第二章(1)振り向けば夕暮れ第二章:六年前 __思い出の最初には、ダイナーがいなかった。彼女の出番は、僕は大学二年生の時だった。 __六年前、僕は一年生で、入学したばかりだった。 __六年前のことは、遠いとも言えるし、近いとも言える。まるで昨日の出来事のようだった。 __高校を出た時、成績が悪かったので、働きはじめることにした。 __でも、彼女の紫華(ジワ)は「外国の大学を試したら?」と勧めた。 __紫華は成績が良くて、香港の大学に入った。 __「もう八月だ。とっくに締め切りが切ったよ」 __「アメリカとかカナダとかじゃなくてもいいでしょう」 __あれ?何だ? __「オーストラリアのを試して。始まるのは二月だから、間に合いますよ」 __僕はやってみようと思って、あるオーストラリアの大学を申し込みした。 __大学はシドニーの近くにある。この大学を選んだ原因は、オーストラリアの中で、僕はシドニーしか知らない。 __僕はこの大学しか申し込みしなかった。落ちたらやめる。 __申し込みの手続きが済んで、僕は会社で働きはじめた。 __数ヵ月が過ぎた。意外なことに、僕の申し込みは受かった。 __宝くじに当たったこともないのに。 __「おめでとう!」紫華は言った。 __「今は早すぎるよ。卒業してからにしろ」 __「大丈夫です。きっとできますよ。信じています」 __「でも、僕がオーストラリアへ行ったら、君と会えなくなるよ」 __「国際電話っていうのを知っている?手紙を書いてもいいよ」 __僕はちょっと躊躇った。 __すべては紫華の原因ではなく、一人ぼっちで不案内なところへ行って、心細いから。 __「戻らないわけではないでしょう。休みの時、帰りますね?」 __「帰ると思う」 __「だったら会えるじゃない?」 __「変な理屈だ。新婚なのに」冗談に決まっている。 __「何?」 __「いや、別に。適応できないかもしれないから、心配している」 __「大丈夫ですよ」 __そういうわけで、僕はビザを申し込みして、航空券を予約して、荷物を支度した。 __二月、準備完了。 __「正式な授業はいつ始まりますか」 __「二月末だ。でも、もう少し早目に行くなら、適応しやすいかもしれない」 __「あなたが帰るまで、待っています」 __この言葉で、僕はほっとした。 __出発の日、紫華は見送りに来た。 __「来るなって言っただろう」 __「なんで?」 __「別れるのは悲しいんだ」 __「あなたは女の子でもあるまいし、泣かないでしょう」 __「僕は泣かない。でも、君のほうな」 __「あなたの前では泣かないよ」 __結局、彼女は本当に泣かなかった。でも、目が少し赤くて、我慢していることは明らかだった。 __僕は紫華の額に軽くキスした。「じゃな。年末に帰るよ」 __紫華は頷いた。 __僕は両親とほかの友達に手を振って、新しい道へ歩いて行った。 __学校の通知によると、駅には迎えに来る人がいるそうだった。でも、空港から駅まで、僕は一人で行かなきゃ。 __どうせ迎えに来るなら、空港まで来ればいいじゃない?どうして駅なんだ?わけが分からない。 __飛行機を降りて、僕はさまよった。ボストンバッグが重い。荷物の箱も大きくて面倒だった。 __僕はインフォメーションセンターへ行って、英語で道を聞いた。 __初めて外国人と話した。 __インフォメーションセンターのスタッフは道を教えてくれた。僕はチケットオフィスで切符を買った。 __さっき道を聞くのに時間がかかりすぎた。バスに乗り遅れちゃった。 __「次のバスはいつですか」と僕は駅員に尋ねた。 親切に返事してくれたのに、僕はぜんぜん分からなかった。英語がヘタクソだったから。 __しかたなく、僕はベンチに座って、次の便を待っていた。 __幸い、次の便は二十分後だった。 __バスの中で、周りの風景を眺めた。 __空港から都心までの道路は長かった。しかも景色は全部同じだ。芝生しかなかった。 __退屈だから、僕は眠っちゃった。 __突然、僕は起こされた。バスはもう駅に着いた。僕は最後の乗客だった。 __僕は慌てて謝って、すぐバスを降りた。 __駅にはどこまでも人だった。誰が僕が探している人だろう? __僕はずっと佇んだ。どうしようもなかった。 __ふっと、遠くで旗を持っている人が見えた。あの旗には学校の名前が書かれている。 __僕はあの人に近付いた。 __あの人は「ミスター・ワー?」 __僕は頷いた。 __「僕はピターだ」 __僕は「僕をワーレンと呼んでもいいです」 __ピターは僕を連れて車に乗った。 __僕は「どのぐらいかかりますか?」と聞いた。 __「二時間ぐらい。あなたは少し遅かった。道が込んでいる?」 __「いいえ、乗り遅れましたから」 __ピターの英語は聞きやすい。僕は八割ぐらい分かる。 __途中、僕はピターに聞いた。「あなたも学生ですか」 __「そうだ。最後の一年だ」 __「羨ましいです」 __「三年はそんなに長くはないよ」 __「シドニーには、どこか面白いところでもありますか」 __「いろいろあるさ。香港の留学生なら、中華街が一番いいだろうな」 __「通りますか」 __「いや、僕たちは直接にキャンパスに行くから」 __僕は少しがっかりした。 __ピターは「まだ三年もあるだろう。何回でも行けるよ」 __そういえばそうだな。 __「学校はまだ始まっていないのに、どうしてこんなに学校にいるんですか」と僕は尋ねた。 __「僕はジュリーと仲がいいから、彼女に頼まれちゃった」 __「ジュリー?」 __「留学生の面倒を見ている人だ」 __「僕も彼女に会える?」 __「もちろん」 __一時間半後、僕はキャンパスに着いた。ピターが言った二時間より三十分早かった。 __キャンパスはシドニーの郊外にある。芝生と木が多くて、気持ちがいい。 __「寮に住む?」とピターは尋ねた。 __僕は頷いた。「申し込みした」 __ピターは僕を連れて、寮のオフィスに行った。 __あそこでカギをもらった。ピターは寮まで送ってくれた。 __「ここは六人の寮だ。全部八棟ある。」 __「あなたはどこに住んでいますか?」 __「僕は友達と駅の近くにあるアパートに住んでいる」 __僕は少し不安だった。「寮は悪いですか?」 __「いいえ。僕はアルバイトをやっているから、駅のほうが便利だ」 __僕はほっとした。 __「まだ誰も来ていないよ。君は一番目だ」 __僕は部屋に入って、荷物を置いた。 __「ちょっとこの辺りを見学しない?僕は明日が用があるから、来られない」 __僕は彼について、キャンパスの道を覚えた。 __「時間はまだ早いから、スーパーへでも行こう。でないと、夕食はない」 __「遠いですか?」 __「いいや、近いよ。ここの学生がよく行っている」 __十五分ぐらい歩いていて、ある建物に着いた。 __「ここだ」 __僕は肉と調味料を少し買った。 __「もっと買えよ」 __僕は首を振った。「明日また来ます」 __スーパーを出て、ピターは「帰る道が分かる?」と聞いた。 __「分かりますが、自信はあまり・・・」 __「ま、いや、連れて行こう」 __「迷惑をかけました」 __「いいえ。すぐ慣れるよ」 __ピターは僕を寮まで送ってくれた後、帰った。 __広い寮の中には、僕一人しかいなかった。なんか寂しかった。 __夜、僕は初めての夕食を作った。 __最初の日は、うまくいきそうだった。 __寮生は続々到着した。 __六人の寮の中に、オーストラリア人が三人、女性二人と男性一人。ほかの二人の中で、一人はインドの女性で、最後の一人はシンガポールから来た男性だった。 __ちょうど女性三人男性三人だった。 __シンガポールから来た人は樹仁(シューヤン)だった。広東語ができるから、僕と一番仲がいい。 __学期が始まった。 __講師はみんな英語で話していた(当たり前だ)。でも、僕が分かるのは、三割もなかった。 __僕はここの出来事を全部手紙に書いて、紫華に告げた。 __最初の二ヶ月、紫華の返事は早かった。でも、三ヶ月目から、だんだん少なくなった。 __彼女も宿題が忙しいだろう。 __国際電話代が高いから、あまり香港にかけたくない。 __学校の生活に慣れた。ピターが言ったとおり、すぐ慣れた。 __樹仁は免許を取った。車も買った。 __「これから、どこへも行けるね」と僕は言った。 __「そうよ。お前も一台買ったら」 __「いいえ。お前がもう買ったから」 __「でも、お前は免許がないよ」と樹仁は言った。 __「関係ないよ。お前は持っていれば」 __「馬鹿、俺はお前の運転手じゃねえよ」 __「別にいいじゃん」 __六月、最初の試験が来た。僕はとても緊張して、一日中部屋にこもった。 __樹仁は僕と反対だった。いつもドライブに行っていた。 __「羨ましいやつだね」 __「お前もできる」 __「僕はだめだ。お前は天才だ。僕は凡人だ」 __樹仁は何も言わずに、また駐車場へ行った。 __僕は苦笑するしかなかった。 __試験の後、寮のオーストラリア人三人とも出ちゃった。 __これは正常な現象だ。試験の後は二週間の休みだから、オーストラリアの学生は寮を出て、自分の家に帰る。 __僕はソファーに横たわった。「二週間だよ。どう過ごす?」 __インドから来た女の子は、もう友達と旅行に行っちゃった。 __寮に残っているのは二人しかいなかった。 __「俺達も旅行に行こう」 __「どこへ?」 __「初めてだから、近いほうがいい」 __「近いなら、シドニーの都心はどう?僕たちはシドニーで勉強しているといっても、めったに都心に行っていない」 __「いいアイデアだ。車で行こう」 __「やめろ。道も分からないし、駐車場も探さなきゃ」 __「そうだね。でも、俺達二人だけ?」 __「ほかの留学生に聞こうか?」 __結局、僕たちと一緒に行くのは二人だけーー家偉(ガワィ)と正雄(ジンホン)。 __二人ともマレーシア人だった。 __四人でシドニーへ遊びに行って、なかなか楽しかった。 __僕たちは十日間遊んでいた。そろそろ時間だなと思って、学校へ戻った。 __キャンパスに着いて、試験の結果はもうホールに貼ってあった。 __「やばい」と僕は言った。 __「どうしたんだ?」 __「落ちたかと思ってさ」 __「怖いことねえよ。いずれ分かるだろう」 __僕は自分の学生番号を見つけて、結果を見た。ほっとした。 __よかったとは言えないが、全部合格した。 __「ほら、緊張しなくてもいいって言っただろう」 __僕は樹仁の成績を見た。このやつ、Aも取れた。 __「不公平だな。僕はこんなに一生懸命なのに、Aが取れなかった」 __樹仁は黙っていた。 __ま、この世はもともと不公平だから、別に不満があるわけではない。 __夜、僕は合格したことを手紙に書いた。紫華に教えなきゃ。 __シドニーの七月の夜はとても寒かった。手が凍ったほど硬くなった。 __歪んでいる字で、今回の試験の成績を書いた。そして、この半年間の思いも書いた。 (つづく) ジャンル別一覧
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