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カテゴリ:プロ野球(メジャー)
巨人が交流戦を初めて制した。 機能し始めた強力打線とノーヒット・ノーランを達成した杉内俊哉など投手陣がかみ合い、危なげなく勝利を重ねての初の載冠である。 「交流戦でいい成績を挙げないと、と思っていた。チーム状態が上向きで突入できたし、その勢いを持って素晴らしい交流戦になった」 饒舌に語る原辰徳監督のその言葉に、充実感が漂っている。 この交流戦優勝がセ・リーグの球団として初めて、ということが手伝っているからだろうか、気の早いコメンテーターは巨人のリーグ制覇は間違いなしとまで言い始めている。 本当に巨人は、このままセ・リーグを突っ走っていくのか。 セ・リーグにライバルはいないのだろうか。 そこで気になるのは、昨年のチャンピオン・中日の存在だ。交流戦を昨年に続いて勝ち越してフィニッシュ。セ・リーグ首位の座を依然として守っている中日を侮れるはずがない。この数カ月、中日にまつわる前向きな話は聞こえて来なかったが……。 選手の故障が続いたが、それでもリーグ首位をキープしている中日。 交流戦序盤に絶対的セットアッパー浅尾拓也が離脱。二軍調整中に故障し、今季絶望という噂まで流れた。それ以前にも、エースの吉見一起、川上憲伸が戦列を離れているし、中継ぎで結果を残し続けてきた新人の田島慎二まで、肩痛で登録を抹消された。森野将彦は調子が上がっていないし、移籍加入した山崎武司は4月のインフルエンザ発症以降、ほとんど機能していない。 だが、それでも、中日は一昨年まで苦手にしていた交流戦で貯金を作り、首位をキープしている。 特に、交流戦の最終節となったオリックスとの2連戦は、まさに、中日の勝負強さを象徴するような試合だった。 粘り強くて勝負強い……昨季を彷彿とさせる中日。 1戦目では1回裏に先発の山内壮馬が2失点するも、粘り強く投げ抜くと、終盤8回に4番・ブランコの豪快な一発で同点。小刻みに投手をつないで延長に持ち込み、延長11回、荒木雅博の適時打で勝利をもぎ取った。 2戦目は、エース・吉見が復帰登板。 1回裏に、平田のまずい守備もあって1点を先制されたが、以後は抜群の制球力を見せて、8回を3安打1失点に抑える好投。エースの存在感を見せつけた。試合も、5回に同点に追いつくと、8回表、高卒新人・高橋周平がプロ初本塁打を記録。これが決勝打となり、最後は守護神・岩瀬仁紀が締めた。 まさに、昨年の中日を彷彿とさせる試合だった。 チーム状態は自然と上がってくるものではない。特に攻撃面に関していうと、不振の時期、個別にどのような働きかけをしてきたかが重要である。 そういう意味で、もっとも卑近な例が、今の巨人だろう。 開幕から絶不調と言っていい最悪のスタートをきった巨人は、チームがどん底にあった4月、5月をどう過ごしてきたのか。なぜ現在のような快進撃へとつながったのか。それが、ずっと気になっていた。 不振の時期にあった、上昇に転じるための練習の工夫。 巨人の復活を強く意識したのは、開幕してから1カ月後、巨人の試合前練習を見た時のことだ。 開幕直後の巨人は、4番の村田修一を除き、ほとんどの選手がコーチの投げるボールをティー打ちしているだけで、惰性でこなしているように見えた。実際、どの試合でも型通りの試合前練習が繰り返されていたように記憶している。 それが開幕から1カ月を過ぎると、明確な変化が見られた。コーチが投げるティーを打つ選手もいれば、スタンドティーを打つ選手がいる、フリーバッティングでも様々な注文をピッチャーに出してから打つ……それぞれの選手に「工夫」が出てきたのだ。 打撃コーチの村田真一がこんな話をしていた。 「我々は1年間で考えて選手を見ている。その都度、何が起こるか分からない中で、そのときの結果だけではなくて、選手にあった練習をやるように言っている。たとえば、身体が前に突っ込んでいる選手に関しては、スタンドティーをやったらどうか、とかね。(スタンドティーは)自分のスイングの確認ができるからね。 基本的にフリーバッティングで選手がバッティングゲージに入ってからは口を出さないようにしているんだけど、ティーの時には指摘したりするようにしている。(坂本)勇人がスタンドティーをやっているのは、自分で何かを感じ取っている部分があるからだと思うよ」 スタンドティーを支持する巨人・村田修一。 あくまで個人的な意見だが……コーチらが斜め前方に立ち、下からボールを投げて行うティー打撃の練習をシーズン中にやることに、劇的な効果があるとは感じない。 プロ野球選手の多くが、試合前練習で投げるティーバッティングをやっているのは、即効性の変化を求めているということではなく、身体を慣らしているだけだろうと思っていた。 試合前練習で、スタンドティーの効果を支持する巨人・村田修一は、面白い証言をしてくれた。 「僕が投げるティーをしないのは、投げる方も、打つ方もどちらも気を使いながらやることになるから。投げる方はいいところに投げないといけないし、打つ方も当てちゃいけないとか思うし、いい練習にならない。スタンドティーだったら、自分のスイングで打てる。ここ数年、ずっとこっちの方が自分のスイングを確認しやすいし、良いと思ってやっている」 交流戦から一気に打線が上向いてきた巨人。 もっとも、ここではスタンドティーが良いか、投げるティーが良いかの議論をしているわけではない。 巨人打線は、交流戦が始まって一周りの対戦が終わった頃になると、各選手のバッティング・スタイルが微妙に変化していた。試合前練習だと、身体の軸をまっすぐに保ったまま自身の姿を大きな鏡に映してスタンドティーを打ち続ける坂本の姿が良く見られた。その練習風景を見るだけで、打撃向上への飽くなき意欲をひしひしと感じることができた。 こんな見過ごされがちな試合前練習の風景の変化から、ここ最近の巨人好調の秘密が見えてくる。現在の安定した強さの裏側には、やはり絶え間ない、細かい練習内容の工夫があるのだな、と少なからず腑に落ちる気持ちがした。 だが、この「工夫」という点では、ライバル中日も負けていない。 多種多様な試合前練習をしていた中日ナイン。 オリックスとの2連戦の試合前、中日ナインは実に多種多様の練習方法で打撃向上を目指しているように見えた。 スタンドティー、投げティーをする選手たち、そして、2日間でもその練習内容をわずかに変化させる選手がいた。 2日間ともスタンドティーを打っていたのは、交流戦好調の荒木雅博と谷繁元信。井端弘和、和田一浩は二日間で練習内容に微妙な違いがあった。特に、面白かったのは和田で、ゲージに入ってのフリーバッティングでは、スローボールをバッティングピッチャーに要求し、その球を打ち返していた。 和田は、その練習の意図をこう説明している。 「色んな意味があってあの練習をしているんだけど、簡単に言うと、緩いボールはタイミングを合わせて、しっかりとしたスイングをしないと飛ばない。だから、今日はそのための確認です。スタンドティーをやるのとは意味は違うって? そうですね。全く違います。タイミングを合わせないといけないですから」 1戦目で決勝タイムリー、2戦目でも2安打1打点と好調だった荒木にも話を聞いた。 「投げるティーを打つことでタイミングを取る練習になるとは思うんですけど、今は、スタンドティーでしっかりしたスイングをしようと思っているんです。そうすると、タイミングは取れないんじゃないかって言われますけど、スタンドティーをやっていて、投げるティーを打っているのと同じような感じでしっかり振ると、自分の今の調子が分かるんです。バロメーターになるんですよ」 時間にするとほんのわずかしかない試合前練習を見るだけでわかる。今の中日には、この時期にチームをさらに上向きにさせるぞ、という明確な「意思」が漲っているのだ。 高木守道監督は「バッティングの調子がイマイチ上がって来ない」とコメントしているが、その一方で、吉見の復帰、高卒新人の一発、接戦での勝負強さなど、徐々に良い話が聞こえ始めている。 巨人が独走するのだというのなら、それを止めるのは中日だとみる。 6月29日からの巨人vs.中日の直接対決。ここが前半戦一つ目のヤマ場になるのは間違いない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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