恐怖が彼女の背筋を駆け上がる。 ξ; △ )ξ「ッ……ァ……!!」 喉を這い上がろうとする叫びを、必死で噛み殺した。 ここで叫んでしまっては、もう恐怖に喰われてしまう。 諦めるな。冷静になれ。必死で思考しろ。ここで壊れるのはまだ早い。 敗けるわけにはいかないのだから。 ξ;゚△゚)ξ「ァァア―――アァアァアァアァアアァアァッ!!」 恐怖の叫喚を、闘志の咆哮に変えて放出する。 そして彼女は、その翼を勢い良く打ち広げた。 このまま落ちれば確実な敗北が。 そして、プギャーに翼をこじ開けられれば、良くても深手を喰らう。 ならば最も安全な動きは、自ずから翼を開くこと。 そして (#^Д^)「ようやく出てきやがったか!!」 翼を開くと同時、声と共に鎌が振り下ろされる。 ツンはそれに対し――― ξ;゚△゚)ξ「ハァッ!!」 全力で翼をはためかせ、上昇を伴った後退。 それによってプギャーは大きく揺さぶられて、体勢が崩壊。 振るった鎌は、ツンのこめかみから頬にかけて浅い一線を刻み込んだのみ。 (#^Д^)「チッ!!」 対するプギャーは、その翼を支点に再度跳躍。 そして先ほどと同じように、天井を蹴りつけてツンに迫った。 しかしツンは、回避行動も防御行動も取れない。 無理な動きによって体勢が半ば崩れていた事と、プギャーの跳躍による衝撃の為だ。 彼女に迫るプギャーは、まるで死神のように鎌を振り上げて――― 「おぉおおぉおおぉおおおぉぉっ!!」 その時、彼の右側から咆哮が響く。 尋常でない速度を持ったそれは、彼に一気に迫った。 (#^Д^)「あ―――?」 そちらに視線をやり、直後、眼を見開いた。 そして慌てて、迫る影に対して右腕を防御の為に構える。 一瞬。 その影が、彼の右腕に凄まじい勢いを以てして激突した。 プギャーはその右腕を大きく弾かれ、それに伴って体勢を崩し――― (#^Д^)「イイとこで邪魔してくれるな、ブーン……!! 男女の営みを邪魔するのはヤボってもんだぜ!?」 (#゚ω゚)「るっせぇお。―――ツンは殺らせないお」 蹴り脚を引き戻し、そして逆の脚を全力で振り落とす。 プギャーはそれを辛うじて左腕で受け――― (;^Д^)「がっ……!!」 全身を駆けたその衝撃に、呻きを漏らした。 そして上方からの力は、彼の落下の速度を加速させる。 彼は凄まじい勢いを以てして、地に墜落した。 床が彼の身を受け止めて爆ぜ、昇る埃が柱を成して床の欠片が舞う。 彼に続いてブーンも床に降り、そこで荒い息を吐いた。 表情が僅かに歪む。内臓の痛みは、まだ抜けきってはいないようだ。 しかし彼の表情から力は抜けない。 残留する苦痛に息を荒くし、こめかみに汗を滲ませながらも。 息は荒く、歯は剥かれ。瞳には輝きすらあり、プギャーが墜落した場を睨みつけている。 ξ;゚△゚)ξ「ブーン!」 名を呼び、彼女は羽ばたき一つで地に降りた。 そして彼に駆け寄り、横に並ぶ。 (#゚ω゚)「ツン、大丈夫かお? 遅れてごめんお」 ξ;゚△゚)ξ「うん、私は大丈夫。でも、ブーン。あなたは……」 (#゚ω゚)「僕はもう戦える。だから、任せてほしいお。 あいつは、思っていた以上に危険だお。僕がどうにかする」 ξ゚△゚)ξ「……ううん。私も戦う。 元々この戦いは私達“削除人”と“管理人”の戦いだもの。 ―――それにこの戦いは、私が私にケリを付ける戦いでもあるから」 (#^Д^)「させるか!!」 落下する中、彼は空を蹴って回転。 そしてその旋回運動の中で銃弾を強烈に蹴りつけ、更には右腕で殴り飛ばした。 その衝撃に、銃弾の動きが中空で停止する。 もはやそこに力はなく、あるのは落下運動だけ。 ξ#゚△゚)ξ「くっ!」 (#^Д^)「ッ!」 ツンは翼を展開して飛翔し、プギャーは床を砕いて着地する。 そして、二人同時に動いた。 ツンは翼を羽ばたかせ、羽根を撃ち放つ。しかし今度は、動きながら。 プギャーの跳躍によって、容易に距離を詰められないようにと。 対するプギャーは、やはり降り注ぐ羽根を避けながらの疾駆だ。 二人は、互いに睨み合っていた。 それは威嚇の意ではなく、注意深く観察しているという事だ。 プギャーはツンの羽ばたきの隙を。ツンはプギャーの動きの中の跳躍の気配を。 睨み合いながらの攻防は数分間続き――― 彼は凄まじい勢いを以てして、地に墜落した。 床が彼の身を受け止めて爆ぜ、昇る埃が柱を成して床の欠片が舞う。 彼に続いてブーンも床に降り、そこで荒い息を吐いた。 表情が僅かに歪む。内臓の痛みは、まだ抜けきってはいないようだ。 しかし彼の表情から力は抜けない。 残留する苦痛に息を荒くし、こめかみに汗を滲ませながらも。 息は荒く、歯は剥かれ。瞳には輝きすらあり、プギャーが墜落した場を睨みつけている。 ξ;゚△゚)ξ「ブーン!」 名を呼び、彼女は羽ばたき一つで地に降りた。 そして彼に駆け寄り、横に並ぶ。 (#゚ω゚)「ツン、大丈夫かお? 遅れてごめんお」 ξ;゚△゚)ξ「うん、私は大丈夫。でも、ブーン。あなたは……」 (#゚ω゚)「僕はもう戦える。だから、任せてほしいお。 あいつは、思っていた以上に危険だお。僕がどうにかする」 ξ゚△゚)ξ「……ううん。私も戦う。 元々この戦いは私達“削除人”と“管理人”の戦いだもの。 ―――それにこの戦いは、私が私にケリを付ける戦いでもあるから」 (#゚ω゚)「……そうかお。じゃあ、一緒に戦うお」 言って、改めてブーンは立ち昇る埃柱と向き合った。 ただし、今度はツンも一緒に。 余程威力が強かったのか、舞う埃は未だに収まる気配を見せない。 そして広がり散っていく埃の中心部。そこより音はない。 緊張の空気の中、跳ね上げられた床の破片が無事な床を打つ控え目な音が連続するのみ。 ξ゚△゚)ξ「……やったの?」 (#゚ω゚)「油断しちゃいけないお。まだ分からない。 手応えは確かにあったけれど―――この程度で終わる気がしないんだお。 だからツン、いつでも動ける準備を」 彼の言葉に頷いて、ツンは身体に力を込めた。 やがて落ちる床の破片もなくなり、静寂が訪れる。 時の経過に伴って霧散し、薄くなっていく煙幕。そしてそれに伴って高まっていく緊張。 その緊張はすぐにピークに達し、煙幕が中身を見通せるほどに薄くなった。 そこに立つ影はない。 薄まっていく煙幕の中、見えてくるモノは粉砕された床とその上に横たわる何かだけだった。 ツンは、身体に満ちていた緊張が急速に消失していくのを感じて――― ξ゚△゚)ξ「これは……」 (#゚ω゚)「まだだお。来るお」 言葉に軽い驚愕を覚え、慌てて緊張を身に纏う。 その直後だった。地の底から這い上がってくるような笑い声が響いたのは。 「やるじゃん」 声に続き、音がそこに生まれる。 地を擦って起き上がる音、そしてその身に付着した床の破片が落ちる音。 服を叩く音。首を鳴らす音。具合を確かめるように、異形の右腕を握り締める音。 最後に笑い声を漏らして、起き上がったプギャーは二人を見据えた。 ( ^Д^)「まったく、予想外だ。 戦闘素人の甘ちゃん野郎と、戦うのが怖いお嬢様にここまでやられっとはな」 (#゚ω゚)「押されてる蟲野郎が、何やら余裕だおね。 虚勢かお?」 ( ^Д^)「さぁ、どうだろうな?」 言いつつも、しかしブーンは気付いている。 その余裕は、虚勢などではないと。 目の前、プギャー。 彼の身体は上空より叩き落とされたというのに、骨折などの障害は発生しているように見えない。 身体の各所が僅かに擦れ、血が滲む程度だ。 何故だ、とブーンは彼の身を凝視した。 その視線を受けているのを感じ取ったのか、プギャーは苦笑。 ( ^Д^)「分かった分かった、教えてやるよ。 ―――こういう事さ」 そしておもむろにプギャーは、着ているシャツの裾を僅かに持ち上げた。 その動作に数瞬遅れて、息を呑む音が二つ。ブーンとツンの物だ。 シャツの下、彼の腹部は人の肌の色と形質をしていない。 僅かに黒ずんで、そして受けた輝きに硬質の光を返す。 彼の表皮は硬質化していた。まるで鎧のように―――否、蟲の持つ殻のように。 ( ^Д^)「勿論、腹だけなんて中途半端な“力”じゃねぇぜ? 顔以外の全身を、この殻は覆ってる」 ξ;゚△゚)ξ「……そんな」 ( ^Д^)「つっても、安心しろよ。 この殻だって、流石に異能者の攻撃には耐えられない。多分な」 ( ゚ω゚)「……? 何でそんなことを、わざわざ僕達に?」 ( ^Д^)「それを教えた方が楽しめるからさ。 ―――まぁ、それは言い換えりゃ、教えたところで敗ける気はしねぇって事だがよ」 ξ゚△゚)ξ「……ふん。ここまで押されといて、何を言ってるのかしら? その殻、異能者の攻撃は通るっていうなら、この形勢が逆転したことにはならないわよ? それなのに『敗ける気はしない』ですって? 自身を過大評価し過ぎなんじゃない?」 ( ^Д^)「はン。言ってろよ。 そんな事を言ってられるのも今だけだぜ、ツン?」 ξ゚△゚)ξ「……何よ」 ( ^Д^)「俺の“力”はこれだけじゃない、ってんだよ」 彼の表情が笑みに歪んだ、その瞬間。 新たな異音が、その場に響いた。 ξ;゚△゚)ξ「ッ!!」 (;゚ω゚)「!?」 音に、二人は同時に彼から距離を取る。 その眼が見開かれ、息が止まり、そして戦慄に寒気が身体を駆けた。 ( ^Д^)「お前達は強かったよ。俺の予想以上に―――俺がここまで“力”を解放しなきゃならないくらいに。 さぁ、ここからが本番だ。互いに全力で殺り合おう。 俺はお前達を、絶対にモララーさんのところまで通さない。この“力”を以て、ここで始末させてもらう」 ブーン達を追う事もなく、プギャーはその場で軽く両腕を広げた。 異音は未だ鳴り続けている。音の出所は―――彼の背中だ。 その背中、肩甲骨上部から背中の半ばにかけてが、割れる。 そして割れ目からはくしゃくしゃの、透明な膜のような物が垂れ出てきた。 それはぬらりと濡れていて、床にくすんだ緑色の液体を零す。 ( ^Д^)「広がれ」 言葉に応じるように、その物体が動いた。 垂れていたその身が、持ち上がる。 そして弾けるような音を経てて打ち広がり、纏っていた水分を吹き飛ばした。 その姿は――― (;゚ω゚)「な……ッ!」 ξ;゚△゚)ξ「―――どういう事よ。あれは……」 彼の背中から広がったそれは、翼だった。 しかしツンの背中にあるような翼じゃない。 言うなれば蟲の翼―――『翅』だ。 僅かに黒色を纏った、薄く透明な二対の膜状の翅。 内部には葉脈のように張り巡らされた黒い筋が見える。 ( ^Д^)「蜂の翅だ。―――よぅ、ツン。 これでお前も、俺から逃れられない。 ほら、さっきみたいな言葉を吐いてみろよ」 ξ;゚△゚)ξ「……くっ」 狼狽の息を漏らすツンに、プギャーは笑みを拡大。 そしてその脚が、前進の一歩を踏んだ。 ( ^Д^)「さぁ、行くぞ。こちらはようやく全開だ。 手加減はしない。俺は狩人で、お前達は餌だ。 全力で抗い、全力で戦って、出来得る限り俺を楽しませて、そして死ね」 その脚が前方へ跳躍の一歩を踏み、そして背の翅が連続の羽音を経てた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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