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詩人たちの島

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September 3, 2007
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カテゴリ:essay
職場からの帰り。電車を降りて、教会下の公園から見る空はすっかり秋の風情だった。

トルコに旅行した友人が「ヘロトドスの生地ボドルム」から出したという絵葉書が今日届いていた。8月19日という日付があるから、10日以上の旅をして、この絵葉書も八王子に届いたのである。「ボウルズの世界を髣髴とさせる混沌と、喧騒のイスタンブールを歩き回り」という一節がある。トルコも行ってみたいところだ。アジアとヨーロッパが出会うところ、最近のニュースではイスラム教を公然とする党派の首相が誕生し、軍などの伝統的な世俗派からそっぽをむかれているというような話があったけど、政治的な状況も変わりつつあるのだろう。ヴェトナムに旅行している間、ここが社会主義の国であるということなど全然考えもしなかったが、政治的な階層の人とは無縁だったからか。それよりも、そこで昔からかわらず生きている民衆のエネルギーの核に触れたという思いのほうが強い、その方がヴェトナムを思うときに自分を愉快な気持にさせる。逃げ出したくなるような「ドンスアン市場の混沌と喧騒」。

E.W.サイードの「文化と帝国主義」の第三章の冒頭の節は「ふたつの側がある」というタイトルで、E.M.フォースターの「インドへの道」やアンドレ・マルローの「王道」の作品分析を通じて、彼らがヨーロッパの人文主義的な伝統に曇らされて、見えなかったものがあるとして、コロニアルな状況下で芽生えていた敵対的な民族主義・民族自決の運動をあげている。「1920年代のフォースターと1930年代のマルローは、ともに非西洋世界の事情に深く精通していながら、西洋が対決するのは、たんなる民族主義的な民族自決運動よりも、もっと壮大な運命であると考えていた―自己意識や意志に関わる問題、あるいは趣と特色あるより深遠な問題のほう重要だと本気で考えていたのだ。おそらく小説形式そのものが彼らの認識を鈍らせたのかもしれない。前世紀の小説から受け継いだ、姿勢(アテイチュード)と言及(レフアランス)の構造がはたした役割も見逃せまい」と述べている。

「インドネシア文化の著名なフランス人専門家ポール・ミュス」の「ヴェトナム―戦争の社会学」はマルローの「王道」出版の20年後、ディエン・ビエン・フー陥落の直前に出されたものだそうだが、その顕著な違いについて、サイードは次のように書いている。


ミュスはフランスの植民地制度について、またそれがヴェトナム人の宗教的価値観を世俗的世界観で破壊するものであったことについて明確に述べている。彼はいう、中国人のほうがフランス人よりもヴェトナムをよく理解している、と。鉄道や学校や「行政制度」をみればそれがよくわかる、と。フランス人は、宗教的正当性もなく、ヴェトナムの伝統的価値観に対する知識もなく、現地人の誇りや感性を省みることがなかったため、無神経な征服者にとどまったのである。



要するにミュスはヨーロッパ人とアジア人とを対等に扱っている、とサイードは言うのである。なるほどフォースターの「インドへの道」にもマルローの「王道」にも、このような認識の断片もないのは、驚くべきことである。そして、アメリカのヴェトナム戦争時のマクナマラ国防長官にもなかった。彼は回顧録でアメリカの敗因をヴェトナムの伝統や文化に無知だったこととして述べている、というような文句をどこかで読んだ覚えがある。
ヴェトナム旅行中、よく思ったのは、「よくもまあ、こんな文化の国に、いくらドミノ理論が当時の支配的なイデオロギーであったとはいえ、傀儡政権を作ったり、トンキン湾事件をでっちあげたりしながらアメリカは侵攻したものだ」ということであった。それは旧日本関東軍の盧溝橋や上海におけると振舞いと同じであるといえば同じなのだが。(当時の日本には文化の源としての中国に対するエディプス・コンプレックスのようなルサンチマンとねじれもあったのだろう。)

小説に限らず、サイードの用語を使うなら、「姿勢と言及」の構造から旅行者の視線も逃れることはできないだろう。

ポール・ボウルズの小説は残酷なまでに、「西洋人文主義的」な見方の反転を試みている。現地人と西洋人の区別もなく、モロッコの砂漠のなかで、恐怖に凍りつくような事件が、冷静な筆致で描かれる。調査に来た言語学者は舌を抜かれるだろう、若者は性器を切断されるだろう。サイードなどのポストコロニアル流の読み方でいけば、これはどういうことになるのだろうか?





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Last updated  September 3, 2007 10:21:02 PM
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