第四章(1)振り向けば夕暮れ第四章:五年前 __樹仁のことはショックだとしたら、紫華のことはショックの十倍、じゃなくて、百倍だ。 __こんなショックを受けた僕は、まだ立つことができるなんて、奇蹟だ。 __香港の十二月は冬で、気温はだいたい十何度。そんなに寒くはない。しかし、僕の心は氷より冷たい。 __学校は僕の成績を香港まで送ってくれた。 __封筒を取って、僕の手は少し震えた。 __緊張は緊張だけど、現実を逃れるわけがない。僕は封筒を破って、成績を取り出した。 __合格してよ。僕はもうショックを受けられない。 __幸い、今度はショックがない。全部合格した。 __しかも、Aが取れた。 __意外だな、僕なんかAが取れるなんて。 __樹仁を思い出した。彼は勉強しなくてもAが取れる天才だった。 __このAは、彼が僕にくれたプレゼントかもしれない。 __彼はもともと天才だったから、今仙人になって、力はきっと強い。なんで一つしかくれなかったんだ?もっとくれればいいのに。 __クリスマスが迫ってきた。紫華と一緒に過ごそうと思ったが、今はもうダメだ。 __僕は中学校の友達と一緒に過ごすことにした。みんなカラオケでパーッと盛り上がって、悲しみを忘れようと思ったから。 __ビルを何缶飲んでいて、僕は酔っ払った。 __目が覚めた時、見たことがない所にいた。 __頭が痛かった。 __「起きた?」誰かが言った。 __少傑だった。僕の同窓。 __「ここ、お前んち?」 __「酔っ払ったから、連れてきた」 __「悪かった」 __「別に。友達だろう、俺達」 __「俺、そろそろ・・・」 __「一人で帰れる?」 __「大丈夫。もう覚めたから」 __「彼女でも呼ぼう」 __僕はため息をついた。 __「なんだ?」 __「もう彼女のことを言うな」 __「お前ら・・・」 __僕は「もう終わったんだ」と言った。 __「悪い」 __僕は首を振った。少傑の家を出ようとした。 __「お前、本当に大丈夫かい?」 __「大丈夫」 __結局、僕は二時間もかかって家に帰った。ふだんの二倍だった! __歳が明けた。 __紫華と僕はもう終わった。香港に居てもつまらないから、早くオーストラリアへ行ったほうがいいと思った。 __旧暦のお正月は一月の末だった。お年玉をたくさんもらった。 __お年玉のお金で小説をたくさん買った。オーストラリアで読もうと思った。 __二月の始め、僕はまた旅を立った。 __出発前、僕は紫華に電話した。 __「明日、出発だ」 __「あっ、そんなに早いの?」 __「年末までは帰らない」 __「そうか」 __僕はまだ彼女に未練がある。「体、気をつけて」 __「あなたも」 __彼女の声には、あまり感情がなさそうだった。 __「じゃな」僕は言った。 __「じゃ」 __この「じゃ」というのは、僕と彼女の最後の会話かもしれない。 __僕は薄い悲しみを持ったまま、飛行機に乗った。 __またシドニーに到着した。 __キャンパスには絶対な静かだった。僕は事務所に行った。職員はおかしく僕を見て「一年生ですか?」と尋ねた。 __「いいえ、二年生です」 __「こんなに早いですね」 __僕は何を言ったらいいか分からないから、少し笑った。 __「一年生さえ着いていないね」 __「そうですか」 __僕はキーを取って、寮へ行った。 __今年の寮も六人の寮だけど、去年のと違う。 __カギがかかっている。僕はドアを開けた。変な匂いがした。 __ずっと閉めたままのせいだ。 __空気の流れのため、僕はリビングルームの窓を全部開けた。 __自分の部屋もそうだった。あまりいい匂いではないから、僕は窓を開け、荷物を置いて、すぐリビングに戻った。 __テレビをつけて、退屈な番組を半時間見た。 __倉庫へ行って、去年置いてあった物を取り出して、部屋まで運んだ。そして片付けもけっこう時間がかかる。 __ずっと忙しい一日だった。 __夜になると、僕はまだ何も食べていないことを思い出した。 __しまった!ずっと片付けに専念したから、買い物をぜんぜんしなかった。 __どうしよう? __学校の喫茶店はまだオープンしていない。 __僕は時計を見た。七時十五分。 __スーパーは七時半までだと思う。 __僕はすぐスーパーへ走って行った。 __七時半だ、七時半だと祈った。 __ふだん十五分の距離、八分で完成した。 __まだ灯かりがあった。 __僕は食べ物を少し買った。 __ほかの必要品は、明日また来ようと思った。 __僕は最後の顧客だった。 __本当に運がよかった。何も食べずに寝るのは辛いから。 __次の日、僕はスーパーで食べ物と生活の必要品をたくさん買った。 __キャンパスには、僕一人しかいなかった。 __寮で小説を読んだり、コンピュータ室でゲームをしたり、中華街でぶらぶらしたりして、退屈な日々を過ごした。 __持ってきた小説はもう読んでしまった。 __少し後悔した。どうしてこんなに早くオーストラリアへ来たんだ? __二週間後、学生が続々学校に戻った。僕の寮にも人が来た。 __最初に来たのは髪の黒い男だった。僕は「香港人?」と聞いた。 __彼は広東語で「そうです」と答えた。 __よかった。彼は永華(ウィンワ)と言う。一年生だった。 __次の二人は同時に到着した。 __家偉と正雄だ! __忘れた?去年一緒にシドニー都心へ遊びに行ったマレーシア人だ。 __家偉は驚いた「君か?」 __「僕たち、縁があるね。一緒に住むって」 __正雄は「四人もアジア人とは思わなかったな」と言った。 __家偉は暗い顔色で「でも、一人減った」と言った。 __もちろん樹仁のことだった。 __「思い出したくないけど、思い出したんだ」と正雄は言った。 __「人間は感情がある動物だ。忘れることは難しい」と僕は言った。 __永華は「誰のことですか?」と聞いた。彼は樹仁のことを知らなかった。知るわけがない。 __僕は樹仁のことを簡単に教えてあげた。 __永華は黙った。 __家偉は「僕たちもあまり悲しまないほうがいい。樹仁にも悪いし」 __「そうですね」僕は頷いた。 __「もう四人が来ている。あと二人は誰かな」と正雄は言った。 __「四人も男だから、あと二人は女でしょう」と永華は言った。 __僕は「六人も男かもしれないぞ」と言った。 __「そうだったら、つまらないな」家偉は言った。 __永華は「どうしてつまらない?」と言った。 __正雄は「君も分かってるだろう」と笑った。 __僕たちは一緒に笑った。 __永華の話は半分当たった。 __次に来たのは韓国の女の子だった。麗姫(ライゲィ)と言う。 __正雄は「一年生ですか?」と聞いた。 __「一年生に見えます?」 __「じゃ二年生?」家偉は言った。 __「もう三年生です」 __僕は「見えないですね」と言った。 __正雄は「去年会ったことがなかった?」と言った。 __「たぶんみんなの授業が違うでしょう」 __永華は「きっと女だと言っている」と言った。 __「じゃ次は?」と僕は聞いた。 __「女」 __「本当?」 __永華は「男のわけがないでしょう?もうここまで言っているから」と言った。 __家偉は「じゃ、国籍は?」と聞いた。 __「これはちょっと無理ですよ」と永華は言った。 __正雄は「アジア人かな・・・」と言った。 __「賭けますか?」と永華は言った。 __「どうやって」 __「アジア人かどうか、賭けます」 __麗姫は「何を言っていますか?」と聞いた。 __彼女は広東語が分からない。 __家偉が通訳してあげた。 __「じゃあたしも参加します」 __永華は「僕は彼女がアジア人と賭けます」と言った。 __「ちょっと待って。もし結局『彼女』じゃなくて、『彼』だとしたら、どうする?」 __「じゃ、直す。最後に来た人はアジア人と賭けます」と永華は言った。 __正雄は「僕はオーストラリア人だと思う。六人もアジア人はありえない」と言った。 __家偉は「僕は正雄と同じだ」と言った。 __麗姫は「あたしはアジア人だと思う」と言った。 __永華は僕に聞いた「あなたは?」 __「今は二対二だから、僕は審判員だ」 __僕にとって、アジア人かどうか、別に関係ない。 __永華は「じゃ、一人ずつ、五ドルはどう?」 __このやつ、きっと賭博のプロだ。 __彼らは一人ずつ五ドルを出した。もちろん、僕はこの二十ドルを保管することになった。 __たとえ勝っても、五ドルしか儲けない。あまりいい賭けじゃなさそうだった。 __ま、娯楽としてはいいけど。 __最後の人を期待していた。 __でも、彼女、あるいは彼は、ずっと姿を現れなかった。 __あと二日は開講の日だった。 __「まさか来ない?」と正雄は言った。 __僕は「そうだったら、審判員の勝ちだ」と笑った。 __麗姫は「心配しないで。昼着きます」 __「本当?」 __「さっき事務所に聞いた。最後の人は一時頃に着くって」 __「でも、男か女か、アジア人か、聞いた?」と家偉は言った。 __「いいえ、聞いていなかったよ」 __午後一時、僕たち五人は寮に居た。みんな大門を見つめた。 __さすが最後の人だ。引かれちゃった。 __何人の学生が寮の前を通ったが、入って来なかった。 __やっと、僕たちが待っている人がやって来た。 __髪の長い少女だった。 __彼女がリビングに入ると、なんか明るくなった気がした。 __とてもキレイだとは言わないけど、すごく魅力があって、一目を見たら忘れられないほど眩しい。 __寮にいる五人が静かになって、彼女を見つめた。 __「ここ、第四棟ですか?」と少女は小さな声で英語で聞いた。 __最初正常状態に戻ったのは正雄だった。「そうです。どうぞ入ってください」 __次のは麗姫。「荷物、持ってあげようよ」 __僕たち男四人がいっせいに寮を出た。 __「あたし、自分で持ちます」と少女は言った。 __少女は部屋に入った。僕は「キレイだ」と言った。 __家偉は「完璧だ」と言った。 __「夢を見るな。僕は正しかった。最後のは女の子だった」永華は言った。 __正雄は「僕たちの賭けはアジア人かどうかの問題だったよ」 __「さっき聞き忘れた」と家偉は言った。 __永華は「さっき見なかったか?髪が黒いぞ。アジア人に決まってる」と言った。 __「オーストラリア人だって髪を黒く染めることができる。さっき英語でしゃべったじゃん」と正雄は言った。 __僕は笑った「ちょっと無理な言い方だな」 __家偉は「審判員だろう。早く答えを探せ!」と言った。 __僕は少女の部屋の前へ行った。ドアが開けっ放しだった。彼女は荷物を片付けていた。 __「あのう、すみません」 __「はい」と少女は言った。 __彼女の顔を見て、僕は何も言えなかった。 __少女は微笑んだ「あたし、ダイナーです」 __「僕、ワーレンです」 __ダイナーは手を出した「よろしく」 __僕は彼女の手を軽く握った。 __とても柔らかかった。 __「何か?」とダイナーは聞いた。 __僕は「あのう、ちょっと聞きたいんですが、広東語ができますか」 __「少しだけ」ダイナーは広東語で答えて。発音はあまり正確ではない。 __「アジア人ですか」 __「そうですよ。もともとはベトナムにいる中国人です。オーストラリアに移籍して、もう六年です」 __「だから、広東語がしゃべれるんだ」 __「両親は大丈夫ですが、あたしは下手です」 __「じゃ中国語も読めますか」 __「少しだけ」 __「じゃ、ごゆっくり」僕はリビングルームへ戻ろうとする時、ダイナーは「あのう、外のみんな、ここに住んでいるんですか」と聞いた。 __「ええ、あとで紹介します」 __「お願いします」 __彼女の笑顔は素晴らしかった。 __僕はリビングルームに戻った。家偉は「もう酔っているみたい」と言った。 __「どう?誰の勝ちだ?」と永華は言った。 __僕はダイナーの答えを思い出して、笑った。 __正雄は眉をひそめた「笑うな。早く言えよ」 __「残念ながら皆さんの負けだ。勝ったのは僕だ」 __「何?どういうこと?」 __僕は「彼女はベトナムの中国人で・・・」と言った。 __永華は「じゃアジア人だ」と言った。 __僕は首を振った「でも、もうオーストラリアに移民した」 __この答えはちょっと意外だった。みんな黙った。 __僕は「ベトナムの中国人なら、アジア人だ。でも、国籍はオーストラリアだから、オーストラリア人とも言える。つまり、僕の勝ちだ」と言った。 __麗姫は「思い付かなかった」と言った。 __僕は笑った「だから、みんなの負けだよ」 __「そんなわけないよ!」と永華は言った。 __みんなの笑い声が大きくなった。 __この時、ダイナーが出て来た。「楽しそうですね」 __僕はみんなのことを彼女に紹介した。 __「名前がたくさんですね」 __「僕の名前を覚えておけばいい。ほかの人の名前なら、僕に聞けばいい」 __「お前!」と家偉は言った。 __「さっき、何を笑っていたの」 __そんなこと、言えるわけがない。 __僕は「ゆうべのドラマの話だった。面白かったよ」と誤魔化した。 __家偉は「そう。面白かった」と言った。 __「今夜もやるんですか」 __正雄は「いいえ。ゆうべは最終回だった」と言った。 __「残念ですね」とダイナーは言った。彼女の真面目な顔を見て、僕は笑いたかった。 __ダイナーは部屋に戻った。僕たちはほっとした。 __家偉は永華に「君のせいだ。なんで彼女のことを賭けていたんだ?」と言った。 __「みんなの同意じゃん」と永華は不満だった。 __僕は「ま、いいか、お金を返すよ」と笑った。 __「バンザイ!」 __たった五ドルだろう。まったく! (つづく) |