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詩人たちの島

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September 10, 2007
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カテゴリ:essay
蒸し暑かった。晴れているのに土砂降りの雨になり、間の悪いことに傘がなく、ずぶ濡れになる。ついに、五分で行ける距離なのに、コンビニでビニール傘を買った。これが朝の状況。帰りはなんとか雨が我慢してくれたようだった。

愚痴るなら、人生もこんなもんかという思いがある。

自分が向き合ってきたものに象られている。いやだと思いながらも、抵抗の根が腐っているのは、突き破るエネルギーが枯渇寸前なのだ。いいこと、わるいことの区別が、よくわからなくなってきて、あるいは辛さとなまけ心の葛藤に前者が負けたということなのかもしれないが、ずるずるとすべてを引き延ばすことだけに、威勢がよくなった。

藤井和正さんの、ぬくもりの感じられる詩集『さっき夜とならんだよ』(書肆 梓)を読み終わった。そのなかの「好きなもの」という詩が好きだ。


国立駅南口改札口 よく待っていた
おそい春、伊那谷の夕暮
巣鴨慈眼寺の芥川龍之介の墓

宮武うどんのゲソ天
目の前の、るりかけす
夜中に目覚めてあしたが休みのとき
町の名前
高野文子
「棒がいっぽん」の中の
奥村さんのお茄子
包帯を巻いてもらったとき
透きとおるもの
地図
三木成男
三十年前の福生
黙っているわたし、もしくは植物
れんが造りの建物と塀
子規の随筆
五人以下の乾杯
(以下略)



こうして書き写していると、目の前に藤井さんがいつものように、その巨体?を遠慮深く折り曲げて、可能なかぎり目立たないように、小さくなって座っているようだ。「黙っているわたし、もしくは植物」のように。藤井さんは現代詩に精通した人で、「難解」な詩もいくらでも書ける人だが、ぼくはこの平明さが今日は格別に好きになった。「夜中に目覚めてあしたが休みのとき」、これはいつもぼくが思っていること。「五人以下の乾杯」も実感としてよくわかる。

様々な出会いを静かに大切にしてきた人の詩である。

蒸し暑さのなか、往復の電車のなかで、サイードの『文化と帝国主義』2を、お経のように眺めている。そこでは、フランツ・ファノンの『地に呪われたる者』が重要な参照軸の一つとして数多く言及されている。フランス植民地のカリブのマルチニック諸島に生を受けたファノンが宗主国の言語と文化をあやつりながら、いかにナショナリズムとそこからする排斥の暴力(ぼくの言葉でいうなら自己と他者の問題)を分析し、「解放」への道をたどっていったのかという文脈でサイードは追いかけているようだ。脱植民地以後のアポリアを彼は予見していたのだというようなこと。

言葉を覚えた、覚えさせられた。生きた、生きさせられた。ぼくの宗主国はここにある。ここにあるが、それにファノンやサイードのように向き合うことはなかった。まだ、まだ美しいクニの「怠け者の原住民」として、舌足らずの若い支配者などの自己中心的な頭脳のなかに表象されているのだろう。

雨に濡れた。傘がない。傘を買った。






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Last updated  September 10, 2007 09:28:51 PM
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