(*゚ー゚)しぃの時計の針は戻らないようです(前編二)
29 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 21:44:18.50 ID:I+3pGr3T0 ショートプログラムの時点で、世界選手権の出場は半分決まっていたようなものだった。 それを確定させるだけの滑り。雑念が入らないはずはなかった。 はっきりした跡を、残した。それが、日本への決別、そして世界への道筋だった。 結局、会場にギコ君の姿を見つけることはできなかった。 いや、もしかしたら、来ていなかったかも知れない。今日も明日も平日だし、ギコ君も学校、バイトで忙しい。 しかも、近頃の空気。何ら不思議はない状況だった。 しかし、取材を受けている途中で、太股に振動を感じた。 逸る気持ちを必死で抑えた。取材を終えてすぐ、携帯を開いた。( ,,゚Д゚)『世界選手権確定おめでとー。久々に生で見れただけで嬉しかった。 今度は話したいなぁ。それじゃ、おやすみー』 何気の無い、普通の言葉。 それでも、胸が詰まった。 寒空の下でも、顔が熱を持っている。 ついさっきまでの疑念が嘘のように晴れやかで、単純さに笑いが零れた。 同時に、やはり好きということも再認した。 帰りながらスケジュールを調べて、終わってすぐメールした。 返信は、来なかった。代わりに、電話がかかってきた。( ,,゚Д゚)『日曜? 空いてるんだ?』(*゚ー゚)『うん。朝練習あるけど昼以降は大丈夫だよー』33 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 21:48:09.82 ID:I+3pGr3T0( ,,゚Д゚)『じゃー、何時? 1時でいい?』(*゚ー゚)『うん。久々に会えるねー』( ,,゚Д゚)『直に会って話したいことが、いっぱいあるなぁ』(*゚ー゚)『私もー。楽しみにしてるね』( ,,゚Д゚)『じゃあ、おやすみ』(*゚ー゚)『うん、おやすみー』 今まで本当に全く時間が取れなかったわけではなかった。 会おうと思えば会える時間は、あるにはあったが、練習時間に充てたり、学校の友達と遊んだりしていた。 そういった事情は彼も理解してくれているはずと気にしていなかったが、今にしてみればもう少し会うべきだった。 半年は、長すぎた。 相談することが、多かった。 スケートのこと、対人関係など、恋愛ごと以外はほとんどギコ君に相談していた。それ故にか、あまり寂しさを覚えることはなかった。 そしてそれは相手もそうだと勝手に思い込んでいた節があったが、そうではなかったのかも知れない。 いずれにせよ、明日会える。 楽しい時間が、待っている。話せることもたくさんあるだろう。 日曜。 思ったより、練習が長引いた。 家ですぐ昼食を取って待ち合わせ場所に向かったが、1時はもう30分も過ぎている。 結局、40分ほど遅れて待ち合わせ場所に着いた。 ギコ君の姿はすぐに発見する。恐る恐る表情を伺ってみた。35 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 21:51:24.82 ID:I+3pGr3T0 いつもの柔和な感じが、どことなく翳っているように思えた。 それは、判然とした恐怖を与えられるものだった。(;゚ -゚)「ご、ごめんね……ちょっと練習、長引いちゃって……」 とうに気づいていると思っていたのに、ギコ君がはっとした。 完全に上の空だったようだ。( ,,゚Д゚)「久しぶり! 実は俺、電車一本乗り遅れちゃってさ。 椎名絶対怒ってるだろうなーって今めっちゃ不安だったんだ。 良かった、って言ったら変だけど」(*゚ -゚)「そうだったんだ……」 安堵の息が漏れた。表情のわけも、そう説明されると納得がいく。 急いで映画館に入る。 最近、変な記者に付きまとわれることが多い。全く知らなかった写真などが雑誌に掲載されていたこともあった。 ギコ君のことはまだ知られていないみたいだが、普通に歩き回っていたらすぐに発覚するだろう。 それが困るわけではなかった。現に、ギコ君に二年前貰った指輪は左手の薬指に嵌め続けている。 彼氏がいることはもうファンの間で知られているが、それによりギコ君に被害が及ぶのは嫌だった。 記者の手がギコ君にまで伸びたら、迷惑どころではない。 それを一度ギコ君には言って、ギコ君はそれくらいは我慢できると言ってくれたが、それでも恋仲である以上、気兼ねのない関係でありたかった。 前から観たかった映画を一緒に観て、外に出たらすぐにカラオケに入った。 顔を隠すような真似までする。世界選手権前である以上、下らない報道に心を動かされたくなかった。 カラオケが終わったら、もう月と太陽が入れ替わっていた。 これだけ暗くなると、帽子を深めにさえ被っていればそう心配は要らない。38 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 21:55:07.78 ID:I+3pGr3T0(*゚ー゚)「もう8時だー」 それでも、人のいない公園に向かった。 涼やかな風。音を奏でる木々。 こんなに穏やかな気分になれたのはいつ以来だろう。 それこそ、半年振りだろうか。 この気持ちは、失いたくない。ぼんやりそんなことを考えていた。( ,,゚Д゚)「楽しかった」 ふと、現実に引き戻された。( ,,゚Д゚)「久々に会えて、久々に話せて、俺凄い楽しかった」 充実した表情。思わず、笑みが零れる。(*゚ー゚)「私もだよー。これからはもっと頻繁に会えたらいいなぁ。 私やっぱ、ギコ君と遊んでるときが一番幸せ……欠かせない時間って思」( ,,゚Д゚)「別れよう」 夜の光が、華奢な自分の体を貫き、そのまま消え去った。41 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 21:58:17.20 ID:I+3pGr3T0('、`;川「フラれちゃった……ときましたか……」 皮肉なほど、綺麗な青が空を塗り潰していた。('、`;川「随分、唐突に……それは、また……お気の毒に……」( ; -;)「ふぇぇーん……」 思い出すだけで、視界が滲んでくる。 明くる日。 今日は一、二限がLHRで、簡単なアンケートを答えただけで先生はどこかへ行ってしまっていた。('、`*川「そんで? 理由は? まぁ大体想像つくけど」 有里に全てを話したい気持ちはあった。 ただ、思い切り詰られるのが少し怖い。('、`*川「おーい。黙るんじゃ私は分かんないって」 恐怖は、なくはないが、やはり喋らなければ、先へは進めない。 時は、動いているのだ。(;゚ -゚)「ちょっと、長くなるけど……」('、`*川「まー話してみなさいってば」 窓際で光を受けていた。 窓の傍を、鳥が翔け抜ける。視界の端で捉えたのは陰影だけで、本当に鳥なのかは分からなかった。 鳥に似た、何かだったかも知れない。43 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 22:00:54.48 ID:I+3pGr3T0( ,,゚Д゚)「別れよう」 反復されなくても、ずっと頭の中で繰り返されている。 意味も、分からぬまま。( ,,゚Д゚)「俺と椎名の関係は、意味ないよ。 もう、無理。ゴメン。終わりにしよう」 何十回繰り返されただろう。 ずっと、時は止まっているとさえ思えた。 進んで欲しくもなかった。(;゚ -゚)「なん……で……」 震えながら搾り出した情けない声は、冷たい夜風が瞬く間に掠ってしまった。 その風は虚空へと舞い上がり、声も、届いていないだろうと思った。( ,,゚Д゚)「言った通りだよ。 俺は相談をほぼ毎日受けて、他愛もない労いの言葉を送る。そんで、ときどき会う。 人目もつかないようなところで、実に普通に遊ぶ。 ね? 恋愛感情はここに一切必要ない」 体のどこも、口さえも動かなかった。 どうせなら、時も止まってしまえば。 このまま進まなければと、浅はかな願いを二人の空間にぶつけていた。46 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 22:03:50.28 ID:I+3pGr3T0( ,,゚Д゚)「雑誌とかにもさ、恋愛沙汰は探られるし、そーゆーのないほうが椎名も楽でしょ? 俺は、今まで通り相談も受けられるし、お疲れ様ってメールも送れる。 恋人関係じゃなきゃ、無理にスケジュール空けて会うこともない。 ほら、ね。こっちのほうが良さそうだ」(;゚ -゚)「待って! 違う! 私は好きだから! 好きだから一緒に居て嬉しかったし相談もできた!」( ,,゚Д゚)「徐々に慣れるよ。愛がなくても結果に変わりはない」(;゚ -゚)「変わる……絶対変わる……だか」 また、時が止まった。 雨。はっきりそう思える、涙だった。( ,,;Д;)「ゴメン……迷惑ばっか、かけて……。 全部、俺のせいなんだ……全部、俺が、弱いせいで……。 世界選手権、近いのに……ゴメン……」 錯乱し続ける脳は、役に立たないもいいところだった。( ,,;Д;)「俺がもっと……耐えられたら……。 そしたら、椎名に迷惑もかけずに済んだのに……。 俺が、辛いからなんだ……ほんとに、それだけ……」(;゚ -゚)「ま、待って! 私もっと頑張るから! 時間もいっぱい空けるし、もっと会えるようにするから!」( ,,゚Д゚)「それも、心苦しいんだ……」48 名前:前編 ◆azwd/t2EpE [] 投稿日:2006/11/18(土) 22:06:57.20 ID:I+3pGr3T0 いつの間にか、ギコ君の瞳はいつものように澄んでいた。 それが、疑問でもあった。( ,,゚Д゚)「だから、ほら。全部俺のせいなんだ。 俺が、会えなくてもいい、っていう強さを持ってれば、何も問題なかった……。 なのに、俺は、我が侭にも毎日会いたいなんて思う気持ちがある。 この状態でずっといるのは、苦しいんだ……」(;゚ -゚)「で、でも……」( ,,゚Д゚)「でも分かってるんだ。 椎名が、少なからず俺を必要としてくれてるって。 それは凄く嬉しいんだけど……やっぱ、愛があるとだめだ……。 俺、彼氏っていう権利を使わずには居られなくなる……」 風が、身を包む。それが、ひどく冷える。 心身、底から。( ,,゚Д゚)「もう最近はさ、俺より先にメディアが椎名のことを知ってる。 ずっと、耐え難く思ってた。 そんで……この一年じゃ、三回しか会ってない……もう、無理だ……」(;゚ -゚)「待って……私、もっと彼女らしくなるから……だから……」( ,,゚Д゚)「殺すって結論に行き着きそうなときもあった」 風と、それから、今度はなんだ。 心を冷やすのは、一体なんなのだろう。 何も、分からない。 壊れたほうがいっそ楽か、と思えた。