長時間労働深刻◆長時間労働の実態は深刻◆
◆正社員の負担増えているのに…「実情知らなすぎる」 国が労働時間を短縮するため企業に一律に課した、「年間1800時間労働」の努力目標が姿を消そうとしている。 厚生労働省が「一定の成果を上げた」として、時短促進法の改正案を今国会に提出しているからだ。だが、正社員の長時間労働の実態は深刻で、国の認識とのギャップが大きい。 ◆自殺未遂し退社 「国は実情を知らなすぎる」。神奈川県の元会社員、高田邦夫さん(仮名)(30)は、厚労省の方針に憤る。高田さんはうつ病のため昨年、自殺未遂して退社した。長時間のサービス残業が原因という。 高田さんは一昨年、都内のメーカーに正社員として入社。ホームページの作成と営業など社の重要な業務を担当した。帰宅は毎晩深夜で土日も休めない。2日連続の徹夜や午前5時まで働く日が1週間続くこともあり、平均して残業は月に200時間は超えた。 だが、会社に申告した残業時間は毎月15時間だけ。「強制ではないが、お願いだ」。上司が残業時間の改ざんを指示していたからだ。タイムカードもなかった。「会社に労働時間を適正に管理しようという意識は感じなかった」 体はいつも重く、慢性的にめまいもあった。食欲もなく、不眠症にもなった。昨夏、人事部長に医師の診断書を提出し、職場の異動や負担軽減を訴えた。だが、「会社を訴えるつもりか。お前だけがつらいんじゃない」とあしらわれた。 体調不良は悪化するいっぽう。「死ぬしかない」。昨年8月、会社に無断で1週間休み、親友のいる四国に旅行した。橋の上から飛び降りようとしたが、友人に助けられた。友人と話すうち心に余裕ができ、都内に戻って辞表を出した。今も自宅で療養中だ。 ◆リストラの影響 高田さんのケースは決して例外ではない。全国で労働相談を行っている日本労働弁護団(東京)によると、長時間労働に関する相談件数はここ数年最も多く、2004年で220件。03年の144件より76件増えた。同弁護団の棗(なつめ)一郎弁護士は「リストラの影響で正社員一人あたりの仕事量が増えている」と背景を説明する。 厚労省が今回、数値目標の廃止を決断したのは、労働者一人あたりの平均年間労働時間が、「1800時間」をほぼ達成したからだ。確かに統計上は、時短促進法が制定された92年の1972時間が、04年には1840時間となった。 だが、短縮したのは、「労働時間の少ないパートなどが増えたため」というのが、専門家の共通した見方だ。パートをのぞいた労働者の労働時間は2021時間(2004年)で、ここ数年、むしろ増加傾向にある。特に、30代男性の労働者で週の労働時間が60時間以上の人は、93年の20・3%から04年は23・8%と増えた。 同省が一律の目標値を廃止する点について、国会でも問題視された。 尾辻秀久厚労相は5月17日の衆院本会議で、「全労働者に一律に掲げる取り組みは、時宜に合わない」と説明した。同省幹部によると、「就労形態の多様化に伴い、労働時間も人によって様々になっている点を踏まえた発言」という。 だが、こうした変化に対応する、新しい時短促進策について、尾辻厚労相は、「労働者一人ひとりの健康や生活に配慮した多様な労働時間などを目的に、労使の自主的な取り組みを促したい」と語るだけで、具体策は示されなかった。 同省の対応について、第一生命経済研究所・主任エコノミストの門倉貴史氏は、「時短の一律目標がなくなれば、事態はますます深刻になる」と強調。「正社員だけを対象とした労働時間の目標数値を設けるなど、時短に向けた新しい施策を示すべきだ」と話している。 時短促進法 1992年6月制定。同法に基づき、国は労働時間短縮推進計画を策定する。同計画の中に、「年間総労働時間1800時間の達成」が盛り込まれている。 長時間労働に関する相談は、労働基準監督署か、日本労働弁護団 (出典:読売新聞)
●HOME 「健康増進、病気予防、抗加齢(若返り)、長寿、豊かさ、幸せを探求する研究所」に戻る ⇒ |