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LOYAL STRAIT FLASH ♪

LOYAL STRAIT FLASH ♪

四十章一

3 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:04:03.01 ID:ZpMufzom0

四十章 過去と未来を


音が踊る。色が踊る。刃が踊る。血が踊る。人が踊る。

音は、刃が打ち合う金属音。
色は、彼らの得物の色。
刃は、彼等が握り振るう得物。

血は、刃によって彼らの身から溢れたそれ。
人は、まるで乱舞しているかのごとく動き回っている。

金属音を奏で、色を持つ得物を振るい、血を撒き散らして踊るは三人。
ハインと、ジョルジュと、そしてモナーだ。
当然彼らは踊っている訳ではない。戦い、殺し合っている。

剥き出しの敵意をこれでもかと叩き付け、同様に叩き付けられる敵意に対応する。
戦闘は高速化し、金属の打ち合う音は途切れなくなる。一つの音となる。
得物の色は空間に残る帯となり、血は刃を濡らし空間に紅を散らした。

全力での咆哮が三つ、同時に響く。
同様に全力を込められた刃は、一際高く強い金属音を打ち鳴らす。
それと同時に、まるで音に弾かれたかのように、接近していた三人は一斉に距離を取った。

僅かに息を荒くし、しかし自らの敵を睨みつける瞳は力を失わない。
全身の筋肉は撓められ、すぐにでも動けるようにスタンバイされている。
三人とも、身の至る所に傷があった。それらの傷は、いずれも軽傷。


4 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:07:17.25 ID:ZpMufzom0
 
だが、三人は気付いていた。
少しでも気を抜こうものなら、即座に致命傷が刻まれる、と。
その思考は決して誇大じゃなく、可能性でもない。現実で、必然だ。

それは、ここに揃っている人間を見れば一目瞭然だ。

“管理人”トップクラスの戦闘力を持つハイン。
武器の扱いにおいて誰よりも秀でたモナー。
天才的な反射神経と、型のない特異な“力”を持ったジョルジュ。

それぞれが敵の命を奪う事を目的とし、そしてそれを為すだけの力がある者達だ。
油断は許されない。僅かなミスが、死に繋がる。
三人ともそれを理解しており、だから全力で戦い、相手の命を狙う。

全ては生きる為に、先へ進む為に、だ。


三角形に対峙する三人。
その三角形の中心に、今にもはちきれそうな緊張を孕んでおきながら、動かない。

たった一つの小さな動きで、その停滞は解き放たれるだろう。
だから三人はそれぞれ、相手を見ている。動きを、瞳を、呼吸を見ている。
同様に、自分は見られている。だからそれぞれの動きは、小さく、静かなものになっていった。

だが内側には、限界以上に引き絞られた緊張が存在する。
事態が動き始めた時に、遅れないように。
少しでも早く動けて、対応出来た方に、戦闘の結果は傾くだろう。


6 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:10:11.37 ID:ZpMufzom0
  
今の状況は、全くの互角。
形としては、二対一なのだが―――しかし、モナー達は、優位な立場に立てずに居た。


(;´∀`)(何故だもな……?)

おかしい。
何故、圧倒出来ない。

今まで、ハインの相手は自分一人で良かった筈だ。
圧倒出来ている、というわけではなかったが、少なくとも互角程度には戦えていた。
それには、ハインが本気で戦っていなかったというのもあるだろうが。

だが、それでも。

今、こちらは二人なのだ。
ジョルジュの戦闘力は決して低くない。
ハインが本気だったとしても、こちらとの戦力差は相当にある筈だ。

だが現実。
自分達は、こうして互角の戦いを繰り広げている。
優勢に出来ない。

(;´∀`)(どころか、少々押されている……もな?)

背に厭な寒気を感じ、モナーは歯を噛み締めた。


7 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:12:23.30 ID:ZpMufzom0
 
( ゚∀゚)(何か―――おかしいな)

対してジョルジュは、モナーとは違うところに疑問を持っていた。

( ゚∀゚)(あいつ、本当にハインだろうな? 何か、別人みてーだ)

彼女を睨みつける瞳が、すっと細められる。

感じるのは、大き過ぎる違和感。

これまで、ハインは常に『遊び』を持っていた筈だ。
言動は常にふざけたものだったし、戦闘ですらも楽しむ為に行っていた。
戦闘中でも笑顔を絶やさず、“管理人”としてではなく“自己”として動き回っていた。

だが、今目の前にいる彼女は、まさしく別人のようであった。

あれだけ自由で不真面目だったというのに、今は取り憑かれたかのように真面目だ。
戦闘も、最初から本気。遊んだり、ふざけたりという事を一切しない。
ジョルジュ達を排す事に全力になっている。本来は正しいその事が、大きな違和感になっていた。

永遠に終わらないかと思っていたあの軽口は、戦闘前の一言だけ。
それから今まで、口は沈黙を保っている。

瞳に光はなく。
表情に笑みはなく。
彼女の全てに、余裕がなかった。

焦っている。そんな風に見えた。


8 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:15:13.19 ID:ZpMufzom0
  
( ゚∀゚)(……何か、あったか? 相当キツい何かが)

思考して、しかし同情する気にはならない。
そんな余裕はないのだ。

本気で迫るハインに、こちらに余裕はない。
同情すれば死ぬだけだ。今のハインは、それを現実にする。

だがもしかしたら、利用なら出来るかもしれない。
不安定なら、ちょっとした言葉で動揺もするだろう。

何かしらの傷口を抉り、動揺を誘う―――。
非情だとは思う。良心が痛まない訳でもない。
だがそんなことを言っている状況ではない。こちらも敗けるわけにはいかないのだ。

これは戦いだ。ルールがあり、フェアプレイが称賛される試合じゃない。
自分にそう言い聞かせた。

( ゚∀゚)「ハイン。お前、何があった?」

从#゚∀从「……あ?」

ハインの眼光が、ジョルジュを貫いた。
思わず後退りそうになる。しかし平静を装って、言葉を続けた。

( ゚∀゚)「何か様子がおかしいぜ? お前らしくない」


9 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:18:12.36 ID:ZpMufzom0
  
从#゚∀从「…………」

( ゚∀゚)「ハイン」

从#゚∀从「うるせぇよ。私に干渉するんじゃねぇ。
     数度顔合わせただけなのに、馴れ馴れしくしてんじゃねぇぞ、クソガキ」

乗ってきた。緊張の中で、ジョルジュは拳を握る。
表情を嘲笑に変えた。わざとらしく肩をすくめ、軽く両腕を広げる。

( ゚∀゚)「おいおい、前まで馴れ馴れしくしてきたのはあんただろうが。
     っは、何だその顔。いつもの笑顔はどこに行った? いつもの軽口はどこに行った?
     言動といい表情といい、随分と余裕がないね。何を焦ってんだ?」

从#゚∀从「……うるせぇっつってんだろうが。ぶちまけんぞテメェ」

( ゚∀゚)「そこは嘘でも良いから余裕を見せるべきじゃね?
    怒ってどうすんの。それじゃ余裕がありませんっつってるもんだぜ?
    それともマジで、ハッタリもかませないくらいにギリギリなの? あのハイン様が?」

从#゚∀从「……!! テメェ、舐めやがって……!!」

( ゚∀゚)「あーあー、だから怒るなっつーの。ハゲるよ?」

ハインは飛び出しそうになる自分を抑えるのに精一杯だった。
ジョルジュの漏らす笑い声に、自制心が崩されていくのを感じる。

ダメだ、落ち着け。冷静に、慌てる事無く排除すれば良い。


10 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:21:13.01 ID:ZpMufzom0
  
从#゚∀从「……あぁ、もう良い。クソくだらねぇ。
      テメェらに構ってる暇はねぇんだ。早々に死んでもらう」

( ゚∀゚)「はい、そこ。構ってる暇はないって、何をそんなに急いでるんだ?
    何がそんなに気になるんだ? それとも、心配なのか? お前が戦闘を楽しむ事よりも優先するそれは、何だ?」

適当な戯言だ。冷静になれ。

从#゚∀从「テメェには関係ねぇよ!! 黙りやがれ!!」

( ゚∀゚)「なるほど。やっぱり、何かあったんだね。
    あんたが酷く不安定になっちまうような何かが。
    そんで、それに対して他人に触れてほしくない……自分だけでそれをどうにかしたい、って感じてる、かな?」

熱くなるな。声を荒げるんじゃない。自制心を保て。

从#゚∀从「……随分とアバウトな予測で、偉そうに語ってくれるじゃねぇか。あ? 
      テメェが私の何を知ってるってんだ!?」

( ゚∀゚)「否定しないんだ。当たってるんだね、俺の予想は」

冷静になれ。内で呟いたその声に、もはや意味はなかった。

从#゚∀从「――――――ッ!!」

動く。呻きとも咆哮とも取れない声を漏らしながら、ハインの身が床を滑った。
応じるようにジョルジュも前に出て、手の甲からブレードを生やした右腕を跳ね上げる。
弾け散る火花、短い金属音。叩きつけられた黒銀の巨大鋏は、橙のブレードによって止められた。


11 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:24:34.77 ID:ZpMufzom0
  
( ゚∀゚)「こんな軽い挑発にも、乗る。やっぱ、今のあんたおかしいよ」

从#゚∀从「だから何だ! 澄ましてんじゃねぇぞ!!」

鋏はブレードの刃を滑り、下方へ抜ける。
そして間髪置かず跳ね上がった。

ジョルジュはそれを左腕の爪『尖鋭』で受ける。
が、受けきれない。黒銀の鋏は重く、込められた力も途轍もないものであった。
左腕は弾かれ、鋏は幾分か速度を落とした上で、なお昇る。

(;゚∀゚)「ッ!」

咄嗟、首を反らした。
その顎を掠り取るようにして、刃が抜ける。
掠っただけだというのに、彼の頬から顎にかけてを紅い線が走り、血煙が空気を紅くした。

そしてハインの攻撃は続く。

鞭のように振るわれた長い脚が、ジョルジュの脚を薙ぎ払う。
衝撃に脚は床を離れ、ジョルジュはその背を床で跳ねさせた。
息が詰まる感覚。間もなく、腹部に追撃が来て、その感覚は輪郭を濃くする。

(;゚∀゚)「げッ―――!!」

倒れたジョルジュの腹部に、ハインの右脚が突き立てられていた。
彼女は右脚で彼の動きを止めたまま、両手で握った鋏を振り上げる。


12 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:27:16.73 ID:ZpMufzom0
  
(;゚∀゚)「ざっ……けんな!!」

息苦しさの中で無理矢理に言葉を吐き捨て、ジョルジュが右腕をハインに向けるのと

(#´∀`)「もなぁぁあぁあぁっ!!」

走り寄ったモナーが、咆哮と共に薙刀を横薙ぎにするのは、同時だった。

ジョルジュの右腕は一瞬で形状を変化させ、拳から極太の針のような物を、ハインの腹部に向けて伸ばす。
モナーの薙刀はハインの喉へ。その刃が内包する威力は、彼女の首を切り飛ばすのに十分なそれだ。

だが対するハインは焦る事もなく、まるでそうなる事が分かっていたかのように、動く。

両手で振り上げた鋏を限界以上に開いて、分解。
鋏は二本の歪剣へと姿を変え、振り下ろされた。

左手、銀色の歪剣は横手へ。
右手、黒色の歪剣は下方へ。

同時に鳴り響く金属音、二つ。
モナーの薙刀は真正面から受けられ、ジョルジュの『針』は歪剣の腹で受けられていた。

(#゚∀゚)「ッ―――邪魔だ!!」

僅かな驚愕を顔に浮かべつつ、腹に突き立てられた脚に、左腕の肘打ちをぶち込む。
ハインの脚はあっけなく横へズレ、ジョルジュはすぐさま起き上がって左腕を横薙ぎに一閃。
だが、抜ける。彼女は上半身を大きく反らし、その一閃を回避していた。


13 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:30:21.13 ID:ZpMufzom0
  
そして、ジョルジュが弾き飛ばしたばかりの彼女の脚が、跳ね上がる。
その足裏は彼の胸を捉え、再度、彼を床へと蹴り飛ばした。
ハインは胸を蹴りつけた勢いのまま、後方へ跳躍。

その直後に、彼女の在った空間を青の流線が粉砕した。
風切り音の後に、舌打ちが二つ。モナーと、ジョルジュのものだ。

モナーはすっとジョルジュの前に立つと、ハインの方を向いたまま、肩越しに彼に声をかけた。

( ´∀`)「大丈夫かもな?」

(;゚∀゚)「ん……、オッケーオッケー。あんたのおかげで、痛いだけで済んだ」

応えつつ、ジョルジュは立ち上がって尻を叩く。
モナーは「それは良かった」と呟くと、視線をハインに向け、眼を細めた。

( ´∀`)「……君の言う通り、ハインはどこかおかしいみたいだもなね」

( ゚∀゚)「ん。話が通じないくらいだからね」

仕方なさそうに、首を傾げる。

( ´∀`)「交渉は出来ない。つまり」

( ゚∀゚)「ここを抜ける為には、あいつを叩きのめすしかないわけだ」


16 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:33:17.87 ID:ZpMufzom0
  
モナーは小さく頷き、ジョルジュは笑みを顔に浮かべる。
楽しげなそれではなく、やや皮肉めいた笑みだった。

もしかしてハインだったら戦う必要はないかもしれない、と少しだけ、希望を持っていたからだ。
よもや、その正反対の結果になるとは。

( ゚∀゚)「でも簡単な事じゃないみたいだね。
    ハイン、本気だ。余裕もないけど、容赦もない。
    しかも、我を失ってるわけじゃない。きっちりと、勝ちに来てる」

( ´∀`)「もな。二対一の状況で、ここまで戦って見せてる。
      こっちも全力で行かないと、もしかしたら、もしかしちゃうもな。
      気を抜いちゃダメもなよ、ジョルジュ君」

( ゚∀゚)「わーってるよ。……しかし、何を、あいつはあんなに慌ててるんだかね」

ジョルジュの言葉に、しかしモナーは軽く首を横に振った。

( ´∀`)「本人が喋らないなら、気にするべきじゃないもな。
      聞き出す必要も余裕もない。今はとにかく、戦闘に集中するもな」

( ゚∀゚)「……あーいよ」

気になるところではあったが、確かにそんな場合でもない。
ジョルジュは体勢を低く構え直し、右腕の形状をブレードに変化させると、ハインの動向を観察する。

ハインはというと、もはや焦りを隠そうともしない。
姿勢は前傾となり、イラついたような表情を見せて、熱い息を吐いている。
しかし策もなく飛び出すようなこともなく、やや充血したその眼は冷静に戦況を見ていた。


19 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:36:23.83 ID:ZpMufzom0
 
焦っているが故に、彼女は冷静だった。冷静であろうとした。
早くこの戦闘を終わらせる為に、だからこそ冷静でなければならない、と彼女は分かっていた。

从#゚∀从「待ってろよ、つー……」

そしてジョルジュが瞬きをするタイミングで、彼女は飛びだした。

从#゚∀从「らぁあああぁぁぁぁああぁッ!!」

(;゚∀゚)「くっ!」

左より叩き付けられる黒の歪剣を、左腕の爪で受ける。
間髪置かず、銀の歪剣が別方向より襲い来る。
速い。避けられない。仕方なく右腕で受けた。直後、腹部に衝撃。脚が浮いたところでようやく、蹴り飛ばされたのだと気付いた。

だがハインは追撃をかけない。どころか一歩を引く。
そして両手の歪剣を鋏に変形させると、思いきり跳ね上げた。
黒銀の鋏はそこで、青の薙刀の重い一撃を真正面から受け、弾く。

(#´∀`)「もなッ!!」

モナーは流れのまま薙刀を半回転させ、石突きの部位を下から跳ね上げる。
それをハインは大鋏の柄で防御、弾き飛ばした。
咆哮をあげ、大鋏を横に一閃。しかしその刃は、縦に構えられた薙刀の柄によって受け止められる。

その衝撃を殺し切らず、むしろ利用して、モナーはその身を旋回させる。
そして全力を込めて、叩きつける。遠心力を纏った大薙刀は、ひどく重い破壊力を伴っていた。


20 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:39:19.42 ID:ZpMufzom0
 
ハインもそれに負けじと、腰の回転を使って大鋏を叩きつける。
まるで大剣の如き質量を持つ大鋏は、薙刀に負けない破壊力を内包する。
結果、二つの得物は壮絶な金属音を奏でて弾けた。二人の手に、得物から伝わった痺れがびりびりと走る。

だがハインはそこで停滞しない。
大鋏を片手に持ち代え、刃から返ってくる衝撃を後方へ上手く逃しながら、モナーに接近した。
モナーはそれに反応出来ない。

从#゚∀从「寝てろ!!」

モナーの脚の後ろに片足を置き、それを引きつつ、腕を水平に振るった。
腕は肘の辺りでモナーの首を捉え、彼は呻きを漏らしつつ、床に仰向けに叩き付けられる。
鈍い音がしたが、頭を打った様子はない。咄嗟に顎を引いたようだ。

しかし背中を打ったからか、呼吸が辛そうだ。
衝撃は弱くなかった。苦痛は相応にある。
今の状態では応戦も満足に出来ないだろう。

だがハインはそこで、やはり追撃をせずに、大きく後方へ跳び退った。
直後、彼女の目の前の空間を橙色の刃が貫いていく。

(#゚∀゚)「チッ!」

舌打ちと共に、ジョルジュが彼女とモナーの間に入り込んできた。
しかし、すぐに飛びかかるということはしない。ハインの様子を窺い、タイミングを見計らっている。
そして右腕の形状をショートブレードに変えつつ、背後のモナーに向けて叫んだ。


23 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:42:13.37 ID:ZpMufzom0
 
(;゚∀゚)「相棒として、全力で護らせてもらうよ! でも残念ながら、大して長い間持たないかんね!
    だからさっさと体勢を立て直してくれよ! 死にたくないっしょ!?」

そして言葉を後方に残して、彼は突撃の疾駆を始めた。
距離は一気に消え失せ、ジョルジュはその右腕を振るい、ハインはそれに対抗すべく動く。

橙のブレードは下から上方へ、斜めの軌跡を刻んだ。
ハインはそれに合わせて身体を斜めに傾がせ、ブレードを苦もなく回避。

彼女はそのまま距離を詰め切ろうという動きを見せたが、しかし直前で停止、後退した。
その眼前、四本の橙の線が空間を刻みつける。ジョルジュの左腕の『爪』によるものだ。
ジョルジュの舌打ち。それから間を置かず、彼は後退するハインを追撃しにかかった。

床を滑りつつ、右腕と左腕を連続で叩き付ける。
全力だが、闇雲ではない。隙を狙い澄ました上で、出来る限りの速度で刃を振るった。
風切り音が連続し、踏む足音は強く早くなっていく。

が、しかしハインを傷付けられない。刃が届かない。
ジョルジュの全力は、彼女の両腕に握られた黒と銀の歪剣によって全て受けられ、あるいはいなされ、避けられていた。
何てふざけた野郎だ、とジョルジュは歯を噛む。

(#゚∀゚)(しかも……まだ余裕がある)

追い詰められていない。届かない。
届かせるにはどうすれば良いか―――それを思考した時に、いくつかの言葉が浮かぶ。
なるほど、やってみる価値はあるか。


24 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:45:14.94 ID:ZpMufzom0
 
( ゚∀゚)(トリッキーに動いて、翻弄する!)

フサやモナーに教わった、自身の戦い方。
状況はやや違うが、戦い方としては有効に使える筈だ。

それを、試してみよう……ではない。絶対に、成功させなくてはならない。
この状況を打破する為には、そして生きる為には、失敗は許されない。
やれるかどうかではなく、やるしかない。訓練は十分に積んだ。出来ない筈は、ない。

そして思考が終ると同時に、攻守が逆転する。
後退のステップを踏んでいたハインの脚が、床を強く踏み締めた。
無理矢理な停止による摩擦の音。合成ゴムの焦げる臭い。

次の瞬間には、彼女の後退の動きは前進の動きへと変わっている。
ジョルジュに正対した彼女は、容赦のない前蹴りを撃ち込んだ。
リーチは長く、速い。ジョルジュに、それを避ける術はない。

ない、筈だった。

( ゚∀゚)「よっと!!」

声。それはその一瞬で、正面から横へ流れる。
そしてハインの脚は空を貫いた。そこにジョルジュの身体はない。

彼女の表情が僅かな驚愕に染まる。
しかし、すぐさま元の表情へと戻った。怒っているような、焦っているような顔に。


26 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:48:12.00 ID:ZpMufzom0
  
从#゚∀从「クソが……!」

忌々しげに呟く彼女の表情は、ジョルジュが動いた方向と逆に動いた。

橙の髪が、彼女の動きに遅れてついていく。
その内の一房が、唐突に千切れて宙で散った。
鮮やかな切断面は、ジョルジュの右腕によるものだ。

( ゚∀゚)「惜しい!」

从#゚∀从「うるっせんだよ! 雑魚は大人しく散ってろ!!」

声と共に、猛攻が始まった。

空間に色が付く。黒と銀。そして橙の色。
それらは残像だ。余りにも速いハインの攻撃が生み出した、色のある残像。
そして色は、彼女のステップと共に前進する。それはまるで、ジョルジュを呑み込もうとするかのように。

それに対して、彼は鋭い笑みを浮かべた。
勿論、余裕なんてない。笑える要素なんてどこにもない。
だというのに、彼は笑った。おかしくて堪らないというよりは、自然と零れてしまった、とでもいうように。

色が増える。ジョルジュの右腕と爪の色―――まるで夕陽のような橙だ。
それは圧倒的に遅くはあるが、ハインの色に対抗してみせた。
結果、色に音が付く。透き通った風切り音と、洗練された金属音だ。

そして両腕で抑えきれない攻撃はというと、ジョルジュは避けていた。
その天才的、怪物的な反射を以てして。
危なげな応対ではあったが、しかし間一髪のところで、彼女の色はジョルジュに届かない


29 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:51:11.94 ID:ZpMufzom0
  
壮絶な風切り音の中、ハインが歯を噛み締める音と、ジョルジュの乾いた笑い声が重なる。

しばらくその応対は続き、やがて変化が起きた。
空間に赤が混じる。血だ。
ハインの刃が、徐々にジョルジュを削り始めていた。

刃が掠れば肌が切れ、血液が噴き出す。
縦横無尽に空を駆けるハインの刃は、溢れた血液すらも切り刻んで、それを赤の霧へと変えた。
霧は徐々に増える。疲労からか、ジョルジュの腕が彼女に追い付けなくなってきていた。

(;゚∀゚)「チィ……!」

ダメだ。これじゃ真正面からぶつかってるのと変わらない。
ハインのペースに乗ってしまってはいけない。
この猛攻から抜け出さねば。

後退の速度を上げた。ハインはそれにぴたりと付いてくる。放す気はなさそうだ。
次の一歩で、一気に速度を上げる。ハインはそれでも、しつこく食い下がってくる。

( ゚∀゚)(―――そうだ、それで良い)

やがて速度がピークに達すると、ジョルジュは床を全力で踏み締める。
先程のハインのように綺麗には決まらなかったが、しかし速度は一気に落ちた。

その脚を軸に、後退の勢いを前進へシフトする。
ハインはついてきている。眼前だ。
黒の歪剣を振り上げ、今にも振り下ろさんとしている。逆側の銀の歪剣も、振るわれる寸前といった感じだ。


31 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:54:13.53 ID:ZpMufzom0
  
それに対し、ジョルジュは前進の勢いを殺さぬまま、右腕を前に構えた。
しかしその形状はショートブレードではなく、巨大な盾だ。
振るわれたハインの歪剣は、堅い音を経てて盾で弾ける。

その隙に、ジョルジュは大きく一歩を踏んだ。
盾の向こうのハインに並ぶ。

彼女のペースにさせなければ良い。
攻撃を叩き込もうとするのならば、避ければ良い。
避けられない猛攻を仕掛けてくるのならば、止めてしまえば良い。

盾で猛攻を無意味なものにしてしまえば、そこで彼女のペースは崩せる。
そして彼女が新たな流れを作り出す前に、自分の流れを作ってしまえば良い。
さぁ、攻撃は止めた。後は、自身の流れを作りだすだけで良い。

この巨大な盾によって、彼女から自分の動きは見えない。
自分がどのようにして流れを作ろうとしているのか、彼女からは見えない。

更に一歩を踏む。これで背後を取れた。
そして左腕を振り上げ、盾から飛びだして―――

(;゚∀゚)「あ……!?」

そこに、ハインはいなかった。
盾の向こうにいると思っていたハインは、いつのまにか消えていた。

……そうだ。
あちらから自分が見えないように、こちらからもあちらは見えない。相手がどう動いているか分からないのは、自分もだった。


34 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/26(金) 23:57:18.07 ID:ZpMufzom0
  
即興の作戦だったとは言え、迂闊だった。どこに、と彼女を探そうとする。
その時、微かな音が聞こえた。
音は背後から。床を踏む音、そして風切り音だ。

(;゚∀゚)「―――!!」

息が詰まり、焦りと緊張が全身に満ちる。
必死で左腕を背後に飛ばした。
プロテクターに覆われた前腕は、そこでひどく重い衝撃を受ける。

その衝撃に、びりびりと全身が戦いた。
歯を噛み締める。関節と筋肉が悲鳴をあげていた。

从#゚∀从「チッ……! 無駄に面倒臭ぇもん付けてきやがって。
      そいつがなきゃ、今頃は左腕を飛ばしてたものを」

言いつつ、ハインは歪剣を握る手から力を抜かない。むしろ、強めていく。
ジョルジュはそれに耐える。既に、脚や腕には震えがあった。
プロテクターが軋む。

(;゚∀゚)「残念だったねぇ……。今あんたが握ってるそいつと同じく、あのおっちゃんが作ってくれたもんだよ」

从#゚∀从「見りゃ分かる。あの糞ブラコン野郎め」

(;゚∀゚)「んな事ぁ良いからさ……!」

ジョルジュは右腕をハインに向ける。
盾の形状を持っていたそれは、一瞬で形を失い、次の一瞬で槍へと変化。
更に、伸びる。高速で、ハインの喉目掛けて。


38 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:00:15.83 ID:um8ijNNN0
  
(#゚∀゚)「いい加減どけよ、畜生が!!」

从#゚∀从「!」

穂先が彼女の喉笛を蹂躙する瞬間、彼女の姿は後方へ滑る。
紙一重のところで穂先は届かず、彼女はジョルジュからある程度の距離を開けた。

ジョルジュはこれを好機と見た。
奴が退いた。ここで畳みかければ、退かせたままに出来る。こちらの流れに出来る。
逃すわけにはいかない。

思考するや否や、ジョルジュは駆けた。全力での疾走は距離をすぐに無くす。
ハインはそれ以上退こうとはしなかった。彼女も今の流れを失いたくないのだろう。
一度距離が開けた事によって、流れは消滅した。ここで流れを掴めた方が、これ以降の戦闘で有利に立てる。

ジョルジュは駆け寄った速度のまま、左腕の爪を突き出す。
ハインは身体を旋回させ、彼の攻撃をそのまま後方へ流した。
そして旋回の運動の中で歪剣を逆手に持ち替え、流れたジョルジュの背目掛けて振るう。

从#゚∀从「―――ッ!?」

だがそこで歪剣は止まる。背に回されたジョルジュの右腕が、彼女の歪剣を受けていた。
いつの間に変形したのか、その右腕の形状はショートブレードだ。

(#゚∀゚)「はいこれ来ましたァ!」

そしてジョルジュの身も旋回する。歪剣を弾きつつ、左腕の爪を袈裟掛けに振り下ろした。
しかしハインは上半身を反らすだけでそれを回避。そして、その流れのまま両脚が跳ね上がる。
バック宙のような動きだ。爪先はジョルジュの顎へと伸びたが、ジョルジュは寸前で身を退き回避。


40 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:03:17.98 ID:um8ijNNN0
 
動作の後、ハインは跪くような姿勢になる。その脳天目掛けて、ジョルジュは容赦なく右腕を振り下ろした。
だが右腕が捉え、粉砕したのは床。彼女の身は、寸前に前転してジョルジュの背後へと抜けていた。
ジョルジュがそれを知覚するのと、ハインが彼の背後で立ち上がったのは、全くの同時。

从#゚∀从「らぁっ!!」

(#゚∀゚)「くっ!!」

ハインは右手の黒の歪剣を、横薙ぎに。
ジョルジュはショートブレードと化している右腕を、振り返りながら一閃。
互いに全力の一撃だった。

今までよりも一層大きく、甲高い金属音。
内包された衝撃が二つの刃の間で弾け―――そして彼女の手から、黒の刃が離れた。
くるくると宙を回った後に、ハインの背後の床に突き刺さる。

(#゚∀゚)「貰った!!」

彼女の右側がガラ空き、今こそ最大のチャンスだ。
間を置かず、左腕の爪を振るった。

だが。

从#゚∀从「甘ぇ!!」

彼女の右腕が、裏拳の形で跳ね上げられた。
途轍もない衝撃が左腕に走る。殴り飛ばされたのだ。
何か、嫌な音がした。もしかしたら、『爪』にヒビでも入ってしまったかもしれない。


43 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:06:10.31 ID:um8ijNNN0
  
だが、それどころではなかった。
驚愕に、一瞬、動きが止まってしまっていた。
その隙に、ハインが距離を詰めている。視界の隅で、彼女の脚が跳ね上がった。

(; ∀ )「げぇッ……!!」

腹部に強烈な厭な痛み。
脚が浮くほどに強力な蹴りを叩き込まれてしまっていた。
吹き飛び、転がった先で、堪らずジョルジュは激しく嘔吐する。

うるさく叫ぶ心臓の音。その向こう側で、足音が聞こえた。
僅かに上げた視線は涙でぼやけ、しかし接近してくる橙色を確認する。
いけない、と脚に力を入れるが、立てない。力が抜けていく。呼吸がやたら苦しかった。

(; ∀ )「…………ッ!」

近くで空気が揺れる。足音が止んだ。
ああ、お終いか、とやけに冷静に考えてしまった。
一瞬を置いて、そんな自分を、叱咤する。

ふざけるな、冗談じゃない。ここで死んでたまるか。
お前は何の為にここに来た。覚悟をしてきたんだろうが。
お前の覚悟は、こんなところで諦めて良い程度のものなのか。お前の命の価値はこの程度か。

不快な鉄の味と酸っぱさが広がる口内を噛み締め、全身に力を込める。
腹が燃えるように痛かったが、起き上がる事だけに集中した。生きねばならない。生きる為なら、こんな痛みなど。
まもなく、僅かに身体が起き上がる。しかしそこで、腹に重い衝撃。せっかく立ち直しかけた身体は吹き飛び、再度床に密着してしまった。


45 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:09:11.12 ID:um8ijNNN0
  
(; ∀ )「がっ……はっ。げ……!!」

まったく同じところにぶち込まれた苦痛は、相乗する。
口からは溶かしかけの食物の代わりに、液体が溢れた。血だ。
呼吸が苦しい。運悪く、嫌なところに入ってしまったようだ。いや、ハインはきっと最初からそこを狙っていたのだろう。

世界がスローに感じる。
しかしそれは自分が速く動けるというわけではない。どうせ自分は今、動けない。
これは単なる、苦痛による時間の遅延だ。苦痛だけが、長く長く、自分を蝕んでいく。

もう一度、力を込めた。
ダメだ。身体は情けなく震えるだけで、立ち上がれそうな気配がない。
力を込める為に、そして苦痛と悔しさに噛み縛った歯が、軋んだ音を経てた。

遅々と流れていく視界で、やがて橙色が目の前に立つ。
空気が揺れた。ここからは彼女の足しか見えないが、得物を振り上げたのだろう。
どうにか出来ないか。転がる事は。せめて致命傷を避ける術はないか。全力で思考する。

生きたい。初めて、そう思った。

だが容赦はない。空気の流れが強くなった。
とうとう振り下ろされてしまったか、と息を呑む。

だが。眼の前、彼女の脚が跳ぶようにして離れた。
一瞬。脚があった床に大きな片刃が突き立つ。鋭く光を返すその刃は、ただただ美しかった。
上方から舌打ちが聞こえ、まもなくそこに男物のブーツが現れる。

それは、モナーのものだった。


47 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:12:14.49 ID:um8ijNNN0
  
(;´∀`)「大丈夫かもな?」

相変わらずのどかな声が聞こえた。
だが、声に余裕がない。少し掠れて、苦しげに上擦っている。まだ、ダメージが残ってるのだろう。
顔を上げられない為に顔を見れないが、きっと似合わない顰めっ面をしていることだろう。

「あんまり大丈夫じゃないかな」応えようとして、しかし不明瞭な呻きしか出て来なかった。

( ´∀`)「ああ、答えなくて良いもな。喋らない方が良いもな」

諌めるように言葉を落として、モナーは床に突き立てた薙刀を抜く。
やはり、言葉は少し苦しげだ。大丈夫なのか、とジョルジュは眉根を寄せた。
表情からそれを読み取ったのか、モナーはそれに対して「僕は大丈夫だもな」と呟く。

( ´∀`)「まだ少し息苦しいけど、もう動けるもな。動けるから、戦えるもな。
      安心して良いもな。心配するくらいなら、一秒でも早く動けるように、しっかり休んでほしいもな」

薙刀を握る手に力を込め、姿勢を低く落とす。
脚を適度な広さに開き、踵を僅かに上げて、上半身を前傾にした。

( ´∀`)「……僕も相棒として、君の事を全力で護らせてもらうもな。でも残念ながら、大して長い間持たない。
      だからさっさと体勢を立て直してほしいもな。死にたく、ないもな?」

余裕ありげに溢して、そしてモナーは一歩を前進。
その一歩から一気に加速して、薙刀を正面に構えた。突撃の姿勢だ。
対するハインは堂々と構えている。手の中の歪剣は鋏に戻され、既に腰高に構えられていた。


49 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:15:12.56 ID:um8ijNNN0
  
離れていく背を見つつ、ジョルジュは安堵の息を吐く。
生きている。その事にここまで安心出来るのは、嬉しく思えるのは初めてだった。
モナーへの感謝の念が、止め処なく溢れてくる。彼がいなければ、死んでいた。

( ゚∀゚)(……妙な感覚だ)

生きたいと思っている自分が、死にたくないとここまで思っている自分が、新鮮だった。
どうやら俺は変われたようだ。あの辛く、つまらなくて仕方のない日常も、きっと素晴らしいものになるのだろう。
ならば、生きなくては。こんなところで死ぬわけにはいかない。あの男の真実も見付けていない。

ジョルジュは身体に力を込める。
身体が熱くなり、痛みが徐々に―――本当に徐々にだが、薄れていく。

異能者となり、化け物のそれとなった身体が今、堪らなく愛おしかった。
この身体が、自身の存在の意味を教えてくれて、そして世界を変えてくれた。
そして今、必死に自分を生かせようとしてくれる。

ならば、自分はそれに応えねばなるまい。
望むところだ。

(#゚∀゚)「意地でも生きてやるよ……!」

力を込める。身体が熱くなっていく。
その熱さすら、生きようとしている自分を実感出来て、心地良かった。


51 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:18:16.96 ID:um8ijNNN0
  
(#´∀`)「もなっ!!」

突撃の速度を刃に乗せ、正面、切り上げる。
ハインはそれに対し、正面からぶつかるような軌道で大鋏を振り下ろした。
激突する。重い衝撃が刃の間で爆発し、双方を勢いよく弾き飛ばした。

その時、モナーの手の中で、くるりと薙刀が回る。
衝撃から生まれた勢いをそのままに、石突きがハインを上方から襲った。
彼女の鋏は腕と共に大きく弾かれている。防御は出来ない。

从#゚∀从「チッ!!」

咄嗟、しゃがみ込んだ。石突きは彼女の頭を掠り、抜ける。
間を置かず、彼女は床に手を付いた。それを支えにして身を持ち上げ、器用に脚を跳ね上げる。
顎を狙ったそれは、しかし寸前で硬い感触に止められた。それは横に構えられた青い柄。モナーの薙刀だ。

罵倒を漏らし、彼女はその柄を蹴りつけて身を上下反転。
そこですかさず鋏を身の前に構える。
直後、重い衝撃。鋏に薙刀が叩き付けられていた。得物の向こう、モナーの表情が悔しげに歪む。

ハインはそこで、大きく一歩を退いた。
モナーは追わない。溜息を一つ吐き、姿勢を整える。
その姿は、どこか余裕があるように見えた。


53 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:21:12.11 ID:um8ijNNN0
  
(;゚∀゚)「……すっげ」

戦闘を見ていたジョルジュの眼に、僅かな驚愕が浮かんでいた。
あのハインが受け身になっている。
攻撃はことごとくモナーに受けられ、どころかモナーからの攻撃を受けそうになっているじゃないか、と。

モナーに改めて畏怖に似た感情を抱き、しかしどうも安心出来ない。
嫌な予感がする。自分をあそこまで圧倒したハインが、あのまま敗けるとは思えないのだ。
身体に込める力を強める。これは、早く戦線に復帰すべきだと感じた。


从#゚∀从「クソが……クソが……!
      どいつもこいつも邪魔しやがって……!!」

後退した先、ハインはぶつぶつと低く言葉を呟いていた。まるで呪詛だ。
その視線だけで殺せそうなくらいにモナーを睨みつけ、大鋏を握り締める手は軋みを挙げる。

それを見て、モナーは笑う。

( ´∀`)「どうしたもな、調子でも悪いもな? それとも、何かが気になってて戦闘が手に付かないもなか?」

从#゚∀从「……うるせぇよ。安い挑発しやがって。
      安心しろよ。そんなこと言わずとも、すぐにでもぶち殺してやる」


54 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:24:13.89 ID:um8ijNNN0
  
( ´∀`)「流石に、もう乗らないもなか」

ちょっとがっかりしたように眉根を寄せ、首を傾げて

( ´∀`)「なら、正々堂々とやるもな」

脚を肩幅に開き、腰高に薙刀を構えた。
どこか穏やかに見える表情の中、瞳は鋭くハインを睨みつけている。

从#゚∀从「来いってか?」

( ´∀`)「その通りだもな。人間と武器職人の意地を見せてやるもな」

薙刀を構えたまま、左手の人差し指だけで手招きする。
ハインはそれに対して、怒りとも笑みとも取れぬ表情を浮かべ、親指を下に向けた。

直後。
床を蹴りつける轟音と共に、彼女が高速で前進した。
腰高に構えられた鋏は刃を寝かせている。攻撃範囲に入ると同時に、横薙ぎにされるのだろう。

二人の距離は見る見る内に詰められ、彼女は鋏を握る腕に力を込めた。
だが、その鋏の攻撃範囲にモナーが入る直前。
彼の握る青の薙刀が、先んじて袈裟掛けにされた。刃は―――届く。鮮やかな赤が散った。

そして間髪置かず、第二撃が振るわれる。


57 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 00:27:13.45 ID:um8ijNNN0
  
从#゚∀从「! ちっ!!」

数歩を引く。薙刀の刃は虚しく抜けるが、モナーは追わない。
先ほどと同じく、ただ悠然と、堂々と構えている。
ハインはそれが気に喰わないのか、「嘗めやがって」と漏らした。

彼女の腕からは赤が零れていた。
傷は長いが、細く浅い。僅かに遅れたとは言え、薙刀の動きに彼女が反応したからだ。
反応が遅ければ―――これが一般人などであれば、腕は飛んでいただろう。

从#゚∀从「嫌らしい戦い方しやがって」

( ´∀`)「勝つ為だもな。こうしないと勝てない。この為に僕は、薙刀って武器を持ってきたんだもな。
      嫌らしくて結構。僕は勝つ為に、堂々と嫌らしい戦い方をさせてもらうもな」

从#゚∀从「……そうかい。とことんイラつく野郎だ」

不快気に表情を歪ませた。その瞳は、彼の握る青い大薙刀を見ている。

薙刀という武器の特徴の一つに、その卓越したリーチの長さが挙げられる。
大きなものでは三メートル近い長さの物も存在し、そしてモナーが握る薙刀は、まさにそれだった。
当然、重さは相当にあり、長い分だけ扱いづらさも増すのだが、しかしこの場合は例外になる。その得物を握るのが、モナーだからだ。

ハインは、鋏の攻撃範囲に彼を捉える事も出来ない。
大鋏もかなり大型の武器には入るが、しかし薙刀のリーチの長さには到底及ばない。
モナーは悠然と構え、彼女がある程度接近した時に薙刀を振るえば良い。それで十分に間に合う。





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