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カテゴリ:雑記・会話
兄と私とで合わせて10年親しんだ都会センスあふれるスマートな月刊誌『少年』には、今以て郷愁に近い想いがある。漫画ばかりでなく、様々な企画・編集による豊富な内容のページが誌面を埋め尽くし、私たち田舎の少年は、雑誌購読を楽しむと共に、都会的な新しい情報をも受け取ることが出来た。
「少年」昭和37年9月号表紙 『少年』に限らず、当時の少年月刊誌には、表紙をひらくとすぐのページに、華やかなカラー・グラビアがあった。優れた画家の先生がたによる未来の想像画が多かった気がする。 中でも子供心に期待と疑問を二つながら、ないまぜにして、胸躍らせた未来図があった。『エアカー』が未来の都市上空を飛ぶグラビアである。 昭和40年代の初め、車はそろそろ庶民の手の届くところとなり始めた。 しかし既にSF的なグラビア世界では、『エアカー』が未来の自家用車として描かれていた。いやグラビアだけではない。漫画にもエアカーは当たり前と言わぬばかりに、未来自動車として登場していた。 雑誌「少年」昭和37年9月号口絵ページ、『21世紀 交通のエース・空のマイカー』(画・伊藤展安《いとう・ひろやす》氏)より。 本文を書き写します。 【東京や大阪など、いまや日本の大都市は、たいへんな交通難に、なやまされています。 道路のせまいことと、車のふえたことが、その大きな原因ですが、21世紀には、これまでのような道路を走る自動車にかわって、この絵のようなプラスチック・エアカーが、新しいマイカー(自家用車)として、どんどんあらわれることでしょう。 かるくて垂直に離着陸でき、そしてどこへでも、てがるにとんでいけるのですからべんりですね。また、こうしたエアカー用のヘリポートも、各地にできることでしょう。 ちょっと、デパートやハイキングにいくにも、新しい空のエース、エアカーで・・・・・もうすぐ、そんな時代がやってきます。】 ここで突如、私の当時の憧れの職業のことをしばらくつづる。私は初め、テレビドラマ「月光仮面」や「七色仮面」を見て、『名探偵』になりたいと思った。 これはもちろん今の私立探偵ではない。また、推理を利かせて犯人追及に取組むだけの頭脳派タイプの探偵でもない。要するに『名探偵』であり、犯人などは初めから不敵な挑戦状を送りつけて来るから、名探偵の戦いは既に始まっていた。 探偵は、月光仮面に登場した祝十郎(いわい・じゅうろう)も、七色仮面に登場した蘭光太郎(らん・こうたろう)も、いずれもごく当然のように拳銃を所持し、無限連発とも言えるその拳銃をほとんどしょっちゅう撃ちまくっていた。 もちろん警察からは一目置かれるどころではない。事件捜査、解決の頼もしい存在として尊敬されていた。 悪漢どもも、まず事件を起こすと、次には警察ではなく探偵に宣戦布告して来た。 「月光仮面」放映当時、我が家にテレビがなかった私は、近所の裕福な家に見せてもらいに、兄たちにくっついて行ったが、小学1年くらいのその頃でも、既に祝探偵が月光仮面の扮装に着替えているとは限らないのではと、怪しみ出していた。例えば陸橋で悪党一味と乱闘しているさいちゅうに設計図の入ったカバンが、ちょうど下を通りかかった汽車の屋根に落ちると見るや、数分後にはそれまで乗って来たオートバイをどこに置いたか、月光仮面は既にヘリコプターに乗り換えて登場し、ひもを垂らしてカバンを吊り上げるという見事な超人技を見せた。 格闘技世界一程度のおじさんではない。体格はごく普通の大人の男らしいスマートさであり、しかも知性と理性に満ちたインテリである。それでいて、あらゆる格闘技を身につけたとしか思えない電光石火の活躍と強さであった。 七色仮面も同様である。蘭探偵は、蒸気機関車にひき殺された。しかもその直前に、悪漢一味の発砲で身体中、ハチの巣にされている。警察の捜索で、蘭探偵の引きちぎれた衣服や血痕などが発見される内容の記者会見も行なわれている。 助かっている道理がない。 ドラマも、改めて見ると単なる子供向けとは思えない。蘭探偵を欠いたままコブラ仮面一味の横暴は続き、そこに常に正義の味方・七色仮面が立ちふさがって、一味の行く手を阻んでいた。 遂に悪党一味はつかまり、事件は七色仮面の活躍で見事に解決した。 実にクールな筋運びだった。 そして第2部で、ある日蘭光太郎は、唐突に涼しげな顔で登場した。以下のようなセリフを事もなげに放った。 「蘭光太郎は死にました。しかし蘭光太郎は生きています」 当たり前のことを当たり前に言い放つのはきわめて困難だが、この時、七色仮面と同様、蘭光太郎も不死身であることが判明した。 この頃から私は将来は『名探偵』になろうとの夢を抱き始めたが、現実の生活は厳しく、小学2年の時の、雑巾を縫う宿題の運針一つ出来ず、算数ドリルの二ケタの掛け算が満足に出来ずにいた。 愚かな子供はそれなりに少しは頭を働かせたものである。つまり、将来の選択肢を用意した。 「発明家になろう。発明すればお金がもらえるから生活出来る」 こう思い込んで、とりあえず手軽に作れそうな発明を考えた。 ロボットの発明である。さすがに鉄腕アトムのように精密なロボットはむつかしいと思えたので、鉄人28号に近いものを作ろうと決めて、材料集めをしたが、制作まもなく、足で歩くロボットは大変だから、胴体を前進させるものを完成させようと計画変更、次第にロボット制作は行き詰まりつつあった。 この頃の私は、思うように進まないことに悩むということはなく、と言うよりそれ以前に、あたかも現実という壁が、愚かな単純少年の小さな脳みそを覆い尽くしてさらにそのまま過ぎ去ってゆくが如くにあっさり方針転換していた。 気づくと、私は石けんか何かの空き箱に目鼻を書いたものに糸を結んで取っ手をつけ、畳の上をそーっと引きずって、まもなく空き箱がパタンと倒れたところで、ロボット制作に見切りをつけていた。 つまらない話が長くなったが、私は発明工夫の醍醐味をまだ味わおうとしていた。 それが冒頭の『エアカー』である。既に生涯ワンマンプロダクションである『大一特技プロダクション』を創立して処女作を作り、小学6年くらいにはなっていた。映画界に進もうとの新たなる将来の夢も育ちつつあったが、何しろ情報に乏しいまたは疎い境遇で、円谷英二特技監督の顔さえ知らない頃だから、こちらもアマチュア・プロダクションからのスタートだった。 さて私は、少年月刊誌などで始終目にするエアカーの、とりあえず試作模型を作ろうと計画した。この点、少しは物事を計画的に進めようという頭脳が芽生えつつあったと言えようか。 ここで当時の私に戻る心地で自画自賛すると、このエアカー模型の構造は、我れながらまずまずの良い発想だった。 車体は相変わらず何かの空き箱だが、この車体下部にプロペラを取り付けて回転させ、それにより浮上する動力を得る発案だった。 ただ、それより前にヘリコプターの模型を飛ばそうとして、プラモデルのヘリのメインローターを取り去り、糸を引っ張るとプロペラだけが回転しながら上昇するオモチャのプロペラをマブチ・モーターの軸に直結してヘリ模型に取り付け、単一乾電池一個でつないだとたんに、ヘリの機体が畳の上で暴れ出して飛行どころではなかった失敗経験があるから、既にして臆病になっていた。 だがエアカーの車体をしっかりしたものにすれば、構造上プロペラは車体の下にセットするものだから、可能性はあると判断、制作にかかった。 乾電池は同じく単一一つ、プロペラは、回転力を高めるために、ゴム動力の模型飛行機のプロペラを使った。動力源もやはりマブチ・モーターである。 まだスイッチ・ボックスなどを作る知識と余裕がなく、操作は、モーターから少し出ている線にエナメル線をつないで延長し、乾電池に接触させて両手で加減するという方法だった。 なお蛇足ながら当時の私は『ショート』という言葉だけ聞いていたが理屈を知らず、感電というものは、むき出しのコンセントに手を突っ込んで経験する劇的で痛い現象というほどしか知らなかったから、単一乾電池一個つまり電圧1.5ボルトのものにエナメル線を直接つないだ瞬間、感電して、「そうか、これがショートというものか」と、身を以て体験、習得したことがある。 文字通り、短絡した頭だったのだ。 さて、エアカーはプロペラの小気味良いうなりを立てて、多分偶然わずかに浮上し、幸先の良いスタートを切ったが、それも束の間、車体があらぬ方向へ進み出し、やがて暴れ出して転倒した。 作用・反作用の法則なぞ無縁の頃だったので、私は単に「現実は厳しい」と悟るしかなかった。 相変わらず少年雑誌の口絵ページを、都市部上空を軽快に飛ぶエアカーの未来図が飾り、様々な科学漫画の中でも、地面スレスレにあるいはビルの上をエアカーが自由自在に走行、飛翔するシーンが描かれていた。 ホバークラフトなど、エアカーに近い交通機関が実現してはいるが、いずれ私たちの自家用車になるはずだった宙に浮かぶ自動車としてのエアカーは、もはや空想の世界の産物に終わるのだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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